4.発散機会の有無と気分得点の関連
普段行っている感情の開示が本研究での筆記開示に影響を及ぼす可能性について検証する。
本研究の結果から、発散機会をもつ者は発散機会をもたない者と比較して、筆記1回目前のポジティブ気分得点が有意に低かった。一方で日記の有無は気分得点と関連を示さなかった。ここで筆記1回目前とは実験を行う前であり、実験協力者の普段の気分得点により近い時点であると考える。したがって、普段の気分得点に関して、発散機会をもつ者の方が低いということになる。
この結果は、近年問題視されている「SNS疲れ」と関連しているのではないかと推測する。加藤(2013)は、SNS疲れの背景に見知らぬ者からの接近に対しての嫌悪感やわずらわしさなど、複数の否定的感情が存在する可能性を示している。また、SNSに投稿する際、他者の視線を気にするあまり、本心をありのままに書くことができないこともSNS疲れの要因となっているのではないかと考えられる。そうした疲れを感じた結果として、発散機会をもつ者のポジティブ気分を恒常的に低めているのではないかと推測する。
さらに加藤(2013)は、調査に協力した全員がSNSでネガティブな体験を経験しているにも関わらずSNSの使用を継続している点に注目し、SNSを退会することによって既存の関係へ悪影響を及ぼす可能性が原因の一つではないかと推測している。SNS疲れを感じていながらも、SNSの利用をやめることができないことが考えられ、SNS疲れによるポジティブ気分の低下も避けることができないと推測する。筆記開示と同様に、SNSによってストレス低減効果を得るためには、自己のありのままを表出することや、周囲の反応を気にしすぎないことが重要であると考える。