分析対象者
調査対象者191名(男性96名、女性95名)のデータを分析対象とした。分析対象者の平均年齢は19.9歳(SD=1.56)であった。
また、分析をするにあたって、欠損値のあった6名を除いた、合計185名(男性93名、女性92名)をユニークネス欲求尺度得点の平均得点の3.25で対象者を2分し、高得点者92名を独自性欲求高群(SD=0.31)、低得点者93名を独自性欲求低群(SD=0.27)とした。
1.卒業式での衣装の選択
2.車購入時の車の選択
3.集団規範と個人規範が対立する場合の選択
4.集団内での類似度が高い場合の衣装の選択
5.集団内での類似度が高い場合の車の選択
(1)卒業式での衣装の選択
「あなたが卒業式で着るならどの衣装にしますか?」という問いに対する回答結果を以下のTable1に示した。全体で「1.スーツ」を選んだ人は104名、「2.和装(袴、振袖)」を選んだ人は85名、「3.洋服(ジャケットやワンピースなど)」を選んだ人はおらず、「4.洋服(デニムやパーカーなど)」を選んだ人は2名だった。選択した人数の比率をみるためにχ2検定を行った結果、有意であった(χ2(2)=92.429, p<.001)。残差分析の結果、スーツか和装を選ぶ人が洋服(デニムやパーカーなど)を選ぶ人よりも多いと解釈することができる。
Table 1 衣装の選択別の人数

また、「スーツ」を選んだ人の87.5%が男性であり、「和装」を選んだ人の96.4%が女性であったため、男女を分けて集計を行った(Table2)。男性96名のうち、「1.スーツ」を選んだ人は91名、「2.和装(袴、振袖)」を選んだ人は3名、「3.洋服(デニムやパーカーなど)」を選んだ人は2名。女性95名のうち、「1.スーツ」を選んだ人は13名、「2.和装」を選んだ人は82名。また、男女ともに、「3.洋服(ジャケットやワンピースなど)」を選んだ人はおらず、女性で「4.洋服(デニムやパーカーなど)」を選んだ人もいなかった。
Table 2 男女別 衣装の選択の人数

さらに、回答者数の少なかった「3.洋服(ジャケットやワンピースなど)」と「4.洋服(デニムやパーカーなど)」を除き、性別による衣装の選択の違いを検討するためχ2検定を行った結果、有意であった(χ2(2)=133.92, p<.001)。残差分析の結果、男性ではスーツを選ぶ人が、女性では和装を選ぶ人が多いと解釈することができる。
Table3はさらに独自性欲求高群・低群に分けて表にしたものである。男性と女性に分けてそれぞれFisherの直接確率検定を行った結果、独自性欲求高群と低群の間に有意な偏りはみられなかった(男性:χ2(1)=1.534, n.s. 女性:χ2(1)=2.564, n.s.)
Table 3 男女別と独自性欲求別の衣装の選択の人数

卒業式の衣装を選択する場面における社会規範意識の影響をみるため、衣装の選択を独立変数、社会規範得点を従属変数として、一次元配置分散分析を行った。その結果、「1.スーツ」あるいは「2.和装」を選んだ人が、「4. 洋服(デニムやパーカーなど)」を選んだ人よりも、社会規範意識が有意に高いことがわかった(F(2,187)=8.679, p<0.01)。
(2)車購入時の車の選択
「今あなたが車を購入するならどの車を買いますか?」という問いに対する回答結果を以下のTable4に示した。全体で「1.国産小型車」を選んだ人は144名、「2.輸入小型車」を選んだ人は14名、「3.国産大型車」を選んだ人は22名、「4.輸入大型車」を選んだ人は11名だった。選択した人数の比率の差をみるためにχ2検定を行った結果、有意な偏りがみられた(χ2(3)=260.037, p<.001)。残差分析の結果、国産小型車を選ぶ人が輸入小型車、国産大型車、輸入大型車を選ぶ人よりも多いことがわかった。
Table 4 車の選択の人数

Table5はさらに欠損値のある6人を除き、独自性欲求高群・低群に分けて表にしたものである。χ2検定を行った結果、独自性欲求高群と低群の間に有意な偏りがみられた(χ2(3)=13.410, p<.01)。残差分析の結果、独自性欲求低群では国産小型車を選択する人が多く、国産大型車を選択する人は少なかったが、独自性欲求高群では国産大型車を選択する人が多く、国産小型車を選択する人は少なかった。
Table 5 独自性欲求別 車の選択の人数

大学生が購入する車を選択する場面における社会規範意識の影響をみるため、車の選択を独立変数、社会規範得点を従属変数として、一次元配置分散分析を行った。その結果、有意な結果はみられなかった(F(3,183)=0.063, n.s.)。
(3)集団規範と個人規範が対立する場合の選択
独自性欲求の高低により集団規範遵守の程度に差があるかどうかについて検討するためにt検定を行った(Table6)。その結果、卒業式での衣装を選択する場面では有意な差はみられなかった(t(183)=.569, n.s.)が、購入する車を選択する場面では有意な差がみられた(t(183)=2.456, p<.05)。この結果から、購入する車の選択場面では独自性欲求低群の方が、独自性欲求高群よりも有意に集団規範を優先させることが示された。
Table 6 独自性欲求別 集団規範遵守 平均値、標準偏差とt検定の結果

また、2つの場面での選択に差があるかどうかを検討するためにt検定を行った(Table7)。その結果、有意な差が得られ(t(190)=10.588, p<.001)、卒業式での衣装の選択をする場面の方が集団規範を有意に遵守することが示された。
Table 7 設定場面別 集団規範遵守 平均値、標準偏差とt検定の結果

(4)集団内での類似度が高い場合の衣装の選択
まず、友人と同じパターンの衣装であった場合、その衣装を「着る」か「着ないか」という選択を独自性欲求高群と低群に分け、その人数をTable8に示した。同じパターンの衣装でも「着る」を選択した人は独自性欲求高群で42人、独自性欲求低群で56人。「着ない」を選択した人は独自性欲求高群で50人、独自性欲求低群で37人であった。両者の関連をみるためχ2検定を行った結果、有意であった(χ2(1)=3.937, p<.05)。残差分析の結果、独自性欲求低群の人にはそのまま「着る」人が多く、独自性欲求高群の人には「着ない」人が多いことがわかった。
Table 8 独自性欲求別 行動の選択

また、「着る」を選択した人の心情を独自性欲求高群と低群に分け、その人数をTable9に示した。「嬉しい」を選択した人は独自性欲求高群で5人、独自性欲求低群で10人。「気にしない」を選択した人は独自性欲求高群で31人、独自性欲求低群で41人であった。「嫌だ」を選択した人が独自性欲求高群で6人、独自性欲求低群で5人であった。それぞれの心情と独自性欲求の関連をみるためχ2検定を行ったが、有意な結果は得られなかった(χ2(2)=1.170, n.s.)。
Table 9 独自性欲求別 「着る」場合の心情

「着ない」を選択した人のその後の行動を独自性欲求高群と低群に分け、その人数をTable10に示した。「同じ衣装で着方や装飾品を再検討」を選択した人は独自性欲求高群で6人、独自性欲求低群で10人。「似ているが別の衣装を再検討」を選択した人は独自性欲求高群で19人、独自性欲求低群で23人。「全く異なる衣装を再検討」を選択した人が独自性欲求高群で25人、独自性欲求低群で4人であった。それぞれの行動と独自性欲求の関連をみるためχ2検定を行った結果、有意であった(χ2(2)=14.980, p<0.01)。残差分析の結果、「全く異なる衣装」を選ぶ人は、独自性欲求高群に多く、独自性欲求低群には少ないことがわかった。
Table 10 独自性欲求別 「着ない」場合のその後の行動

(5)集団内での類似度が高い場合の車の選択
友人と同じ車を購入予定であった場合、その車を「買う」か「買わないか」という選択を独自性欲求高群と低群に分け、その人数をTable11に示した。友人と同じ車でも「買う」を選択した人は独自性欲求高群で42人、独自性欲求低群で62人。「買わない」を選択した人は独自性欲求高群で49人、独自性欲求低群で31人であった。両者の関連をみるためχ2検定を行った結果、有意であった(χ2(1)=7.875, p<.01)。残差分析の結果、独自性欲求高群では「買わない」人が「買う」人よりも多く、独自性欲求低群では「買う」人が「買わない」人よりも多いことがわかった。
Table 11 独自性欲求別 行動の選択

また、「買う」を選択した人の心情を独自性欲求高群と低群に分け、その人数をTable12に示した。「嬉しい」を選択した人は独自性欲求高群で2人、独自性欲求低群で3人。「気にしない」を選択した人は独自性欲求高群で33人、独自性欲求低群で55人。「嫌だ」を選択した人が独自性欲求高群で7人、独自性欲求低群で4人であった。それぞれの心情と独自性欲求の関連をみるためFisherの直接確率検定を行ったが、有意な結果はみられなかった(χ2(2)=2.77464, n.s.)。
Table 12 独自性欲求別 「買う」場合の心情

「買わない」を選択した人のその後の行動を独自性欲求高群と低群に分け、その人数をTable13に示した。「同じ車で色やグレードを再検討」を選択した人は独自性欲求高群で11人、独自性欲求低群で12人。「似ているが別の車を再検討」を選択した人は独自性欲求高群で23人、独自性欲求低群で14人。「全く異なる車を再検討」を選択した人が独自性欲求高群で15人、独自性欲求低群で5人であった。それぞれの行動と独自性欲求の関連をみるためχ2検定を行ったが、有意な結果は得られなかった(χ2(2)=3.352, n.s.)。
Table 13 独自性欲求別 「買わない」場合のその後の行動
