3.抑うつ傾向と認知的再体制化の関連

 CR得点とポジティブ気分・ネガティブ気分得点の変化には相関がみられなかった。よって、気分の変化に対して認知的再体制化の効果はみられなかった。
この結果から、認知的再体制化が気分の向上に影響するためには、出来事の重大性が関連しているのではないかと推測する。筆記した出来事が現在の気分に大きく影響している場合、認知的再体制化を行うことで気分が向上することが考えられるが、本研究では、現在の気分に直接影響はしていないが「あえて」思い出したネガティブな出来事を筆記した可能性がある。すでに処理を終えた、あるいは現在の気分に影響を与えていないネガティブな出来事を再び思い出すこととなったために、気分が下降したのではないかと推測する。

 抑うつ得点とCR得点について検討を行ったところ、筆記1回目において負の相関がみられた。また、抑うつ傾向高低を独立変数、CR得点を従属変数とした一要因分散分析を行った結果、筆記2回目において、抑うつ傾向低群が抑うつ傾向高群と比較して有意に高いという結果が示された。
 本研究からは、抑うつ傾向の高い者はCR得点が低く、抑うつ傾向の低い者はCR得点が高いという結果が示され、仮説4は支持された。先述したようにうつ病者は、寛解後でも、軽度の抑うつ気分が引き金となってネガティブな思考パターンや記憶などの抑うつ的処理が容易に再活性化される(竹市・伊藤, 2010 ; Teasdale, 1999)とされており、本研究の結果からは抑うつ傾向の高い者が筆記開示の効果を得にくい可能性があると示唆することができる。