【要旨】

 本研究では、乳児とかかわる場面での動機づけに着目し、乳児とかかわる場面において、動機づけられることの重要性を明らかにすることを目的とした。

そのため、乳児とかかわる場面においての動機づけを測定する尺度を、自己決定理論(Deci Ryan, 1985Ryan Deci, 2002)に基づき作成し、質問紙調査を行い尺度の構成を検討した(研究1)。尺度の因子分析の結果、「内発的動機づけ因子」「外的因子」「同一視的調整因子」「取り入れ的調整因子」の4因子が抽出された。その後尺度の構成の段階で「取り入れ的調整」の下位尺度において十分な信頼性係数が得られなかったため、以降の分析から除外し、「内発的動機づけ」「外的調整」「同一視的調整」の3つの下位尺度で検討を行った。その結果、先行研究と同様に下位尺度間でシンプレックス構造がみられた。このことから、自己決定性に基づいて「内発的動機づけ」「同一視的調整」「外的調整」の順に連続体をなしていることが確認された。また対乳児場面認知や対児感情との関連もみられ、乳児とかかわることに対する動機づけが高い人ほど、乳児とかかわることに対してポジティブな認知であり、乳児に対して接近的感情を抱いていることが示された。一方、乳児とかかわることに対する動機づけが低い人ほど、乳児とかかわることに対してネガティブな認知であり、乳児に対して回避的感情を抱いていることも示された。このことから、乳児とかかわることに対して高い内発的動機づけをもっていれば、乳児に対して接近的感情を持ちながら、乳児とかかわることに対しポジティブになることができるということが明らかになった。

さらに本研究では、対乳児場面における報酬予期の効果をみることを目的とし、報酬あり群(報酬予期をする群)・報酬なし群(報酬予期をしない群)にわけ乳児とかかわる場面を設定して実験を行い、報酬予期をして課題に従事させることが事後の内発的動機づけを低下させるのかを検討した(研究2)。実験では、内発的動機づけの変化をみるため、事前の休憩時間をとり、その後「乳児を笑わせる」という課題に取り組んでもらった。その後事後の休憩時間を設け、事前・事後それぞれの休憩時間においての乳児とかかわった時間(乳児を注視した時間)を比較した。その結果、報酬予期による内発的動機づけの損傷的効果はみられなかった。しかし報酬あり・なしに関わらず、乳児とかかわることを経験することで、乳児とかかわることの必要性や重要性を実感することや、乳児とかかわることに対してポジティブではなくなるということが示された。