考察
本研究の目的のおさらい
1.気になる子どもに対して仲間がどのような態度で接しているかを明らかにし、
仲間の態度に学年・性別・障害特性(多動性/衝動性・注意欠陥)の違いによって差があるかを検討すること。
2.ADHDの特性を含む情報を提供することが、気になる子どもに対する仲間の態度に影響を与えるかを明らかにすること。
ここでは、本研究の目的の順に考察を進めていく。すなわち、最初に、全体的な仲間の態度について考察する。続いて、学年による違い、性別による違い、障害特性(多動性/衝動性・注意欠陥)による違い、ADHDの特性を含む情報の有無による仲間の態度の違いの順に考察を行う。
● 気になる子どもに対する仲間の態度について
● 学年ごとにおける仲間の態度の違いについて
● 性別ごとにおける仲間の態度の違いについて
● 障害特性(多動性/衝動性・注意欠陥)ごとにおける仲間の態度について
● 情報の有無が気になる子どもに対する仲間の態度に与える影響
● 総合考察
● 今後の課題
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気になる子どもに対する仲間の態度について
気になる子どもに対する仲間の態度については、態度得点4点(すべての質問項目に対して否定的な態度を示す回答)の仲間が約33%、さらに態度得点5点以下の仲間が半数以上みられ、全体的に否定的な態度を示す仲間がかなり多くみられる結果となった。よって、仮説1“気になる子どもに対する仲間の態度は、否定的な態度を示す子どものほうが、受容的な態度を示す子どもよりも多くみられるだろう”は支持されたといえる。
この結果から、以下の2点について考察する。1点目は先行研究との比較である。気になる子どもに対する仲間の態度は、Morgan(1996)では全体的に受容的であり、Low(2007)では全体的に否定的であった。このように、先行研究では、気になる子どもに対する仲間の態度は、一貫した結果が得られていなかった。しかし、本研究では、受容的な態度を示す仲間・否定的な態度を示す仲間の両者が混在しており、その割合は否定的な態度を示す仲間のほうが多いことが明らかとなった。
2点目は、気になる子どもに対する支援についてである。本研究の結果から、気になる子どもは、非協調的な行動が目立つことから、通常学級において仲間から理解を得ることができず、学級の中では仲間から十分に受容されていない可能性が高いことが示唆された。このように気になる子どもが受容されないままの環境にさらされ続けると、意欲の低下や自信欠如、学校不適応等の二次障害を引き起こす原因となりうるだろう。よって、気になる子どもにとって教師等の周囲の人々からの配慮が必要であると考えられるが、多くの教師にとってADHDとはどのような障害なのかについての理解がないのが実状といえる(武田ら,
2004)。したがって、教師や周囲の人々がADHDについての正しい知識をもつことや、学校全体で気になる子どもに対して支援を行うための体制づくりが重要となるだろう。そして、気になる子どもへの個別の対応にとどまるのではなく、気になる子どもがより健康的に生活できるように、周囲の仲間を含めた学級全体を意識した支援が必要であると考えられる。
小泉・若杉(2006)は、多動傾向のある子ども(以下、A児)に対して、個別の対応のみでなく、学級集団も対象に入れた実践を行った。A児には、授業を妨害するような発言や奇声、授業中の離席がみられていた。そこで、小泉ら(2006)は、A児に対して個別指導とCSST(Classwide
Social Skills
Training)を組み合わせて行い、学級の中において仲間から承認されるという経験を多くもたせる実践を行った。CSSTとは、教師が子どもたちに必要な社会的スキルを学級集団での授業の一環として教えることを指すものである。その結果、A児は、算数や国語の時間等、さまざまな場面において発表することができるようになる等、授業に対する態度に改善がみられた。そうしたA児の変容が、さらに仲間との好ましい相互作用をもたらした。このような好循環のゆえに、比較的短期間で、問題行動が改善したと述べられている。
この実践では、気になる子どもが仲間から認められるような機会を多くもたせる実践を試みている。その結果、仲間から次第に受け入れられるにつれて、気になる子ども自身から好ましい反応を引き出し、気になる子ども自身の問題は改善し、さらには、学級全体の雰囲気がよくなっていることがみてとれる。よって、気になる子どもに対する支援は、個別の支援のみにとどまるのではなく、学級の仲間を含めた全体における支援が必要であるといえる。そして、学級の仲間一人ひとりが認め合えるような学級づくりを行うことが大切である。
● 学年ごとにおける仲間の態度の違いについて
学年ごとにおける気になる子どもに対する仲間の態度については、全体的には中学年と高学年の間に統計的に有意な差はみられなかった。しかし、態度得点の人数の割合で比較すると、中学年よりも高学年において否定的な態度を示す仲間が多くみられる結果となった。よって、仮説2(1)“高学年になるほど気になる子どもに対する仲間の態度はより否定的になるだろう”を支持する傾向にあるといえるだろう。
Morgan(1996)では、小学校3年生と5年生を対象に調査を行っており、その結果、気になる子どもに対する仲間の態度に学年による差はみられず、全体的に受容的な態度を示していた。しかし、本研究では、中学年においても否定的な態度が多くみられ、さらに、学年が上がるにつれて、仲間の態度はより否定的になるという結果が得られた。このことは、気になる子どもについて、ポジティブな側面とネガティブな側面を同程度呈示した場合、高学年ではネガティブな側面にも言及した態度を示す傾向があることによるものと考えられる(明田,
1995)。また、高学年になるにつれて、仲間に対する認識が、単なる遊び友達から、自分にとって魅力のある特性をもった仲間としての認識へと変化し、相互的親密性にもとづいた関係として認識するようになることからもいえるだろう(岡村・青木・糸井・田口,
1996)。以上のことから、気になる子どものポジティブな側面を考慮したとしても受容的な態度で接することができず、否定的な態度を示す仲間が多くみられたと考えられる。
以上の結果から、学年が上がるにつれて、気になる子どもと仲間との間にはより否定的な関係が形成される可能性が高くなることが示唆される。今日の気になる子どもへの支援は、この問題行動にはこの対応という対症療法的な支援が多くあり、子どもの年齢に応じた対応というものは軽視されがちである。特に小学生の学年別に応じた支援の在り方についてはほとんど言及されていない。しかし、高学年になるにつれて、仲間から受け入れられにくくなる可能性が高いという本研究の知見を踏まえれば、学年の違いを軽視した支援だけでは不十分であることが示唆される。よって,気になる子どもの問題行動を対症療法的にとらえるだけでなく、気になる子どもの発達段階に目を向けることが大切であるだろう。そして、気になる子どもたち一人ひとりが、個々の発達段階に見合った適切な支援を受けることが望まれる。
● 性別ごとにおける仲間の態度の違いについて
性別ごとにおける気になる子どもに対する仲間の態度については、男児と女児の間に統計的に有意な差はみられなかった。しかし、態度得点の人数の割合で比較すると、男児よりも女児において否定的な態度を示す仲間が多くみられる結果であった。よって、仮説2(2)“男児よりも女児のほうが否定的な態度を示す仲間が多くみられるだろう”を支持する傾向にあるといえる。このような性差の理由については、先述したように、男児は比較的広範囲な仲間関係を形成しやすいのに対して、女児は排他的な二者関係を形成しやすい特徴をもつ(Hartup,
1992)ことから、気になる子どもに対する仲間の態度は男児よりも女児において否定的な態度が多くみられたと推察する。また、ADHDの傾向のある子どもは、通常学級において男児に8.9%、女児に3.7%(文部科学省,
2003)と男児に多くみられるため、女児にとってADHDの傾向のある子どものことを理解することが難しかった可能性も考えられるだろう。
このような結果は、先行研究とは一致しない結果であった。Morgan(1996)では、性別の違いに関係なく、気になる子どもに対する仲間の態度は全体的に受容的であった。しかし、本研究では、男児よりも女児のほうが否定的な態度を示す傾向があるという結果であった。このような結果の違いについては、気になる子どもに関する記述の内容が大きく関係していると考える。つまり、Morgan(1996)では、気になる子どもに関する記述の内容がポジティブな印象を与える要因を多く含んでいたため、男児・女児ともに受容的な態度を示す仲間が多くみられたと考えられる。一方で、本研究では、ポジティブな印象を与える側面とネガティブな印象を与える側面を同程度含んだ記述を呈示したことによって、より排他的な仲間関係を形成しやすいと考えられる女児において、否定的な態度を示す仲間が多くみられたのではないかと推察する。
以上のことから、ADHD児が多く存在する男児の仲間関係に配慮することも大切ではあるが、女児から排斥されやすいことを十分考慮した上での支援も必要となるだろう。たとえば、多くの仲間と触れ合い、仲間同士認め合えるような支援が考えられるだろう。比較的小さな集団を形成しやすい女児は、学級において多くの仲間と触れ合う機会が必要であると考えられる。そして、仲間関係をより広範囲なものとすることで、いろいろな特性をもった仲間と触れ合う機会を得ることができるだろう。そのような経験が気になる子どもを受け入れられることにつながる可能性があると考えられる。このような支援は一例であるが、気になる子どもの仲間関係に対する支援において大切なことは、学級の仲間が一人ひとり認め合えるような学級の雰囲気を作ることであり、仲間が一人ひとり認め合えるような機会を、周囲の人々が意図的に作ることも重要であるだろう。
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障害特性(多動性/衝動性・注意欠陥)ごとにおける仲間の態度について
(1)多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度
多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度は、かなり否定的な態度を示す仲間が約6割程度みられた。よって、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもは、通常学級において、仲間から十分に受容されていない可能性が高いことが示唆された。
次に、学年ごとに、多動性/衝動性の特性について分析を行った結果、学年を問わず、否定的な態度を示す仲間が多いという結果であった。しかし、中学年においては高学年よりも受容的な態度を示す仲間が有意に多くみられた。また、性別ごとに同様の分析を行った結果、統計的な差はみられず、全体的に否定的な態度を示す仲間が多くみられる結果となった。この結果から、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもは、中学年では仲間から比較的受け入れられ、自分の居場所を得ることができている可能性は高いと考えられる。しかし、学年が上がるにつれて、仲間からより受け入れられにくくなるという現状があり、それは男児、女児ともに同じ傾向にあるといえる。
また、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度の理由づけについてみると、「感情的否定」による理由づけを行っている仲間が中学年で約51%、高学年で約36%みられた。このことから、多動性/衝動性の特性から生じる問題行動は、仲間から不快な感情を引き出しやすく、仲間は感情的に気になる子どもを否定する傾向にあるといえる。ただし、高学年の女児において、「その他」による理由づけが約36%みられたことは注目すべき点であろう。つまり、高学年の女児においては、全体的に態度は否定的な仲間が多くみられるが、「受け入れたいという気持ちはあるが、受け入れきれない」というような葛藤状態の子どもや、「受け入れるかどうかは場合による」といった慎重な態度を示す仲間が、否定的な態度を示す仲間と同程度存在していることがわかる。
以上のことより、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもの在籍する学級では、学年が上がるにつれて仲間関係により配慮が必要となることを意識することが大切であると考えられる。そして、この中学年から高学年に移る時期において、教師や周囲の人々によって適切な支援を行うことで、仲間の態度をより受容的な態度へと促すことのできる可能性があることを示唆している。そして、それは特に女児において当てはまり、学級において支援を行う際の糸口になる可能性を含んでいるだろう。
(2)注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度
注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度は、かなり否定的な態度を示す仲間が約8割程度みられた。よって、注意欠陥の傾向のある気になる子どもは、通常学級において、仲間から十分に受容されていない可能性が高いことが示唆された。
次に、学年ごとに、注意欠陥の特性について分析を行った結果、統計的な差はみられず、全体的に否定的な態度を示す仲間が多くみられた。しかし、性別ごとに同様に分析を行った結果、女児においては男児よりも否定的な態度を示す仲間が有意に多くみられた。この結果から、注意欠陥の傾向のある気になる子どもは、男児においては仲間から比較的受け入れられている可能性は高いと考えられる。しかし、女児においては仲間から受け入れられている可能性は低いと考えられる。そして、それは学年を問わず、同じ傾向にあるといえる。
また、注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度の理由づけについてみると、中学年においては、「感情的否定」による理由づけが約38%、「社会的否定」による理由づけが約33%みられ、高学年においては、「社会的否定」による理由づけが約53%みられた。このことから、注意欠陥の特性から生じる問題行動は、学年を問わず、否定的にとらえられているが、その理由づけについては違いがあるといえる。つまり、中学年では、自己の感情にもとづいて否定的な態度を示す仲間、社会的にふさわしくないので否定的な態度を示す仲間が同程度存在しているが、高学年になると、自己の不快な感情によって否定する仲間は減少し、社会的ルールに従って否定する仲間が多くなるといえる。
このことについては、Bigelow(1977)[井森(1997)からの引用]によって述べられている児童期の友情の概念の発達段階によって説明できるだろう。Bigelow(1977)によると、低学年から中学年にかけては「報酬−コストの段階」とされ、友人とは“自分と一緒にまたはしたいように遊んでくれる人”ととらえている。一方で、中学年から高学年にかけては「規範的段階」とされ、友人に対して求めるものは“価値や規則、規範の共有”が重要となると述べられている。よって、中学年から高学年になるにつれて、「社会的否定」による理由づけが増加したのではないかと推察する。
以上の結果については、ストーリー課題に用いた紙芝居の内容が大きく影響していると考えられる。ストーリー課題の注意欠陥の特性を用いた紙芝居は、“友達と一緒に遊んでいる場面”と“グループ活動を行う場面”の2場面を用意した。その結果、「友達と遊んでいるときに自分勝手な行動をするから嫌だ」や「グループ活動では最後までやらなあかん」等、集団行動をしなければならない場面において、その場にふさわしくない行動をしてしまうため、気になる子どもは仲間から社会的な理由により否定される傾向にあったのではないかと推察する。また、男児よりも女児において否定的な態度を示す仲間が多かったことについては、女児における仲間関係の形成の仕方の違いによるものであると考えられる。先述したように、Hartup(1992)は、女児の遊びは二者で行われるものが多く、友人関係も排他的な二者関係を形成しやすいと述べており、女児の仲間集団は比較的小集団を形成すると考えられる。よって、小集団では社会性に従えないものは仲間からより排斥されやすくなるのではないかと考えられる。以上のことから、注意欠陥の傾向のある気になる子どもは、通常学級において、男児よりも女児のほうが、より排斥されやすいことを考慮した支援が必要となるだろう。
(3)障害特性ごとにおける仲間の態度の比較
以上(1)(2)より、かなり否定的な態度を示す仲間が、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもでは約6割、注意欠陥の傾向のある気になる子どもでは約8割みられた。また、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもに対しては、受容的な態度を示す仲間が比較的多くみられた。以上のことから、注意欠陥の傾向を示す仲間のほうが否定的にとらえられやすいことがわかる結果となった。よって、仮説2(3)“注意欠陥の傾向のある気になる子どもよりも多動性/衝動性の傾向のある気になる子どものほうが否定的にとらえられているだろう”は支持されなかった。
このように、障害特性によって気になる子どもに対する仲間の態度に差が出たことについては、気になる子どもに対する仲間の態度の理由づけから推察することができるだろう。多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度の理由づけは、多くの仲間が「感情的否定」による理由づけを行っていた。それに対して、注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度の理由づけには「社会的否定」による理由づけが多くみられた。「社会的否定」による理由づけとは、社会的ルールや規範に従って行われる理由づけである。先述したように、Bigelow(1977)によると、中学年から高学年にかけては
“価値や規則、規範の共有”が重要となることから、「社会的否定」による理由づけが多くみられる注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度の方がより否定的にとらえられたと考えられる。
以上の結果は、気になる子どもに対する支援を考える際に、重要な示唆を与えるものであるといえる。武田ら(2004)は、情緒障害児学級でADHDの児童生徒を担任している教師に対してアンケート調査を行っており、ADHDの児童生徒を担任する教師が指導上困難と感じることとして最も多くあげていたのは、ADHD児童生徒の学習面の遅れや問題ではなく、彼らの衝動的な行動に関してであった。このことからもいえるように、比較的ADHDの問題行動として挙げられるものは、多動性/衝動性から起こる問題が多くみられる。しかしながら、本研究の結果から、ADHDの傾向のある子どもの仲間関係の支援においては、注意欠陥の傾向のある気になる子どものほうが問題となる可能性が高いことが示唆された。多動性/衝動性の特性から生じる問題行動への理解・対応も重要ではあるが、比較的目立たない注意欠陥の傾向のある気になる子どもへの配慮を欠かさないよう気をつけなければならない。しかしながら、注意欠陥の傾向のある気になる子どもは、周囲の大人からは日常の観察では適切に評価しにくい問題や状態があることは今後の課題であるだろう(中村・林・木戸,
2003)。
● 情報の有無が気になる子どもに対する仲間の態度に与える影響
続いて、第2の目的である“ADHDの特性を含む情報を提供することが、気になる子どもに対する仲間の態度に影響を与えるかを明らかにすること”について考察を行う。気になる子どもに対する仲間の態度について、情報あり群と情報なし群の間で態度得点4点の部分において有意な差がみられた。つまり、ADHDの特性を含む情報を提供することは、否定的な態度を示す仲間に対して、より受容的な態度を促す効果があったといえる。
次に、障害特性ごとにみると、多動性/衝動性の項目において、情報あり群では中間的な態度を示す仲間が有意に多くみられ、一方、情報なし群では否定的な態度を示す仲間が有意に多くみられた。よって、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもについては、仲間にADHDの特性を含む情報を提供することにより、否定的な態度から中間的、受容的な態度へ促す効果があることが示唆された。しかしながら、注意欠陥の傾向のある気になる子どもについては、ADHDの特性を含む情報の提供の有無による影響は確認することができなかった。
また、仲間の態度の理由づけについてみると、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもについては、情報なし群では「感情的否定」による理由づけが約74%とかなり多くみられた。一方で、情報あり群では「感情的否定」による理由づけと「その他」による理由づけが約29%と同程度みられた。また、「半受容・半否定」による理由づけが情報なし群では全くみられなかったことに対して、情報あり群では約17%みられた。このことから、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもに対して否定的な態度を示すとき、ADHDの特性を含む情報が得られていない状態では感情的に否定する傾向にあるといえる。しかし、ADHDの特性を含む情報を提供することによって、ただ感情的に否定することから、受容的な態度を示すか、否定的な態度を示すかにおいて迷いが生じている可能性があると考えられる。よって、ADHDの特性を含む情報を提供することは、仲間の態度を受容的な態度にするとまではいかずとも、態度を決定する際に考えるきっかけを与えることができることが示唆された。
続いて、注意欠陥の傾向のある気になる子どもについて仲間の態度の理由づけをみてみると、ADHDの特性を含む情報の有無に関係なく、情報あり群と情報なし群において同じ傾向がみられた。よって、注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する態度の理由づけを行う際に、情報の提供を行ったとしても、仲間の態度やその理由づけには影響がみられないことが明らかとなった。
以上のことから、ADHDの特性を含む情報を提供することにより効果が得られるのは、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもの場合に限られるということがいえる。このように、注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度に、ADHDの特性を含む情報の影響がみられなかったことについては、注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度がより否定的となったことと同様の理由によって説明することができるだろう。つまり、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもに対する態度の理由づけは、「感情的否定」による理由づけが多くみられ、それに対して、注意欠陥の傾向のある気になる子どもに対する態度の理由づけには「社会的否定」による理由づけが多くみられた。よって、自己の不快な感情からの否定による理由づけを行う「感情的否定」に比べ、否定する理由が「社会的にふさわしくないため」と明確に定まるため、仲間の態度も情報による影響を受けにくくなったのではないかと考えられる。
以上のことから、仮説3“ADHDの特性を含む情報を提供することにより、気になる子どもに対する仲間の態度はより受容的になるだろう”は部分的に支持されたといえる。先行研究と比較すると、Morgan(1996)やLow(2007)では、気になる子どもに関する情報の提供による仲間の態度への影響はみられなかった。しかし、本研究では、部分的にではあるが、ADHDの特性を含む情報を提供することによる仲間の態度への影響がみられた。このように結果に違いが生じた理由については、以下の2点が考えられる。1点目は、障害特性による違いが考えられる。Morgan(1996)では、トゥレット症候群の傾向のある気になる子どもを取り上げて調査しており、その結果、気になる子どもに関する情報による影響はみられなかった。本研究においても、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもには、ADHDの特性を含む情報による影響はみられたが、一方で、注意欠陥の傾向のある気になる子どもには、ADHDの特性を含む情報による影響はみられなかった。以上のことから、気になる子どものもつ障害の特性やその程度によって、気になる子どもに関する情報による影響の有無が変わる可能性が考えられる。
2点目は、気になる子どもに関する記述の内容の違いが挙げられる。Morgan(1996)では、気になる子どもに関する記述の内容が比較的ポジティブな印象を与える要因を多く含んでいたため、気になる子どもに関する情報の有無に関係なく、仲間の態度は全体的に受容的になったと考えられる。一方、Low(2007)では、気になる子どもに関する記述の内容が比較的ネガティブな印象を与える要因を多く含んでいたため、気になる子どもに関する情報を得られたとしても、受容的にはなれなかったと考えられる。しかし、本研究では、ポジティブな側面とネガティブな側面を同程度含んだ記述を呈示する方法で調査を行った。その結果、気になる子どもに関する情報がない場合は、無条件に否定的な態度を示す傾向にあった。一方で、気になる子どもに関する情報がある場合では、無条件に否定的な態度を示す仲間は減り、受容的な態度を示すか否定的な態度を示すかで迷いが生じている仲間が増加することが示唆された。実際の気になる子どもの仲間関係においても、情報が何もない状態である場合、かなり否定的に捉えられている可能性が高いと考えられる。しかし、実際の気になる子どもには、障害特性から生じる問題行動もあるが、「発想が豊かである」や「行動力がある」等、その障害特性からくるポジティブな側面も多くみられるだろう。よって、気になる子どもに関する情報を提供することにより、仲間の態度をより受容的なものへと促すことができる可能性が大いにあると考えられる。このことについては、これから実践による研究によって明らかにされる必要があるだろう。
● 総合考察
本研究の目的は、ADHD傾向のある気になる子どもに対する仲間の態度を明らかにし、また、ADHDの特性を含む情報を提供することによって仲間の態度に影響があるかを明らかにすることであった。その結果、気になる子どもに対する仲間の態度は、約半数以上の子どもが否定的な態度を示していることが明らかとなった。また、ADHDの特性を含む情報を提供することによって、気になる子どもに対する仲間の態度を否定的な態度からより受容的な態度へ促す効果があることが明らかとなった。ただし、気になる子どものもつ障害特性によって、情報による有効性には差がみられた。つまり、ADHDの傾向のある気になる子どもの場合、多動性/衝動性の傾向のある気になる子どもについては情報の提供による効果はみられたが、注意欠陥の傾向のある気になる子どもについては情報の提供による効果はみられなかった。
以上のことから、通常学級における気になる子どもに対する支援について、重要な示唆を与えるだろう。本研究の結果から、気になる子どもは、通常学級において仲間からかなり否定的にとらえられており、学級の中で十分に受容されていない可能性が高いと考えられる。このような現状は、気になる子どもに様々な二次障害を引き起こす原因となりうるだろう。よって、今日における特別支援教育の対象となる「軽度の発達障害の診断のある子ども」に対する特別な配慮はもちろん必要ではあるが、本研究の結果から、「障害の診断はされていないが気になる子ども」に対しても、軽度の発達障害のある子どもと同程度の配慮が必要であることを示唆している。
また、軽度の発達障害のある子どもに対する支援は、比較的個別の対応による支援が多くみられるのが現状である。しかし、本研究の結果は、個別の支援のみならず、学級全体を意識した、気になる子どもの仲間関係に対して支援を行うことの重要性を示唆している。また、本研究の結果から、気になる子どもに関する情報を仲間に伝えることによって、気になる子どもに対する仲間の態度をより受容的な態度へと促す可能性を大いに含んでいることがいえるだろう。ただし、障害の特性等により効果が得られるかどうかは一概にはいえないことは、考慮すべき点であるといえる。
以上のことから、気になる子どもに対する支援は、個別の支援にとどまるのではなく、学級全体を意識した、気になる子どもの仲間関係に対する支援が重要であるといえる。学級の仲間一人ひとりが認め合えるような支援を、周囲の教師や学校全体によって行うことが大切である。そして、気になる子どもの問題となる行動の原因を説明する等、気になる子どもに関する情報を提供することによる支援も、気になる子どもの仲間関係をよりよい状態にするための1つの手段となりうるのではないだろうか。
● 今後の課題
本研究では、今後の課題として3つの問題点があると考えられる。
1つは、気になる子どもに関する記述についてである。本研究では、気になる子どもが自己紹介をするという形式によって、情報を対象児に提供するという方法を用いた。これが、気になる子ども本人からではなく、教師や周囲の大人から提供した場合では結果が異なる可能性が考えられる。実際の場面では、本人から情報を提供することは稀であると考えられ、多くは教師あるいは周囲の大人からである場合が多いと考えられる。よって、周囲の大人から気になる子どもに関する情報を提供した場合であっても、同様の結果が得られるかを検討する必要があると考えられる。
2つは、実際に気になる子どもが通常学級においてどのようにとらえられているのかを明らかにする必要が考えられる。本研究では、気になる子どもに対する態度は全体的にかなり否定的であった。しかしながら、紙芝居によって呈示された気になる子どもに対する態度と、実際に学級に在籍している気になる子どもに対する態度では、違いがある可能性が高いだろう。よって、本研究の結果は気になる子どもに対して仲間がどのように認識しているかを明らかにしたことについては意義があるといえるが、この結果が実際の場面にどの程度反映されるのかを明らかにする必要はあるだろう。
3つは、実際の気になる子どものもつ特徴は様々であり、一概に障害特性のみで気になる子どもの特徴を説明できないことを考慮しなければならないということである。本研究では、ADHD
の障害特性を用いて気になる子どもを想定しているが、実際には多動性/衝動性の特徴と注意欠陥の特徴を併せ持っている場合や、他の障害を併発している場合等が考えられる。また、一人ひとりに障害を越えた個性があり、その個性を考慮した一人ひとりに合った支援を行うことが大切である。