考察

1.自己嫌悪感の程度と自己内省と特性的自己効力感、自己嫌悪感体験時の対処行動、自己成長性のそれぞれの関連
2.自己内省と特性的自己効力感から対処行動、さらに自己成長性への影響
3.自己嫌悪感の程度の違いによる、自己内省と特性的自己効力感から対処行動、さらに自己成長性への影響の違い
4.本研究の結果に基づく概念のまとめ

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 本研究では、自己嫌悪感体験時において、自己形成に向かうという自己嫌悪感の肯定的側面につながる対処行動をどのようにすればとることが出来るのかを明らかにすることを目的とした。そして、自己嫌悪感の肯定的側面につながる対処行動に自己内省と特性的自己効力感が影響を与えると考えて検討した。自己内省と特性的自己効力感が自己嫌悪感体験時の対処行動に影響し、さらに自己嫌悪感体験時の対処行動が自己成長性に影響すると考えた。また、自己嫌悪感の程度によってそれらの影響が異なると考え、程度による比較についても検討した。



1.自己嫌悪感の程度と自己内省と特性的自己効力感、自己嫌悪感体験時の対処行動、自己成長性のそれぞれの関連
 1-1)自己嫌悪感の程度と自己内省と特性的自己効力感について
 自己嫌悪感体験時の対処行動に影響するものとして考えられる自己嫌悪感の程度と自己内省と特性的自己効力感の関連をみるため、相関係数を算出した(Table 5)。その結果、自己内省の内省頻度と自己嫌悪感の程度に正の相関がみられ、特性的自己効力感と自己嫌悪感の程度に負の相関がみられた。つまり、自分を見つめる機会が多いほど高い程度の自己嫌悪感を体験し、また特性的自己効力感が高いほど低い程度の自己嫌悪感を体験する傾向があったといえる。青年期においては、自分を見つめる過程の中で自己嫌悪感を感じることが多い(佐藤, 1994)。自分を見つめる機会が多いとその分否定的な自己について考える機会も多くなり、高い程度の自己嫌悪感を体験すると考えられる。また、佐藤(2006)によるとBandura(1988)は、自己効力感を高く認知しているときは、環境や自分自身をうまく統制できていると感じるため不安を感じないが、逆に、脅威を感じる物事に対し、うまく対処できないと感じたときは、自己効力感を低く認知している状態となり、不安を感じるとしている。普段から自分は何に対してもきっとできるだろうと感じられていれば、自分をポジティブに捉えられていることになり、ネガティブな感情である不安と同じようにそもそも自分がいやだと強く感じることは少ないと考えられる。よって、より一般化した日常場面における行動に影響する自己効力感である特性的自己効力感が高ければ、自己嫌悪感を強く感じず、自己嫌悪感の程度が低くなったと思われる。

 特性的自己効力感は自己内省の対象化水準と正の相関がみられた。つまり、特性的自己効力感が高いほど、自分について深く考えられるという傾向がみられた。また、自己内省の否定性直視とも正の相関がみられ、特性的自己効力感が高いといやな自分を見ることもできるということが分かった。自分を見つめることができても、自分について深く考えることやいやな自分について考えることは容易にできることではないと考えられる。また、自分をポジティブに捉えられているために自分について深く考え、いやな自分も見ることができるのだろう。そのため、自己内省の対象化水準と否定性直視が何に対してもきっとできるだろうという感覚である特性的自己効力感と関連する結果となったのだろう。

 1-2)自己嫌悪感体験時の対処行動について
 自己嫌悪感体験時の対処行動のそれぞれの関連を明らかにするために、相関係数を算出した(Table 6)。その結果、否定性変容ととらわれの程度の間に有意な正の相関がみられ、否定性変容と否定性回避、否定性受容の間には有意な負の相関がみられた。つまり、自己嫌悪感体験時において、いやな自分を変えていこうとする人は、いやな自分のことばかり考えてしまう傾向があるが、いやな自分から意識をそらしたり、いやな自分をそのまま引き受けようとはしない傾向があったといえる。否定性回避と否定性受容には有意な正の相関がみられ、いやな自分から意識をそらそうとする人は、いやな自分をそのまま引き受けようともすることが明らかとなった。水間(2003)では、とらわれの程度とその他の対処行動との相関については検討していないが、それ以外の対処行動同士の相関について、本研究の結果は水間(2003)と同様の結果となった。否定性回避、否定性受容と否定性変容の関連の結果より、否定的な自己の変容を志向することが、あるがままの自己の状態を受容できない心性を示すことが示唆される(水間, 2003)。また、いやな自分から意識をそらしてしまう否定性回避といやな自分をそのまま受け入れてしまう否定性受容は、自己嫌悪の感情の低減のみを目的とした即効的な対処行動であると考えられる。しかし、否定性変容はすぐに自己嫌悪感の低減にはならないと思われる。水間(2003)によると、実際に自己の否定性が何らかの受け入れられる類のものへと変容をとげた場合にはじめて自己嫌悪感の低減が可能になると思われる。実際に自分を変えることは時間がかかると考えられるため、いやな自分を変えようとすることは自己嫌悪感の低減にすぐにつながらないと考えられる。その点において、いやな自分について考え込み、とらわれてしまうことも自己嫌悪の感情の低減にはなかなかつながらないだろう。よって、否定性変容ととらわれの程度に正の相関、否定性変容と否定性回避、否定性受容に負の相関という結果がみられたと考えられる。

 1-3)自己成長性について
 梶田(1988)によると、自己成長性の達成動機は、自己成長を支える意欲に関わっており、努力主義はそのような意欲に支えられて行動を行っていく場合の基本的な準則と、それにもとづく自己統制の習慣・態度を示すものである。この自己成長性の2つの下位尺度間の関連をみるため、相関係数を算出したところ、有意な正の相関がみられた(r=.451 , p<.01)。自己を成長させようとするためには、達成動機と努力主義は必要不可欠なものであると考えられ、正の相関があることは妥当であると思われる。

2.自己内省と特性的自己効力感から対処行動、さらに自己成長性への影響
 自己内省と特性的自己効力感が自己嫌悪感体験時の対処行動へ与える影響、自己嫌悪感体験時の対処行動から自己成長性への影響を検討することで、自己内省と特性的自己効力感が自己嫌悪感体験時において自己成長性を高める対処行動に影響を与えることを明らかにするため、重回帰分析による検討を行った(Figure 1 )。

 2-1)自己内省、特性的自己効力感が自己嫌悪感体験時の対処行動に与える影響
 自己内省について、内省頻度から対処行動の否定性変容およびとらわれの程度へ有意な正の標準偏回帰係数がみられた。自己内省の内省頻度から対処行動の否定性回避へは有意な負の標準偏回帰係数がみられた。ここから、普段から自分を見つめる機会が多ければ、自己嫌悪感を体験したときに、いやな自分を変えていこうとし、いやな自分から意識をそらさないことが明らかになった。そして、普段から自分を見つめる機会が多いと、いやな自分のことばかり考えてしまうといった自己嫌悪感にとらわれる場合もあるという傾向があったといえる。普段から自分を見つめることができると、自己嫌悪感を体験したときのいやな自分についても向き合うことができるだろう。そのため、自己嫌悪感を体験したときに、いやな自分から意識をそらすのではなく、いやな自分を変えていこうと取り組むことができると考えられる。しかし、自分をよく振り返ると、いやな自分に多く目がいくようになるために、いやな自分のことばかり考えるようになり、自己嫌悪感にとらわれてしまう場合が起こると思われる。また、自己内省の対象化水準から自己嫌悪感体験時の対処行動への影響はみられなかったが、自己内省の否定性直視においては、対処行動の否定性回避、否定性受容に対する有意な負の標準偏回帰係数がみられた。つまり、いやな自分を見ることができると、いやな自分から意識をそらすことやいやな自分を引き受けることはしないことが分かった。自己嫌悪感体験時において、自分のいやなところを見つめられるのに、そこから意識をそらして他のことを考えようとしたり、いやな自分を受け入れようとするとは考えにくい。水間(2003)は、自己嫌悪感に陥った際に、どの程度否定的な自己を直視し、それを問題としてとらえることができるのかが、抑うつと自己形成、どちらにつながるかの重要な分岐点になるのではないかと述べている。このことからも、内省頻度と同様に自己の否定性を直視できると、自己嫌悪感を体験したときに、いやな自分と向き合ったうえでの対処行動をすることができるのだろうと考えられる。

 特性的自己効力感は、対処行動の否定性変容に対する有意な正の標準偏回帰係数ととらわれの程度に対する有意な負の標準偏回帰係数がみられた。ここから、特性的自己効力感が高いと、自己嫌悪感体験時において、いやな自分を変えていこうとするがいやな自分のことばかり考えてしまうことはないという傾向があったといえる。普段から何に対してもきっとうまくできるだろうと感じている程度が高ければ、自己嫌悪感を体験してもうまく対処することができるだろうと感じて、前向きに考えることができるだろう。そのため、いやな自分を変えていこうと取り組むことができ、自己嫌悪感にとらわれることは少ないという結果であったと考えられる。

 2-2)自己嫌悪感体験時の対処行動が自己成長性に与える影響
 自己嫌悪感体験時の対処行動の否定性変容は自己成長性の達成動機、努力主義へ正の影響を与えていた。つまり、いやな自分を変えていこうとすることは自分を高めていこうとする意欲と自己成長へ向かって努力しようとする態度を高める対処行動であることが明らかとなった。水間(2003)は、自己嫌悪感場面における否定性の変容志向を自己形成的な営みにつながる反応としている。本研究でもこれを示唆する結果となったといえよう。対処行動のとらわれの程度は努力主義へ負の影響を与えていた。この結果から、いやな自分のことばかり考えてしまうことは自己成長に向かって努力しようという態度を低めてしまう対処行動であるということができる。坂本(1997)によると、考え込み型反応をとる人は、良くない状態を評価し、救済策を探そうとして抑うつ的な気分に注目するかもしれないが、結局その行動自体が、抑うつ気分を悪化させてしまうと考えられる。考え込み行動といやな自分のことばかり考えて自己嫌悪感にとらわれることは類似した行動と考えられるので、とらわれの程度が自己成長性を低下させるという結果となったのだろう。対処行動の否定性回避、否定性受容については自己成長性への影響はみられなかった。この結果から、いやな自分から意識をそらすことといやな自分をそのまま引き受けてしまうことは自己成長性を高める対処行動ではないといえるだろう。

 2-3) 自己嫌悪感体験時において自己内省と特性的自己効力感が自己成長性を高める対処行動に与える影響
 本研究では、自己内省と特性的自己効力感が自己嫌悪感体験時において、自己成長性を高める対処行動に影響を与えるかどうかを検討した。その結果、自己内省の内省頻度が高ければ、自己嫌悪感体験時においていやな自分を変えようと行動し、またその行動は自己成長への意欲と態度を高めるという結果となった。つまり、自己を見つめる機会が多ければ、自己嫌悪感体験時において、自己成長性を高める対処行動をするということが明らかになった。ここから、自己嫌悪感を体験したときに、そこから自己形成に向かうためには、普段から自分をよく振り返ることが必要であると思われる。しかし、内省頻度が多いととらわれの程度も高くなり、そのいやな自分のことばかり考えるという行動は自己成長へ向かって努力しようという態度を低めていた。つまり、普段から自分を見つめる機会が多ければ、自己嫌悪感体験時において、自己成長性を低める対処行動をとることも明らかになった。青年が自分に注意を傾け、自分を見つめることは、自己嫌悪感を感じやすい状況に身を置いていると考えられる(佐藤・落合, 1995)。坂本(1997)は、ネガティブな自己注目が、自己に対する過度にネガティブな見方を促し、抑うつや不安の原因になることは想像に難くないと述べている。ここから、普段から自分を見つめる機会が多ければ、自己嫌悪感を体験しやすく、そのためいやな自分について考えることも多くなり、自分に対するネガティブな見方を促して自己嫌悪の感情にとらわれてしまう場合もあるといえるだろう。内省頻度は自己成長性を高める対処行動にも低める対処行動にも影響を与えていた。普段の自己内省の多さが自己嫌悪感体験時においてそのどちらに影響するのかは、いやな自分を変えていこうと自分を前向きに捉えて行動することが自己成長性につながり、いやな自分のことばかり考えるという自分をさらに否定的に捉えがちになる行動が自己成長性を低めるという結果から、普段の自分をどのように捉えて自己内省をしているのかが関係するのかもしれない。普段の自分をポジティブに捉えていれば、普段から自分を振り返る際にも自分をポジティブなものとして内省をすすめられるだろう。その場合に自己嫌悪感を体験し、いやな自分について考えても、いやな自分を自己成長につながる前向きなものとして捉えられると考えられる。そのため、自分をポジティブに捉えて内省する機会が多ければ、自己成長性を高める対処行動をすると思われる。一方で普段の自分をネガティブに捉えていると、普段の自己内省の際も自分をネガティブなものとして考えているだろう。その場合に自己嫌悪感を体験し、いやな自分と向きあうとさらに自己に対するネガティブな見方を促して、自己成長性を低める対処行動をすると考えられる。本研究で扱った内省頻度は自分を振り返る機会の程度であり、自己内省の際に自分をどのように捉えているかについては扱わなかったため、今後この点について検討する必要があるだろう。

 そして、特性的自己効力感が高ければ、自己嫌悪感体験時において、自己成長性が高まるいやな自分を変えていこうという行動をし、自己成長性を低めるいやな自分のことばかり考えるという行動はしないという結果となった。つまり、自分は何に対してもきっとできるだろうと強く感じられていれば、自己嫌悪感体験時において、自己成長性を高める対処行動をすることができ、自己成長性を低める対処行動はしない傾向があったといえる。水間(2003)によると、否定性の変容志向性は、ごくポジティブな積極的な姿勢として解釈される。本研究では、三宅(1999)のように特性的自己効力感が高いほど積極的な対処行動をとることが示唆されたと言えよう。普段から自分は何に対してもきっとできるだろうと感じられていれば、自分がいやだと感じてもその否定的な感情をうまく対処できると感じることができるため、自己嫌悪感を前向きに捉えて取り組むことができると考えられる。そのため、自己成長性を高める積極的な対処行動をするが、自己成長性を低める対処行動はしないという傾向がみられたと考えられる。

 本研究の結果では、自己内省の程度が高ければ、自己嫌悪感体験時において、自己成長性を高める否定性変容という対処行動をとることが明らかにされた。そして、自己内省から負の影響を与えた対処行動は自己成長性を高めるものではなかった。自己内省から対処行動へ負の影響がみられたものは、自己内省の程度が低い場合にとる対処行動であるといえるだろう。しかし内省頻度が高い場合は、自己成長性を低めるとらわれの程度が高くなる行動をすることも示された。従って、仮説1の“自己内省の程度が高いと自己嫌悪感体験時において自己成長性を高める対処行動をとるが、自己内省の程度が低いと自己成長性を低める対処行動をとるだろう”は部分的に支持されたといえる。また特性的自己効力感が高ければ、自己嫌悪感体験時において自己成長性を高める対処行動をとることが明らかにされた。そして、特性的自己効力感から負の影響を与えた対処行動は自己成長性を低めるものであった。特性的自己効力感から対処行動へ負の影響がみられたということは、特性的自己効力感が低い場合にとる対処行動であると言えるだろう。よって、仮説2の“特性的自己効力感が高いと自己嫌悪感体験時において自己成長性を高める対処行動をとるが、特性的自己効力感が低いと自己成長性を低める対処行動をとるだろう”は支持されたといえよう。

 本研究での結果では、自己内省と特性的自己効力感から自己成長性への直接的な影響もみられた。青年期は人格形成期であり、自己に対する意識の高まりに伴い、自己探求が行われるようになる(山内・高橋, 2006)。自分をみつめ、考えるという自己内省ができる者は、自己に対する意識が高いと考えられ、自分を高めていこうとする自己形成への意欲も高いと思われる。また梶田(1988)によると、自己成長性の基本的な軸には、達成動機と努力主義の他に、自己成長的な意欲や態度を基盤的に支えるものといえる「自信と自己受容」の軸と「他者のまなざし意識」の軸がある。そして、自らの内に自信と自己受容という自らの現状への落ち着きがあってはじめて、自己成長ないし自己形成への努力も着実なものになると考えられるのであり、他者のまなざしを意識することによって達成動機自体が一層強いものになると考えている。特性的自己効力感は自らの自信につながるものだと思われるため、自己成長を基盤的に支えるものとなり得るのではないだろうか。よって、自己内省と特性的自己効力感から自己成長性への直接的な関係がみられたと思われる。

3.自己嫌悪感の程度の違いによる、自己内省と特性的自己効力感から対処行動、さらに自己成長性への影響の違い

 自己嫌悪感の程度の違いによって、自己内省と特性的自己効力感が自己嫌悪感体験時の対処行動に対する影響、対処行動から自己成長性への影響が異なるのかを検討するために、重回帰分析を行った(Figure 2 , Figure 3)。

 3-1)自己嫌悪感の程度の違いによる、自己内省と特性的自己効力感が自己嫌悪感体験時の対処行動に与える影響の違い
 自己嫌悪感の程度が高い場合では、自己内省の内省頻度と否定性直視が対処行動の否定性回避に負の影響を与えていた。程度が低い場合においても、同様の結果であったことから、自己嫌悪感の程度に関係なく、普段から自己を見つめる機会が多い場合、またはいやな自分を見つめられる場合には、いやな自分から意識をそらすという対処行動をとらないことが明らかとなった。自分を見つめることができ、いやな自分のことを考えられれば、高い程度の自己嫌悪感を体験した場合でも低い程度の自己嫌悪感を体験した場合でも、いやな自分と向き合って自己嫌悪感を対処していこうとすると考えられる。そのため、いやな自分から意識をそらす行動において、自己嫌悪感の程度による内省頻度と否定性直視の与える影響の仕方に違いがみられなかったと考えられる。しかし、高い程度の自己嫌悪感を体験した場合では、自己内省の内省頻度が対処行動のとらわれの程度に対して正の影響を与えていた。つまり、自分がいやだと強く感じた場合に自分を見つめる機会が多いと、いやな自分のことばかり考えてしまう場合もあるということがわかった。低い程度の自己嫌悪感を体験した場合ではこの傾向はみられなかった。ここから、普段から自分を見つめる機会が多いと、自己嫌悪感の程度が高い場合はそれほど自分がいやだと感じていない場合よりもいやな自分に目がいきがちになると思われる。いやな自分と向き合うことはつらいものであるが、それゆえに自己に対する過度にネガティブな見方を促して、いやな自分のことばかり考え、自己嫌悪感にとらわれてしまうと考えられる。高い程度の自己嫌悪感を体験した場合も低い自己嫌悪感を体験した場合も特性的自己効力感が対処行動に与える影響は有意な結果が出ず、自己嫌悪感の程度による違いはみられなかった。

 3-2)自己嫌悪感の程度の違いによる、自己嫌悪感体験時の対処行動が自己成長性に与える影響の違い
 自己嫌悪感体験時の対処行動の否定性回避は、自己嫌悪感の程度が低い場合では自己成長性の努力主義に正の影響を与えていた。つまり、それほど自分がいやだと感じていない場合にいやな自分から意識をそらすことは、自己成長へ向かって努力する態度を高めるということであった。水間(2003)では、自己嫌悪感という感情自体からの解放という点においては、その否定性を変容していこうとするよりも、そこから意識をそらしてしまうことの方が効果的であることが明らかにされている。自己嫌悪感の程度が低い場合は、感情の解放が比較的容易であるので、いやな自分から意識をそらせばすぐに自己嫌悪感が低減されると考えられる。そして他のことに注意を向けることにより、自己成長への努力を高めていくことにつながるのだろう。しかし、自己嫌悪感の程度が高い場合では対処行動の否定性回避が自己成長性の達成動機に負の影響を与えていた。つまり、自分がいやだと強く感じる場合にいやな自分から意識をそらすことは、自己成長への意欲を低めてしまうということであった。自己嫌悪感の程度が高い場合にそこから意識をそらそうとすることは、自己嫌悪感の程度が低い場合よりも容易ではなく、なかなか自己嫌悪の感情の低減がなされないと思われる。それでも自己嫌悪感から意識をそらそうとすることで、自己形成へ向かう意欲を下げてしまうと考えられる。対処行動の否定性受容は、程度が低い場合において、自己成長性の努力主義への負の影響がみられた。つまり、低い程度の自己嫌悪感を体験した場合にいやな自分を引き受けようとすることは、自己成長へ向かって努力しようとする態度を低めるということであった。しかしこの傾向は、自己嫌悪感の程度が高い場合にはみられなかった。否定的な自己をそのまま引き受けようとすることは、その際に、その態度が自己受容的な心性によるものであるのか、それとも、自己に対するあきらめによるものなのかの区別ができないのである(水間, 2003)。本研究での対処行動の否定性受容が自己成長性を低めるという結果を見る限りでは、後者によるものではないかと考えられる。その場合、自己を肯定的にみたいという動機そのものが放棄されてしまっている場合もある(水間, 2003)。よって、自己嫌悪感の程度が低い場合には、いやな自分に対するあきらめが自己形成に対する態度を低めるのではないかと考えられる。自己嫌悪感の程度が高い場合では、自己嫌悪感の程度で分けていない全体での結果(Figure 1)と同様に、対処行動のとらわれの程度が自己成長性の努力主義への負の影響を与えていた。

 自己嫌悪感体験時の対処行動から自己成長性への影響をみると、自己嫌悪感の程度が高い場合には、否定性回避ととらわれの程度は自己成長性を低める対処行動であるといえる。自己嫌悪感の程度が低い場合では、否定性回避は自己成長性を高め、否定性受容は自己成長性を低める対処行動であるといえるだろう。よって、自己嫌悪感の程度の違いによって自己嫌悪感の肯定的側面につながる対処行動が異なることが明らかになった。

 3-3) 自己嫌悪感の程度の違いによる、自己嫌悪感体験時において自己内省と特性的自己効力感が自己成長性を高める対処行動に与える影響の違い
 自己嫌悪感の程度が高い場合、自己内省の内省頻度が高ければ、自己成長へ向かって努力しようとする態度を低めるとらわれの程度が高くなる行動をし、自己成長への意欲を低める対処行動である否定性回避はとらないことが明らかになった。また、自己内省の否定性直視が高いと、否定性回避をとらないことが示された。自己嫌悪感の程度が低い場合、自己内省の内省頻度、否定性直視の程度が高いと自己成長へ向かって努力しようとする態度を高める対処行動である否定性回避をとらないことが明らかになった。これらの結果から、自己嫌悪感の程度による自己内省と特性的自己効力感の対処行動に対する影響に違いがみられた。自己嫌悪感の程度が低い場合は、自分を見つめる機会が多い、またはいやな自分を見られると自己成長性を高めるいやな自分から意識をそらすことはしないことが明らかになった。いやな自分から意識をそらすことは自己形成につながるにもかかわらず、それをしないということから、普段から自己内省ができると自己嫌悪感を体験したときにいやな自分と向き合って対処しようとする姿勢をもつことがうかがえる。自己嫌悪感の程度が高い場合、自分を見つめる機会が多いと自己成長性を低めるいやな自分のことしか考えられないという自己嫌悪感のとらわれの程度を高くする行動をとるが、自己嫌悪感の程度が低い場合ではその傾向はみられなかった。自己嫌悪感の程度が高い場合は低い場合よりも、いやな自分について考えるとなかなかそこから抜け出せなくなると思われる。よって、自己嫌悪感の程度が高い場合は、自己成長性が高まらない対処行動をとりやすいといえるだろう。しかし、自己嫌悪感の程度が高い場合、低い場合どちらにおいても、自己内省と特性的自己効力感が自己成長性を高める対処行動に与える影響についての結果がみられなかった。従って、仮説3の“自己嫌悪感の程度によって自己内省と特性的自己効力感の対処行動への影響は異なるだろう。そして、自己嫌悪感の程度が高い場合は、低い場合と比べて、自己嫌悪感体験時において自己成長性が高まらない対処行動をとりやすいだろう”は部分的に支持されたといえよう。

 自己嫌悪感の程度による違いの検討においても、自己内省、特性的自己効力感から自己成長性への直接的な影響がみられた。自己嫌悪感の程度で分けていない全体の結果(Figure1)との相違点は、自己嫌悪感の程度が高い場合において、自己内省の否定性直視が自己成長性の達成動機、努力主義に対して有意な負の標準偏回帰係数がみられたことである。つまり、高い程度の自己嫌悪感を体験した場合にいやな自分を見つめられることは、自己成長への意欲や態度を低めてしまう傾向があったといえる。自己嫌悪感の程度が高い場合にいやな自分に向き合い、考えることは、本人を苦しめる要因になり得る。そのため、自己形成への意欲や態度が低められてしまうと考えられる。

4.本研究の結果に基づく概念のまとめ

 本研究で得られた結果に基づく概念図をFigure 4に示す。さらに自己嫌悪感の程度に分けた場合の結果をまとめた表をTable 7に示す。なお、本研究で扱った概念と各因子についての簡単な説明をTable 7の後に示す。









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