1. 実験の概要
研究2では、事前質問紙に回答後、配布された課題を読み、その課題ついて10分間グループ(4人)で話し合い、話し合いの終わった後に事後質問紙に回答するという流れで行った。
実験群には取り組む課題に場面例として漫画を使用し、ポジティブ感情を生起させた。
対象:地方の国立大学学部生23人(男性:14名、女性9名)
期間:12月下旬
場所:M大学教育学部棟2階の教室
実験協力者を学部、学年などが異なる初対面、もしくは初めて会話をするメンバーになるような4人を組み合わせ、グループを作成した。
作成したグループは4人グループ5つ、3人グループ1つの計6グループであり、実験群3グループ、統制群3グル―プ(3人の1グループを含む)であった。
2. 課題について
実験群で使用した課題(ポジティブ課題)には、ポジティブ感情を生起させるため、場面例として『日常』第1巻より引用した漫画1話分をワークシートに8ページに渡って貼りつけ、その後のページには、グループワークで取り組む課題「この場面のように、必ずやる気をださなければならない場合、どのようにすればよいか。できる限り有効だと考えられるアイディアを、たくさん考えてください。」という課題文を載せた。
統制群で使用した課題には、ポジティブ課題で使用した漫画を文章化し、場面例としてワークシートの1ページ目に載せた。2ページ目には、ポジティブ課題と同様の課題文を載せた。
以下に実験の詳しい流れを記す。
@予め設定した実験開始時間に、指定の場所に来た被験者から順番に整理番号をふり、その番号が書かれた指定の座席に座るように指示した。また、実験が開始するまでは誰とも話さず待つように指示した。被験者全員が揃った時点で実験を開始した。
Aこの実験の流れを簡単に説明し、事前質問紙を配布し、その表紙の実験の概要を確認してもらい、実験の協力、および音声・映像の撮影に関する同意をもらった。
時間を5分間設定し、事前質問紙に回答してもらった。全員の回答が終わるまで待ち、時間内に全員の回答が終了した場合には、そこで打ち切り、次へと移った。回答してもらった質問紙は、次に移る前に裏を向けた状態で順番に回収した。
B課題を実施する前に簡単な自己紹介をしてもらった。ここでは、自己紹介について整理番号1番の方から順に、学年、年齢、学部を明かさないように名前だけ紹介するようにと指示した。
C課題を配布し、2分間で目を通すように指示した。実験群(3グループ12名)には、ポジティブな感情を誘導するための漫画による課題(以下、ポジティブ課題)を配布し、統制群には、文章のみの課題を配布した。また、課題に目を通している様子、表情を調査するため、ビデオカメラ2台で記録した。
「この場面のように、必ずやる気をださなければならない場合、どのようにすればよいか。できる限り有効だと考えられるアイディアを、このグループでたくさん考えてください。時間は10分間設定します。」と指示し、10分間測定した。また、このグループワークの様子を後の分析のため、ビデオカメラ2台、ボイスレコーダー1台で記録した。
D課題後、すぐに事後質問紙を配布し、回答してもらった。時間は10分間と設定したが、全員が回答を終えるまで時間を延長した。回答実施が15分を超える場合には、自由記述部分について今書いている文章で回答を止めてもかまわないと指示した。
E全員の回答後、または15分以上経過した後、「この実験は課題によって誘導された感情が後の学習行動、グループワークにおいてどのように影響するかを調査する実験であった」また、「この場面例で使用した漫画(話)は漫画、『日常』より引用した」とデブリーフィングを行い、謝礼を渡し、部屋から退出してもらった。全員退出後、課題の載ったワークシートと質問紙Aを回収した。
4. 質問紙の構成
4-1. 事前質問紙
T.多面的感情状態尺度短縮版(寺崎・岸本・古賀, 1992)より、4下位尺度を使用した。「不安な」「悩んでいる」などの【抑鬱・不安】、「つまらない」「疲れた」などの【倦怠】、「活気のある」「元気いっぱいの」などの【活動的快】、「のどかな」「ゆっくりした」などの【非活動的快】各5項目、計20項目を使用した。教示文は「以下に、人の感情や気持ちを表すことばが並んでいます。一つ一つのことばについて、今のあなたはそれらの感情をどの程度感じていますか。最もあてはまると思う数字に○をつけてください。」で、項目の回答形式は「1.まったく感じていない」から「4.はっきり感じている」の4件法である。この尺度は、感情状態について「不快―快」だけでなく、覚醒レベルの側面からも測定することができるという特徴を持つ。これは感情操作を行う前の感情を測定し、事後質問紙の結果と比較して、感情状態の差を検討するために使用した。
U自己肯定意識尺度(平石, 1990b)より、「相手に気を配りながらも自分の言いたいことを言うことができる」「自分のなっとくのいくまで相手と話し合うようにしている」などの【自己表明・対人的積極性】1下位尺度7項目を使用した。教示文は「以下の各項目について、今のあなたに最もあてはまると思う数字に○をつけてください。」で、項目の回答形式は「1.あてはまらない」から「5.あてはまる」の5件法である。この尺度は、事後質問紙で測定する社会的動機づけに対応させ、検討するために使用した。
V.グループワークでの発話抵抗感を測定する項目として、磯田(2008)の英語スピーキング抵抗感尺度の【不安】【回避】の2下位尺度を参考に【不安】5項目、【回避】4項目の計9項目を作成した。教示文は「以下の各項目について、今のあなたはどのように感じていますか。最もあてはまると思う数字に○をつけてください。」で、項目の回答形式は「全く.あてはまらない」から「7.よくあてはまる」の7件法である。この尺度は、感情操作を行う前の発話に対する不安や抵抗を測定し、事後質問紙の結果と比較して、感情操作前後で発話に対する抵抗感の差を検討するために使用した。
4. 4-2. 事後質問紙
T.グループワーク時の課題に対する個人の思考について「今回のグループワークを通して、課題の答えとしてあなたが考えたことをできるだけたくさん以下に箇条書きで記述してください。」という教示で箇条書きによる自由記述を求めた。これは、グループワーク時に考えていた個人の思考数、アイディア数を計測するために使用した。
U.多面的感情状態尺度短縮版(寺崎ら, 1992)より、4下位尺度。事前質問紙Tと同様のものを使用した。
V.協同学習場面における社会的動機づけ尺度作成の試み(中西ら, 印刷中)の研究1の協同学習場面における社会的動機づけ尺度から、「グループのメンバーの頑張る姿に刺激をうけて自分も頑張ろうと思う」「グループの他のメンバーに助けてもらっているので自分も助けたいと思う」などの【他者からの刺激による動機づけ】9項目、「メンバーから尊敬されたいと思う」「メンバーから感謝されたいので、できるだけのことはしたいと思う」などの【メンバーからの被評価動機】5項目、「グループで仲間はずれにされたくないから協力しようと思う」「メンバーに嫌われたくないからできるだけのことはしたい」などの【メンバーからの被嫌悪回避動機】4項目、「グループの人の喜ぶ顔がみたいから努力したいと思う」「このグループのために、課題をやりとげたいと思う」などの【グループに対する貢献動機】4項目の4下位尺度、計22項目に、同論文の研究2の協同学習場面における社会的動機づけ尺度から「他の人が持っている違う視点からの意見に触れたいため、積極的に取り組もうと思う」「グループの中のやりとりで、違う考えに触れられるから、一生懸命やろうと思う」などの【他者からの知識影響に対する動機】1下位尺度、5項目を併せた計27項目を使用した。この尺度は「グループの人が困っていたら助けてあげたい」「メンバーに嫌われたくないからできるだけのことはしたい」など実験時の状態を尋ねる文章に一部修正して使用した。教示文は「みなさんが今回のグループワークでのときに感じたことや思ったことについてお尋ねします。以下の各項目について、最もあてはまる数字に○をつけてください。」で、項目の回答形式は「1.まったくあてはまらない」から「5.よくあてはまる」の5件法である。この尺度は、協同学習場面における社会的な動機づけを多面的に測定できる特徴を持ち、グループワーク時の他者志向動機などの社会的動機づけを検討するために使用した。
W.グループワークでの発話抵抗感を測定する9項目。事前質問紙のVと同様のものを使用した。
X.グループワーク、及びグループワークで扱った課題に対する楽しさ、おもしろさを測定するための項目として、大学生の自ら学ぶ意欲を測定する項目(桜井ら, 2006)の【おもしろさと楽しさ】を参考に4項目作成した。教示文は「今回のグループワーク、またはそこで扱った課題について、最もあてはまるものに○をつけてください。」で、項目の回答形式は「1.まったくあてはまらない」から「5.よくあてはまる」の5件法である。この尺度は、グループワーク時に感じた課題価値、興味価値について検討するために使用した。
Y.グループワーク中にどれだけ課題を追求し取り組んだかを測定する項目として、達成動機測定尺度(堀野, 1987)の【自己充実的達成動機】を参考に6項目作成した。教示文は「みなさんが今回のグループワークのときに感じたことや思ったことについてお尋ねします。グループワークで行った課題に対するあなたの考え(または行動)について、最もあてはまるものに○をつけてください。」で、項目の回答形式は「1.全然あてはまらない」から「7.非常によくあてはまる」の7件法である。この尺度は、提示された課題についてどれだけ高い目標を持ち、追求して考えようとしたか、課題追求のレベルを検討するために使用した。
Z.「会話に対する印象」尺度(小川, 2000)の「魅力のある―魅力のない」「息の合った―息の合わない」などの形容詞対16項目を使用した。教示文は「今回のグループワークの印象を、各項目について、最もあてはまると思う数字に○をつけてください。」で、7段階で評価を求めた。この尺度は、被験者自らが参加したグループワークの印象を評定するものであり、被験者自身が、参加したグループワークの印象、雰囲気についてどう感じたかを検討するために使用した。
[.グループワークに対する積極的参加の度合いを測定するため、西村(2013)のルーブリックから【グループへの参加】【他のメンバーの受容】【自己主張】【議論を深めるための質問】【結論の掘り下げ】の5項目を使用した。教示文は「今回のグループワークに、あなたはどれだけ積極的に参加しましたか。自己評価し、以下の各項目について、最もあてはまると思う文章の前のチェックボックスにレ点をつけてください。」で、各項目について4段階で自己評価を求めた。この尺度は、このグループワークにどれだけ積極的に参加したかを検討するために使用した。
\. グループワークによる個人の思考の変化について「今回のグループワークを通して、もともと持っていたあなたの意見や考えが変わったところがありましたか。変わった場合、どのように変わりましたか。以下に記入してください。」と教示し、自由記述を求めた。この項目は、グループワークが個人の思考にどのような変化を与えたかについて検討するために使用した。