総合考察
本研究では、現在の学校における子どもたちの問題としてスクールカーストという現象を前提に研究を進めてきた。学校での人気や権力を獲得できるスクールカーストの上位にいると考えられる生徒は、どのような特徴を持つか心理的にアプローチするため、セルフモニタリング傾向と自己愛的脆弱性を取り上げ、検討をした。まず、スクールカーストの上位の者に焦点を当てるために、青春を満喫している人のイメージから青春を満喫している度合いを測る青春度を作成した。青春を満喫している人のイメージとスクールカーストの上位の生徒の特徴(鈴木, 2012)はほとんどが一致していると考えられる。
青春度が高い生徒は、セルフモニタリング傾向が高いことが明らかになった。このことから、青春度の高い生徒は、他者行動に敏感で、周りの状況に合わせて自己呈示を変えている傾向が高いことが分かる。高モニターは、相手に良い印象を与えるような能力を効果的に使うことができるといえる(Snyder. M, 1998)。このことから、自分の気持ちを素直にさらけ出さず、好印象な自己呈示を行っているといえる。
青春度が高い生徒と自己愛的脆弱性の関連について述べる。自己愛的脆弱性の得点が男子より女子の方が高く、相関係数などで差がみられた。女子では、行事・クラスで中心となり、活躍する生徒と異性との付き合いが多い生徒は自己愛的脆弱性が低く、セルフモニタリング傾向が高い、適応的な人物が多いことが明らかとなった。男子では青春度が高い生徒とそうでない生徒との自己愛的脆弱性の差はみられなかった。全体としては自己愛的脆弱性の下位尺度である自己緩和不全と青春度の外見への配慮で正の相関関係がみられた。スクールカーストの上位の者の特徴の一つとして鈴木(2012)は「気が強い」といったパーソナリティをあげているが、本研究の結果からはむしろ自己愛的脆弱性を抱えていることが示唆された。
スクールカーストの実証的な研究は、現在までほとんど行われていない。スクールカーストの一部ではあるが、生徒の特徴を心理的に検討したことは、意義があると考える。教師はスクールカーストがコミュニケーション能力、積極性、生きる力など能力の違いだと考えている(鈴木, 2012)。スクールカーストの上位の生徒は、周りの必要性を感じ、場に応じた自己呈示変容能力が高いということであり、自分らしさを出しているわけではないことが本研究の結果からは浮かび上がってきた。スクールカーストは上位の生徒であっても、周りからの評価が高くても本当の自分とは違っていることが考えられ、また女子では自己愛的脆弱性が高い傾向にあることから、不適応を起こす可能性があることは十分に考えられることを把握すべきであると考える。