3.今後の課題

 本研究では、その日に合ったネガティブな出来事をテーマに筆記開示を行ったが、その出来事の重大度や今の気分への影響を同時に尋ねることでより筆記開示の効果を厳密に検討することができたと考える。

 また、実験を行う際、ある程度長期間実験を行う必要があると考える。本研究では実験協力者を募る都合上、3日間と期間を定めたが、短期間での実験の場合ネガティブな出来事を思い出す作業自体がネガティブに作用する可能性が考えられるため、出来る限り長期間の実験を行うことが望ましいと考える。

 さらに、本研究では認知的際体制化の促進方法に男女差がみられる可能性を示唆することができたと考えるが、より明確に検証を行うために実験参加者を増やす必要があると考える。

 最後に、本研究では非客観視群の抑うつ低群で気分の向上がみられたが、抑うつ高群では気分の向上を示すことができなかった。近年、抑うつの持続や重症化に関連する心理的要因のひとつとして、反すう(rumination)があり、特に抑うつ的反すう(depressive rumination)が抑うつ気分を持続させる要因であることが、様々な実験や研究によって示されている(西川ら, 2013 ; Nolen-Hoeksema, 1991 ; Lyubomirsky & Nolen-Hoeksema, 1995 ; Nolen-Hoeksema, S., Larson, J., & Grayson, C., 1999 ; Nolen-Hoeksema, 2004)。
 またNolen-Hoeksemaら(1993)は、抑うつ気分について考え込むことがより気分を悪化・持続させ、不適応につながると考えており(西川ら, 2013)、筆記開示は抑うつ的反すうを断ち切るための手段のひとつであるといえる。より多くの人々が自助的にストレス低減効果を得ることが可能となる筆記方法の開発を進める必要があると考える。