1.研究Tについて
研究Tでは、“援助の経験”ということに注目し、援助経験が援助要請行動に及ぼす影響を明らかにするために、高木・妹尾(2006)を参考とし、援助要請経験と援助行動の関連と、援助要請行動・援助行動が援助者や被援助者に及ぼす内的・心理的な影響の出現過程モデル(高木, 1997)に基づいて、援助行動と被援助行動の関連性を検討した。
1−1.援助要請経験と援助経験の関連性
援助要請経験と援助経験との間に関連があるのかについて検討を行った。その結果、援助要請経験と援助経験は関連があることが明らかとなり、援助経験がある人ほど、援助要請も経験していることが示された。また、援助要請経験がある人ほど、援助も経験していることについても示された。
すなわち、援助要請者、援助者のいずれの立場においても、積極的に行動を起こすことで次の援助要請行動・援助行動に繋がることが明らかとなった。
このことから、日常生活において援助者として他者に援助を行う人は、逆に、被援助者の立場として他者へ援助要請も行っており、他者から援助を受けているということがわかった。つまり、援助要請行動と援助行動は相互作用的な関係にあることが明らかとなった。
この結果は、仮説1の「援助経験が多様な人ほど、援助要請経験が多い傾向にあるだろう」を支持する結果となった。また反対に、援助行動もしくは援助要請行動を積極的に行わない人は、援助が必要な場面において援助を与えにくい、また、困難な事態に陥った際にも援助を要請できずにいる可能性が考えられる。
1−2.援助要請経験・援助経験と援助要請行動・援助行動の結果評価の関連性
援助要請行動や援助行動の結果評価について、実際の援助要請行動・援助行動の経験との間に関連があるのかについて検討を行った。
その結果、援助要請行動(被援助行動)や援助行動を多様に経験している人は、他者との援助を介した交互作用を積極的に行わない人と比較して、一部を除き、結果評価が高くなっていることが示された。結果評価の中でも、特に、助けられたことで困難な問題が解決されたかを評価する「被援助効果」は、援助行動と援助要請行動のどちらにおいても、いろいろなカテゴリーの行動を多様に経験している人は高く評価をしていることが明らかとなった。また、援助行動の場合、「被援助効果」と「援助成果」も高く評価する傾向がみられた。
この結果は、仮説2の「援助行動・援助要請行動を多様に行う人ほど、彼らの援助行動・援助要請行動(被援助行動)の結果評価は高いだろう」を一部支持する結果となった。
ただし、援助要請行動や援助行動の結果評価は一部において相関する傾向がみられるため、今回有意差が得られなかった結果評価についても、援助行動・援助要請行動を多様に行う人は高く評価する可能性が考えられる。
1−3.援助要請経験・援助経験と援助・被援助に対する意識・態度・動機づけの関連性
援助・被援助に対する意識・態度・動機づけについて、実際の援助要請行動・援助行動の経験との間に関連があるのかについて検討を行った。
その結果、援助要請行動(被援助行動)や援助行動を多様に経験している人は、他者との援助を介した交互作用を積極的に行わない人と比較して、一部を除き、援助・被援助の意識・態度・動機づけが高くなっていることが示された。援助・被援助の意識・態度・動機づけの中でも特に、援助態度と被援助態度、援助動機づけは、援助行動と援助要請行動のどちらにおいても多様に経験している人は肯定的・積極的な認識をしていることが明らかとなった。
また、援助要請行動の場合、援助意識と被援助動機づけについても、肯定的・積極的な認識をしており、被援助意識については肯定的な認識をする傾向がみられた。
この結果は、仮説3の「援助を多様に行う人ほど、彼らの援助要請行動への意識・態度・動機づけは肯定的、または積極的であるだろう」を一部支持する結果となった。
ただし、援助・被援助に対する意識・態度・動機づけは一部を除いて強い相関関係、または相関する傾向がみられるため、今回有意差がみられなかった援助行動に対する援助意識と被援助意識、被援助動機づけについても、援助行動・援助要請行動を多様に行う人は高く認識する可能性が考えられる。
簡単にまとめると、援助を多様に経験することによって、援助要請行動を含め、それに関わる援助要請行動(被援助行動)の結果評価も高くなり、被援助に対する意識・態度・動機づけについても、肯定的・積極的となる傾向があることが明らかとなった。
2.研究U
研究Uでは、永井(2013)の示した援助要請スタイルをパーソナリティ変数として捉え、調査対象者を3群に分け、それぞれの群について援助経験が援助要請行動にどの程度影響しているのかを検討した。また、援助要請スタイルごとに援助行動・援助要請行動(被援助行動)の結果評価と意識・態度・動機づけについても差があるのかについて検討を行った。
2−1.援助要請スタイルと援助要請経験・援助経験の関連性
援助要請スタイル尺度によって群分けしたそれぞれの群が、実際に他の群と比較してどの程度援助要請行動をしているのか、また援助行動は群ごとに差があるのかについて検討を行った。その結果、援助要請行動においても援助行動においても、援助要請自立群と援助要請過剰群との間に経験の差はみられなかったが、援助要請回避群は他の群と比較して援助要請行動と援助行動の経験が少ないということが明らかとなった。
この結果は、仮説4の「援助要請スタイルは、援助要請行動だけではなく援助行動にも影響があるだろう」を支持する結果となった。
これに関連して、援助要請スタイルごとに援助経験が援助要請行動に及ぼす影響を検討した。その結果、援助要請自立群、援助要請過剰群、援助要請回避群のどの群においても、援助要請経験・援助経験を多様に行う人ほど、援助要請行動・援助行動をしていることが明らかとなった。つまり、援助要請スタイルに関わらず、援助要請者、援助者のいずれの立場においても、積極的に行動を起こすことで次の援助要請行動・援助行動に繋がることが結果として示された。
2−2.援助要請スタイルと援助要請行動・援助行動の結果評価、意識・態度・動機づけの関連性
まず、援助要請スタイル尺度によって群分けしたそれぞれの群が、実際に他の群と比較して援助要請行動と援助行動の結果評価に差があるのかについて検討を行った。
その結果、援助要請行動に対する結果評価について、援助要請自立群と援助要請過剰群、援助要請過剰群と援助要請回避群との間には差はなかったが、援助要請自立群と援助要請回避群との間には差がみられた。つまり、援助要請回避群よりも援助要請自立群の方が、援助要請行動を行うことが他者から助けてもらうことで難事が解決されたと認識しており、なおかつ援助をしてくれた人にとって自己変革・発展を遂げる役に立つ効果があったと認識していることが明らかとなった。
また、援助行動に対する結果評価について、援助要請過剰群と援助要請回避群との間のみ、「援助成果」の認識として差がある傾向がみられた。つまり、援助要請回避群よりも援助要請回避群の方が、援助行動を行うことが自分自身にとって自己変革・発展を遂げるために役に立つ効果があると認識しているということが明らかとなった。
次に、援助要請スタイル尺度によって群分けしたそれぞれの群が、実際に他の群と比べて援助・被援助に対する意識・態度・動機づけに差があるのかについて検討を行った。その結果、援助意識を除いた援助・被援助に対する意識・態度・動機づけについて、援助要請自立群と援助要請過剰群との間に差はみられなかったが、援助要請自立群と援助要請回避群、援助要請過剰群と援助要請回避群との間には差がみられた。つまり、援助要請自立群と援助要請過剰群は、援助要請回避群と比較して、援助行動に対しても援助要請行動に対しても、意識・態度・動機づけが肯定的、または積極的であることが明らかとなった。逆に、援助要請回避群は、援助・被援助に対する意識・態度・動機づけについて、他の群と比較して、援助行動に対しても援助要請行動に対しても、意識・態度・動機づけが否定的、または消極的であることが明らかとなった。
以上の結果から、援助要請自立群と援助要請過剰群は援助要請行動・援助行動のどちらに対しても結果評価が高く、意識・態度・動機づけが肯定的、または積極的であり、比較的似た性質を持っていることが明らかとなった。また、援助要請回避群は援助要請行動・援助行動のどちらに対しても結果評価が低く、意識・態度・動機づけが否定的、または消極的である性質が示された。
この結果は、仮説5の「援助要請スタイルによって、援助行動・援助要請行動(被援助行動)の結果評価と意識・態度・動機づけに差があるだろう」を支持する結果となった。
簡単にまとめると、援助要請スタイルによって、援助要請行動だけではなく援助行動にも影響があること、また、援助要請スタイルによって援助行動・援助要請行動(被援助行動)の結果評価と意識・態度・動機づけについて、援助要請自立群と援助要請過剰群は結果評価が高く、肯定的、または積極的な認識をしていること、援助要請回避群は他の群と比較して、結果評価が低く、否定的、または消極的であることが明らかとなった。