結果と考察
1.アンビバレントな心理について
相手に知ってほしいという気持ちがありつつ、開示をすることには抵抗を感じるというアンビバレントな心理が働いているのかどうかを調べるため、男女別に“知ってほしい得点”と”開示抵抗得点”との相関係数を算出した。
これはつまり、正の相関関係の場合は、知ってほしい気持ちが強ければ強いほど、開示抵抗感も強くなるという意味であり、負の相関関係の場合、知ってほしい気持ちが強ければ強いほど、開示抵抗感は弱くなるということを意味する。
正の相関・・・・アンビバレバレントな心理が働いている
負の相関・・・・アンビバレントな心理は働いていない


まず、女性においては、有意な相関は全て負の相関だった。つまり、女性は相手に自分のことについて知ってほしいと思えば思うほど、開示抵抗感は下がるということである。これまでの多くの自己開示研究では、女性の方が男性に比べ自己開示度が高いということが明らかにされている。すなわち、女性の方が男性よりも実際の自己開示を多くしているということであり、相手に知ってほしいと思う事柄については、抵抗を感じることもあまりなく素直に自己開示をできるということだろう。
次に、男性においての相関係数と、女性においての相関係数とを比較すると、有意な結果ではなかったところも含め、全体的に男性においては正の相関係数が多く出ているのが特徴的だった。
そして有意な相関だった結果として、男性が同性友人に対する「5.体質・機能的側面」と「12.実存的自己」について弱い正の相関が出ていた。
これは知ってほしいけれど、開示することには抵抗があるというアンビバレントな心理が働いている開示内容だということである。
しかし、同じくアンビバレントな心理が働いている内容であるにも関わらず、榎本(1987)の研究結果では同性友人に対して「5.体質・機能的側面」はあまり開示されていないという結果が出ている一方で、「12.実存的自己」についてはよく開示されているという結果が出ている。このように、同じくアンビバレントな心理が働いているにも関わらず、実際には自己開示をよくしているものと、あまりしていないものに分かれるということが明らかになった。
2.開示する相手の違いによる「知ってほしいと思う内容」の違いについて
先行研究によると、自己開示をする相手によって、よく開示される話題とあまり開示されない話題があるという。このような知見から、本研究では、「知ってほしいと思う内容」も「開示抵抗を感じる内容」も、相手によって異なるだろうという仮説を立て検討した。
その結果、同性友人、異性友人、母親、父親、それぞれに対して、「知ってほしいと思う内容」に違いがあるということが明らかになった。たとえば、「5.体質・機能的側面」と「10.物質的自己」については母親に知ってほしいと思っており、「13.趣味」と「15.噂話」については友人に知ってほしいと思っている、という結果だった。
また、同性友人、異性友人、母親に対して「知ってほしい内容」はそれぞれ異なった話題だったが、父親に対しては、知ってほしいと強く思う内容は1つもなかった。父親に対する「知ってほしい気持ち」の弱さが示されたといえる。このような傾向がみられた理由として、父親との関係性が他の3者との関係性に比べて希薄になっているからではないかと推測する。今の大学生の親世代では、まだまだ根強く残っていると考えられる「母親が育児をし、父親は働く」という家庭構造によって、父親との関係性が希薄になっているのではないだろうか。このような考えから、今後、「開示者の家庭構造」と「母親、父親に対する自己開示傾向」の関連について検討をする必要があると考える。
最後に、ほとんどの内容において、友人に対しての方が、両親に対してより「知ってほしい」と思っているのに対し、「5.体質・機能的側面」と「10.物質的自己」においてのみ、母親に対して最も「知ってほしい」と思っていることが明らかになった。これは、母親に対しては、目に見て分かる極めてプライベートな問題に関して知ってほしいと思っているということだろう。感情や悩み事といった目に見えず捉えるのが難しい話題についてではなく、身体やインテリアといった目に見えるものについての話題は比較的分かりやすい。そこで、母親に対しては、身体やインテリアといった分かりやすい話題についてを話し、相談にのってもらったり、確実にアドバイスがほしいと思っているのではないだろうか。
これらの結果から「知ってほしいと思う内容」は、開示する相手によって異なるということが明らかにされた。
3.開示する相手の違いによる「開示抵抗を感じる内容」の違いについて
検討の結果、同性友人、異性友人、母親、父親、それぞれに対して、「開示抵抗を感じる内容」に違いがあるということが明らかになった。
また、父親に対して開示することに最も抵抗を感じているということも示された。
そして、ほとんどの内容においては、開示抵抗感の強い順に、父親、母親、異性友人、同性友人だったのに対し、「4.外見的側面」と「5.体質・機能的側面」においてのみ、父親、異性友人、同性友人、母親の順番になっていた。このことから、「4.外見的側面」と「5.体質・機能的側面」については、母親に対する開示抵抗感は低いということが示された。これは、“外見”や“体質”といった自分の体に関する自己開示は母親には特に抵抗が低いという結果だが、このような傾向がみられたのは、一般的に考えて自然な結果といえるのではないだろうか。なぜなら、上でも一度述べたが、育児は母親がするという家庭は多く、子供の体について幼い頃から一番近くで見守ってきているのは母親である。このように幼い頃から、自分の体に関する悩みや問題は母親に対して最も話していることが多く、抵抗感もあまりないというのは納得しやすいことだろう。
これらの結果から「開示抵抗を感じる内容」は、開示する相手によって異なるということが明らかにされた。