結果
回答に不備がみられたものを除外し、215名(男子115名、女子100名)を分析の対象とした。平均年齢が19.3歳、標準偏差が1.10であった。
1.感情制御能力尺度の因子分析
感情制御能力
まず、感情制御能力尺度24項目の平均値、標準偏差を算出した。24項目に対して主因子法・promax回転による因子分析を行った。固有値の変化は、4.46 ,3.63 ,2.13 ,1.67・・・というものであり、2〜3因子構造が妥当であると考えられた。負荷量の低い項目であった2項目を削除し、負荷量と解釈可能性の観点から3因子を抽出した。
第1因子は、9項目で構成されており、「自分の行動と気持ちがどう関係しているかわからなくなることがある」「自分の身体の調子がどうなっているか分からない方が多い」など、自己の感じた感情を自覚・受容できる能力に関する内容の項目が高い負荷量を示していたことから、「感情の受容・自覚」と命名した。
第2因子は、7項目で構成されており、「ある場面で他のことが求められていることに気がつけば、それに応じて自分の行動を調整していくことができる」「ある場面で求められていることが分かれば、それに合わせて自分の行動を調整していくことはたやすい」など、
どのように感じていても周囲や人に合わせて、自分の行動を変えていくことができるという内容の項目が高い負荷量を示していたことから、「行動調整」と命名した。
第3因子は、6項目で構成されており、「怒りや悲しみなどネガティブな感情をあまり持ちたくないときは、その状況についての捉え方を改める」「ポジティブ感情をより多く持ちたいと思ったときは、その状況についての捉え方を改める」など自分の置かれた状況について、感情を変容して状況を再評価しようする内容の項目が高い負荷量を示していたことから、「状況の再評価」と命名した。
因子分析結果において、各因子の項目の素点の平均値をそれぞれ「感情の受容・自覚」下位尺度得点、「行動調整」下位尺度得点、「状況の再評価」下位尺度得点とした。内的整合性を検討するために、クロンクバックのα係数を算出したところ、「感情の受容・自覚」でα=.83、「行動調整」でα=.82「状況の再評価」でα=.73と十分な値がみられた。
感情特性
因子構造は寺崎・古賀・岸本(1994)の感情特性尺度にならった。まず、感情特性と各下位尺度である「不安・抑うつ」「倦怠」「非活動的快」「活動的快」「親和」「敵意」の平均値、標準偏差を算出した。また天井効果・フロア効果を算出した結果、「敵意」因子5項目のうち3項目にフロア効果がみられたので「敵意」因子をその後の分析から除外した。下位尺度ごとにクロンクバックのα係数を算出した結果、「抑うつ・不安」でα=.86、「倦怠」でα=.84、「非活動的快」でα=.90、「親和」でα=.90、「敵意」でα=.89と十分な値がみられた。
公的自己意識
因子構造は菅原(1984)の公的自意識尺度にならい1因子構造とした。まず公的自己意識尺度の平均値・標準偏差を算出した。1項目にフロア効果がみられたため、残り10項目をその後の分析に使用した。α係数を算出した結果、α=.88と十分な値がみられた。
自尊感情
因子構造は山本・松井・山成(1982)によって作成された自尊感情尺度にならい1因子構造とした。まず自尊感情尺度の平均値・標準偏差を算出した。α係数を算出した結果、α=.84と十分な値がみられた。
2.各下位尺度間の相関
(1)各尺度内での下位尺度間の関連
Table3より感情制御能力の下位尺度である「感情の受容・自覚」と「行動調整」(r=.16,p<.05)の間に有意な正の相関、「行動調整」と「状況の再評価」(r=.27, p<.01)との間に有意な中程度の正の相関がみられた。次に感情特性の下位尺度間の関連について、「不安・抑うつ」と「倦怠」「活動的快」(順にr=.42,p<.01,r=-24,p<.01)の間に有意な相関、「非活動的快」と「親和」(r=.17,p<.05)との間に有意な相関、「倦怠」と「活動的快」(r=-.27,p<.01)との間に有意な負の相関、「活動的快」と「親和」(r=-.39,p<.01)の間に有意な正の相関がみられた。
(2)感情制御能力と感情特性の下位尺度間の関連
Table3より、感情制御能力の下位尺度である「感情の受容・自覚」と「不安・抑うつ」「倦怠」(順にr=.-50,p<.01,r=-.31,p<.01)との間に有意な負の相関がみられた。また、「行動調整」と「倦怠」、「親和」「活動的快」(順にr=.-17,p<.05,r=.15,p<.05,r=.32,p<.01)との間に有意な相関、「状況の再評価」と「非活動的快」「親和」「活動的快」(r=.14,p<.05,r=.13,p<.05,r=.22,p<.01)との間に有意な正の相関がみられた。
(3)公的自己意識と感情制御能力、感情特性の下位尺度間の関連
Table3より、「公的自己意識」は「感情の受容・自覚」(r=-.26,p<.01)との間に有意な負の相関、「不安・抑うつ」(r=.41,p<.01)との間に中程度の正の相関、「行動調整」「非活動的快」「親和」(r=.20,p<.01,r=.15,p<.05,r=.29,p<.01)との間に弱い正の相関がみられた。
(4)自尊感情と感情制御能力、感情特性、公的自己意識の下位尺度間の関連
Table3より、「自尊感情」と「感情の受容・自覚」「活動的快」「不安・抑うつ」(r=.53,p<.01,r=.47,p<.01,r=-.53,p<.01)との間に中程度の相関、「行動調整」「感情変容」「親和」(r=.31,p<.01,r=.14,p<.05,r=.16,p<.05)との間に弱い正の相関、「公的自己意識」(r=-.17,p<.05)との間に弱い負の相関がみられた。
3.男女差の検討
男女差の検定を行うために、各下位尺度についてt検定を行った。その結果、公的自己意識尺度(t=2.06,df=214,p<.05)においてのみ、男子よりも女子の方が有意に高い得点を示していた。
4.共分散構造分析による検討
自尊感情への影響を検討するため、感情特性、公的自己意識、感情制御能力を独立変数、自尊感情を従属変数として、共分散構造分析を行った。仮説モデルをFigure1として次ページに示す。
この仮説モデルで適合度を検討したところGFI=.806,AGFI=.667,CFI=.599,R MSEA=.159となり適合度に問題があったため、修正指数にしたがってモデルを修正した。
感情特性の下位尺度間、公的自己意識に相関を仮定、重回帰モデルで検討を行ったところ、GFI=.968,AGFI=.934,CFI=.984,RMSEA=.035という十分な適合度を得ることができたため、このモデルを採用した。採用したモデルをFigure2として次ページに示す。
感情制御能力の下位尺度の誤差の間に有意な正の相関がみられた。また、独立変数である公的自己意識と不安・抑うつの間に有意な正の相関(r=.41,p<.001)がみられた。
(1)感情特性、公的自己意識から感情制御能力への影響
「不安・抑うつ」から「感情の受容・自覚」(β=-.49,p<.001)に有意な負の影響がみられた。また「活動的快」から「行動調整」(β=.31,p<.001)「状況の再評価」(β=.22,p<.01)に有意な正の影響がみられた。さらに、「公的自己意識」から「行動調整」(β=.16,p<.05)に有意な正の影響がみられた。
(2)感情制御能力から自尊感情への影響
「感情の自覚・受容」と「行動調整」から自尊感情(順にβ=.35,p<.001,β=.12,p<.05)に正の影響がみられた。
(3)感情特性から自尊感情への直接効果、感情制御能力を介した自尊感情への間接影響、感情特性から感情制御能力を介した自尊感情への総合効果
「不安・抑うつ」から「自尊感情」(β=-.26,p<.001)に負の影響がみられた。また間接効果として「不安・抑うつ」から「感情の受容・自覚」(β=-.49,p<.001)を介して「自尊感情」(β=.35,p<.001)に正の影響がみられた(間接効果β=-.17)。総合効果として「不安・抑うつ」から「自尊感情」への総合効果として負の影響がみられた(総合効果β=-.43)。
「活動的快」から「自尊感情」(β=.34,p<.001)に正の影響がみられた。また、間接効果として「活動的快」から「行動調整」(β=.31,p<.001)を介して「自尊感情」(β=.12,p<.05)に正の影響がみられた(間接効果β=.04)。総合効果として「活動的快」から「自尊感情」への総合効果として正の影響がみられた(総合効果β=.38)。
5.多母集団同時分析による因果モデルの検討
次に修正したモデルを用い、性別による多母集団同時分析を行いそれぞれの因果モデルを構成した。適合度指標はGFI=.923,AGFI=.850,CFI=.927,RMSEA=.051となり十分な適合度であると判断した。
(1)感情特性、公的自己意識から感情制御能力への影響
男女ともに「不安・抑うつ」から「感情の受容・自覚」(男β=-.28,p<.01,女β=-.68,p<.001)に負の影響を与えていた。また「活動的快」から「行動調整」(男β=.33,p<.001,女β=.27,p<.01)、「状況の再評価」(男β=.23,p<.05,女β=.19,p<.05)に正の影響を与えていた。
また、男子においてのみ「公的自意識」から「行動調整」(β=.18,p<.05)に正の影響を与えていたが、女子においてはパスが引けなかった。
(2)感情制御能力から自尊感情への影響
男女ともに「感情の自覚・受容」から「自尊感情」(男β=.27,p<.001,女β=.47,p<.001)に正の影響を与えており、この差は有意であった(z=2.35,p<.01)。また男子においてのみ「行動調整」から「自尊感情」(β=.20,p<.01)に正の影響を与えていたが、女子においては「行動調整」から「自尊感情」にはパスが引けなかった。
(3)感情特性から自尊感情への直接効果、感情特性から感情制御能力を介した自尊感情への間接効果、感情特性から感情制御能力を介した自尊感情への総合効果
男女ともに「不安・抑うつ」から「自尊感情」(男β=-.22,p<.01,女β=-.18,p<.05)に直接に正の影響を与えていた。また間接効果として「不安・抑うつ」から「感情の自覚・受容」(男β=-.28,p<.01,女β=-.68,p<.001)を介して「自尊感情」(男β=.27,p<.001,女β=.47,p<.001)に負の影響がみられた(間接効果 男β=-.08,女β=-.32)。
総合効果として「不安・抑うつ」から「自尊感情」へ負の影響がみられた(総合効果 男β=-.29 女β=.-50)。
また「活動的快」から「自尊感情」(男β=.37,p<.001,女β=.34,p<.001)に直接に正の影響を与えていた。また男子のみ間接効果として「活動的快」から「行動調整」(男β=.33,p<.001)を介して「自尊感情」(男β=.20,p<.01)に正の影響を与えていた(間接効果β=.07)。さらに男子のみ「活動的快」から「自尊感情」への総合効果として正の影響(総合効果β=.38)がみられた。
男子においてのみ間接効果として「公的自意識」から「行動調整」を介して「自尊感情」に正の影響がみられた(間接効果β=.04)が「公的自己意識」から「自尊感情」への直接効果はみられなかった。
男子においてのみ「非活動的快」から「自尊感情」(β=-.21,p<.001)に直接に正の影響を与えており、女子においてパスは有意ではなかったが、差は有意であった(z=2.86,p<.001)。