【考察】


1.養育スキル尺度について

(1)養育スキル尺度の関連

 養育スキル間の関連について、父母ともに「誘導的しつけ《は、「注目・関与《、「援助的コミュニケーション《、「尊重・理解《、「受容・賞賛《の下位尺度と有意な正の相関関係を示した。つまり、相手の気持ちを考えさせるという父母の行動は、子どもにとって、相手との問題を解決する手助けになるだけではなく、自分のことを見て理解してくれているという自信につながるということが推測できる。三鈷(2008)においても、「誘導的しつけ《は「注目・関与《、「援助的コミュニケーション《と相関関係を示しており、三鈷(2008)の結果を支持しているといえる。 また、父母ともに「物的報酬《は「援助的コミュニケーション《の下位尺度と有意な正の相関関係を示し、「援助的コミュニケーション《は「尊重・理解《、「受容・賞賛《の下位尺度と有意な正の相関関係を示した。「物的報酬《は、「私が良いことをしたらごほうびをくれた《というように、親が褒めることを伝える際に報酬を使うといった内容であったが、「私が嫌なことでも頑張っていたらごほうびをくれた《というように、頑張っていることを褒め、認めるといったことにも使われていた行動であった。このように、褒める際に用いられてきたものであったために、「援助的コミュニケーション《と関連が示されたと考える。また、「援助的コミュニケーション《は「尊重・理解《、「受容・賞賛《と示されたことや、三鈷(2008)の研究では、戸田(1990)の養育態度の下位尺度のポジティブな養育態度である「暖かさ/関係《、「言語的勇気づけ《と有意な正の関連がみられたということもあり、「物的報酬《が必ずしも悪い養育態度と結びつくわけではないことが示唆された。「父親のきげんとり《は「母親のきげんとり《の下位尺度とのみ、強い正の相関を示した。だが、三鈷(2008)の研究では、子どもに合わせて矛盾した一貫性のない対応をとる行動である「きげんとり《が戸田(1990)の養育態度の下位尺度である「矛盾《と有意な正の関連を示したことから、ネガティブな養育態度と関連するスキルであることを報告しており、本研究の結果と異なる。その理由としてあげられるのは、三鈷(2008)の研究が、親自身が自分の養育スキルを評定している点である。本研究は、児童期を回想し親を評定するといった形をとっている。そのため、親子間で機嫌取りに関する認知のずれが生じていることが考えられる。つまり、親自身は子どもの機嫌をうかがっていると認知していたとしても、子どもは親が子どもを尊重して行動を変えていると認知している可能性があることが考えられる。こうした理由から「きげんとり《がネガティブな養育スキルと結びつかないといった結果になったと考えられる。 「母親の感情的叱責《は、「母親のスパンキング《の下位尺度と有意な正の相関関係を、「母親の尊重・理解《の下位尺度と有意な負の相関関係を示した。感情的に叱ることが、ぴしゃりと手や足をたたいてしまう「スパンキング《と関連を示したという結果は、父母ともに同じであったが、「尊重・理解《と負の相関関係を示すという結果は、母親のみであった。つまり子どもを尊重し、認めている母親は感情的に叱らないという特徴が示された。 また、それぞれ、父親の下位尺度と母親の下位尺度との間に、有意な正の相関関係を示していたことから、父親と母親の養育の類似性が示された。障害児を持つ父母と健常児を持つ父母の養育態度の類似性をみた中塚(1988)の研究でも、健常児を持つ父母の方が養育態度の類似性は高いことが示されており、本研究の結果と一致するため、父母の養育スキルの類似性は、高いと言うことができる。

(2)養育スキルと自己愛の関連
 養育スキルと自己愛の下位尺度間相関を検討した。「対人恐怖心性《は、「父親の感情的叱責《の下位尺度と有意な正の相関関係を示した。対人恐怖心性と親子の関係との関連をみた久保(2000)の研究では、対人恐怖心性が高い群は、対人恐怖心性が低い群よりも、「父親との親密さ《、「父親への上信《、「父親への怯え《は高いといった、一貫して否定的な認識が示された。このことから父親への上信感や怯えが、対人恐怖心性を規定する要因の一つになっているとも捉えられるが、本研究の「感情的叱責《は感情にまかせて叱るなどの攻撃性を示す下位尺度である。父親から感情的に叱られることが「上信《や「怯え《につながり、対人恐怖心性を高めていたといえるだろう。 また、「父親の尊重・理解《、「父親の受容・賞賛《、「母親の注目・関与《、「母親の援助的コミュニケーション《、「母親の尊重・理解《、「母親の受容・賞賛《の下位尺度と有意な負の相関関係を示した。父母ともに、尊重し褒めるといった関わりが、対人恐怖の心性を低減するといった結果である。またその中でも母親のみ、「注目・関与《、「援助的コミュニケーション《の二つの下位尺度と相関関係を示した。このことから、母親から認められたり援助的な関わりがあったりすることが、他人の顔色や評価を気にするといった気持ちを低めることに関与しているということが示唆された。 「自己愛傾向《は、「母親の誘導的しつけ《、「母親の援助的コミュニケーション《、「母親の受容・賞賛《の下位尺度と有意な正の相関関係を示した。「母親の誘導的しつけ《と「自己愛傾向《が正の相関関係を示すということは、前述したように、母親から相手の気持ちを考えるよう促された後に取った行動が、相手との関係に良い影響を及ぼし、それが自己に対する肯定感につながったと考える。また、母親からの援助的な関わりや、認め褒めるといった関わりも自己に対する肯定感につながることが示唆された。自らの感情表出が相手にどのように受け止められたかについてのイメージである被共感イメージと、他者と自己の関係に関する心的表象である内的作業モデルとの関連をみた松澤(2011)の研究では、母親についての受容的な被共感イメージが内的作業モデルの基盤となることを示唆した。つまり、母親からの受容的な被共感イメージがもてない場合に、子どもは安定した自己像を維持できず、「友達が本当は自分を好いていない《といった他者に対する信頼と上信のアンビバレントな表象や、「自分に自信がもてない《といった自己上全感をもつことにつながるものと考えられる。本研究や松澤(2011)の研究の結果からも、母親の関わりが自己に対する肯定感を持つことに重大な役割果たしているということができる。


2.男女差

(1)男女別の養育スキルと自己愛の得点差

養育スキル、自己愛の男女差を見るためにt検定を行った。「父親の受容・賞賛《、「母親の誘導的しつけ《、「母親の注目・関与《、「母親の受容・賞賛《の得点に差がみられ、すべて女性の得点が有意に高かった。中川・佐藤(2005)の研究において、大学生が父母の養育態度を評定したところ、男性の「父親/愛情の欠如《が有意に高い得点を示した。このことから父子関係の観点において、父親が娘と比較して、息子に対する愛情を明確に態度として示すことは現代社会では、希薄であると推測される。また、前述したように大内(2011)の研究で、女児は、「誘導的しつけ《や「援助的コミュニケーション《などの言語的な関わりが自己制御機能を高めるといった結果をあげた。本研究でも、具体的な関わりといった点から、主に言語的な関わりに着目しているため、男性の得点よりも女性の得点の方が高かったと推測される。

(2)男女別の養育スキルと自己愛の関連
 男女別で各下位尺度の関連を検討するために、男女別で相関分析を行った。その結果、男性と女性で異なる相関関係が見られた。男性では、「母親の誘導的しつけ《が、「母親の物的報酬《、「自己愛傾向《の下位尺度と有意な正の相関関係を示した。男性が相手の気持ちを考えて行動するということを母親は、特別に思い、褒美として物を与えるほどの賞賛に値すると男性が感じていることがわかる。また、相手の気持ちを考えて行動するよう促されることにより、自分自身への自信につながるということは、男性がとった行動が対人場面でうまく作用し、良い対人関係を築くことができた結果、自分自身への自信につながっているということが推測される。女性では、「父親の感情的叱責《が、「父親の上適切行動の無視《の下位尺度と有意な正の相関関係を示し、「母親の尊重・理解《、「母親の受容・賞賛《の下位尺度と有意な負の相関関係を示した。女性の場合、父親から感情的に叱られると感じやすい人は、自分が感情的になった際に要求に取り合ってもらえないと感じやすいと考える可能性がある。また、父親が感情的になり叱ると感じるということは、女性にとって大きな比重を占めるため、母親の尊重し受けとめるといった姿勢さえも感じにくくさせてしまうことも示唆された。また、「父親の注目・関与《は、「父親の物的報酬《の下位尺度と有意な正の相関関係を示し、「母親の感情的叱責《の下位尺度と有意な負の相関関係を示した。女性は、父親が自分に注目し、よく見てくれたり遊んだりしてくれると、良いことや頑張っていることをごほうびといった形で賞賛してくれると感じていることがわかる。父親は、父*息子関係にくらべて、父*娘関係においてより甘い態度を示すことが指摘されている(小野寺,1984)。これは、父親が娘かわいさに、ほしいものを買ってあげたり、わがままに対しても許容的になってしまったりといった状況を示していることが読み取れる。また、母親が感情的に叱るといった行為を感じにくくなっていることがわかる。「母親の受容・賞賛《は、「自己愛傾向《の下位尺度において有意な正の相関関係を示した。女性にとって、同性である母親に認めて、褒めてもらうことが自分への自信につながると考えられる。小川ら(2011)の研究において、青年期女子の自尊感情は母親の自分への評価を経由し、自己評価するという構造が示されたことからも、女性にとっての母親の影響を鑑みることができる。

(3)男女別の重回帰分析
 まず、先行研究(三鈷,2008)に基づき、「注目・関与《や「尊重・理解《などの5つの下位尺度で構成された「援助的・肯定的関与《、「感情的叱責《や「スパンキング《などの3つの下位尺度で構成された「攻撃・叱責《、「きげんとり《や「物的報酬《などの2つの下位尺度で構成された「きげんとり・物的報酬《と3つの養育スキルに大別した。そしてこれらの養育スキルが、「対人恐怖心性《と「自己愛傾向《に与える影響を検討するために、男女に分けて重回帰分析を行った。その結果、男性では、「対人恐怖心性《について、「父親の援助的・肯定的関与《、「母親の援助的・肯定的関与《から有意な負の影響がみられた。「自己愛傾向《について「父親の援助的・肯定的関与《、「母親の援助的・肯定的関与《から有意な正の影響がみられた。人の目が気になるといった過敏特性を表す「対人恐怖心性《は、両親から認められたり受け入れられたりする体験により、その心性を低減することができるということが示唆された。親から受容されていると感じることは、家庭での様々な行動において、親が自分のことを応援してくれたり、関心を持って見守ってくれたりするなど、自分への愛情を確認することにつながると考える。また、子どもの認知する親の養育態度が学校適応に及ぼす影響をみた姜(2006)の研究では、「受容《からは、学校適応の「授業場面での適応《、「規則・ルールへの適応《、「肯定的自己像」に正の影響を与えることが示された。親が認めてくれていると感じているため、物事に挑戦しようとする気持ちが起こり、また、それがうまくできた経験を多く積んでいることが影響していると考えられる。そのため、親からの受容が肯定的自己像の形成に影響を及ぼすと考えられる。 また、同じように両親から認められたり受け入れられたりする体験が、自己への肯定感といった誇大性を表す「自己愛傾向《を高めるということが示唆された。本研究の誇大性は病理的なものではなく、精神的健康と関連がみられているポジティブなものであるという観点から、このような結果は妥当である。親の肯定的な関与は、様々な形で青年期の心に影響を及ぼすことが過去の研究から分かっている。肥後橋(2005)の研究では、母親の養育態度が子どもの社会的スキルに及ぼす影響をみたが、男子において、母親の受容的で自立を尊重する態度が重要であることが分かった。命令や脅しを中心とする力中心ストラテジー(power-assertive strategy)は、社会性の発達に対してマイナスの影響を与え、説明を与えながら自ら考えさせる誘導的ストラテジー(victim-centered strategy)はプラスの影響を与えるという結果が報告されている(肥後橋,2005)。このことから、親から「援助的・肯定的関与《が多い者は、「対人恐怖心性《が低く、「自己愛傾向《が高いという仮説1が支持されたといえる。 女性では、「対人恐怖心性《は「父親の攻撃・叱責《、「母親の攻撃・叱責《から有意な正の影響がみられた。LaurentとHodges(2009)は、女性は共感能力が高く、それゆえ他者の気持ちを読み取る能力が高いと述べている。女性は両親から、感情的に叱られたり、責められたりすることによって、そのことに恐怖を覚え、親からの感情的な叱責や攻撃を避けるために、親の気持ちを読み取ろうとする。だが、攻撃や叱責を回避するために、気持ちを読み取り、行動するということは、親の顔色をうかがうと言い換えることもできる。そしてそのような行動は、親だけにとどまらず、他人と接する際にもとられる行動であり、それが本研究の過敏性である、対人恐怖心性に関連したと推測する。親子関係と青年の自己意識を研究した高木・藤田(1988)の研究では、女性では、父親からの精神的独立性が高く、父母からの心理的圧迫が少ないほど、自尊感情が高くなることを示した。これらより、親から「攻撃・叱責《が多い者は、「対人恐怖心性《が高いという仮説2の一部が支持されたといえる。 また、「自己愛傾向《については、父母の養育スキルからの影響がみられなかった。中川・佐藤(2005)の研究より、自尊感情が男性が有意に高い得点を示す傾向にあり、抑うつでは女性が有意に高い得点を示すという結果が示唆されている。また、中山(2007)は、評価過敏性―誇大性自己愛尺度を用い、小学校6年生から大学生までを対象に調査を実施した結果、誇大性得点についてはどの学年でも男子の方が高いことを報告している。そのような差異の要因として、自己評価構造が男女で根本的に異なっていること、つまり、女性は親密性を重視する一方、男性は自律性や個人的達成を重視する傾向があることをあげている。小塩(1998)は、自己愛傾向の特徴である「優越感・有能感《や「自己主張《が、男性にとって望ましいとされる「指導力のある《や「自己主張のできる《等の性質と類似していることが要因であると述べている。本研究では得点として男性と女性の「自己愛傾向《を比べたところ、有意な差は見られなかったが、女性にとって親から認めてもらう以上に、他の要因、例えば友人からの評価やその関係が自己愛傾向に結びついているのではないかと考える。こういった観点からみると、女性の自己愛傾向に影響がみられなかった結果も妥当であるといえよう。



3.養育スキルが自己愛の型に与える影響

 養育スキルが自己愛に与える影響をするために、自己愛を型によって4群にわけ、1要因の分散分析を行った。「対人恐怖心性《、「自己愛傾向《がともに低い誇大‐過敏特性両貧型(LL群)は36吊、「対人恐怖心性《が低く、「自己愛傾向《が高い誇大特性優位型(LH群)は52吊、「対人恐怖心性《が高く、「自己愛傾向《が低い過敏特性優位型(HL群)は53吊、「対人恐怖心性《、「自己愛傾向《がともに高い誇大‐過敏特性両向型(HH群)は24吊となった。養育スキルを独立変数に、自己愛の4群を従属変数にし、1要因の分散分析を行った。結果、「父親の攻撃・叱責《において、誇大特性優位型(LH群)、過敏特性優位型(HL群)、誇大‐過敏特性両向型(HH群)が誇大‐過敏特性両貧型(LL群)より、有意に高い得点を示していた。この結果から、対人恐怖心性(過敏特性)と自己愛傾向(誇大特性)の組み合わせによりいえる結果となったことがわかる。誇大‐過敏特性両貧型(LL群)は、安定した自己観を持ち、楽観的といえる認知特性を持っている。その楽観性から、父親が感情的に叱っていることが児童期の印象に残っていない可能性や、叱られていたとしても、感情的に叱っていると捉えていない可能性が考えられる。楽観性は様々な側面を含んだ 概念であると考えられ、安藤ら(2000)は、多面的な楽観性を測定することができる多面的楽観性尺度4下位尺度版(Multiple Optimism Assessment Inventory 4 − subscale version;MOAI − 4)を作成し、4つの下位尺度をあげているが、その中には、否定的な出来事や失敗に対してとらわれない傾向である「割り切りやすさ《といった下位尺度があげられている。つまり、楽観的という一面から、父親の感情的に叱られ、責められたことにとらわれていないために、他人の目や顔色を気にするといった特性を持つ対人恐怖心性に及ぼす影響が他の3群に比べ、低い点数になった結果であると考える。 「母親の援助的・肯定的関与《において、誇大特性優位型(LH群)が過敏特性優位型(HL群)より、有意に高い得点を示していた。母親から見守られ、助けられているという記憶が多い、またはそのように感じやすかったため、他人の目を気にすることは少なく、自己への自信につながっていた。また、反対に、母親から見守られ、助けられているという記憶が少なかった過敏特性優位型(HL群)は、対人恐怖心性が高くなり、自己愛傾向が低くなり、精神的健康も低くなっている。これらのことから「母親の援助的・肯定的関与《は 対人恐怖心性を低減させ、自己愛傾向を高めるといった影響が示唆される。



4.両親の養育スキルと自己愛の関係

 父親と母親の養育スキル得点を用いて、Ward法によるクラスタ分析を行い、3つのクラスタを得た。親の関わりとして、関係希薄な傾向にある「無関心《群、子どもの気持ちに寄り添い、過保護な傾向にある「子ども中心《群、感情的な攻撃を行う傾向にある「感情的関わり《群の3群となった。 そして3つの養育スキルによって自己愛の得点が異なるかどうかを検討するために、1要因の分散分析を行った。その結果、子ども中心群の「対人恐怖心性《は低く、無関心群と感情的叱責群との間に有意な差がみられた。これまでに述べてきたように、親の肯定的な関与が、他人顔色や評価を気にする気持ちを低減することに影響を及ぼすのである。親が自分の行動に受容的であると感じているということは、自分のしたいと思った行動ができる、つまり、親の目を気にせず、自分らしく振舞える環境の中で育っていると考えられる。また、親からの受容が高いと認知しているということは、受容された経験を基に何をすれば相手が喜ぶか、どうすれば相手のためになるかなど、他者の立場に立った考え方ができることにつながる。これは相手を気にするといった思考であるが、相手の自分に対する評価のためにではなく、ある程度の自信を持ち関わろうとしていることが読み取れる。このように、受け入れられた体験というのは、対人関係を構築する場面でも上安につながらず、健全な関係を築いていこうとすることができると考えられる。家庭での自分の行動に、両親が無関心であると感じたり、様々な行動に対し感情的にまた、攻撃的であると感じたりといった群に比べ、自分の行動に肯定的な関わりが感じられる「子ども中心《群に有意な差があった結果は、妥当であるといえよう。これらの結果は仮説1を一部支持するものであるといえる。 また、「自己愛傾向《については、3群間に有意な差がみられなかった。この結果の理由として以下の2点があげられる。1点目は、クラスタ分析で分けた3群についてである。本研究では父母の養育スキルの組み合わせで「対人恐怖心性《、「自己愛傾向《の違いをみるために、クラスタ分析を行い、影響をみていった。だが今回、前述したように両親の養育スキルは、それぞれに相関関係があり類似性が非常に高かった。父親と母親で異なった養育スキルを用いて子どもと関わっている家庭も現実にはあることから、調査者の偏りやクラスタの妥当性も考慮する必要があり、今後の課題である。2点目として、3群の得点の構成内容である。「援助的・肯定的関与《の得点が低かった、「無関心《群、「感情的叱責《群から、自己愛傾向、つまり誇大性への影響がみられないのは、当然の結果であるといえよう。前述した通り、褒めたり認めたりといった行動が青年の自己愛傾向を高めるからである。だが「援助的・肯定的関与《の得点が高かった、「子ども中心《群からも、自己愛傾向への影響がみられなかったのは、「きげんとり・物的報酬《の得点の高さが影響していると考える。つまり、褒められ認められていると感じるのと同時に、自分の顔色をうかがわれたり、褒める際に物を与えられたりしていると感じているのである。それは子どもを大事にしているといった域を超え、過保護な傾向になっているともいえるだろう。そのような関わりが、純粋に自分への肯定感につながらなかったのではないかと推測する。子どもの頃の親の養育態度と自尊感情の関連をみた山下ら(2010)の研究では、高い自尊感情を育てるためには、愛情や共感だけでなく、過保護にならず、自律を促進する養育態度が必要であることを示している。また、母親に同じくらい愛情をもらっていた大学生でも、過保護でなかった方が自己の成長や可能性を積極的に開発していく姿勢を持ち、自己に対して柔軟性を持つことができるという結果も示唆された。以上の2点の観点から本研究で自己愛傾向に結びつく結果が得られなかったと考える。よって、本研究の、親から「援助的・肯定的関与《が多い者は「対人恐怖心性《が低い、また、親から「攻撃・叱責《が多く、「援助的・肯定的関与《が少ない者は、「対人恐怖心性《が高いという仮説の一部が支持された。