<結果>
T.分析対象者
 本実地研究に参加した26名のうち、3回の調査に参加し、かつ欠損値のなかった22名を分析対象者とした。
 そのうち男性6名、女性16名、平均年齢は19.27歳(SD=0.55)だった。

U.尺度得点
 どの尺度においても、該当する質問項目の得点の平均を下位尺度得点とした。
 協同作業認識尺度については、協同効用・個人志向・互恵懸念の3因子の下位尺度得点をそれぞれ単独で分析に用いた。
 相互独立的−相互協調的自己観については、相互独立的自己観に該当する2因子(「個の認識・主張」、「独断性」)の 下位尺度得点の平均値を、相互独立的自己観の得点とした。
 組織コミットメントについては、情動的コミットメント・存続的コミットメント・規範的コミットメントの 各得点の平均値を組織コミットメント得点とした。

V.各尺度の変容
 調査時期、項目ごとの平均値(M)と標準偏差(SD)を算出した。
 さらに、全回を通しての各項目の平均値(M)と標準偏差(SD)を算出した(Table1)。

Table1 調査時期ごとの各平均値と各標準偏差(n=22)


 時期による各項目の変化を検討するために、各項目について反復測定の一要因分散分析を行ったところ、 組織コミットメントにおいてにのみ、時期の主効果がみられた (協同効用:F (2,42) = 2.3 , n.s. / 個人志向:F (2,42) = .15 , n.s. / 互恵懸念:F (1.6,32.7) = .500 , n.s. / 相互独立的自己観:F (2,42) = 1.3 , n.s. / 組織コミットメント:F (1.5,30.5) = 17.1 , p <.001)。
 そこで組織コミットメントについてBonferroni法による多重比較を行ったところ、第1回と第2回、 第1回と第3回の間で有意な差がみられた(Table2)。

Table2 組織コミットメント得点の多重比較(n=22)



W.各尺度の相関
 尺度・調査時期の全ての組み合わせについて、相関係数を算出した(Table3〜Table5)。

Table3 第1回協同作業に対する認識と、相互独立的自己観・組織コミットメントとの相関係数(n=22)


 第1回個人志向と全ての調査時期の相互独立的自己観との間に弱い正の相関がみられた。 第1回互恵懸念と第2回相互独立的自己観との間に弱い正の相関がみられた。
 第1回協同効用と第1回・第3回組織コミットメントとの間に弱い正の相関、第2回との間にやや強い正の相関がみられた。

Table4 第2回協同作業に対する認識と、相互独立的自己観・組織コミットメントとの相関係数(n=22)


 第2回個人志向・第2回互恵懸念と、第2回・第3回相互独立的自己観との間に弱い正の相関がみられた。
 第2回協同効用と第2回組織コミットメントとの間にやや強い正の相関、第3回組織コミットメントとの間に 弱い正の相関がみられた。第2回個人志向と第2回・第3回組織コミットメントとの間に弱い負の相関がみられた。 第2回互恵懸念と第2回・第3回組織コミットメントとの間にやや強い負の相関がみられた。

Table5 第3回協同作業に対する認識と、相互独立的自己観・組織コミットメントとの相関係数(n=22)


 第3回協同効用と第1回組織コミットメントとの間に弱い正の相関、第2回・第3回組織コミットメントとの間に強い正の相関がみられた。
 第3回個人志向と第2回組織コミットメントとの間に弱い負の相関、第3回組織コミットメントとの間にやや強い負の相関がみられた。
 第3回互恵懸念と第2回・第3回組織コミットメントとの間にやや強い負の相関がみられた。


X.仮説1の検証
 調査時期ごとに、相互独立的自己観の得点で高群と低群に分けたときの、相互独立的自己観・協同効用・個人志向・ 互恵懸念の平均値(M)と標準偏差(SD)を算出した(Table6)。

Table6 相互独立的自己観得点の高低で分けたときの平均値(M)と標準偏差(SD)



 この結果をもとに各時期、各項目の得点についてt検定を行った結果、第1回個人志向にのみ両群に有意な得点差 (t (20) = 2.28 , p <.05)がみられた。
 協同効用と互恵懸念については有意な差が得られなかったので、相互独立的自己観の下位尺度に着目して 同様にt検定を行った。相互独立的自己観の下位尺度は「個の認識・主張」と「独断性」の2因子からなる。 2因子それぞれについて得点の高低で群を分けたときのそれぞれの下位尺度得点・協同効用・個人志向・互恵懸念の 平均値(M)と標準偏差(SD)をTable7とTable8に示す。

Table7 個の認識・主張得点の高低で分けたときの平均値(M)と標準偏差(SD)


Table8 独断性の高低で分けたときの平均値(M)と標準偏差(SD)


 この結果をもとにt検定を行った。その結果、第3回の独断性においてのみ、 協同効用(t (20) = 2.165 , p <.05)と互恵懸念(t (20) = 2.139 , p <.05)に両群に有意な得点差がみられた。


Y.仮説2の検証
 組織コミットメント・協同効用・個人志向・互恵懸念について、それぞれ第2回の得点から 第1回の得点を差し引いたものを第1上昇得点、第3回の得点から第2回の得点を差し引いたものを第2上昇得点とした。 そのときの組織コミットメント・協同効用・個人志向・互恵懸念の各上昇得点の平均値をTable9に示す。

Table9 各上昇得点の平均値(n=22)



 組織コミットメントの第1上昇得点と第2上昇得点のそれぞれについて上昇得点で高群と低群に分けた。 上昇得点高群を上昇高群、上昇得点低群を上昇低群とした。
 それぞれの組織コミットメントの上昇高群と上昇低群について、協同効用・個人志向・互恵懸念の 各上昇得点に差がみられるかを検討するためにt検定を行った。
 その結果、協同効用と個人志向の第2上昇得点において、上昇高群と上昇低群の間に有意な差がみられた。 第2上昇得点における組織コミットメント上昇高群は組織コミットメント上昇低群よりも、 協同効用の第2上昇得点が有意に高く(t (20) = 2.84 , p <.01)、 個人志向の第2上昇得点が有意に低かった(t (20) = 2.13 , p <.05)。 互恵懸念については、両群に有意な差はみられなかった(t (20) = 1.7 , n.s.)(Table10)。

Table10 組織コミットメントの第2上昇得点の高低による協同作業に対する認識の第2上昇得点のt検定



 各上昇得点間の関連性を検討するために、組織コミットメント上昇得点と、協同作業に対する認識の 上昇得点との相関係数を算出した。第1上昇得点間の相関をTable11に、第2上昇得点間の相関をTable12に示す。

Table11 第1上昇得点間の相関係数(n=22)


 協同効用と互恵懸念との間に弱い負の相関、個人志向と互恵懸念との間に弱い正の相関がみられた。

Table12 第2上昇得点間の相関係数(n=22)


 協同効用と個人志向との間に強い負の相関、協同効用と互恵懸念との間に弱い負の相関、 個人志向と互恵懸念との間に弱い正の相関がみられた。
@Mie Univ.
Masatani-2010