【問題と目的】
1.はじめに
生きる上で,人間は誰しもが「やる気」という問題に直面する。
「お腹が空いたから何か食べたい」という生理的欲求から「試験のために勉強をしよう」という欲求まで,様々なやる気を持っている。
この「やる気」という心理的現象を心理学用語に置きかえると,動機づけという言葉になる。
動機づけとは,人間の行動を一定方向に向けていく意識や潜在的エネルギー(速水,1998)である。
教育の場面で,動機づけをいかにして高めるのかは大きな課題となっている。
文部科学省の学習指導要領(2002年)では,「主体的に学習に取り組む態度を養うこと」が目標の一つとして挙げられている。
学習への動機づけが高ければ,主体的に学習に取り組むことができると考えられる。
主体的に学習に取り組むためには,学習に興味を持ち価値を見出すことが必要だと考えられる。
学校の授業場面でも,子どものやる気をいかに高めるかという課題は大きな問題となっている。
教師は子どもの動機づけを高めようと日々奮闘している。
安藤・布施ら(2008)は,児童の積極的授業参加行動に対する動機づけの影響について検討し,動機づけは全ての積極的授業参加行動を促進していることを明らかにした。
ここから,学習への動機づけを高めることが必要であるといえるだろう。
しかし,子どもの動機づけを高めることは容易ではない。
学校において,子どもの動機づけを変化させるものは教師,教材,仲間,環境,成績,好きな教科等,様々なものがある。
教師は,教材の選定を行うことができ,また児童の周りの環境についても教師の手で良いものを作り出すことができる。
そのため,この中で最も子どもの動機づけに影響しうるものの一つが教師だと考えられる。
そこで本研究では,教師の働きかけによる児童の動機づけの高まりについて研究することとする。
どのような教師の働きかけが子どもの動機づけを変化させるのかに着目する。
動機づけは,興味や注意力,感情,体調の影響を受けて変動するため,動機づけは複雑かつ微妙な心理現象であり,不安定である。
そのような動機づけを他者からの働きかけや教育環境の工夫によって高い状態にとどめておくのは容易ではない。
しかし,動機づけ理論を理解した上で,子どもの動機づけを高める教師の働きかけについて具体的に検討することは有意義である(鹿毛,2007)。
以上のことから,本研究では動機づけ理論から学習への動機づけを定義し,子どもの動機づけを高める教師の働きかけを具体的に検討する。
2.教育心理学研究と現場を結ぶ
学校現場で行われている校内研究を分析した河村(1999)の結果によると,仮説をたてるにあたって教育心理学関係の専門書や先行研究を引用したものはほとんどなく,
教員の経験をもとに作成しているものがほとんどであることが示されている。
これらの実践報告には,具体的な実践方法は示されているものの,根拠が明確にされていない場合が多い。
また,根拠が示されていたとしても,動機づけ理論を反映していない場合がほとんどである。
この問題点として,桜井・黒田(2004)は,教師の実践報告は,その授業のみの一回限りの実践で終わってしまう特殊な実践であること,
他の教師にも正確に共有される用語が用いられていないことを挙げている。
このように考えると,動機づけ理論を根拠にし,現実の授業場面における動機づけを検討する必要性があると考えられる。
そこで,本研究では動機づけ理論を基に学校現場での動機づけの高まりについて研究することとする。
3.内発的動機づけ−外発的動機づけ
動機づけ研究のうち,これまでに最も豊富に知見が重ねられているものの一つが内発的動機づけに関するものである(Deci,1971 ;Maehr & Stallings, 1972 ;Harter,1978 ;櫻井,1989 ;西松・千原,1995など)。
内発的動機づけとは,自分の興味を関心に従って行動し,行動すること自体が目的となっている動機づけのことである。
対して,外発的動機づけとは,賞罰や他の人,周りの状況など,自分以外のものからの影響によって行動するという動機づけである。
内発的動機づけは,自分の興味や関心に基づいているため,行動が自発的に起こる。また,他者が関わらなくても興味のある限り行動が継続する。
そのため,教育的な観点からは望ましいかたちの動機づけと考えられる。
ところで,教育場面では教師が子どもに働きかける場面が多くみられる。
内発的動機づけ−外発的動機づけという二項対立的に捉えられた動機づけの分類から子どもの動機づけを考えると,
教師の働きかけは外からの働きかけとなるため,高まった子どもの動機づけは外発的動機づけと捉えられる。
Deci(1971,1972)はもともと興味をもっていた活動に対して金銭的報酬が与えられると次の行動への内発的動機づけが低下することを明らかにした。
これを代表するように,外発的動機づけは内発的動機づけを抑制するという研究が多く示されているため,
外発的動機づけが悪影響を及ぼすものという強い信念が形成されてきた。
しかし,外発的動機づけにより内発的動機づけを促進させる研究もみられる。
橋口(1985)は,外的報酬は興味のある課題へはあまり動機づけられないが,興味のない課題へは動機づけられることを明らかにした。
そして,興味のない課題においては,成果に関係なく与えられる課題に取り組んだことに基づく報酬の方が,
成果に基づく報酬よりも内発的動機づけを高めることが示された。
つまり,外的な働きかけにより内発的動機づけが高まる可能性があることが明らかにされたのである。
外的な働きかけである教師の働きかけにより,内発的動機づけを高めることが可能であれば教育の意味を見出すことができるだろう。
4. 動機づけの分類
前述したように,内発的動機づけ−外発的動機づけという二項対立的な動機づけのとらえ方が広く知られている。
これは古典的な考え方であり,現在では動機づけの捉え方にも様々なものがある。
内発的動機づけ−外発的動機づけという二分法を越えた動機づけの捉え方として,
速水(1995)は,動機づけを自律的−多律的と目的的−手段的の次元の二次元分類により,動機づけを四つに分けた。
「自律−他律」という観点によると,内発的動機づけの特徴は,「自ら進んで学ぶ」ということである。
つまり,自律的とは「行動を始めるのが自分から進んでか」であり,反対に他律的とは「行動を始めるのが他人に進められてか」であると考えられる。
目的的とは,「行動すること自体が目標になっているか」であり,手段的とは,「行動することに付随して得られる他の何か(報酬)が目標となっているか」である。
動機づけが他律的なものであった場合,行動の目標は他者から与えられたものであるため目標は固定化されており,
目標以上のことを求めなくなったり,行動自体に飽きてしまったりする。しかし動機づけが自律的なものであれば,目標を自分で設定することができ,
更に行動の途中にその目標を変えることができるため,より高く深い動機づけになる。
更に,内発的動機づけ−外発的動機づけという二分法以外で動機づけを分類しているものとして,自己決定理論(Deci & Ryan, 1985; Ryan & Deci, 2000a)がある。
自己決定理論では,自己決定(自律)という概念を重視している。
行動がどのくらい自己決定(自律)的に生じているのかという観点から,
動機づけを連続体として整理している。
まず1つ目として,さまざまな動機づけの中で最も自己決定的でないものが非動機づけである。
これは,動機づけがない状態を示しており,行動も生じていない。
その次に位置するのが外発的動機づけである。
外発的動機づけの中でも左から2つ目に挙げられるものが,自己決定がまったくできていないものとしての外的調整の段階である。
これは,外部からの圧力,例えば報酬や罰などによって行動するものである。
これは本人が意思決定をしたものではない。「他者から強制されるから勉強する」といった類のものである。
外発的動機づけの中で次にあげられるのが,3つ目の取り入れ的調整の段階で,成功したときの達成感・有能感を求め,
失敗したときの恥ずかしさを回避するために行動するという動機づけとなる。
この段階では,勉強すること自体を目的としているわけではないが,直接的な外的力がない場合でも行動が生じると考えられる。
ただし,それは仕方なくというような消極的な理由ではある。
これは,「不安だから勉強する」,「恥をかきたくないから勉強する」といったものである。
4つ目は,同一化調整の段階である。この段階は,活動の価値が自分自身の価値観と一致している。
取り入れ的段階よりも,より積極的な自己決定がなされているといえる。
勉強することが,たとえ何らかの手段であったとしても自分にとって大切であるという意識が成立すれば,より自律的に勉強に取り組むことが予想される。
これは,「自分にとって重要なことだから勉強する」ということである。
そして,外発的動機づけの中で最後の段階は統合的調整の段階である。
統合的調整は,活動の価値が十分に内在化されており,自分の中の他の価値や欲求と調和していることを意味する。
選択された外発的に動機づけられた行動が,その個人の日常活動や価値づけられた目標とどのように適合するかである。
これは例えば,ある学生が,大学に合格することが今の自分にとっては重要ということで,当面の目標としていた場合,
学校での部活動に先行させて努力しているといった場合にみられるものである。その,合格するために勉強するという選択が何ら悩みを伴わないものであれば,
統合的調整が行われていることになる。
そして,最も自己決定の程度が高い動機づけが左から6つ目の内発的動機づけになる。
内発的動機づけは,自分の興味や関心に基づいて行動するため,外部からの働きかけは必要としない。外部からの働きかけではなく,
自分自身の興味にしたがって活動に取り組むという,動機づけのなかでもっとも自律的なものである。
このように,自己決定理論では従来の外発的動機づけと内発的動機づけを対立するものとしてとらえるものではなく,
自己決定という観点から連続するものと考えている。自己決定理論では,外発的動機づけが自律的なものに変化していく過程を内在化と呼んでいる。
ここで重要なのは,自律的動機づけをもつようにすることである。
非動機づけ・外的調整・取り入れ的調整のような外部からの働きかけが必要な動機づけよりも,同一化調整・統合的調整・内発的動機づけのような,
より自律的な動機づけの方が望ましい動機づけのあり方と考えられるのである。
自己決定理論では,最も重要なことは自律的な動機づけをもつようにすることである,と述べられている。
Grolnick & Ryan (1987)は,普段から勉強に対して自律的な動機づけをもっていることが,学習内容の理解にとってどのような働きをするか調べている。
その結果,児童生徒がもつ自律的動機づけが,学習成果を高めるうえで理想的な学習意欲のかたちであることを明らかにしている。
また,永作・新井(2005)は,自律的な高校進学動機が学校適応を及ぼす影響について,自律的な高校進学動機が進学後の学校適応を促す傾向があることを示している。
岡田(2005)は,自己決定理論の枠組みに基づいて,友人関係への動機づけを測定する尺度を構成している。
友人関係への動機づけが向社会的行動に及ぼす影響について検討したところ,内発や同一化など自律的動機づけをもつものほど,
向社会的行動を促進する可能性があることを示している。
教育場面における重要な課題は,活動に興味や関心をもつようにしたり,活動の価値を内在化させたりすることで,より自律的な動機づけを高めることであると言える。
自律的動機づけが,いかに有用なものかについての研究が多くされている中で,どのように自律的動機づけを高めれば良いのかについての研究はされていない。
そこで本研究では,教師の働きかけにより動機づけの中でも,自律的動機づけを高める方法について検討する。
Vallerand, Fortier, & Guay(1997)は,他者からの働きかけと生徒の学習への動機づけ,退学への意志と行動との関連について検討している。
ここでは,両親や教師からの自律性支援は,自律性やコンピテンス(有能感)の認知を介して自律的な動機づけ,つまり同一化や内発的動機づけを形成し,さらにそれが退学への意志や行動を抑制することを示している。また,Deci, Schwartz, Sheinman, & Ryan(1981)は,教師の自律性支援と子どもの内発的動機づけとの関連についての調査を行っている。そこでは,教師が自律性支援の態度を強くもっているほど,クラスの児童は学習に対する内発的動機づけが高く,認知的な能力や社会的な側面において有能さを感じていたことを示している。つまり,自律性を支援することで自律的な動機づけを高めることが明らかにされている。
5. 動機づけに関わる要素
では,自律的動機づけを生起させるにはどのような要素があるのだろうか。
最も自律的であると言われる内発的動機づけを高めるには,子どもの心理的欲求である1.有能感2.自己決定感3.他者受容感の三つの充足で成り立つ。
これはすべての教育(学習障害児や他の障害児を含む,すべての子どもの教育)の目標となるものである(Deci&Chandler,1986)。
1.有能感とは,「自分はできる」と考えることである。
2.自己決定感とは,「自分のことは自分で決めている」と考えることである。
3.他者受容感とは,「自分はまわりの大切な人から受容されているんだ」と考えることである。
これら3つの心理的欲求が具体的にどのような内容であるのかを,過去の動機づけ研究で使用されている定義から検討し,以下に示す。
また,心理的欲求を充たすと考えられる教師の支援を取り上げる。
5−1.有能感に関わる要素
有能感への欲求とは,周囲の環境や他者とのかかわりをもっていくなかで自分自身の有能さを感じたいという欲求である。
White(1959)は有能さ(competence)を,環境と効果的に相互作用する能力であると提唱した。乳幼児も自分の働きかけによっておもちゃが動いたりすることに関心を示し,特に外的な報酬がない場合でも,自ら何度もやってみようとする。これを有能さ(competence)と呼ばれるものだとしている。この能力が発揮できたときに感じる,効力感を求める動機づけがあるとWhiteは考えた。Harter(1982)は人の環境への働きかけの自己評価を有能感と呼んだ。また,自己決定理論における有能感への欲求は,自分に能力があるということを確認したいという傾向である。自己決定理論から成り立つ自己の発達モデル(Connell & Wellborn, 1991; Skinner & Edge,2002)によると,有能さの欲求は混沌とした無秩序な状況ではなく,当人にとって意味のある情報が整理されて提示されるような構造化された環境で充たされる。
以上のことから有能感とは,課題に成功した時に感じる効力感を求める心理的欲求であると言える。
そこで,児童の有能感が高まった時には「課題にもくもくと取り組む」や「できたことを確認する」といった言動や行動がみられるだろう。
有能感を感じるには,何かに挑戦し,成功することが必要である(安藤・岡田,2007a)。
そのため,有能感を高めるためには,児童が成功するように教師の支援をすることが考えられる。
5−2.自己決定感に関わる要素
自己決定感への欲求とは,自分の行動を決定し,自分の意志で行動を始めたいという欲求である。
de Charms(1968)は人間の自律性に関して指し手とコマという概念を提唱している。
ここで指し手とは自分自身で自分の行動を決めていることを指し,コマとは自分の行動が何かの外的な力によって決められていると感じることを指す。
自己決定理論においても,他者に決められているのではなく,自分自身で自分の行動を決定したいという自己決定感への欲求は,自律的動機づけの基になる概念である。
自己決定理論から成り立つ自己の発達モデル(Connell & Wellborn, 1991; Skinner & Edge,2002)によると,
自己決定感の欲求は強制されるのではなく当人の意思が尊重されるような環境で充たされる。
以上のことから自己決定感とは,自分自身で自分の行動を決定することを求める心理的欲求であると言える。
そこで,児童の自己決定感が高まった時には「自分で選ぼうとする」といった言動や行動がみられるだろう。
自己決定感は本来選択肢の有無によって決まるものではない(Deci, 1980)。選択肢がない場合でも,自己決定に基づき行動することはできると考えられるため,選択肢を設ける以外にも自己決定感を高める教師の支援は考えられる。
5−3.他者受容感に関わる要素
他者受容感への欲求とは,「周囲の社会と結びついているといった安心を感じたいという欲求」と,
「愛情や尊敬を受けるに値する存在であることを経験したいという欲求」の2つの欲求で定義されている(Connell,1990)。
動機づけ研究では,Maslow(1959)が欲求段階説の中で愛と所属の動機をあげ,他者との関係を求める動機について述べている。
また,McClelland(1985)も親和欲求という概念をあげ,Alderfer(1972)は関係欲求という概念をあげている。
Deci &Ryan(1991)はこれらの概念を参考に,他者受容感への欲求を位置づけた。
他者受容感への欲求を充足させることで価値の内在化が進められ,より自律的な動機づけをもつことができるようになる。
自己決定理論から成り立つ自己の発達モデル(Connell & Wellborn, 1991; Skinner & Edge,2002)によると,
他者受容感の欲求は敵対するのではなく,思いやりをもって受容されるような環境で充たされる。
以上のことから他者受容感とは,周りの環境と結びつくことで安心したいという心理的欲求であると言える。
そこで,児童の他者受容感が高まった時には「教師を頼る」といった言動や行動がみられるだろう。
Deci & Ryan(1991)は内発的動機づけられた行動においては,他者からの関係性支援は必ずしも必要ではないが,自律性支援は必要であるともしており,
自律的でない,外発的動機づけられた行動の内在化においてこそ,関係性が重要となることを示している。
同様にRyan & Deci(2000b)では,外発的に動機づけられた行動を,まず始めに引き起こすのは,
重要な他者により価値づけられた行動であり,内在化の始めの段階においては関係性とその支援が中心的な役割を果たすと述べられている。
他者受容感を高める教師の支援は,児童が行動を内在化するために三つの要素の中で最も重要なものであるということが言える。
これら3つの心理的欲求を充たすことで内発的動機づけが高まると言える。そして,教師が自律性支援をすることで,子どもは自律的に学習に取り組むと考えられる。
6. 参加観察による動機づけの測定
自己決定理論に基づいて動機づけについて述べてきたが,動機づけに関する研究の問題点として,次の点が挙げられる。
動機づけに関する研究の多くは質問紙や実験を用いた研究が主流であり,動機づけを測る具体的な言動・行動は明らかにされていない。
質問紙を用いた研究では,回答する際に回答者の主観が入り,それぞれの回答者の基準によって自分自身の動機づけの認知の違いで差が生まれる。
また,対象者の発達段階が低い場合,回答者が質問紙に回答できない可能性もある。
岡田・中谷(2006)の研究では,パズル課題を用いており,また現実場面ではなく実験室で行われたものである。
岡田・中谷が問題点に挙げているように,これが現実の授業場面にそのまま当てはまるとは言い難い。
実験を用いた研究では,ある一つの働きかけによる動機づけの測定であるため,一次的な動機づけの変化であるが,
現実の授業場面では様々な動機づけを高める働きかけがあると考えられる。またこれまで行われた実験研究は,
ほとんどが個別実験によるもので,学級集団を対象としているものが少ない。更に実験研究は課題がゲーム的なものが多い。
これらの理由から,これまでの実験研究で明らかにされた結果が現実の授業場面にそのまま当てはまるのかどうかは定かではない。
現実の授業場面での動機づけを測るには,動機づけ理論で提唱されている動機づけを高める要素を,
現実に表れる具体的な言動や行動として示し,実際の授業場面にそのまま当てはめることができる言動・行動として明らかにする必要があると考えられる。
そのため,本研究では観察による長期的な動機づけの検討を行う。
現実の授業場面における動機づけを観察により検討することで,具体的な言動や行動を観察することができると考えられる。
観察によって得られた具体的な教師の言動や行動が,内発的動機づけを高める要素の定義に当てはまれば,
観察によって得られた結果は動機づけ理論に当てはまるものである。そのため得られた結果は,そのまま実際の授業場面に当てはめることができると考えられる。
ここで,観察の中でも,外から距離を置いての観察では分かりにくい動機づけという現象の詳細を内部から理解するため,
「著者自身が調査対象となっている集団の生活に参加し,その一員としての役割を演じながら,
そこに生起する事象を多角的に,長期にわたり観察する方法(三隅・安部, 1974)」である参加観察法を採用する。
参加観察法は,客観的データの収集を重視する通常の科学的研究に対し,相互主観的な理解を重視するものである(鯨岡, 1989)。
参加観察法は,観察者がフィールドに身を置き,直接体験した生のデータを詳細に記述する方法であることから,
動機づけが高まったと考えられる言動・行動の前後のエピソードも得ることができ,更に周囲との関係性についても把握することができる。
観察者が観察対象である児童と積極的な関わりの場をもつことによって,単に客観的な観察では捉えきれない現象の詳細に立ち入り,
行為や出来事の意味を,内部にいる者あるいは行為者の視点から理解できる点である(畠山・山崎,2003)。本研究では動機づけという,
客観的な観察だけでは測ることのできない心理的現象を扱うため,参加観察法を使用する。
7.目的
以上の点を踏まえ,本研究では,参加観察法により,授業場面における教師の働きかけによる児童の動機づけの高まりについて検討する。
動機づけの高まりを導く教師の働きかけは,動機づけが高まったと考えられる児童の言動・行動が観察された時に,
その前にどのような教師の働きかけがみられたかを検討することとする。まず研究1−1として,子どもの動機づけが高まったと考えられる言動・行動を観察する。
次に研究1−2として,どのような教師の働きかけで動機づけが高い言動・行動が表れるのかを明らかにする。
そして研究2では,研究1で明らかになった内発的動機づけの高まりを導いたと考えられる教師の働きかけを抽出し,授業を行い,
研究2で内発的動機づけの高まりを導くと考えられる教師の働きかけが,実際の授業場面で有効であるかを検討する。