*要旨*
本研究の目的は、中学生の「仲良しグループ」と呼ばれる仲間集団に着目し、仲間集団内における排他性について検討することであった。まず第一に、集団内排他性尺度を作成し、その構造を明らかにすることが目的であった。その際、仲間集団外の者に対する排他性との関連についても検討した。さらに、仲間集団内における排他性に関連すると思われる個人の要因としてコンピテンスと規範意識を挙げ、集団内排他性との関連を検討し、仲間集団におけるストレスや問題を解消するうえでどのようなアプローチが有効かについて検討することを目的とした。
その結果、仲間集団内における排他性は、「仲良しグループの中でも一部の者と特に親しくしたい」という気持ちを示す「親密指向」と「仲良しグループの中でも特定の者とは親しくしたくない」という気持ちを示す「拒否指向」から構成されることが明らかになった。さらに、仲間集団外の者に対する排他性と「親密指向」に関連がみられたことから、仲間集団外の者に対する排他性が高いほど、仲良しグループの中でも一部の者と特に親しくしたいという気持ちが高いことが示された。集団内排他性の性差について分析した結果、「拒否指向」は女子より男子の方が有意に高かった。
所属する仲良しグループのサイズ(3〜5人・6人以上)と性別ごとに分析を行った結果、コンピテンスと排他性との関連については、全体として「親密指向」がコンピテンスの高さと、「拒否指向」がコンピテンスの低さと関連することが示唆された。また、規範意識と排他性との関連については、全体として規範意識の低さが集団内排他性の高さに関連することが示唆された。これらのことから、コンピテンスが高くとも低くとも、結果的に排他を生じさせてしまう可能性や、学校生活における規範意識や思いやりを高めることが生徒の仲間集団内における排他性の低減につながる可能性があることがわかった。
本研究では、排他性をより詳細にとらえるために、排他感情と実際の排他行動と区別し、排他感情に限定して検討したため、今後は排他感情がどのように排他行動に影響するかを検討する必要がある。また、今回は中学生を対象とする調査であったが、小学生や高校生にも焦点をあて、仲間集団内における排他性の発達的変化について調査すべきである。加えて本研究では、あくまで排他する側の要因に焦点をあてたが、今後は排他される側の要因についても検討を重ねることが課題となった。
排他性とは、新しい仲間を受け入れようとしない傾向であり、自分が所属している仲間集団に属していない者に対する概念であるとして、従前の研究では考えられてきた。しかし、仲間集団内においても、そのメンバーが排除される場合があることも報告されている。例えば、須藤(2012)は女子大学生の過去の友人関係の調査で、同性友人関係で難しかったことについて、仲間集団内で誰かを排除したり、悪口を言ったりするなどの「グループ内のいじめ」について触れられているものが多かったと報告している。また、仲間集団で同一であることを絶対的な条件とするギャング・グループやチャム・グループにおいて、短期間に順繰りに仲間からはずされていく仲間はずしが起こることが指摘されている(保坂, 1998)。中学生時期にみられるチャム・グループのような仲間集団は、グループの境界線もはっきり引かれており、さらに同質性も高く、「みんな一緒」であると考えられるが、なぜそのようなグループであっても、グループの中のメンバーの誰かを排除しようとする気持ちが生じるのだろうか。これまで仲間集団外の者に対する排他性について検討した研究は多くみられるが(たとえば、三島, 2004, 有倉・乾, 2007)、管見の限りでは、仲間集団内の者に対して感じる排他性に焦点をあてた研究はみられない。そこで本研究では、仲間集団内のメンバーに対する排他性について焦点をあてる。
仲間集団内においてグループの中の誰かを排除しようという動きは、必ずしも意図的であるとは限らない。三島(2008)の仲間集団指向性尺度における「独占的な親密関係指向因子」は、二者関係をはじめとした親しい友人との親密な関係を背景とし、その関係には属さない第三者に対する排他的な考え方を示している。このことから、仲間集団の中でも、その中の一部の者と特に親密になることを望むことによって、その関係に属さない者が結果的に孤立してしまうことがあると考えられる。よって、集団内における排他性を個人の感情的な側面からとらえる際には、仲間集団の中でも一部の者と特に親密になろうとする気持ちも含めて検討する必要がある。なお、仲間集団外の者に対する排他性についての三島(2004)の定義を参考に、集団内における排他性を「自分の仲間集団に所属するメンバーであっても、相手によって態度を変えたり、その中の特定の人と活動することを楽しくはないと感じたりする気持ち」と定義する。排他性のとらえ方は研究者によって異なる。三島(2008)の「仲間集団指向性尺度」では、特性としての排他性を扱っており、相手を排除したいという排他的な感情と実際の排他行動が混在している。他にも、有倉・乾(2007)は、排他性を排他性欲求と排他性規範の二つの側面からとらえている。しかし、より詳細に生徒たちの排他性について明らかにするためには、排他性についてあらためて検討する必要がある。現実には同じ仲間集団に所属する者を排除したいという気持ちを持っているとしても、それが必ずしも行動に現れるとは限らない。排他感情と排他行動は区別して検討する方が妥当であろう。同じ仲間集団の者を排除したいという気持ちをもっている者は、それを実際に行動に移す者よりも多いことが予想され、排他感情に焦点をあてることで、ストレスや不安を抱えながら仲間集団に属している中学生の心理的特徴を理解することができると考える。そのため、本研究では排他性を排他感情に限定して検討する。このような同じ仲間集団に所属するメンバーを排除したいという気持ちは、生徒たちの友人関係や適応に大きな影響を与えることが指摘されている。三島(2003)は、親しい友人からいじめられた体験は、親しくない者からいじめられた体験に比べて友人に対する満足感により大きな負の影響を与えることを示唆している。三島(2003)の調査では、自分をいじめた親しい友人の範囲については指定をしていないと述べられているが、同じ仲間集団に所属するメンバーから排除されてしまった場合も、友人に対する満足感に大きな影響を与えると考えられる。また、大獄・多川・吉田(2010)は、友人グループ内で日々感じる感覚として「誰かと一緒にいることで得られる安心感」とともに「形として群れている状態への漠然とした不安感」とが共存するとし、「壁を越えられない逃げ場のなさ」がより高ストレス状況をもたらす可能性を示唆している。つまり、同じ仲間集団に所属するメンバーに対して、一緒にいたくないと感じながらも一緒に居ざるをえないことが、生徒たちのストレスにつながる可能性がある。よって、同じ仲間集団に所属するメンバーから排除される側、同じ仲間集団に所属するメンバーを排除しようとする側双方にとって、仲間集団内の排他性について詳しく検討することは意義があるといえる。