結果


1、尺度構成


1)親の養育態度認知尺度
 親の養育態度認知尺度24項目について、先行研究(中野, 2006)に従って4因子解を仮定して因子分析(最尤法、プロマックス回転)を行った。その結果をTable 1に示す。


 第1因子は「何かにつけて私の行動に口をはさんだ」などの、自分の意見を否定される事が多い、認められることが少ないと感じられる項目に高い負荷を示したことから「支配因子」とした。第2因子は「私の話をよく聞いてくれた」などの、親は話をよく聞いてくれる、私をサポートしてくれる、認められていると感じられる項目に高い負荷を示したことから「受容因子」とした。第3因子は「その時の気分によって、しつけ方が変わった」などの、親の気分や状況によって返される反応が違うといった項目に高い負荷を示したことから「矛盾因子」とした。第4因子は「私が駄々をこねると、たいてい私の言う通りにしてくれた」などの、子どもの言う通りにしてしまう、甘やかしてしまうといった項目に高い負荷を示したことから「甘やかし因子」とした。
 次に各因子に.40以上の負荷を示した項目群を下位尺度の項目とし、それぞれの下位尺度の項目の得点を合計し、それを項目数で割ったものを各下位尺度得点とした。内的整合性を検討するために、Cronbachのα係数を算出したところ、支配でα=.782、受容でα=.831、矛盾でα=.835、甘やかしでα=.768であり、十分な値が得られた。そして下位尺度ごとの平均値と標準偏差、下位尺度間の相関係数を算出した。結果をTable 2に示す。



 Table 2より、「受容」と「支配」、「矛盾」に負の相関、「甘やかし」に有意な正の相関がみられた。また、「支配」と「矛盾」で高い正の相関がみられた。
 また、男女別の平均値と標準偏差、下位尺度間の相関係数をTable 3に示す。下位尺度間の相関には男女差があり、女性のみ「受容」と「甘やかし」で正の相関がみられた。また、「矛盾」と「受容」において、女性の方が男性より強い負の相関がみられた。




2)人間一般に対する信頼感尺度
 天貝(1995)での因子分析結果にならって、「他者への信頼」、「不信」の2つの下位尺度を構成した。次に、それぞれの下位尺度の項目の得点を合計し、それを項目数で割ったものを各下位尺度得点とした。内的整合性を検討するために、Cronbachのα係数を算出したところ、他者への信頼でα=.831、不信でα=.840であり、十分な値が得られた。各下位尺度の内容とそれぞれの平均値、標準偏差をTable 4に示す。また、下位尺度間の相関係数をTable 5に示す。「他者への信頼」と「不信」に負の相関がみられた。









3)自己開示抵抗感尺度
 遠藤(1995)が作成した自己開示抵抗感質問紙の29項目について因子分析(最尤法、プロマックス回転)を行った。その結果をTable 6に示す。





 第1因子は「話すことによって相手に嫌われたり、マイナスの評価を自分が受けるかもしれない」などの、開示相手との現在の関係が壊れたり嫌われたりすることへの不安や理解してもらえないかもしれないという不安など開示相手の反応への不安からくる「関係性変化・反応不安因子」とした。第2因子は「自己嫌悪に常に悩んでいる人のように思われてしまう」などの、自分の性質に対して否定的な評価を受けることへの抵抗感からくる「否定的評価因子」とした。第3因子は「内容がささいなことで話すまでもない」などの、些細な悩みや愚痴を聞かせることへの遠慮や抵抗感からくる「内容些細因子」とした。
 次に各因子に.35以上の負荷を示した項目群を下位尺度の項目とし、それぞれの下位尺度の項目の得点を合計し、それを項目数で割ったものを各下位尺度得点とした。内的整合性を検討するために、Cronbachのα係数を算出したところ、関係性変化・反応不安でα=.761、否定的評価でα=.781、内容些細でα=.616であった。
 また、榎本(1997)の自己開示抑制要因尺度の7項目から、先行研究にならって「深い相互理解に対する否定的感情因子」、「相手の反応に対する不安因子」の2つの下位尺度を構成しようとした。しかし、それぞれの下位尺度の項目の得点を合計して項目数で割ったものを各下位尺度得点として、内的整合性を検討するためにCronbachのα係数を算出したところ、深い相互理解に対する否定的感情でα=.653、相手の反応に対する不安でα=.562だった。そこで、α係数が低かった「相手の反応に対する不安因子」を削除して、「深い相互理解に対する否定的感情因子」のみを採用した。この因子は「自分の気持ちや考えは誰に言ってもわかってもらえない」などの、自他の違いを過大評価し、他人と理解しあうことに悲観的な心理からくる抵抗感であり、「相互理解悲観因子(4項目)」とした。内容をTable 7に示す。





 次に、自己開示抵抗感として扱うそれぞれの下位尺度ごとの平均値と標準偏差、下位尺度間の相関係数を算出した。結果をTable 8に示す。





 Table 8より、自己開示抵抗感の下位尺度間全てにおいて正の相関がみられた。ただし、内容些細については弱い相関がみられた。
 また、男女別の平均値と標準偏差、下位尺度間の相関係数をTable 9に示す。男女全体の結果とは違って男性では「内容些細」のみ他の開示抵抗感と有意な正の相関がみられなかった。





4)男女差
 性差を検討するために、親の養育態度認知、人間一般に対する信頼感、自己開示抵抗感の各下位尺度について平均値と標準偏差を算出し、男女間で対応のない平均値の差のt検定を行ったが、有意な差はみられなかった。その結果をTable 10に示す。





2、各下位尺度間の関連


1−1) 親の養育態度認知と人間一般に対する信頼感、自己開示抵抗感との関連
 親の養育態度認知、人間一般に対する信頼感、自己開示抵抗感のそれぞれの下位尺度間の関連を検討するため、相関係数を算出した。結果をTable 11に示す。「受容」は「他者への信頼」に対して正の相関、「不信」に対しては負の相関がみられた。自己開示抵抗感とは「否定的評価」のみ負の相関がみられた。また、「支配」と「矛盾」は「他者への信頼」に対して負の相関がみられ、「不信」に対しては正の相関がみられた。そして、自己開示抵抗感の「関係性変化・反応不安」、「否定的評価」、「相互理解悲観」の3つの要因に対して正の相関がみられた。「甘やかし」については人間一般に対する信頼感と開示抵抗感のどちらにも相関はみられなかった。






1−2)男女別の親の養育態度認知と人間一般に対する信頼感、自己開示抵抗感との関連
 男女差を検討するために、親の養育態度認知、人間一般に対する信頼感、自己開示抵抗感のそれぞれの下位尺度間の相関係数を男女別に算出し、結果をTable 12に示す。親の養育態度認知と人間一般に対する信頼感の相関については、男女ともTable 10と同じで、肯定的な養育態度を受けたと認知する者ほど他者への信頼が高く不信は低い、否定的な養育態度を受けたと認知する者ほど他者への信頼が低く不信は高いという結果がみられた。しかし、男性の方が女性よりも「受容」と「不信」に強い負の相関がみられた。親の養育態度認知と開示抵抗感の関連については、まず男性において、「受容」と「否定的評価」、「相互理解悲観」に負の相関、「支配」、「矛盾」と「否定的評価」、「内容些細」、「相互理解悲観」に正の相関、「甘やかし」と「関係性変化・反応不安」に正の相関がみられた。次に、女性においては、「支配」「矛盾」と「関係性変化・反応不安」、「否定的評価」、「相互理解悲観」に正の相関がみられた。「受容」、「甘やかし」と自己開示抵抗感の相関はみられなかった。





2−1) 人間一般に対する信頼感と自己開示抵抗感との関連
 人間一般に対する信頼感と自己開示抵抗感のそれぞれの下位尺度間の関連を検討するため、相関係数を算出した。結果をTable 13に示す。「他者への信頼」と「関係性変化・反応不安」、「否定的評価」、「相互理解悲観」に負の相関、「不信」と全ての開示抵抗感要因に正の相関がみられた。






2−2) 男女別の人間一般に対する信頼感と自己開示抵抗感との関連
 男女差を検討するために、人間一般に対する信頼感と自己開示抵抗感のそれぞれの下位尺度間の相関係数を男女別に算出し、結果をTable 14に示す。まず男性において、「他者への信頼」は「関係性変化・反応不安」、「否定的評価」、「相互理解悲観」と負の相関、「不信」とは正の相関がみられた。次に女性において、「他者への信頼」と「関係性変化・反応不安」、「相互理解悲観」に負の相関、「不信」と全ての開示抵抗感要因に正の相関がみられた。






3、親の養育態度認知から人間一般に対する信頼感、さらに自己開示抵抗感への影響


 親の養育態度認知が人間一般に対する信頼感にどのような影響を与えるのか、また、人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感の強さにどのように影響するのかを検討するために階層的重回帰分析を行った。まず、親の養育態度認知の4つの下位尺度得点を独立変数、人間一般に対する信頼感の2つの下位尺度得点を従属変数にした重回帰分析を行った。さらに、親の養育態度認知、人間一般に対する信頼感のそれぞれの下位尺度得点を独立変数、自己開示抵抗感の4つの下位尺度それぞれにおける下位尺度得点を従属変数とした重回帰分析を行った。重回帰分析に基づくパス図をFigure 1 に示した。有意なパスのみを示し、正の標準偏回帰係数がみられた場合は実線の矢印で、負の標準偏回帰係数がみられた場合は点線の矢印で表した。また、|β|<.200、.200<|β|<.390、.390<|β|の 3段階で、みられた影響の強さに応じて線の太さを変えた。


Figure1 親の養育態度認知から人間一般に対する信頼感、さらに自己開示抵抗感への影響

 まず、親の養育態度認知から人間一般に対する信頼感に与える影響を検討した。受容から他者への信頼に対して有意な正の標準偏回帰係数がみられ、不信に対しては有意な負の標準偏回帰係数がみられた。また、支配から他者への信頼に対して有意な負の標準偏回帰係数がみられ、不信に対しては有意な正の標準偏回帰係数がみられた。矛盾、甘やかしから人間一般に対する信頼感への有意な影響はみられなかった。
 次に、親の養育態度認知と人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感に与える影響を検討した。人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感に与える影響として、不信から関係性変化・反応不安、否定的評価、相互理解悲観に対して有意な正の標準偏回帰係数がそれぞれみられた。他者への信頼から自己開示抵抗感への有意な影響はみられなかった。
 親の養育態度認知から自己開示抵抗感への直接的な影響もみられた。受容から相互理解悲観に対して、有意な正の標準偏回帰係数がみられた。



4、男女別にみた親の養育態度認知から人間一般に対する信頼感、さらに自己開示抵抗感への影響


 男性と女性では、親の養育態度認知が人間一般に対する信頼感に与える影響、また、親の養育態度認知と人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感へ与える影響に違いがみられると考え、男女別に階層的重回帰分析を行った。それぞれの結果のパス図をFigure 2 、Figure 3 に示す。有意なパスのみを示し、正の標準偏回帰係数がみられた場合は実線の矢印で、負の標準偏回帰係数がみられた場合は点線の矢印で表した。また、|β|<.200、.200<|β|<.390、.390<|β|の 3段階で、みられた影響の強さに応じて線の太さを変えた。


Figure2 男性における親の養育態度認知から人間一般に対する信頼感、さらに自己開示抵抗感への影響


Figure3 女性における親の養育態度認知から人間一般に対する信頼感、さらに自己開示抵抗感への影響


4−1)男性の場合
 まず、親の養育態度認知から人間一般に対する信頼感に与える影響を検討した。受容から他者への信頼に対して有意な正の標準偏回帰係数がみられ、不信に対しては有意な負の標準偏回帰係数がみられた。また、支配から他者への信頼に対して有意な負の標準偏回帰係数がみられ、不信に対しては有意な正の標準偏回帰係数がみられた。矛盾、甘やかしから人間一般に対する信頼感への有意な影響はみられなかった。
 次に、親の養育態度認知と人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感に与える影響を検討した。人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感に与える影響として、不信から関係性変化・反応不安、相互理解悲観に対して有意な正の標準偏回帰係数がそれぞれみられた。他者への信頼から自己開示抵抗感への有意な影響はみられなかった。
 親の養育態度認知から自己開示抵抗感への直接的な影響もみられた。甘やかしから関係性変化・反応不安、否定的評価に対して有意な正の標準偏回帰係数がそれぞれみられた。

4−2)女性の場合
 まず、親の養育態度認知から人間一般に対する信頼感に与える影響を検討した。支配から不信に対して有意な正の標準偏回帰係数がみられた。受容、矛盾、甘やかしから人間一般に対する信頼感への有意な影響はみられなかった。
 次に、親の養育態度認知と人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感に与える影響を検討した。人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感に与える影響として、不信から関係性変化・反応不安、否定的評価、相互理解悲観に対して有意な正の標準偏回帰係数がそれぞれみられた。他者への信頼から自己開示抵抗感への有意な影響はみられなかった。
 親の養育態度認知から自己開示抵抗感への直接的な影響もみられた。受容から関係性変化・反応不安、相互理解悲観に対して有意な正の標準偏回帰係数がそれぞれみられた。また、矛盾から関係性変化・反応不安に対して、有意な正の標準偏回帰係数がみられた。
 これらの結果から、男性と女性では、親の養育態度認知が人間一般に対する信頼感に与える影響、また、親の養育態度認知と人間一般に対する信頼感が自己開示抵抗感へ与える影響に違いがみられることがわかった。しかし、男女で分けることによって、それぞれ対象となる人数が少なくなるので、有意な結果になりにくくなるという点について考慮しなければならない。



5、親の養育態度認知と性別における交互作用が人間一般に対する信頼感と自己開示抵抗感に及ぼす効果


 まず、親の養育態度認知(受容、支配、矛盾、甘やかし)の高低を明確にするために、それぞれの下位尺度の平均値から上位得点を高群、下位得点を低群とした。そして、親の養育態度認知(受容、支配、矛盾、甘やかし)高群・低群と性別を独立変数、人間一般に対する信頼感(他者への信頼、不信)を従属変数とした2要因分散分析をそれぞれ行った。また、親の養育態度認知(受容、支配、矛盾、甘やかし)高群・低群と性別を独立変数、自己開示抵抗感(関係性変化・反応不安、否定的評価、内容些細、相互理解悲観)を従属変数とした2要因分散分析をそれぞれ行った。それぞれの平均値、SDをTable 15に示す。





 その結果、受容高群・低群と男女を独立変数、相互理解悲観を従属変数とした2要因分散分析において、交互作用がみられた(F(1, 199)=5.66, p <.05)(Figure 4参照)。


Figure 4 受容高低群と性別を独立変数、相互理解悲観を従属変数とした2要因分散分析

 交互作用が有意であったため、単純主効果の検定を行った。その結果、男性において、受容高群・低群の単純主効果が有意であり(F(1, 199)=8.82, p<.01)、受容高群の方が有意に相互理解悲観からくる抵抗感が低かった。
 また、矛盾高群・低群と男女を独立変数、内容些細を従属変数とした2要因分散分析において、交互作用がみられた(F(1, 199)=4.12, p <.05)(Figure 5参照)。


Figure 5 矛盾高低群と性別を独立変数、内容些細を従属変数とした2要因分散分析

 交互作用が有意であったため、単純主効果の検定を行った。その結果、男性において、矛盾高群・低群の単純主効果が有意であり(F(1, 199)=6.80, p<.05)、矛盾高群の方が有意に内容些細からくる抵抗感が高かった。