要旨




本研究の目的@として感情を自覚してから行動表出するまでの包括的な定義を感情制御とした感情制御能力の高さを測る尺度の作成、
A感情制御能力のメリットを検討するため内的適応の指標として自尊感情を挙げ、感情制御能力から自尊感情への影響を検討、
B能力を規定する要因の検討のため、感情特性・公的自己意識から感情制御能力への影響を検討することであった。
目的AB検討のため、構造方程式モデリングによる仮説モデルを作成し、共分散構造分析による検討を行った。

感情制御能力尺度については山田・杉江(2013)の感情制御困難性尺度を基に、感情制御能力尺度を作成し、因子分析を行った結果、
本研究における感情制御能力は(1)自己感情を自覚・受容する能力(2)感情にかかわらず、周りの状況から行動を変容できる能力
(3)自己感情をコントロールすることで状況を再評価する能力の3領域であることが示唆された。

次に感情制御能力から自尊感情への影響を検討した結果、「感情の自覚・受容」が自尊感情に正の影響を及ぼしており、
感情制御能力の中でも感情を自覚して受容できるかどうかという感情を認識する側面の重要性が示唆されたといえる。
女子について男子よりも有意に影響が強くみられた点については、自己の内面的-外面的な否定的側面が内的準拠枠として機能しているという
青年期女子のself-esteemの自己認知的特徴(三田,2004)からだと考えられる。

感情特性、公的自己意識から感情制御能力への影響について感情特性の中でも「不安・抑うつ」が「感情の自覚・受容」に負の影響を与えていた。
不安障害、鬱病などの精神病患者は不安・抑うつといった感情がうまく制御できないことが指摘されている。本研究では一般大学生を対象としたが、
不安・抑うつを強く感じやすい者は自己感情・身体感覚の自覚・受容の困難に陥る場合もあることが示唆される。
また、「活動的快」が「行動調整」「状況の再評価」に正の影響を与えていた。ポジティブな特性は結果予期、効力予期を高め、
それらは対人相互作用量を増加させること(水子・手崎・金光,2002)が示されており、そのような中では行動を調整することが多く行われると考えられる。
公的自己意識からの影響について男子においてのみ「公的自己意識」から「行動調整」に有意な正の影響がみられたが影響は小さく、
公的自己意識が行動調整に影響する過程には行動を調整する自分の意識、動機、理由や他者評価懸念など他の要因が媒介する可能性が示唆された。
また本研究における課題として質問紙法による感情の測定の限界など課題が残った。