【総合考察】

 本研究では研究1において、対乳児場面における動機づけを測定する尺度を新たに開発するという目的のため、「対乳児場面動機づけ尺度」を作成し質問紙調査を行い、尺度の信頼性、下位尺度間の関連、他の尺度との関連を検討した。因子分析の結果、4因子が抽出され「内発的動機づけ因子」「外的因子」「同一視的因子」「取り入れ的調整因子」と命名した。因子分析の結果に基づき下位尺度構成を行う段階で、「取り入れ的調整」に関して十分な信頼性係数が得られなかったため今後の検討が必要であるが、「内発的動機づけ」「同一視的調整」「外的調整」に関してはシンプレックス構造がみられ、先行研究と一致する結果が得られた。

さらに研究2では、対乳児場面において報酬予期を行うことで、その後乳児と関わることへの内発的動機づけがどのように変化するのかを検討した。また対乳児場面認知や今後の協力の度合いに関しても報酬(あり・なし)の違いによる影響を検討した。その結果、事前・事後での乳児とかかわった時間・「内発的動機づけ」・「外的調整」・「同一視的調整」の動機づけを測定する指標において、報酬(あり・なし)の違いで有意な差がみられなかった。このことから本実験においての報酬予期は内発的動機づけを損傷する効果がなかったといえる。これは、被験者が乳児とかかわることへの内発的動機づけが高かった可能性があり、「報酬を得るために乳児とかかわろう」という認知が生じず、内発的動機づけを低下させなかったといえる。このことから、乳児とかかわることに対して高い内発的動機づけを持つことの重要性が明らかになった。つまり、日ごろから高い内発的動機づけをもっていれば、報酬を与えられようが与えられまいが、その後も変わらず意欲的に乳児とかかわることができるといえる。

また報酬(あり・なし)にかかわらず、「同一視的調整」の得点が上昇し、対乳児場面認知の「認知ポジティブ」の得点が下降した。「認知ポジティブ」の得点が下降したことから実際に乳児とかかわることを経験してみて、乳児とかかわることの難しさや大変さを実感することが示され、「同一視的調整」の得点が上昇したことから、乳児とかかわることの必要性や重要性を認識したということが見出された。藤後(2001)は高校生について、保育体験学習前の赤ちゃんイメージは肯定的で、体験後には赤ちゃんイメージは肯定的・否定的両方が増加したということを報告している。本研究では「同一視的調整」の得点が上昇し、「認知ポジティブ」の得点が下降したことから、先行研究と同様の結果が得られたといえる。

【今後の課題】

研究1では、対乳児場面においての動機づけを測定する尺度を開発したが、尺度構成に関して、「取り入れ的調整」の下位尺度において十分な信頼性係数が得られなかった。よって下位尺度の項目について再度検討する必要があるだろう。

また研究2では、対乳児場面において報酬予期をすることで、内発的動機づけを損傷する効果が得られなかった。これは被験者が乳児とかかわることに対して内発的動機づけが高い者が多く、「報酬を得るために乳児とかかわろう」という認知が生じなかったためと考えられる。しかし、乳児とかかわることに対しての内発的動機づけが低いものでの報酬予期の検討は行わなかったので、乳児とかかわることに対しての動機づけが高い者・低いもので比較検討する必要があるだろう。

またこれまでの研究では、報酬を与えることを約束させ課題に従事させることで、その後の内発的動機づけを低下させるとされており、本実験でも報酬あり群に関して、課題に取り組む前に「報酬予期」の操作のみを行い、課題終了後に実際に報酬を与えることはしなかった。しかし、報酬を約束し実際に報酬を得ることで、報酬を得るという目的が達成され、報酬を得た後での内発的動機づけに影響を及ぼすということも考えられるだろう。よって報酬予期をするだけでなく、それと合わせて報酬を与えての検討をする必要があるだろう。

また本実験では、「乳児をできるだけ多く笑わせる」という課題に取り組んでもらったが、笑わせるという行動をさせることによって評価懸念が働き、報酬(あり・なし)にかかわらず両群ともに、事後において乳児とかかわる時間が減少したと考えられた。これまでの報酬の効果をみた研究においては、事後において、課題として取り組んでもらったものと同じものに取り組んだ時間を内発的動機づけの指標として検討されている。Deci1971)は被験者にパズル課題に取り組んでもらい、その後の自由時間においてパズル課題に従事する時間を内発的動機づけの指標として用いている。それに従い、課題を「乳児と遊んでもらう」ということにすれば、評価懸念が生じることがなく両群ともに乳児とかかわる時間が減少することがなかったかもしれない。よって取り組んでもらう課題を再度検討する必要があるだろう。