要旨
【要旨】

本研究では、防衛的悲観主義をもつ者と方略的楽観主義をもつ者が、課題遂行の後ネガティブな情報を伝えられることによって、感情や次の課題への取り組み、課題に対する満足度などに対してどのような影響をもたらすのか検討をおこなった。Norem & Cantor (1986b) は過去の学業成績がすぐれており、そのことを本人も認識しているにもかかわらず、現実的とはいえない低い期待しか持たず、テストのような評価状況を前に常に不安を感じている学生がいることを指摘した。このような防衛的な方略を、防衛的悲観主義 (Defensive pessimism : DP) と名づけた。本研究では、この防衛的悲観主義と、比較の為に方略的楽観主義 (Strategic optimism : SO) に着目し、ネガティブな情報のフィードバックをする実験群と、成績のみを伝える統制群を設け、成績フィードバック前後の課題の成績・感情や次の課題への取り組み、課題に対する満足度などへの影響を検討した。また、防衛的悲観主義は高い不安を持つという特徴から、認知的方略とテスト不安の関連について予備的に検討をおこなった。その結果、まず日本語版対処的悲観性尺度とテスト不安尺度について相関を見たところ、防衛的悲観主義者・方略的楽観主義者、及び全実験協力者において負の相関が見られた。このことから、防衛的悲観主義者における課題に対する期待を低めることで不安をコントロールするという特徴が、課題への不安を低くすることが示唆された。さらにネガティブ情報のフィードバックによる課題の遂行成績については、DP者・SO者において、統制群・実験群ともに違いが見られなかった。このことからネガティブな情報のフィードバックがDP者・SO者の課題の遂行成績に対して影響をもたらさない可能性があることが示唆された。また、感情の変化については、ポジティブ情動において時期×群の交互作用があり、実験群において時期の主効果が見られた。これは、ネガティブな情報のフィードバックが、実験群のDP者・SO者のポジティブ情動の減少につながったと考えられる。ネガティブ情動においては、時期の主効果が見られた。そして、課題への満足度については、群の主効果が見られた。これは、ネガティブな情報がDP者・SO者の両者の満足感にネガティブな影響を与えたと考えられる。自分なりに作り方を考えながら作ったという取り組み方の得点については、群の主効果が見られた。これは、1度目の課題遂行後のネガティブな情報のフィードバックによって、DP者・SO者がパズルの作り方を自分なりに工夫しようとしたことによると示唆される。ネガティブな情報のフィードバックは、決してネガティブな影響を与えるだけでなく、課題に対する取り組み方の工夫というポジティブな影響をもたらすことが考えられる。


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