調査2
2学期における生徒の自己意識および制服着装行動について明らかにするために、調査2をおこなう。また、調査1で得られた1学期における特徴と関連がみられるのか、あわせて検討をおこなうことを目的とする。
<自己意識尺度について>
相関分析
「公的自意識」、「私的自意識」、「対人不安意識」、「自己顕示性」各々について、内的整合性を検討するためにCronbachのα係数を算出した。対人不安意識意識を除く3つの下位尺度において逆転項目を除いたところ、「公的自意識」でα=.786、「私的自意識」でα=.603、「対人不安意識」でα=.705、「自己顕示性」でα=.791であった。各々の項目得点の合計を項目数で割ったものを各下位尺度得点とした。
各得点の平均値と標準偏差および尺度間の相互相関をTable 3.1に示す。全体において「公的自意識」と「私的自意識」、「対人不安意識」は有意な正の相関を示した(それぞれr=.442, p<.001; r=.468, p<.001)。男子において「自己顕示性」は「公的自意識」との間に有意な正の相関を示した(r=.460, p<.001)。女子において「私的自意識」は「対人不安意識」との間に有意な正の相関を示した(r=.322, p<.001)。
分散分析
学年差、性差の検討をするため、性(男子・女子)と学年(1年・2年)を独立変数、自己意識の各下位尺度である「公的自意識」、「私的自意識」、「対人不安意識」、「自己顕示性」を従属変数とした分散分析をおこなった(Table 3.2)。
分散分析の結果、「自己顕示性」について有意な交互作用がみられた(F(1,217)=8.13, p<.01)。交互作用が有意であったことから、単純主効果の検定をおこなった。その結果、男子における学年の単純主効果(F(1,217)=12.87, p<.001)、2年生における性の単純主効果(F(1,217)=8.14, p<.01)が有意であった。
1学期の6月の調査時点では「公的自意識」と「自己顕示性」との間に有意な関連はみられなかったが、2学期の11月では男子においてのみ有意な正の相関関係がみられた。男子では、自分を見て欲しいという意識が高いと、他者から自分がどう思われているのかという意識が高いという傾向を示し、これまでの知見と一致するものとなった。2年生男子は他群に比べ「自己顕示性」得点が有意に高く、この傾向が顕著であると思われる。
「私的自意識」と「対人不安意識」は、1学期(6月)と同様、女子においては有意な正の関係を示したが、男子では11月でもみられなかった。男子では、自己の内面への注意と、他者の存在に伴い生じる不安は独立したものである一方、女子では自分らしさへの意識と他者の存在が関連しており、男女で異なる様相をもつことが示されたといえよう。
1学期(6月)では人前に出ることへの不安である「対人不安意識」と自分を見て欲しいという「自己顕示性」には有意な負の相関関係がみられたが、2学期の11月時点ではみられず、これらの意識が独立したものとなった可能性がある。
また、「公的自意識」、「対人不安意識」の2学期(11月)の得点は男子より女子の方が有意に高く、1学期と同様の傾向がみられた。女子にとっては、自己を捉えるにあたり、男子に比べると他者から自分がどう思われているかという意識が重要である可能性が考えられる。
<制服着装行動意識尺度について>
抽出された3因子の内的整合性をCronbachのα係数を用いて算出したところ、「自己呈示意識」α=.715、「評価懸念意識」α=.714、「校則準拠意識」α=.707であった。各々の項目得点の合計を項目数で割ったものを各下位尺度得点とした。
相関分析
各得点の平均値と標準偏差および尺度間の相互相関、1学期(6月)に得た学校規範・ルールに関する意識の各下位尺度との相関をTable 3.3に示す。「自己呈示意識」と「評価懸念意識」には男女ともに有意な正の相関がみられた(r=.428, p<.001; r=.437, p<.001)。女子において「自己呈示意識」と「校則準拠意識」に有意な負の相関がみられた(r=-.205, p<.05)。
学校規範・ルールに関する意識との関係においては、男女ともに「校則準拠(制服着装行動)意識」と「校則必要性意識」との間に有意な正の相関がみられた(それぞれr=.277, p<.05; r=.247, p<.001)。女子では「評価懸念(制服着装行動)意識」と「校則遵守意識」との間に有意な正の相関がみられた(r=.265, p<.01)。
分散分析
学年差、性差の検討のため、性(男子・女子)と学年(1年・2年)を独立変数、制服着装行動意識の「自己呈示意識」、「評価懸念意識」、「校則準拠意識」を従属変数とした分散分析をおこなった(Table 3.4)。分散分析の結果、「自己呈示意識」において有意な交互作用がみられた(F(1,179)=5.46, p<.01)。単純主効果の検定をおこなったところ、1年生において性の単純主効果が有意であった(F(1,179)=20.76, p<.001)。
男子、女子いずれにおいても、制服に関する他者からの評価を気にする「評価懸念意識」は、かっこよく・かわいく着こなしたいという「自己呈示意識」との間には有意な正の相関を示し、校則通りの着装行動をするという「校則準拠意識」とは無相関であり、これは6月と同様の傾向であった。また、1学期の6月では、「自己呈示意識」と「校則準拠意識」との間に、男子が有意な負の相関関係を示したが、2学期の11月では女子に有意な負の関係がみられた。
学校規範・ルールに関する意識との関連について、女子においては、校則は守らなければならないという「校則遵守意識」と「評価懸念意識」との間に有意な正の相関がみられ、男子では無相関であった。つまり校則は守らなければならないと思っている女子生徒は、自身の制服の着装に関する他者からの評価を気にしているということを示している。当該高等学校においては、多くの女子生徒が校則逸脱傾向の高い着装行動をおこなっていた(Table 2.14, 3.5)。校則を守らなければならないと思っている生徒たちにとってはこのような着装行動は矛盾したものであり、さらに高校生にとって級友からの「まじめ」評価は望ましくないものだという風潮も指摘されており(木下, 2001)、制服着装行動に際して葛藤が生じている可能性が考えられる。
<制服着装行動について>
まずカテゴリーA(基本型:買った状態のまま)に○をつけた者に1点、カテゴリーBには4点、カテゴリーCに6点、カテゴリーDに10点を与えた。カテゴリーの内容は調査1(1学期)と同様であった。男女毎に各カテゴリーの分布をTable 3.5に示す。カテゴリーB、Cを選択した者については、さらに自身にあてはまる項目がある場合に、1項目につき1点を加算した。したがって制服着装行動得点の最小値は1、最大値は10となった。
カテゴリー分布についてFisherの正確確率検定をおこなったところ、男子には有意な学年差が認められたが(p=12.06)、女子ではみられなかった(p=.763, n.s.)。
分散分析
学年差、性差の検討のために、性(男子・女子)と学年(1年・2年)を独立変数、「制服着装行動得点」を従属変数とした分散分析をおこなった(Table 3.6)。分散分析の結果、有意な交互作用はみられなかった。制服着装行動得点は学年と性の主効果がそれぞれ有意であった(F(1,214)=10.23, p<.001; F(1,214)=153.91, p<.001)。
女子では、1年生、2年生ともに、過半数以上の者がカテゴリーBを選択した。男子とは異なり、女子においてはカテゴリーA(購入時のまま)を選んだ者はほとんどみられなかった。男子ではカテゴリーAを選択した者の割合は1年生の方が多く、制服着装行動得点も2年生より低かった。男子では校則通りに着ることが生徒集団の規範として成立しているが、女子ではカテゴリーAに示されるような、購入したままの状態という着装行動、つまり全くもって校則通りの着装行動というものは、もはや当該生徒集団における規範ではないことが明らかになったといえよう。
<時期による差異の比較検討について>
これまで述べてきたように、各変数における特徴が明らかになった。そこで、6月から11月にかけて各々について変化がみられたのかどうか検討をおこなう。調査1および調査2における有効回答者のうち、第1回調査(第1学期実施)と第2回調査(第2学期実施)に回答し、かつ欠損のなかった者は164名(1年生男子31名、女子40名、2年生男子38名、女子55名)であった。
時期による変化を検討するために、自己意識、制服着装行動意識、および制服着装行動得点について学年および性別毎に対応ありのt検定をおこなった(Table 3.7, 3.8)。
1年生男子において、自己意識の「対人不安意識」、制服着装行動意識の「自己呈示意識」に有意な差異がみられた(それぞれt(31)=2.22, p<.05; t(31)=2.59, p<.05)。ともに1学期(6月)に比べ2学期(11月)の得点が低くなった。2年生男子においては、有意な差異はみられなかった(Table 3.7)。
Table 3.8に示した通り、1年生女子において、制服着装行動得点が1学期(6月)に比べて2学期(11月)に有意に上昇した(t(40)=3.76, p<.01)。2年生女子においては、制服着装行動意識の「校則準拠意識」が有意に上昇した(t(56)=2.07, p<.05)。
時期における有意な得点の変化はほとんどみられなかった。自己意識については、1年生男子の対人的な不安意識が2学期の11月になり低下しており、制服着装行動意識のかっこよく着こなしたいといった「自己呈示意識」も低下していた。不安意識が低下したことから1学期に比べて学校生活に慣れたと考えられる。制服着装行動に関しても、入学当初に考えていたようなかっこよく着こなしたいといった自己呈示的な動機が、当該高等学校の制服が持つデザインの特徴や、周囲の反応などにより、低くなったのではないかと考えられる。1年生男子の制服による自己呈示的な意識の弱まりは、同輩先輩にかかわらず、大きく逸脱した男子生徒がいないということも一因として挙げられよう。
一方女子では、1年生の「制服着装行動得点」が有意に上昇し、多くの女子生徒が入学時とは異なる着装行動をとっていると思われる。しかし制服着装行動意識における「校則準拠意識」が2年生において高まった。進路選択の時期が近づき、制服に関する校則に対する意識が生じてきたのであろうか。
制服着装行動の変化についてさらに詳しく見てみよう。1学期の6月時点における制服着装行動について選択したカテゴリー分布(Table 2.14)と2学期の11月におけるもの(Table 3.5)を比較すると、男子ではその分布にあまり変化はみられなかった。しかし、1年生女子ではカテゴリーA(購入時のまま)、D (最も逸脱度が高い)を選択した者が減り、2年生女子ではカテゴリーDを選択した者が減少した。これらのことから、この学校では、男子の制服着装行動はおおむね定まっている一方、女子については選択の範囲が広いことが考えられる。1年生女子は制服着装行動得点が2学期(11月)に有意に上昇し(Table 3.8)、1学期にみられた制服着装行動カテゴリー分布の学年差は、2学期ではみられなかった。これは入学時に比べ、2学期には逸脱傾向のある着装行動をとるようになった1年生の女子生徒が増えたことを意味し、2年生の1学期の着装行動に近づいたことを意味する。また2年生女子では、着装行動得点に有意な差はみられなかったが、2学期(11月)で最も逸脱度の高いカテゴリーD を選択した者の割合が減り、大きく逸脱する者が減少しているといえる。
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