結果と考察
1.重回帰分析
重回帰分析はすべて強制投入法による分析結果である。 ハーディネスと 3 下位尺度を独立変数、自己充実的達成動機を従属変数とした重回帰分析を行った。全体では、ハーディネスから、自己充実的達成動機に対する標準偏回帰係数が有意であった。男性では、ハーディネスから、自己充実的達成動機に対する標準偏回帰係数が有意であったが、女性では、自己充実的達成動機に対する標準偏回帰係数が有意なものはなかった。以上の結果から男性において、ハーディネスは自己充実的達成動機を高める要因になっている可能性が示唆された。性差については、男女によって自己充実的達成動機の捉え方が異なることが考えられ、男女によって挑戦の捉え方の大きさが異なると考える。
次に、ハーディネスとハーディネス 3 下位尺度を独立変数、方略・失敗活用志向を従属変数とした重回帰分析を行った。方略・失敗活用志向に対する標準偏回帰係数が有意なものはみられなかった。男性では、ハーディネスから、方略・失敗活用志向に対する標準偏回帰係数が有意であった。女性では、方略・失敗活用志向に対する標準偏回帰係数が有意なものはみられなかった。 また、ハーディネスとハーディネス 3 下位尺度を独立変数、失敗恐怖を従属変数とした重回帰分析を行った。全体では、コントロールから、失敗恐怖に対する標準偏回帰係数が有意であった。男性では、コントロールから、失敗恐怖に対する標準偏回帰係数が有意であった。女性では、方略・失敗活用志向に対する標準偏回帰係数が有意なものはみられなかった。以上の結果から、ハーディネスは失敗に対する認知に対して直接影響をもたらさないことが明らかになった。
多面的楽観性を独立変数、ハーディネスを従属変数とした重回帰分析を行った。全体でも男女別でも、肯定的期待から、ハーディネスに対する標準偏回帰係数が有意であり、影響力が最も強かった。未来に対してポジティブな期待をもつことは、ハーディネス獲得には重要な鍵になることが考えられる。
2.3
要因分散分析
ハーディネス(高群・低群)と肯定的期待(高群・低群)と自己充実的達成動機(高群・低群)を独立変数、方略・失敗活用志向と失敗恐怖を従属変数とした、3×2 の分散分析を行った。分散分析の結果、方略・失敗活用志向については、ハーディネスと肯定的期待、ハーディネスと自己充実的達成動機の交互作用が有意であった(それぞれF(1,121)=4.78, p<.05 F(1,121)=6.36,
p<.05)。失敗恐怖については、ハーディネスと肯定的期待、ハーディネスと自己充実的達成動機の交互作用が有意であった(それぞれF(1,121)=5.59, p<.05 F(1,121)=4.55,
p<.05)。下位検定では、単純主効果の検定を行った。その結果、方略・失敗活用志向については自己充実的達成動機の高低の単純主効果が(F(1,121)=25.26, p<.001)有意であった。失敗恐怖については、有意な単純主効果はみられな
かった。
以上の結果から、ハーディネスは失敗に対する認知、特に失敗恐怖に対して間接的に影響をもたらすといえる。ハーディネスを高めることは、自己充実的達成動機を高める要因になり、それが失敗に対する認知を肯定的なものと捉えることにつながる。また肯定的期待とハーディネスを持ち合わせることによって失敗への恐怖心を低減できることから、ハーディネス獲得は失敗を恐れない挑戦へのスタート地点とも言えるかもしれない。
3.総合考察
ハーディネスを身につけることは、正解のない世の中で自己決定を行っていくために必要な性格特性である。とくにその自己決定が人生を左右するような大きな事柄であるときにハーディネスの力が発揮される。その自己決定が世界を変えられるような挑戦へとつながることもあるだろう。 ハーディネスが自己充実的達成動機のような意欲を喚起するものであり、自己充実的達成動機が方略・失敗活用志向を高め、つまり失敗に対して柔軟な思考をもつことにつながり、意欲の低下を阻止できるといえる。間接的に働くとはいえ、失敗に対する柔軟な思考への第一歩としてハーディネス獲得は必要であるといえる。
ハーディネスがもたらす挑戦への意欲を喚起し、また認知的側面によって誰でも獲得できる。そしてどんな逆境をも乗り越えられるパーソナリティである。そのようなハーディネス獲得を目指した教育が教育現場で行われ、逆境や失敗を成長の糧とできる人間を育てていくことが重要ではないだろうか。