2.筆記群と抑うつ傾向による気分得点の変化
本研究では「今日あったネガティブな出来事」をテーマに筆記を行ったため、ネガティブ気分得点の変化に焦点をあてて考察を行う。
構造化開示群において、抑うつ傾向高群は筆記1回目では減少したが、筆記2回目では増加した。抑うつ傾向低群では筆記1回目で増加したが、筆記2回目では減少した。一方非客観視群においては、抑うつ傾向高低両群ですべての回でネガティブ気分得点が減少した。以上より、仮説2は支持され、仮説3は支持されなかった。
仮説3が支持されなかった点について、まず、出来事に対して良い方向への捉え直しが行われていなかった可能性が推測される。CR得点を見ると構造化開示群の抑うつ傾向高群は筆記2回目のCR得点が筆記1回目のCR得点を下回っている。ここから、筆記を行ってもネガティブな出来事を再体験するだけに留まり、ネガティブ気分得点が高得点のまま維持されたと推測する。
認知的再体制化がされるためには、まずその出来事に対して慣れること(馴化)が必要であるといわれている(佐藤, 2012)。ネガティブに感じている出来事に慣れることで、その出来事から距離をおくことができ、その出来事からの影響を受けにくくなる。出来事から距離をおくことができれば、出来事に対する捉え方を変えやすくなり、認知的再体制化を行うことが可能になる。佐藤(2012)の研究では、同一の出来事を筆記する群のみで認知的再体制化による精神症状の緩和がみられた。同一の出来事を筆記することによって長時間その出来事について思考するため、異なる出来事を筆記することと比べて馴化が生じやすくなる。本研究では毎日異なるネガティブな出来事について筆記するよう教示しており、その出来事について思考する時間が短かったために馴化が起こりにくかった可能性が推測される。