研究2では、クリシン志向性が考え込み型反応や認知的統制とどのように関わっており、クリシン志向性は抑うつに対してどのような影響を持っているのかを探ることを目的とする。





 クリティカルに考えようという志向性を持っていることと、「考えよう」とする志向性との関連を検討するため、相関分析を行った(Table13)。




 結果、ジェネラルに「考えよう」とする志向性とクリシン志向性との相関については、「物事の集中」を除いて有意な正の値を示した。しかしながら、クリシン志向性全体の.218を除き、その値は総じて.2よりも低いことから、これらは相関があるとは言えなかった。また、考えようとする場面を「楽しむ場面」「決断場面」と限定した場合には、クリシン志向性と「考えよう」という志向性との間に相関は見られなかった。さらに、クリシン志向性と考える場面の適切性については、唯一「慎重性」が適切な場面で考えようとする志向性に有意な正の相関を示していることを除き、相関は見られなかった。


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 クリシン志向性が考え込み型反応を通して抑うつに与える影響を検討するため、共分散構造分析を行った。研究1の2.共分散構造分析による考え込み型反応が抑うつに及ぼす影響の検討で用いた考え込み型反応の構造方程式モデルに対し、外生変数としてクリシン志向性を組み込んだ。観測変数は下位因子の尺度得点を用い、クリシン志向性を潜在変数とした。ここから、全ての内生変数に対しパスを引いた。適合度指標はRMR=.208、GFI=.875、AGFI=.838、CFI=.864、RMSEA=.038であった。分析の結果、「クリシン志向性全体」から「自己理解」に引かれたパスは、.21(P<.05)で有意であった。クリシン志向性全体から引かれたその他のパスは、いずれも有意ではなかった。(Figure6)




 同様の構造方程式モデルを、クリシン志向性の下位因子ごとにも構成した。観測変数はそれぞれの尺度項目を用い、潜在変数は各下位因子とした。以下、パスが有意になった結果を記載する。取り上げなかった結果については、クリシン志向性の下位因子から内生変数へ引かれたパスがすべて有意ではなかった。



 脱軽信が考え込み型反応を通して抑うつに与える影響を検討するため、共分散構造分析を行った。

 適合度指標はRMR=.214、GFI=.895、AGFI=.851、CFI=.893、RMSEA=.041であった。分析の結果、「脱軽信」から「否定的考え込み」及び「自己理解」に引かれたパスは、それぞれ-.18(P<.05)、.18(p<.05)で有意であった。脱軽信から引かれたその他のパスは、いずれも有意ではなかった。(Figure7)




これは、簡単に信じ込まないようにしようとすることは、否定的に考え込むことをわずかに低減し、自己に焦点をあてて考えようとすることをわずかに導く、と解釈できる。



 証拠の重視が考え込み型反応を通して抑うつに与える影響を検討するため、共分散構造分析を行った。

 適合度指標はRMR=.229、GFI=.881、AGFI=.838、CFI=.847、RMSEA=.044であった。分析の結果、「証拠の重視」から「自己理解」に引かれたパスは、.23(P<.01)で有意であった。証拠の重視から引かれたその他のパスは、いずれも有意ではなかった。(Figure8)



これは、証拠を重視して考えようとすることで、自己に焦点をあてて考えようとするようになる可能性がある、と解釈できる。


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 クリシン志向性が認知的統制を通して抑うつに与える影響を検討するため、共分散構造分析を行った。研究1の3.共分散構造分析による認知的統制が抑うつに及ぼす影響の追試で用いた認知的統制の構造方程式モデルに対し、外生変数としてクリシン志向性を組み込んだ。観測変数は下位因子の尺度得点を用い、クリシン志向性を潜在変数とした。ここから、すべての内生変数に対しパスを引いた。適合度指標はRMR=.157、GFI=.909、AGFI=.882、CFI=.933、RMSEA=.027であった。分析の結果、「クリシン志向性」から「思考と行動の検討」へ引かれたパスは、.27(p<.01)で有意であった。クリシン志向性から引かれたそれ以外のパスはいずれも有意ではなかった。(Figure9)




 これは、クリティカルシンキングに対する志向性をもつことで、思考と行動の検討をするようになる可能性がある、と解釈できる。

 同様の構造方程式モデルを、クリシン志向性の下位因子ごとにも構成した。観測変数はそれぞれの尺度項目を用い、潜在変数は各下位因子とした。以下、パスが有意になった結果を記載する。



 適合度指標はRMR=.142、GFI=.926、AGFI=.898、CFI=.959、RMSEA=.024であった。分析の結果、「慎重性」から「思考と行動の検討」及び「抑うつ」へ引かれたパスは、それぞれ.30(P<.001)、.21(p<.01)で有意であった。物事の集中から「破局的思考の緩和」へ引かれたパスは有意ではなかった。(Figure10)




 抑うつに対して、「慎重性」からは直接効果と思考と行動の検討・破局的思考の緩和を介した間接効果の両方が見出された。間接効果は、「.30×.55×-.61=-.09」であり、抑うつに対する慎重性の総合効果は「.21+(-.09)=.11」であった。

 これは、慎重に考えようという志向性を持つことで、自らの思考と行動について検討するようになる可能性と、慎重に考えようとする志向性が抑うつを引き起こしてしまう可能性の両方があることを示している。慎重に考えようとすることから思考と行動の検討をし、否定的な考えから距離を置くことによって抑うつを弱める働きと、慎重に考えようとすること自体が抑うつを強める働きの両方の影響を総合すると、慎重性は抑うつをわずかながら強める可能性がある、と解釈できる。



 適合度指標はRMR=.166、GFI=.933、AGFI=.908、CFI=.977、RMSEA=.017であった。分析の結果、「証拠の重視」から「思考と行動の検討」へ引かれたパスは、.25(P<.01)で有意であった。「証拠の重視」から引かれたその他のパスは、いずれも有意ではなかった。(Figure11)




これは、クリティカルシンキングに対する志向性をもつことで、思考と行動の検討をするようになる可能性がある、と読み取れる。


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 考え込み型反応と認知的統制に、外生変数として慎重性を加えたモデルを検討した結果、認知的統制のモデルでは慎重性から抑うつに対し直接パスが引かれたのに対し、考え込み型反応のモデルでは、慎重性から抑うつに対してパスは引かれなかった。それだけではなく、考え込み型反応のモデルでは、慎重性から引かれたどのパスも有意ではなかった。

 このことから、慎重性と抑うつとの間には何かしら特殊な要因が含まれていることが考えられる。そこで、慎重性とその他の因子得点を独立変数、CES-D得点を従属変数とした二要因分散分析を行った。その際クリシン志向性、考え込み型反応、認知的統制について、以下の基準で群分けを行った。

 考え込み型反応、認知的統制の各下位因子については、平均値を基準に群分けを行った。すなわち、各尺度得点の平均値より低い尺度得点を持つ者をL群、平均値より高い尺度得点を持つ者をH群とした。

 クリシン志向性の下位因子については、平均値±0.5SDを基準に3群に分けた。すなわち、クリシン志向性の各尺度得点の平均値−0.5SDより低い尺度得点を持つ者をL群、
平均値ー0.5SDから平均値+0.5SDまでの尺度得点を持つ者をM群、平均値+0.5SDよりも高い尺度得点を持つ者をH群とした。

 その結果、慎重性×否定的考え込み(Figure12)、慎重性×破局的思考の緩和(Figure13)の2つの組み合わせにおいて、交互作用が有意となった。



 慎重性×否定的考え込みは、慎重性の主効果は有意ではなかった(F=2.29 df=2 n.s.)が、否定的考え込みの主効果が有意となった(F=65.81 df=1 p<.001)。しかしながら、慎重性と否定的考え込みの交互作用も有意となった(F=4.06 df=2 p<.01)ため、その主効果は限定される。単純主効果検定の結果、否定的考え込みH群において、有意傾向ではあるが慎重性H群のみが他の2群よりも高い抑うつを示していた。(p<.1)。

 以下に各群別の度数と、CES-Dの平均値・標準偏差を示す(Table14)。






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 慎重性×破局的思考の緩和は、慎重性の主効果は有意ではなかった(F=2.03 df=2 n.s.)が、破局的思考緩和の主効果が有意となった(F=54.20 df=1 p<.001)。しかしながら、慎重性と破局的思考の緩和の交互作用も有意となった(F=4.96 df=2 p<.01)ため、この主効果は限定される。単純主効果検定の結果、破局的思考の緩和L群において、慎重性M群のみが他の2群よりも有意に低い抑うつを示していた(p<.01)。

 以下に各群別の度数と、CES-Dの平均値・標準偏差を示す(Table15)。






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