【結果】

1.「理想自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」、「現実自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」の作成

2.理想自己志向性の検討

3.理想−現実自己のズレの程度の算出
  
4.理想−現実自己のズレの各下位尺度間の関連の検討

5.理想−現実自己のズレの程度と理想自己志向性の関連の検討

6.理想−現実自己のズレの程度が理想自己志向性に与える影響の検討

7.理想自己志向性と理想自己実現手段の有無、理想自己実現行動の有無および行動希求の有無の関連の検討

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1.「理想自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」、「現実自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」の作成

 第一段階の調査で得られた各自己概念項目(41項目)の理想自己評定・現実自己評定について、それぞれ2因子で主成分分析(バリマックス回転)を行った。主成分量を使用し、第一主成分の主成分量をx軸、第二主成分の主成分量をy軸とした。これをもって、理想自己評定を使用したグラフと現実自己評定を使用したグラフの二種類のグラフを作成した。作成した二種類のグラフを、それぞれ「理想自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」(Figure1)、「現実自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」(Figure2)とした。


     
2.理想自己志向性の検討
第二段階の調査で得られた理想自己志向性について、山田(2004)で示された因子構成に従って、「行為」「意欲」のそれぞれの下位尺度得点を算出した。内的整合性を検討するためにCronbachのα係数を算出したところ、「行為」でα=.814、「意欲」でα=.743と十分な値が得られた。各下位尺度の内容とそれぞれの平均値、標準偏差をTable2、Table3に示す。
Table2 理想自己志向性・意欲の項目内容と平均値・標準偏差

Table3 理想自己志向性・行為の項目内容と平均値・標準偏差

3.理想−現実自己のズレの程度の算出

 「理想自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」(Figure1)、「現実自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」(Figure2)を基に、第二段階の調査でその個人が理想自己として選択した自己概念項目と、現実自己として選択した自己概念項目の距離を理想−現実自己のズレの程度とし、次式により算出した ; D= (D:理想−現実自己のズレの程度、Ifpc: 理想自己として選択した自己概念項目の第一主成分の主成分量、Ispc: 理想自己として選択した自己概念項目の第二主成分の主成分量、Rfpc: 現実自己として選択した自己概念項目の第一主成分の主成分量、Rspc: 現実自己として選択した自己概念項目の第二主成分の主成分量)。理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度の平均値は0.220294623、標準偏差は0.18であった。現実自己の観点における理想−現実自己のズレの程度の平均値は0.219078996、標準偏差は0.15であった。この計算式から、「理想自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」(Figure1)を基に算出した理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度と、「現実自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」(Figure2)を基に算出した現実自己の観点における理想−現実自己のズレの程度の、二種類の理想−現実自己のズレの程度を算出した。

4.理想−現実自己のズレの各下位尺度間の関連の検討

理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度、現実自己の観点における理想−現実自己のズレの程度、自己視点における理想−現実自己のズレの程度のそれぞれの下位尺度間の関連を検討するために、相関係数を算出した。結果をTable4に示す。
 理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度と自己視点における理想−現実自己のズレの程度の間に正の有意な相関がみられた(r=.145)。
5.理想−現実自己のズレの程度と理想自己志向性の関連の検討

理想−現実自己のズレの程度によって理想自己志向性の得点がどのように異なるのかを検討した。
まず、「理想自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」(Figure1)を基に算出した理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度について、被験者204名のズレの平均値を基準として被験者を低群(N=75)、中群(N=67)、高群(N=62)とわけた。次に、独立変数を理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度の高群、中群、低群それぞれの下位尺度得点とし、従属変数を理想自己志向性・行為、理想自己志向性・意欲のぞれぞれの下位尺度得点とし、一要因の分散分析を行った。同様に、「現実自己の観点におけるM大学生の自己概念項目の類似性マップ」(Figure2)を基に算出した現実自己の観点における理想−現実自己のズレの程度についても、被験者204名のズレの平均値を基準として被験者を低群(N=63)、中群(N=90)、高群(N=51)とした。そして、独立変数を理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度の高群、中群、低群それぞれの下位尺度得点とし、従属変数を理想自己志向性・行為、理想自己志向性・意欲のぞれぞれの下位尺度得点とし、一要因の分散分析を行った。一要因の分散分析をした結果、有意な結果は得られなかった。
  そこで、評定法によって測定された自己視点における理想−現実自己のズレの程度(平均値5.9、標準偏差2.22)について、評定を0〜2とした被験者を低群(N=13)、評定を5とした被験者を中群(N=33)、評定を8〜10とした被験者を高群(N=57)の三群にわけた。次に、独立変数を自己視点における理想−現実自己のズレの程度の高群、中群、低群それぞれの下位尺度得点とし、従属変数を理想自己志向性・行為、理想自己志向性・意欲のぞれぞれの下位尺度得点とした一要因の分散分析を行った。一要因の分散分析をした結果、従属変数を理想自己志向性・行為とした分析で有意な結果が得られた。三群の理想自己志向性・行為の平均値をFigure3に示す。分散分析の結果、群間の得点差は5%水準で有意であった(F(2,100)=13.28, p<.05)。TukeyのHSD法(5%水準)による多重比較を行ったところ、高群、中群、低群それぞれの自己視点における理想−現実自己のズレの程度の高群と中群、高群と低群、中群と低群との間にそれぞれ有意な得点差が見られた。この結果から、自己視点における理想−現実自己のズレの程度が小さいとき、理想自己志向性・行為の平均値が高いことが明らかになった。

            
6.理想−現実自己のズレの程度が理想自己志向性に与える影響の検討

 理想自己の観点・現実自己の観点・自己視点における理想−現実自己のズレの程度が、それぞれ理想自己志向性にどのような影響があるのかを検討した。  検討をするために、独立変数を理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度、現実自己の観点における理想−現実自己のズレの程度、自己視点における理想−現実自己のズレの程度とし、従属変数を理想自己志向性・行為、理想自己志向性・意欲のぞれぞれの下位尺度得点とした重回帰分析を行った。これの重回帰分析結果をTable5に示した。また、重回帰分析を基に作成したパス図をFigure4とした。なお、Figure4には、理想自己の観点・現実自己の観点・自己視点における理想−現実自己のズレの程度の尺度間相関、理想自己志向性・意欲、理想自己志向性・行為の尺度間相関も示してある。
理想−現実自己のズレの程度において、自己視点における理想−現実自己のズレの程度から理想自己志向性・意欲と理想自己志向性・行為に対して負の標準偏回帰係数が有意であった。しかし、理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度と現実自己の観点における理想−現実自己のズレの程度から理想自己志向性・意欲と理想自己志向性・行為に対する標準偏回帰係数が有意ではなかった。
結果から、自己視点における理想−現実自己のズレの程度が低いほど、理想自己志向性が高まる傾向にあるが、理想自己の観点における理想−現実自己のズレの程度と現実自己の観点における理想−現実自己のズレの程度が理想自己志向性に直接的な影響を及ぼさないことが明らかにされた。

            
6.理想自己志向性と理想自己実現手段の有無、理想自己実現行動の有無および行動希求の有無の関連の検討

理想自己志向性・意欲、理想自己志向性・行為の各低群・中群・高群の三群について、理想自己実現手段や理想自己実現行動の獲得の様相の違いを検討した。その結果をFigure5、Figure6に示す。理想自己志向性・意欲と理想自己実現手段の有無、理想自己実現行動の有無および行動希求の有無についてカイ二乗検定を行ったところ、カイ二乗値は39.258であり、自由度6で0.1%水準で有意な人数比率の偏りがみられた。理想自己志向性・行為と理想自己実現手段の有無、理想自己実現行動の有無および行動希求の有無についてカイ二乗検定を行ったところ、カイ二乗値は87.078であり、自由度6で0.1%水準で有意な人数比率の偏りがみられた。
理想自己志向性・意欲と理想自己実現手段の有無、理想自己実現行動の有無および行動希求の有無においては、理想自己志向性・意欲が高い者ほど理想自己実現への手段と行動の伴っている者が多く、理想自己志向性の低い者では、手段を有しておらず行動したいとも思っていない者の割合が他の群に比べて増加していた。理想自己志向性・行為と理想自己実現手段の有無、理想自己実現行動の有無および行動希求の有無においても同様の結果がみられた。ここから、理想自己志向性と理想自己実現のための手段や行動の獲得との相互関係性が示唆された。すなわち理想自己を志向することが手段や行動の獲得を促進したり、あるいは、手段や行動が伴っているということによってより志向性が高まったりするのではないかと考えられる。この結果は水間(2002)の結果と同様であった。ここから、理想自己志向性の高さが、その個人の意識のあり方にとどまらず、実際的な手段や行動の獲得も伴っていると考えられるかもしれない。
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