1.フェイスシートに関する結果
(1)恋人の有無と過去の恋愛経験の有無フェイスシートの結果にもとづき、調査対象者を「恋人あり」群、「恋人なし・恋愛経験あり」群、「恋人なし」群の3群に分けた。
その結果、「恋人あり」群75名(男性14名、女性61名)、「恋人なし・恋愛経験あり」群70名(男性12名、女性58名)、「恋人なし」群18名(男性3名女性15名)となった。
(2)関係満足感
現時点で「恋人がいる」と回答した75名に対して、関係満足感に関する項目について回答を求めたところ、5.非常に満足している 4.少し満足している に該当した61名を「関係満足度高」群、3.どちらともいえない 2.あまり満足していない に該当した14名を「関係満足度低」群に分けた。尚、1.まったく満足していない に回答した者は一人もいなかった。 2.尺度の構成 まず、恋愛ポジティブ幻想尺度16項目、恋愛に対する態度尺度35項目の因子分析を行った。後に、平均値、標準偏差、α係数を算出した。 (1)恋愛ポジティブ幻想尺度の因子構造及び信頼性 まず、フロア効果の見られた3項目(11.恋人がいない人は、魅力に欠けている、12.恋人がいない人は、性格が悪い、13.恋人がいない人は、人見知りで話べただ)を以降の分析から除外した。次に、残りの13項目に対して主因子法による因子分析を行った。固有値の減衰状況から2因子構造が妥当であると考えられたため、2因子解を採用し、主因子法・Promax回転を施した。その結果、十分な因子負荷量を示さなかった1項目(10.恋人がいない人は、内気だ)を分析から除外し、再度因子分析を行った。回転後の最終的な因子パターンと因子間相関をTable 1に示す。なお、回転前の2因子で全12項目の全分散を説明する割合は58.82%であった。 各因子の内的整合性を検討するため、クロンバックのα係数を算出したところ、第1因子はα=.883、第2因子はα=.826を示し、高い内的整合性が認められた。 尺度の平均値および標準偏差をTable 2に示す。
Table 1 恋愛ポジティブ幻想尺度の因子分析結果
第1因子は「恋人がいる人に対する直接的なポジティブ・イメージ」という内容の項目で構成されているため、「積極的ポジティブ幻想」因子と名付けた。また、第2因子は「恋人がいない人へのネガティブ・イメージ」、「恋人がいる人への間接的なポジティブ・イメージ」という内容の項目で構成されており、「消極的ポジティブ幻想」因子と命名した。
第1因子で負荷の高い7項目、第2因子で負荷の高い5項目をそれぞれ下位尺度として構成した。
Table 2 恋愛ポジティブ幻想尺度の平均値および標準偏差
N=163
(2)恋愛に対する態度尺度の因子構造及び信頼性
まず、フロア効果の見られた4項目(2.恋愛がうまくできない人は、人生において本当の幸せや成功はない、4.恋愛をしている人は、人生において本当の失敗というものはない、6.もし2人のあいだの愛がなくなり、意味のないものになるなら、他のもの全部がだめになる、20.結婚しようという決心は、単なる恋愛感情だけでなく、いろいろなことを真剣に考え抜くべきである)を以降の分析から除外した。
次に残りの31項目に対して主因子法による因子分析を行った。固有値の減衰状況から3因子構造が妥当であると考えられたため、3因子解を採用し、主因子法・Promax回転を施した。最終的な回転後の因子パターンをTable
3に示す。 各因子の内的整合性を検討するため、クロンバックのα係数を算出したところ、第1因子はα=.742、第2因子はα=.784、第3因子はα=.811を示し、高い内的整合性が認められた。
尺度の平均値および標準偏差をTable 4に示す。
Table 3 恋愛に対する態度尺度の因子分析結果
第1因子は、恋愛や愛情の持つ力を信じるという内容の項目で構成されているため、名称を「恋愛の力」因子と命名した。第2因子は、相手の存在や関係を重視し、それによって幸福が得られると考えるという内容で構成されており、「相互作用」因子、第3因子は、恋愛を人生においてもっとも重要なものと考える因子と考えられることから、「恋愛至上主義」因子と命名した。
Table 4 恋愛に対する態度尺度の平均値および標準偏差
N=163
(3)自尊感情尺度
自尊感情尺度は、先行研究では因子分析を行わず一つの下位尺度として使われているため、先行研究と同じように1因子構造の尺度を構成した。 尺度の平均値および標準偏差、α係数をTable
5に示す。
Table 5 自尊感情得点の平均値および標準偏差
3.恋愛状況と自尊感情との関連について
(1)現在および過去の恋愛経験の有無と自尊感情の関連について 「恋人あり」群、「恋人なし・過去経験あり」群、「恋人なし」群で自尊感情得点に差が見られるかを、「現在および過去の恋愛経験の有無」を独立変数、自尊感情を従属変数とした一元配置分散分析を行い、Tukey法による多重比較を行った。
その結果、有意差は得られなかった。
Table 6 3群の自尊感情得点の平均値および標準偏差
注.上段は平均値、下段はSD
Fig.2 3群の自尊感情得点(平均値)
(2)関係満足感と自尊感情の関連について
「恋人あり」群の中で、相手(恋人)との関係満足度が高い者は61名、関係満足感が低いと回答した者は14名であった。 この「関係満足度高群」と「関係満足度低群」の2群について、自尊感情得点に差がみられるかどうかを、「関係満足感の高低」を独立変数、自尊感情を従属変数とした一元配置分散分析を行い、検討した。 その結果、2群の自尊感情得点の平均値に有意な差はあらわれなかった。
Table 7 関係満足度高群と低群の自尊感情得点の平均値および標準偏差
注.上段は平均値、下段はSD
Fig.3 2群の自尊感情得点の平均値
4.現在および過去の恋愛経験の有無による 「恋愛に対するポジティブなイメージ」と自尊感情の関連について
「恋人あり」「恋人なし・恋愛経験あり」「恋人なし」の3群で、「恋愛に対するポジティブなイメージ」各側面の得点に差が見られるかどうかを、「現在および過去の恋愛経験の有無」を独立変数、「恋愛に対するポジティブなイメージ」を従属変数とした一元配置分散分析を行い、検討した。
その後Tukey法による多重比較を行ったところ、「積極的ポジティブ幻想」において、恋人なし群の得点が他の2群よりも有意に高かった(t(162)=2.85,
p<.05)。また「相互作用」において主効果が見られた(t(162)=3.66, p<.05)。その他の下位尺度因子においては、得点に有意差は見られなかった。
Table 8 「恋愛に対するポジティブなイメージ」得点の平均値と標準偏差
*p<.05、 注.上段は平均値、下段はSD
また以下は、「恋愛に対するポジティブなイメージ」の5因子得点総合の平均値と自尊感情得点の平均値である。
Table 9 「恋愛に対するポジティブな印象の側面」の因子得点と自尊感情得点の平均値の比較
N=163
次に、「恋人あり」「恋人なし・恋愛経験あり」「恋人なし」の3群について、「恋愛に対するポジティブなイメージ」各側面と自尊感情の間に関連があるかどうかを、相関係数を算出して検討した。
その結果、「恋人あり」群については「積極的ポジティブ幻想」「恋愛の力」「相互作用」と自尊感情に正の相関があった。 「恋人なし・恋愛経験あり」群は「消極的ポジティブ幻想」「相互作用」「恋愛至上主義」と自尊感情に正の相関があった。
「恋人なし」群については、「恋愛の力」「相互作用」と自尊感情の間に正の相関が見られた。 また、「恋人なし」群と「恋人なし・恋愛経験あり」群の2群において、自尊感情と「積極的ポジティブ幻想」の間に負の相関が見られることが明らかになった。
「恋人なし」群において、「消極的ポジティブ幻想」と自尊感情の間に有意な負の相関が見られた(p<.05, r =-.493)。
Table 10 自尊感情と「恋愛に対するポジティブなイメージ」各側面との関連(相関係数)
次に、「恋愛に対するポジティブなイメージ」の各因子から自尊感情に対してどのような影響を与えているのかを、「恋愛に対するポジティブなイメージ」を独立変数、自尊感情を従属変数とした重回帰分析を行い、検討した。
その結果、「恋人なし」群において、自尊感情は「消極的ポジティブ幻想」から負の影響を受けていた(p<.05,β=−.700)。
Table 11恋愛に対するポジティブなイメージ」と自尊感情の重回帰分析結果(標準化係数) N=163