今後の課題


 
  本研究は、日本と中国の大学生が持っている学習観・学習方略・文化的自己観とこれらの日中間の違いを検討し、さらに学習観、学習方略と文化的自己観の間に、どのような関連があ

るのかを検討し、それらがどのように機能しているのかを考察したものである。

 
  文化的自己観と学習観との関連について検討したところ、日本の大学生は、中国の大学生よりも、学習観が文化的自己観に影響を受ける傾向が高いということが明らかになった。そし

て、中国の大学生よりも日本の大学生の方が特に、相互協調的文化観から影響を受ける傾向が見られた。しかしながら、いくつかの学習観には相互独立性と相互協調性の両者が寄与し

ているなど、学習観と文化的自己観の関係はそれほど単純なものではない。学習観における文化差の問題を文化的自己観の観点から見るのは無理があったかもしれない。この点につい

ては今後の更なる検討が必要だと考えられる。


   学習観・文化的自己観と学習方略との関連について検討したところ、日中とも文化的自己観から学習方略への影響があまり見られず、学習観が学習方略に影響を与えているということ

が明らかになった。本研究の調査のみでは学習観と学習方略の間の因果関係について特定することができない。実際に学習観が学習方略をどのように規定しているのかという点につい

ては、例えば学習観の介入を行いその後の使用方略の変容を観察するというような、因果関係が明らかになる手続きで研究を行う必要があるだろう。


  また本研究では、学習全般に焦点を当てた調査を行ったが、同一人物内においても教科や学習内容によって、学習観や学習方略の使用が異なることが十分予測される。尾城・市川

(1994)は高校数学に焦点を絞り、教師と生徒の授業観、ひいては数学観の違いについて調査しているが、今後はこのように学習内容という変数を考慮した学習観研究、学習方略研究を

展開していくことが、教育実践現場へのより具体的な提言につながるのではないかと思われる。





 

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