*考察*


1.仲間集団内における排他性について

 1-1.集団内排他性尺度
 集団内排他性尺度について因子分析を行った結果、「仲良しグループの中でも一部の者と特に親しくしたい」という「親密指向」と、「仲良しグループの中でも特定の者とは親しくしたくない」という「拒否指向」の2因子から構成されることが明らかになった。つまり、仲間集団内における排他性には、意図的に仲良しグループのメンバーを拒否したいという気持ちだけでなく、仲良しグループの中でも一部の人と特に親しくしたいという気持ちから、結果的に誰かを排他してしまうこともあることが明らかにされた。仲良しグループの中でも一部の人と特に親しくしたいという気持ちは、仲良しグループの中で、さらにサブグループをつくろうとする動きであると考えられる。このことは、佐藤(1995)が、高校生の仲良しグループについて、ひとつのグループがさらに下位のグループに分かれているかどうかを検討した結果、いくつかの下位グループをもつ連合グループの存在を明らかにしていることからも裏付けられる。仲良しグループの中でも、一部の人と特に親しく結びつこうとすることによって、仲間集団内における排他性を生みだす可能性が示唆された。

 1-2.仲間集団内における排他性と仲間集団外の者に対する排他性の関連
 相関の結果から、「親密指向」は、「集団の固定」や「集団の確認と不安」と関連しており、自分の所属する仲間集団以外の者を排他して、仲良しグループとしてまとまりたいという気持ちが強いほど、その仲良しグループの中でも、一部の者と特に親しくしたいという気持ちを持ちやすいことが示された。三島(2013)では、「固定的な集団指向」を強めることが、間接的に「独占的な親密関係指向」に影響を及ぼすことが男女共通してみられたことを報告しているが、このことは間接的にではあるものの仲間集団として固まろうとするほど、特定の親しい友人との関係を背景とした排他性が高まることを示唆しているといえる。三好(1998)が述べているように、何かを排除することによって内部に引き起こされるグループのメカニズムは、グループの結束・安心感を高める働きをもつものであるとすれば、仲良しグループとして固まろうとする中でも、さらにその中で、一部の者と親しくすることによって、凝集性を高め、安心感を高めようとしていることが推測できる。

 1-3.排他性の性差
 グループサイズと性別による二要因分散分析を行った結果、「集団の確認と不安」と「拒否指向」に有意な性別の主効果がみられた。「集団の確認と不安」では、男子より女子の方が有意に得点が高いことが示された。「集団の確認と不安」は、三島(2008)における「独占的な親密関係指向因子」に相当するが、これは男子より女子の方が有意に得点が高いことが示されている。また、有倉・乾(2007)においても、女子は男子よりも排他的な友人関係をクラス内で作っていることが示されていることからも、本研究の結果は先行研究と一致するものであり、仲間集団外の者に対する排他性は女子の方が高いという仮説が一部支持されたといえる。一方で、「拒否指向」は、女子よりも男子の方が有意に得点が高く、仲間集団内における排他性は男子より女子の方が高いという仮説に反する結果となった。この理由について、男女の親和動機の差が関係している可能性が考えられる。杉浦(2000)は、親和動機について、拒否不安と親和傾向の2つの側面から検討し、どちらも男子より女子の方が高いことを明らかにしている。つまり、仲良しグループにおいて、仲良くやっていきたい、という気持ちも女子の方が高いことが推測できる。さらに、石田(2003)は、学級内の交友関係について、女子において、交友している人数が期間経過に伴って減少していたことから、女子では、親密な関係の形成に伴って、あまり親密でない相手との交友は次第に減少することを示唆している。つまり、女子は、仲間集団を形成していくにあたり、もともと仲良くなれそうな友人を仲間集団のメンバーとして選択している可能性がある。そのことによって、親密な仲間集団が形成される。三好(1998)が、女子はグループの中でうまくやってゆくためのストラテジーとして欺瞞的とも言える同調的関わりを示していることからも、女子は、親密な仲間集団の中で、うまくやっていけるよう関わりを調整しながら過ごしていることが想定できる。これらのことから、女子は、仲間集団の中でうまくやっていきたいという気持ちが強く、そのために仲良くなれそうな友人を選択し、うまくやっていけるよう調整しているため、仲間集団の中で誰かを排除したいという気持ちは男子よりも生じにくいと考えられる。

2.コンピテンスと排他性

 コンピテンスと排他性について、グループサイズ、男女間でそれぞれ異なる結果が得られた。
 まず、女子においては、コンピテンスと拒否指向に負の相関がみられ、6人以上のグループに所属する女子の「集団の確認と不安」と「親密指向」は、コンピテンス低群よりコンピテンス高群の方が高いことが示された。つまり、女子においては、自信のなさや有能感の低い者が、仲良しグループの中でも特定の者を排除したいという気持を持ちやすく、6人以上のグループに所属する自信や有能感をもつ女子は、グループの中でも一部の者と特に親しくしたいという気持ちが高いといえる。6人以上のグループは、グループサイズとして比較的大きな集団であるといえる。そのような仲良しグループの中には上下関係がある可能性がある。須藤(2012)は、女子大学生に過去の友人関係について記述させる調査を行い、前青年期以降の同性友人関係で難しかったことについて、グループの構成員が所属するグループへの忠誠とそのリーダーやその補佐などの上下関係の維持に神経を遣い合い、上に位置する子の意に反することをすれば仲間外れにされると述べられていることを報告している。自信や有能感をもつ者がグループのリーダー格の者であるとすれば、このようなリーダーは、グループの中で権力をもっており、仲良しグループの中でも特に親しくしたい者を選択しているのではないかと考えられる。そのような仲良しグループのリーダーは、仲良しグループにおける自分の地位を守るために、仲良しグループのメンバーに対する不安や仲良しグループの友だちと仲が良いことを確かめ合う気持ちが強いのではないかと考えられる。
 男子において、コンピテンスと社会的責任目標に交互作用がみられ、3〜5人のグループに所属する男子において、コンピテンスが高く、社会的責任目標が低い者は「親密指向」が高いこと、さらに、6人以上のグループに所属する男子においては、コンピテンスが低く、社会的責任目標が低い者は「拒否指向」が高いことが示された。3〜5人の仲良しグループは、男子の中では比較的小規模な集団である。自分は価値ある人間だと感じている者ほど、友人関係の満足感が高いとすれば(吉岡, 2001)、そのような者ほど、自分が満足するような友人関係を築こうとし、仲良しグループの中でも自分が親しくなりたい者とだけ関わろうとしていると思われる。3〜5人という比較的小規模な仲良しグループの中におけるそのような傾向は、グループの中で疎外される者が生まれやすくなることを意味する。Snyder, Gangestad, & Simpson(1983)は、セルフモニタリングと友人選択との関連について、高セルフモニタリングの者は、活動に合わせて友人を選択するのに対し、低セルフモニタリングの者は、自分が好意を持つ友人を選択していることを明らかにしている。つまり、周囲の状況に影響されず他者への関心が低いことが、自分の好意を持つ友人を選択していることと関連があるといえる。社会的責任目標には、向社会的目標のような友人に対する思いやりの側面も含まれており、社会的責任目標が低い者は、低セルフモニタリングの者のように、対人関係場面において自分の行動を適切に統制できないと考えられる。よって、仲良しグループの中でも自分がより好意を持つ友人を選択する傾向があるのではないかと思われる。
 男子において人数が6人以上である仲良しグループは、比較的大きな集団である。仲間集団に関する先行研究より (石田・小島, 2009, 榎本, 1999)、男子における6人以上の仲良しグループというのは、結びつきが弱い集団であることが予想できる。集団の結びつきが弱いということは、容易に集団の外に出されてしまう可能性があることを意味する。男子は、自分に自信をもち、友だちと自分は異なる存在であるという認識をもって友だちづきあいをしていることが示唆されている(佐藤・落合, 1996)。しかし男子であっても、自分に自信がなかったり、価値がないと感じたりしている者は、友だちと一緒にいることで、安心感を得たいと感じていると考えられる。そのことに加え、学校における規範意識の低さや友人に対する思いやりが低かった場合、仲良しグループにおける自分の立場を安定させるために、その中の誰かを排除したいという気持ちを持ちやすいことが予想される。
 男女の相関や分散分析の結果を総合すると、コンピテンスの低さが仲良しグループの中でも特定の者とは親しくしたくないという気持ちと、一方でコンピテンスの高さが仲良しグループの中でも一部の者と特に親しくしたいという気持ちと関連づけられることが示唆された。よって、コンピテンスが低い者は集団内における排他性が高いという仮説は一部支持された。このことについては、仮想的有能感の研究において報告されていることからもわかるように(小平・小塩・速水, 2007, 松本・山本・速水, 2009)、自分に自信がなく、他者を軽視する傾向が強い者は、「自分より下」である他者に対して敵意を抱いたり、いじめを行うことで、優越感を感じたり、自分の立場を安定させようとしているということから考えられる。つまり、自分に自信がなく、価値がないと感じている者は、仲間集団の中で、誰かを排除しようとすることによって、優越感を感じようとしたり、仲間集団における自分の立場を安定させようとしたりしている可能性がある。また、コンピテンスの高さが、仲良しグループの中でも一部の者と特に親しくしたいという気持ちと関連することについては、コンピテンスの高い者の友人との関わり方が関連していると思われる。吉岡(2001)は、自己受容ができていると、他者に対しても受容的になり、積極的で良好な対人関係が構築しやすくなるため、友人関係の満足感が高くなると述べている。自分に価値があると感じるような自己を受け入れている者は、積極的に自分の満足のいくような対人関係を築いているのであれば、このような者は、仲良しグループの中でも自分の満足のいくような関係を築けそうな一部の者とだけ関わりたいという気持ちをもちやすいため、このような結果が得られたのではないかと考えられる。

3.規範意識と排他性

 グループサイズと性別による二要因分散分析を行った結果、性別の主効果が有意であり、「規範遵守目標」「向社会的目標」ともに男子より女子の方が得点が高いことが示された。
 中谷(1997)では、小学生の社会的責任目標における二つの下位目標が男子より女子の方が高いことが示されており、本研究の結果から、中学生においても性差に関して同様な結果が得られることが示されたといえる。
 相関の結果から、「規範遵守目標」や「向社会的目標」は、集団内排他性や集団外の者に対する排他性と負の相関がみられ、二要因分散分析の結果から、社会的責任目標高群より、社会的責任目標低群の方が、集団内排他性が高いことが示された。よって、規範意識の高い者の方が仲間集団外の者に対する排他性と集団内における排他性が高いという仮説は支持されなかった。この理由について、「規範遵守目標」や「向社会的目標」の平均値が高かったことからも、「学校におけるルールや規範を守らなければならない」「友だちに対して協力や援助をしなければならない」という社会的望ましさが影響している可能性がある。本研究で使用した社会的責任目標尺度は、学校生活における規範を守ろうとする気持ちや友だちに対する思いやりを尋ねるものであったが、このようなことは、学校において、「学校生活におけるあたり前の規範」として指導されている。よって、質問に回答した生徒は、社会的責任目標尺度の質問項目について、それが「自分自身の規範」なのか、「学校の規範」なのかがはっきり区別されておらず、「自分自身の規範」の中に「学校の規範」が含まれたまま回答した可能性がある。そのため、解釈についてはより慎重に検討を行う必要がある。
 また、本研究で得られた結果から、学校生活においてルールや規範を守り、対人的に円滑な関係をもとうとする気持ちが高いことは、仲間集団内においても誰かを排除したりせず、うまくやっていかなければならないという気持ちと結びつくと考えられる。先行研究においては、児童の教室における規範やルールを守る行動や、友人に対する思いやりのある行動は、クラスメイトにとって対人関係を築くうえで好意的に認知され、友人からの受け入れを促進していることが示唆され(中谷, 2002)、向社会的目標が級友適応に正の影響を及ぼしていることが示されている (出口・中谷・遠山・杉江, 2006)。内野・木原(2010)は、規範意識と学校満足感との関係について、規範意識は「学級生活不満足群」より「学級生活満足群」の方が有意に高いことを報告し、吉川・高橋(2006)は、常時学校生活に満足している者は、友人関係も良好であることを示している。つまり、学校生活において規範やルールを守り、他者に対する思いやりを持とうとする者ほど、良好な友人関係を築いていると想定できる。逆に、学校生活における規範やルールを守ろうとする気持が低い者ほど、仲間集団内において、問題を抱えており、誰かを排除しようという気持ちを持ちやすい可能性があると考えられる。

4.中学生の仲間集団における問題点へのアプローチ

 本研究において、仲間集団内における排他性が、仲良しグループの中でも一部の者と特に親しくしたいという気持ちを示す「親密指向」と、仲良しグループの中でも特定の者とは親しくしたくないという気持ちを示す「拒否指向」の二つの側面から構成されることが明らかとなった。集団内排他性の性差からは、「拒否指向」は女子より男子の方が高いという結果が得られた。コンピテンスと排他性との関連から、全体としてコンピテンスの高さが「親密指向」と、コンピテンスの低さが「拒否指向」と関連づけられる可能性が示唆された。また、規範意識との関連から、規範意識の低さが仲間集団内における排他性と関連することが示された。本研究では、排他性を排他行動でなく排他感情としてとらえ、それに関連する個人の要因について検討した。排他感情に焦点をあてることによって、誰かを排他するという行動に現れる前にアプローチし、問題を対処することができるという点で意義があるといえる。これらを踏まえ、本研究で得られた結果をもとに、生徒たちが抱える仲間集団における問題にどのようなアプローチが有効かについて検討する。
 これまでの友人関係における研究は、男子に比べ女子に焦点があてられたものが多くみられた(たとえば、三好, 1998, 黒沢・有本・森, 2005)。しかし、石本(2011)において、それまで女子の仲間集団の特徴とされてきた同調性やグループ境界の強固性について性差がなくなりつつあることが示唆されており、本研究においても、集団外排他性における「集団の固定」に性差がみられなかった。すなわち、近年では、男子の仲間集団においても、グループで固まろうとする気持が働く可能性があるといえる。さらに「拒否指向」が男子の方が高かったことから、男子も女子同様にグループで固まろうとすることや、むしろ男子の方がグループにおいて問題を抱えている可能性が示唆されたことは注目に値する。よって友人関係における問題は、現代では女子だけでなく、男子にも起こり得るものとして学校現場等でとらえられていくべきである。
 コンピテンスと排他性について、コンピテンスの低さが仲良しグループ中でも特定の人とは親しくしたくないという気持ちにつながる可能性が示唆された。そのため、生徒たちに自信を持たせたり、自分に価値があると感じさせたりすることが重要であると考えられる。しかし、コンピテンスの高さは、仲良しグループの中でも一部の者と特に親しくしたいという気持ちにつながることも示された。仲良しグループの中でも一部の者と特に親しくしたいという気持ちは、結果的に誰かをグループの中で孤立させ得るという認識がないことが予想される。よって、コンピテンスを高めるだけでは、結果として排他を生じさせてしまう可能性がある。塚本・濱口(2003)は、親和動機、攻撃性、社会的スキルが友人関係満足感に与える影響について検討し、自分にとって満足のゆく友人関係を構築していくためには、周囲に合わせたり、相手に親切に振る舞ったりするという「関係向上スキル」でなく、積極的に仲間関係の中に入り、構築していく「関係参加スキル」を高めることが有効であることを示唆している。つまり、良好で安定した友人関係を築くためには、仲良しグループ全体や学級全体など、誰とでもでもうまく関わっていくことができるような能力が必要であると考えられる。
 規範意識と排他性については、全体として、規範意識の低さが仲間集団内における排他性と関連することが示唆された。黒川・大西(2009)は、いじめに対する否定的な準拠集団規範はいじめる対象や動機に関わらず、加害傾向を抑制することや、中学生女子では、集団内いじめについて、学級集団よりも仲間集団を準拠枠にしていることが多いことが示されている。黒川・大西(2009)の研究は、いじめに対する規範を扱ったものであるが、本研究の結果より、いじめに対する否定的な規範だけではなく、日々の学校生活の規範や思いやりを指導していくことも排他的な感情の低減につながるといえる。また、準拠枠としている集団の規範が個人の規範意識に影響するとすれば、学級や仲間集団の規範を明確にし、個人の規範意識を高めることが、仲間集団内における排他性の低減につながる可能性がある。

5.今後の課題

 本研究では、排他性をより詳細にとらえるために、排他感情と実際の排他行動と区別し、排他感情に焦点をあてて検討した。今後さらに排他感情がどのように排他行動に影響するかを検討する必要がある。加えて本研究は、あくまで排他的な個人の排他感情やパーソナリティの側面に焦点をあてており、排他される側の要因については検討していない。内集団から排除される現象として「黒い羊効果」(Marques, Yzerbyt, & Leyens, 1988)などがあるが、このような排他される側の特徴についても今後検討を重ねるべきであると考えている。そして、今回は中学生を対象とした研究であったが、今後は小学生や高校生についての仲間集団における排他性について調査を行い、その発達的変化についても検討する必要がある。