研究2
1. 調査目的
青春度尺度を作成し、セルフモニタリングと自己愛的脆弱性との関連について検討する。
2. 方法
2-1. 調査対象
中学生 2・3年に調査を行い、部活動に入っていないと思われる部活動の項目に未回答、欠損が多かった者を除き、2年生138名(男子73名、女子85名)、3年生156名(男子65名、女子71名)を分析対象とした。
2-2.調査手続き・時期
中学校の教師に依頼し、クラスごとに担任の教師が実施した。2013年11月に行った。
2-3. 質問紙の構成
2-3(1) 青春度尺度
研究1をもとに作成した尺度。自由記述の回答を参考に、青春度28項目を作成した。自由記述で回答がみられた委員会や生徒会での様子とその他の内容は、部活動・行事・クラスの様子の項目で補えると考えた。よって、部活動の様子、行事の様子、クラスの様子、外見への配慮、異性との付き合い方の5つのカテゴリーで構成されている。部活動での様子は、「私は、部活動では中心的な存在である」「私は、人気者が集まっている部活動に所属している」など6項目。学校行事での様子は、「私は、行事(体育祭、文化祭、合唱コンクール)ではみんなを盛り上げている」「私は、行事(体育祭、文化祭、合唱コンクール)ではにぎやかな方だ」など6項目。クラスでの様子は、「私は、クラスでは担任の先生に頼りにされている」「私は、クラスでは団結するようにみんなを引っ張っている」など6項目。外見の様子は、「私は、適度に制服を着崩している」「私は、髪型に気を遣っている」など5項目。異性との付き合い方は、「私は、男女関係なく気軽に話せる」「私は、異性から人気がある」など5項目。全28項目5件法。項目については、心理学を専攻する学生、大学教員、中学校教師で妥当性の検討を行った。
2-3 (2) 自己愛的脆弱性尺度(短縮版)(上地・宮下, 2009)
自己顕示抑制、自己緩和不全、潜在的特権意識、承認・賞賛過敏性の4つの下位尺度で構成されている。自己顕示抑制は、自分の言動や行動に対する承認・承認を強く求め、期待した承認・賞賛が得られないと自己評価が低下することと定義され、「『自分のことを話しすぎた』と思って、自分が嫌になることがある」など5項目。自己緩和不全は強い不安や情動などを自分で調節・緩和する力が弱く、他者に調節・緩和してもらおうとすることと定義され、「精神的に不安定になっているときには、だれかと話をしないと落ち着かない」など5項目。潜在的特権意識は、他者が特別の配慮や敬意をもって接してくれることを期待し、その期待がみたされないと不満や怒りが生じてくることと定義され、「まわりの人の態度を見ていて、私への気づかいが足りないと思うことがある」など5項目。承認・賞賛過敏性は注目を浴びたり自己を顕示したりする場面に遭遇すると強い恥意識が生じるため、自己顕示を抑制しがちになることと定義され、「自分の発言や行動が他の人から良く評価されていないと、そのことが気になってしかたがない」など5項目。中学生が理解できるよう語句を修正した。全20項目5件法。
2-3(3) セルフモニタリング尺度 (藤岡・高橋, 2008)
レノックス&ウォルフ版改訂版セルフモニタリング尺度の改訂版である。自己呈示変容能力、他者への感受性の2つの下位尺度で構成されている。自己呈示変容能力は、自己呈示や表出行動を統制し修正する能力と定義され、「私は、周りの状況に合わせて、自分のふるまいを変えていくことができる」など5項目。他者行動への感受性は、相手の表出行動に敏感で、洞察力に富む傾向と定義され、「私は、相手の様子を見ることによって、相手の本当の気持ちを正確に読み取ることができる」など6項目。中学生が理解できるよう語句を修正した。全11項目5件法。
なおフェイスシートにおいて性別、年齢、学年について尋ねた。
3. 結果
3-1. 青春度の因子分析
平均値と標準偏差の得点から天井効果(項目15)、フロア効果(項目28)が見られたが、青春度を測るために必要な項目と考え全項目を対象に因子分析(主因子法、プロマックス回転)を行った。因子負荷量が0.35未満の項目を削除し、再度因子分析を行った結果4因子を抽出した(Table2)。第1因子は部活動における積極性、周りからの評価を自己認知で答える内容であることから「部活動の様子」、第2因子は学校行事とクラスにおける積極性、周りからの評価を自己認知で答える内容であることから、「行事・クラスの様子」、第3因子は制服・私服の着こなし、髪型・持ち物・体型への気の使い方の程度を問う内容であることから「外見への配慮」、第4因子は異性の友達の多さ・付き合いの多さ、異性からの人気の程度を自己認知で答える内容であることから、「異性との付き合い方」と命名した。青春度の下位尺度ごとにα係数を算出すると、部活動での様子はα=.91、行事・クラスの様子はα=.96、外見への配慮はα=.79、異性との付き合い方はα=.85となっており、十分な値が得られた。

3-2. 自己愛的脆弱性尺度の信頼性
まず、平均値、標準偏差を算出した。項目14でフロア効果がみられた。中学生が理解できるように表現や語句を変更したため、全項目を対象に因子分析を行い、尺度の信頼性係数を算出した。因子分析(主因子法・プロマックス回転)の結果、先行研究と同様に4因子構造が確認された(Table3)。各下位尺度の信頼性係数は、承認・過敏性はα=.85、自己顕示抑制はα=.90、潜在的特権意識はα=.87、自己緩和不全はα=.86となっており、十分な値が得られた。

3-3. セルフモニタリング尺度の信頼性
まず、平均値、標準偏差を算出した。中学生に理解できるように語句を大幅に変更したので、全11項目に対して因子分析(主因子法、プロマックス回転)を行った。負荷量が0.4未満の項目を削除し、残り10項目で再度因子分析を行った。その結果、先行研究同様に2因子構造を確認できた(Table4)。各下位尺度の信頼性係数は、他者行動への感受性がα=.87、自己呈示変容能力がα=.89であり、十分な値が確認できた。

3-4. 青春度とセルフモニタリング、自己愛的脆弱性の相関
青春度とセルフモニタリング、自己愛的脆弱性との関連を検討するために、下位尺度ごとに相関係数を算出した(Table5)。
青春度の下位尺度である部活動の様子において、セルフモニタリング尺度の下位尺度である自己呈示変容能力と他者行動への感受性と高い有意な正の相関関係がみられた。さらに、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己顕示抑制と弱い有意な負の相関がみられた。
青春度の下位尺度である行事・クラスの様子とセルフモニタリング尺度の下位尺度である自己呈示変容能力と他者行動への感受性と高い有意な正の相関関係がみられた。さらに、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己顕示抑制と中程度の有意な負の相関がみられた。
青春度の下位尺度である外見への配慮において、セルフモニタリング尺度の下位尺度である他者行動への感受性と高い有意な正の相関関係がみられた。また、自己愛的脆弱性の下位尺度である承認・賞賛過敏性、自己顕示抑制、潜在的特権意識と弱い有意な正の相関がみられた。さらに、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己緩和不全と高い有意な正の相関がみられた。
青春度の下位尺度である異性との付き合い方において、セルフモニタリング尺度の下位尺度である自己呈示変容能力と他者行動への感受性と高い有意な正の相関関係がみられた。

3-5. 性差の検討
3-5(1) t検定の結果
各尺度の下位尺度の得点に性差がみられるか検討した(Table6)。t検定を行ったところ、自己愛的脆弱性尺度の下位尺度である自己緩和不全(t(292)=-3.74, p<.001)、承認・賞賛過敏性(t(291)=-3.32, p<.01)、自己顕示抑制(t(289)=-2.47, p<.05)と青春度の下位尺度の外見への配慮(t(288)=-5.02, p<.001)に有意差が認められた。よって以降から、男女別に分析を行った。

2-5(2)青春度と各尺度との相関(男女別)
青春度とセルフモニタリング、自己愛的脆弱性との関連を検討するために、男女別に各尺度の下位尺度ごとに相関係数を算出した(Table7)。
まず、男子の結果では、青春度の下位尺度である部活動の様子において、セルフモニタリングの下位尺度である他者行動への感受性と高い有意な正の相関関係がみられた。さらに、部活動の様子において男子はセルフモニタリングの下位尺度である自己呈示変容能力と高い有意な正の相関関係、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己顕示抑制と中程度の有意な負の相関関係がみられた。
行事とクラスの様子において、他者行動への感受性と高い正の有意な相関関係がみられ、自己呈示変容能力と中程度の正の有意な相関関係がみられ、自己顕示抑制と弱い負の相関関係がみられた。
行事とクラスの様子において、他者行動への感受性と高い正の有意な相関関係がみられ、自己呈示変容能力と中程度の正の有意な相関関係がみられ、自己顕示抑制と弱い負の相関関係がみられた。
外見への配慮において、他者行動への感受性と中程度の正の有意な相関関係がみられ、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己緩和不全と潜在的特権意識と弱い正の相関関係がみられた。異性との付き合い方において、他者行動への感受性および自己呈示変容と低い正の有意な相関関係がみられた。
次に、女子の結果では、青春度の下位尺度である部活動の様子において、セルフモニタリングの下位尺度である他者行動への感受性と弱い正の有意な相関関係がみられた。さらに、セルフモニタリングの下位尺度である自己呈示変容能力と中程度の正の相関関係がみられた。
行事とクラスの様子において、他者行動への感受性と中程度の正の有意な相関関係、自己呈示変容能力と弱い正の有意な相関関係がみられ、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己顕示抑制に弱い負の有意な相関関係がみられ、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己緩和不全と弱い正の相関関係がみられた。
外見への配慮において、他者行動への感受性と中程度の正の有意な相関関係がみられ、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己緩和不全と高い正の有意な相関関係がみられ、自己愛的脆弱性の下位尺度である承認・賞賛過敏性と低い有意な相関関係がみられた。異性との付き合い方において、他者行動への感受性と高い正の有意な相関関係がみられ、自己呈示変容能力と中程度の正の有意な相関関係がみられ、自己緩和不全と弱い正の相関関係がみられた。

2-5(3) セルフモニタリング、自己愛的脆弱性による青春度の差
セルフモニタリングと自己愛的脆弱性を独立変数、青春度の下位尺度を従属変数とした2要因の分散分析を男女別に行った(Table8・Table9)。まずセルフモニタリングと自己愛的脆弱性を平均値を基準に高低に分けた。セルフモニタリングの平均値は3.20、自己愛的脆弱性の平均値は2.39であった。そして、独立変数をセルフモニタリング(高群・低群)、自己愛的脆弱性(高群・低群)とし、従属変数を青春度の下位尺度である部活動の様子、行事・クラスの様子、外見への配慮、異性との付き合い方とした。
まず、男子の結果を述べる。男子において交互作用は見られなかった。部活動の様子で、セルフモニタリングの主効果が有意であった(F (1,122)=14.08, p<.001)。また、行事とクラスの様子でも主効果が有意であった(F(1,124)=14.35, p<.05)。セルフモニタリング低群より高群の方が部活動の様子と行事とクラスの様子の得点が有意に高かった。外見への配慮では、有意な主効果はみられなかった。異性との付き合い方でも、男子では有意な主効果はみられなかった。
次に女子の結果を述べる。女子では行事・クラスの様子に有意な交互作用が見られた(F (1,144 )=9.04, p<.01)。単純主効果の検定を行った結果、セルフモニタリング高群における単純主効果が有意であり(F(1,144)=4.10, p<.05)、自己愛的脆弱性高群より自己愛的脆弱性低群の方が有意に行事・クラス得点が高かった。異性との付き合い方においても有意な交互作用が見られた(F(1,147)=4.79, p<.05)。セルフモニタリング高群における単純主効果が有意であり(F(1,147)=6.07, p<.05)、自己愛的脆弱性高群より自己愛的脆弱性低群の方が有意に異性との付き合い方の得点が高かった。
さらに部活動の様子ではセルフモニタリングに有意な主効果が見られた(F(1,146)=6.52, p<.05)。セルフモニタリング低群より高群の方が部活動の様子の得点が高かった。
外見への配慮には有意な主効果は見られなかった。


4.考察
本研究の目的は、スクールカーストを前提として、学校において学校生活の様々な活動に積極的に取り組み、充実していると感じている、または楽しんでいると感じている生徒の特徴をセルフモニタリング傾向と自己愛的脆弱性との関連から検討することであった。また学校生活の様々な活動に積極的に取り組み、充実していると感じている、または楽しんでいると感じている度合いを調べる尺度は現在作成されていないため、青春度の尺度作成を行うことが目的であった。
この目的をふまえ、本研究で立てられた仮説は以下の2つであった。
仮説 1 : 自己愛的脆弱性には男女差があり、女性のほうが自己愛的脆弱性が高い。
仮説 2 : セルフモニタリングが高く、自己愛的脆弱性が低い者は、青春度が高い。
4-1.青春度尺度
学校生活の様々な活動に積極的に取り組み、充実していると感じている、または楽しんでいると感じている人物、またスクールカーストの上位の人物をイメージし、青春度尺度を作成した。青春度の因子分析の結果、行事・クラスの様子、部活動の様子、外見への配慮、異性との付き合い方の4因子となった。学校行事の様子とクラスの様子は2因子に分かれることを想定していたが、学校行事の様子とクラスの様子は、同じ因子となった。学校行事という学校全体での自分の見せ場で活躍する人物と、にぎやかでクラスで中心となり、みんなを引っ張っている人物は同じ人物であると考えられる。学校行事は、学校全体で活動することにより、ふだんあまり接触することがないちがう学級や部活動の生徒と交流する機会になることがあると、長谷川(2011)が述べている。このことから、クラスのみんなを引っ張っていける者は、他の学級や他の部活動の友人が多く、たくさんの人を引っ張っていっているといえるだろう。
また、下位尺度である外見への配慮で男女差がみられた。女子の方が男子より制服・私服の着こなし、髪型・持ち物・体型へ気を使っていることが示された。古結・松浦(2012)が、男子は女子に比べ、校則通りに着装すること、きちんと見えるように着装するという意識が高かったことも報告していることから、男子は女子に比べ、制服を着崩さないことが中学生でも影響していることが考えられる。しかし、外見への配慮の項目には、髪型・体型・持ち物に気を使っているかを問う項目がある。着装行動について遠藤(2008)は、着装基準の個人的嗜好と流行において、男性よりも女性の方が自分の好みや流行で被服を選んでいることを明らかにしている。よって、髪型・体型・持ち物を自分の好みや流行に合わせている生徒が女子の方が多いという結果になったと考えられる。
青春度の下位尺度内の相関係数については、信頼性係数も十分な値が得られた。これらの結果から、一定の信頼性が認められた。しかし、本研究ではフロア効果がみられた項目も青春度を測る上で重要な項目であったため、除外せず分析している。よって、今後さらに項目を精査し、尺度を検討していく必要性がある。
4-2. セルフモニタリング尺度と自己愛的脆弱性尺度の妥当性
セルフモニタリング尺度と自己愛的脆弱性尺度は大学生を対象に作成されたものであったため、中学生が理解できるように語句を修正して使用した。因子分析結果より、セルフモニタリング尺度では、先行研究通り2因子に分かれたが、項目11の「私は、自分にとって有利になるようなときでも、うまくふるまうことができない」が十分な負荷量を示さず、除外した。この項目についてはさらに語句の修正を行う必要が考えられる。残りの10項目で因子分析を行ったところ、一定の信頼性と妥当性を確認できた。項目11を除いた10項目のセルフモニタリング尺度は中学生へ十分に使用できるものといえる。
自己愛的脆弱性尺度の項目14「他の人が私に接するときの態度が丁寧ではないので、腹が立つことがある。」でフロア効果がみられた。このことから、さらに語句の修正が必要だと考えられる。因子分析結果から、先行研究通りの4因子がみられ、アルファ係数の値からも一定の信頼性が確認できた。
4-3.セルフモニタリングと自己愛的脆弱性の男女差の検討
先行研究によると、セルフモニタリング傾向に男女差はみられず(八城 2010)、自己愛的脆弱性については男女差がみられることが考えられる。
セルフモニタリングにおいて有意な男女差は見られなかった。先行研究では、大学生を対象としているが、中学生を対象に行った本研究でも男女差はみられていない。年齢に関わらず、セルフモニタリングに男女差はみられないことがいえるであろう。記述統計量をみてみると、男女ともに平均値が3を超えている。中学生において、自己呈示や表出行動を統制し修正する能力や、相手の表出行動に敏感で、洞察力に富む傾向が高いと自己認知する者が多いことが示されたといえる。
自己愛的脆弱性においては、下位尺度である承認・賞賛過敏性と自己顕示抑制と自己緩和不全で男女差がみられた。自己愛的脆弱性の男女差を検討した先行研究は見られないが、中学生において精神的健康は男子より女子の方が悪いことが明らかにされている(牧野 2009)。今回の調査結果からは、強い不安や情動などを自分で調節・緩和する力が弱く、他者に調節・緩和してもらおうとすることである自己緩和不全が大きな差がみられた。男子の方が他者に精神的に頼る傾向がみられないことがいえるだろう。しかし、他者が特別の配慮や敬意をもって接してくれることを期待し、その期待がみたされないと不満や怒りが生じてくることを指す潜在的特権意識では男女差はみられなかった。このことから、他者への期待がみたされないと感じる不満は男子も女子も変わらないことが分かる。自分の言動や行動に対する承認・賞賛を強く求め、期待した承認・賞賛が得られないと自己評価が低下することである自己顕示抑制、注目を浴びたり自己を顕示したりする場面に遭遇すると強い恥意識が生じるため、自己顕示を抑制しがちになることである承認・賞賛過敏性も男女差がみられた。男子よりも女子の方が他人の承認・賞賛に自己評価の影響を強く受け、自分の言動に恥意識を感じやすく自己顕示をしないということがいえる。八城(2010)は、女性の方が、より相手の気持ちやその場の雰囲気を配慮しながら友人と付き合い、友人の中で孤立への不安も高いことを報告していることから、妥当な結果であるといえる。榎本(1991)は、ライバル意識、葛藤は男子の方がより強く感じている一方、信頼・安定、不安・懸念は女子の方が強く感じていることを明らかにしていることから、友人に対しての不安・懸念から、自己顕示に慎重であり、他人からの評価に敏感だと考えられる。
4-4. セルフモニタリングと自己愛的脆弱性と青春度の関連
セルフモニタリングと自己愛的脆弱性と青春度の関連を調べるため、各尺度の下位尺度間の相関係数を算出した結果、有意な相関がみられた。
セルフモニタリングと青春度においては、高い正の相関関係がみられ、関連していることが分かった。青春度の高い者は、セルフモニタリング傾向が高いということがいえる。青春度の下位尺度である部活動の様子、クラス・行事の様子、異性との付き合い方においいては、セルフモニタリング尺度の下位尺度である自己呈示変容能力と他者行動への過敏性と正の相関を示したが、青春度の下位尺度である外見への配慮においては自己呈示変容能力とは相関を示さなかった。Snyder, M&DeBono,K.G.(1987)によると、セルフモニタリング傾向の高い者は高モニターと呼ばれている。高モニターの特徴として、周囲の期待や状況に応じて適切な方向に自己を変容させていこうとする傾向の強いこと、その時の活動に合わせて友人を選択すること、幅広い友人関係を築くことが挙げられている(八城,2008.2010)。青春度が高い者も高モニターの特徴を持っていると考えられる。つまり、部活動や行事やクラスで活躍出来ていると自己認知している者は、自分の感情や好みで友人を選択するのではなく、状況や活動に合わせて友人を選択し、様々なタイプの人と付き合う傾向にあるということができるだろう。外見に気を使う者は、周囲の期待や状況を察知する能力は高いが、その状況に応じた自己変容との関連はないことが考えられる。
自己愛的脆弱性と青春度においては、自己愛的脆弱性の下位尺度である自己顕示抑制と青春度の下位尺度である部活動の様子、行事・クラスの様子で負の相関関係が示された。積極的に部活動・行事・クラスで活躍し、リーダーとなり、注目を集めることができる生徒が自己顕示に恥意識を伴いにくく、自己顕示に躊躇しないことは妥当な結果であるといえるだろう。自己愛的脆弱性と青春度の下位尺度である外見への配慮で正の相関関係が示された。このことは青春度の高い者は精神的な弱さはあまり見られないという想定とは、異なった結果が得られた。青春度の下位尺度である外見への配慮の項目は、青春度の他の下位尺度が友人との付き合い方や、友人の中での立ち位置の自己認知を測るものであるのに対し、自分の外見への気の使い様を問うものであるので、異なった結果が得られたと考えられる。外見に気をとても使う生徒は、傷つきやすく、弱い部分があるといえる。教育現場で外見を気にしすぎる生徒に指導をする際に注意を払うことが必要となると考えられる。
男女別に相関の違いをみてみると、女子では自己愛的脆弱性の下位尺度である自己緩和不全が青春度の下位尺度である行事・クラスの様子、外見への配慮、異性との付き合い方と正の相関を示した。女子においては、行事・クラスで活躍出来ており、外見に気を使っており、異性との付き合いが多いと自己認知している者は、強い不安や情動などを自分で調節・緩和する力が弱く、他者に調節・緩和してもらおうとする傾向にあるといえる。自己愛的脆弱性の下位尺度である自己顕示抑制と青春度の下位尺度である行事・クラスの様子と弱い負の相関がみられた。積極的に行事・クラスで活躍し、リーダーとなり、注目を集めることができる生徒が自己顕示に恥意識を伴いにくく、自己顕示に躊躇しないことは妥当な結果であるといえるだろう。しかし、部活動の様子でも自己顕示抑制と負の相関がみられると推察されるが、行事とクラスの様子でのみ負の相関が示された。部活動で活躍する生徒より行事やクラスで活躍する生徒の方がより自己顕示に躊躇しないということが分かった。
承認・賞賛過敏性と外見への配慮では、弱い正の相関が示された。外見を気にするということは、他者からよく見られたいという考えがあることは容易に予想されるため、妥当な結果であるといえる。
男子においては、自己顕示抑制と部活動の様子・行事とクラスの様子で負の相関がみられた。積極的に行事・クラスで活躍し、リーダーとなり、注目を集めることができる生徒が自己顕示に恥意識を伴いにくく、自己顕示に躊躇しないことは妥当な結果であるといえるだろう。また、潜在的特権意識・自己緩和不全と外見への配慮では正の相関がみられた。外見に気を使う者は、他者が特別の配慮や敬意をもって接してくれることを期待し、その期待がみたされないと不満や怒りが生じてやすく、強い不安や情動などを自分で調節・緩和する力が弱く、他者に調節・緩和してもらおうとする傾向にあるといえる。男女ともに外見へ気を使いすぎる生徒は精神的な弱さを抱えている傾向にあるといえる。
4-5.セルフモニタリング、自己愛的脆弱性と青春度の違い
仮説2のセルフモニタリングが高く、自己愛的脆弱性が低い者は、青春度が高いことを検討するため、男女別にセルフモニタリングと自己愛的脆弱性の平均値を基準に高低に分けて独立変数をセルフモニタリング(高群・低群)、自己愛的脆弱性(高群・低群)とし、従属変数を青春度の下位尺度である部活動の様子、行事・クラスの様子、外見への配慮、異性との付き合い方として、2要因分散分析を行った。その結果、いくつか有意な結果が得られた。
男女別に検討していく。女子では、青春度の下位尺度である行事・クラスの様子と異性との付き合い方において交互作用が示された。このことから、セルフモニタリング傾向が高く、自己愛的脆弱性は低い者は、行事・クラスの様子と異性との付き合い方の得点が高いことが示された。よって、仮説2が女子の行事・クラスの様子と異性との付き合い方においては支持された。行事やクラスで活躍し、頼りにされ、目立っていると自己認知している女子、異性との付き合いが多い女子は、自己愛的欲求の表出に伴う不安や他者の反応による傷つきなどを処理し、心理的安定を保つ力が強く、セルフモニタリング傾向が高いため、周りが必要としている行動を取れる、適応的な人物が多いといえる。
女子において青春度の下位尺度である部活動の様子、行事・クラスの様子を従属変数とした結果では、主効果が示され、セルフモニタリングの高群の方が低群より青春度が高いことが示された。しかし、自己愛的脆弱性の低群において青春度が高いとはいえなかった。つまり、部活動や行事。クラスで活躍できる者は自己呈示変容能力があり、他者行動への感受性が高いことがいえるが、自己愛的欲求の表出に伴う不安や他者の反応による傷つきなどを処理し、心理的安定を保つ力が脆弱であることとの差はないということである。学校生活の様々な活動に積極的に取り組み、充実していると感じている、または楽しんでいると感じている人物、またスクールカーストの上位の人物だと自己認知している者が精神的にたくましくはなく、他の生徒と変わらないということである。学校生活の様々な活動に積極的に取り組み、充実していると感じている、または楽しんでいると感じている人物、またスクールカーストの上位の人物だと自己認知している者は自分の社会的行動がその場の状況に適切かどうかにとても敏感で、自分を表現する行動を適切かどうか判断することが(Mark Snyder, 1998)が得意な人であり、周りの状況に合わせて、リーダーシップをとったり、周りを盛り上げたりしているということである。
また、女子では行事とクラスの様子において交互作用が示された。自己愛的脆弱性が低くセルフモニタリングが高い女子は、行事やクラスで中心となっていることを示している。
男子では異性との付き合い方において有意な結果は得られなかった。異性との付き合いが多い女子は、自己愛的脆弱性が低く、セルフモニタリング傾向が高いため、周りが必要としている行動を取れる、適応的な人物が多いといえたが、男子においては精神的な強さやセルフモニタリング傾向と異性との付き合いが多いかどうかに差がみられなかった。異性との付き合い方の女子においてのみ、仮説が支持され、男子の結果では仮説が支持されなかった。大井・宮本(2009)は、異性との付き合い方の性差について、中学生では女子よりも男子の方が異性に対する日常的行動の頻度が高いことを明らかにしている。また、牧野(2013)は、大学生に行った調査から異性友人におけるコミュニケーション・スキルが高いほど、孤独感が低いことを明らかにしている。自己愛的脆弱性は孤独感とは異なるものであるが、精神的な弱さを表す点は共通している。中学生おいて、女子では異性との付き合いの頻度が高い方が、精神的に強いことがいえる。また、牧野の調査では性差の検討が行われていない。
青春度の下位尺度である部活動の様子、行事・クラスの様子を従属変数とした結果では、セルフモニタリングの主効果が示され、セルフモニタリングの高群の方が低群より青春度が高いことがいえた。
青春度の下位尺度である外見への配慮では、男女ともに有意な結果は得られなかった。制服・私服の着こなし、髪型・持ち物・体型への気の使い方の程度は他の青春度の下位尺度と違い、セルフモニタリングと自己愛的脆弱性の差はないということである。外見に気を使う生徒に、自己呈示を変容させることや他者行動に敏感ではない生徒や、自己愛的欲求の表出に伴う不安や他者の反応による傷つきなどを処理し、心理的安定を保つ力が脆弱である生徒がいるということがいえる。