-結果-
1.尺度構成の検討
1-1.自己受容尺度の分析
まず、自己受容尺度19項目の平均値、標準偏差を算出した。そして、フロア・天井効果のみられた1項目
を以降の分析から除外した。
次に残りの18項目に対して最尤法・Promax回転による因子分析を行った。その結果、3因子を抽出した。
第1因子は、7項目で構成されており、「9, 現在の自分を受けいれている」「8, 良いところも悪いところも含めて
これが自分だと思える」など、自分自身を全体として捉えたときに受容できるか否かを尋ねた項目に高い負荷量を
示していたことから、【全体としての自己受容】因子と命名した。
第2因子は、7項目で構成されており、「18, 物事がうまくいったとき、自分自身を自然に認めることができる」
「11, 自分の素敵なところを素直に良いと思える」など、自分自身の望ましい事柄に関する受容の項目に高い
負荷量を示していたことから、【望ましい自己受容】因子と命名した。
第3項目は、3項目から構成されており、「3, 『今とは違う自分だったらなぁ』と思う(逆転項目)」「19,
これまでの人生をやり直したい(逆転項目)」など、項目内容をそのまま捉えると、自分自身を変えたいという
変化希望に関する因子と考えられる。しかし、今回は自己受容尺度としての整合性を保つために逆転項目として
処理を行い、【現状満足】因子と命名した。
因子分析結果において、各因子の項目の素点の平均値をそれぞれ【全体としての自己受容】下位尺度得点、
【望ましい自己受容】下位尺度得点、【現状満足】下位尺度得点とした。内的整合性を検討するために、
Cronbachのα係数を算出したところ、【全体としての自己受容】でα=.86、【望ましい自己受容】でα=.79、
【現状満足】でα=.73と、十分な値が得られた。
1-2.他者受容尺度の分析
まず、他者受容尺度17項目の平均値、標準偏差を算出した。そして、フロア・天井効果のみられた2項目を
以降の分析から除外した。
次に、残りの15項目に対して最尤法・Promax回転による因子分析を行った。その結果、1因子を抽出し、
他者受容尺度は1 次元構造であることが明らかとなった。
因子は15項目で構成されており、他者受容に関する項目が広く集まっていることから、【他者受容】
因子と命名した。
因子分析の結果において、因子の項目の素点の平均値を【他者受容】下位尺度得点とした。内的整合性を
検討するために、Cronbachのα係数を算出したところ、α=.88と十分な値が得られた。
1-3.セルフ・モニタリング尺度(JRSM)の分析
まず、セルフ・モニタリング尺度(JRSM)13項目の平均値、標準偏差を算出した。そして、フロア・天井
効果はみられなかったため、13項目に対して最尤法・Promax回転による因子分析を行った。その結果、
2因子を抽出した。
第1因子は、7項目で構成されており、「10, どのような状況でも、その状況にあわせて、ふるまうことが
できると思う」「1, 周りの状況にあわせて、自分の振る舞いを変えていくことができる」など、様々な状況に
おいて自らの振る舞いを変えられるか尋ねた項目に高い負荷量を示していたことから、【自己呈示変容能力】
因子と命名した。
第2因子は、5項目で構成されており、「6, 他の人が嘘をついているのをほぼ見分けることができる」「11,
相手の様子から、私に嘘をついているとすぐに分かる」など、他者の行動に対して敏感に察知できるかどうか
尋ねた項目に高い負荷量を示していたことから、【他者行動に対する察知能力】因子と命名した。
因子分析結果において、各因子の項目の素点の平均値をそれぞれ【自己呈示変容能力】下位尺度得点、
【他者行動に対する察知能力】下位尺度得点とした。内的整合性を検討するために、Cronbachのα係数を
算出したところ、【自己呈示変容能力】でα=.79、【他者行動に対する察知能力】でα=.78と十分な値が
得られた。
1-4.対人ストレスイベント尺度の分析
まず、対人ストレスイベント尺度40項目の平均値、標準偏差を算出した。そして、フロア・天井効果は
みられなかったため、40項目に対して最尤法・Promax回転による因子分析を行った。その結果、3因子を
抽出した。
第1因子は13項目で構成されており、「39.知人とどのように付きあえばいいのかわからなくなった」
「22, 集団に溶け込めず、違和感を感じた」など、対人関係において劣等感を触発する事態やスキルの欠如
などに関する項目に高い負荷量を示していたことから、橋本(1997)にならい【対人劣等】因子と命名した。
この因子負荷量が高い項目群は、主体側の要因に起因するものが多い。
第2因子は、10項目から構成されており、「18, 知人が非常識な行動をした」「23, 知人が無責任な行動を
した」など、日常生活でときどき起こる、社会の規範からは望ましくない顕在的な対人葛藤に関する項目に高い
負荷量を示していたことから、橋本(1997)にならい【対人葛藤】因子と命名した。この因子負荷量が高い
項目群は、対人劣等と対照的に、主に他者の行動に起因するものが多い。
第3因子は8項目から構成されており、「15, 相手に嫌な思いをさせないよう気を使った」「13, あまり
親しくない相手と会話した」など、日常のコミュニケーションにおいて頻繁に起こる、社会規範からさほど
逸脱したものではないが、配慮や気疲れを伴う対人関係がストレスをかけている事態に関する項目に高い
負荷量を示していたことから、橋本(1997)にならい【対人摩耗】因子と命名した。
因子分析の結果において、各因子の項目の素点の平均値をそれぞれ【対人劣等】下位尺度得点、
【対人葛藤】下位尺度得点、【対人摩耗】下位尺度得点とした。内的整合性を検討するために、Cronbachの
α係数を算出したところ、【対人劣等】でα=.89、【対人葛藤】でα=.87、【対人摩耗】でα=.79と
十分な値が得られた。
また、各項目の経験頻度を、大学生と高校生とに分けて算出した。
2.各下位尺度の記述統計と相関係数
2−1.全体の相関係数
全体の相関の結果から、【他者受容】は、【全体としての自己受容】(r = .433, p< .001)、
【望ましい自己受容】(r = .399, p< .001)、「現状満足」(r = .219, p< .001)と正の相関がみられた。
【自己呈示変容能力】は、【他者受容】(r = .409, p< .001)、【全体としての自己受容】
(r = .317, p< .001)、【望ましい自己受容】(r = .367, p< .001)、【現状満足】(r= .138, p< .01)
と正の相関がみられ、【他者行動に対する察知能力】は、【他者受容】(r= .201, p< .001)、
【全体としての自己受容】(r= .143, p<.01)、【望ましい自己受容】(r= .178, p< .001)と正の相関が
みられた。
【対人劣等】は、【全体としての自己受容】(r= -.291, p< .001)、【現状満足】(r= -.269, p< .001)
、【他者受容】(r= -.212, p< .001)、【自己呈示変容能力】(r= -.112, p< .05)と負の相関がみられた。
【対人葛藤】は、【全体としての自己受容】(r= -.143, p< .01)、【現状満足】(r= -.214, p< .001)、
【他者受容】(r= -.207, p< .001)と負の相関がみられ、【他者行動に対する察知能力】
(r= .111, p< .001)と正の相関がみられた。
【対人摩耗】は、【全体としての自己受容】(r= -.181, p<.001)、【現状満足】(r= -.223, p< .001)、
【他者受容】(r= -.285, p< .001)、【自己呈示変容能力】(r= -.141, p< .01)と負の相関がみられた。
2−2.大学生と高校生とを比べた相関係数
全体の相関係数と同様、各下位尺度同士に多くの相関がみられた。そして次に、大学生と高校生との間に
差はみられるのか、t検定を用いて検討してみた。
3.大学生と高校生との差
3-1.t検定による検討
「大学生」、「高校生」との差の検討を行うために、
各下位尺度についてのt検定を行った。その結果、【現状満足】(t = -2.25, p< .05)において、「高校生」
よりも「大学生」の方が優位に高い得点を示し、【自己呈示変容能力】(t = 2.29, p< .05)において、
「大学生」よりも「高校生」の方が優位に高い得点を示した。
3-2.一元配置分散分析による検討
大学生、高校生をそれぞれの学年によりさらに
4群に分け「高校2年生」「高校3年生」「大学1・2年生」「大学3・4年生」とし、各下位尺度との
一元配置分散分析を行った。その結果、【現状満足】において有意な差がみられるのだが
(F(3,461)= 2.6303, p< .05)、多重比較ではどこにも有意な差はみられなかった。しかし、「高校2年生」と
「大学1・2年生」(p< .10)、「高校2年生」と「大学3・4年生」(p< .10)との間にはそれぞれ有意な
傾向があった。
大学生と高校生との間に大きな差がみられないため、以後の検討では、大学生と高校生を分けずに
分析していくことにする。
4.自己受容および他者受容の関係
全体の相関の結果から、【他者受容】に対して、
【全体としての自己受容】(r= .433, p< .001)、【望ましい自己受容】(r= .399, p< .001)、
【現状満足】(r= .219, p< .001)と正の相関がみられた。つまり、自己受容が高ければ他者受容も
高いということである。
自己受容と他者受容を各尺度得点の平均値(自己受容:Mean= 3.303, 他者受容:Mean= 3.931)
をもとに高群と低群に分けた。これらの組み合わせから対象者を4群に分類し、それぞれHH群
(高自己受容・高他者受容:145名)、HL群(高自己受容・低他者受容:89名)、LH群
(低自己受容・高他者受容:81名)、LL群(低自己受容・低他者受容:150名)と名付けた。
4-1.自己受容および他者受容のバランスとSM
自己受容および他者受容のバランスで分けた4群とSMとの関係を検討するため、一元配置分散分析を行った。
まず、自己呈示変容能力において、「LL群」と「LH群」、「HH群」との間、
「HL群」と「HH群」との間にそれぞれ有意な差がみられた(F(3,461)=20.404, p< .001)。そして、他者行動に
対する察知能力において、「LL群」と「HH群」との間に有意な差がみられた(F(3,461)=6.088, p< .001)。
4-2.自己受容および他者受容のバランスと対人ストレス
自己受容および他者受容のバランスで分けた4群と対人ストレスとの関係を検討するため、一元配置
分散分析を行いった。まず、【対人劣等】において、「HH群」と「HL群」、
「LL群」との間、「HH群」と「LH群」との間に有意な差がみられた(F(3,461)=9.156, p< .001)。
次に、【対人葛藤】において、「HH群」と「LL群」との間に有意な差がみられた(F(3,461)=2.770, p<.05)。
そして、【対人摩耗】において、「HH群」と「HL群」との間、「HH群」と「LL群」との間に有意な
差がみられた(F(3,461)=7.650, p< .001)。
5.自己受容・他者受容・SMが対人ストレスに与える影響
自己受容・他者受容・SMが対人ストレスに与える影響を検討するため、自己受容・他者受容・SMを独立変数、
対人ストレスを従属変数として重回帰分析を行った。
まず、【対人劣等】に対しての影響を見てみると、【全体としての自己受容】、【現状満足】、
【他者受容】が負の影響を与えており、【望ましい自己受容】が正の影響を与えていることが分かった。
次に、【対人葛藤】に対しての影響を見てみると、【全体としての自己受容】、【現状満足】、【他者受容】
が負の影響を与えており、【望ましい自己受容】、【他者行動に対する察知能力】が正の影響を与えている
ことが分かった。そして、【対人摩耗】に対しての影響を見てみると、【現状満足】、【他者受容】が
負の影響を与えており、【望ましい自己受容】、【他者行動に対する察知能力】が正の影響を
与えていることが分かった。
6.SMと自己受容および他者受容のバランス
自己受容および他者受容のバランスで分けた4群を、それぞれの【自己呈示変容能力】得点、
【他者行動に対する察知能力】得点によって散布図にした。散布図は、自己呈示変容能力と
他者行動に対する察知能力の、それぞれの平均値を境に高群(H)、低群(L)としており、HH群・HL群・LH群・LL群
(自己呈示変容能力・他者行動に対する察知能力)の4群に分けた。その結果、自己受容および他者受容の
バランス群が点在していることが分かった。しかし、HH群×HH群、LL群×LL群(自己受容および
他者受容バランス群×SMバランス群)に着目すると、その2つの群だけ比較的多いという結果になった。また、
大学生と高校生との間にあまり差はない結果となった。