-総合考察-



 本研究では、以下のことが明らかになった。

 1つ目は、自己呈示変容能力の高さと自己受容および他者受容の高さ、 自己呈示変容能力と他者行動に対する察知能力の高さと他者受容の高さには それぞれ関連があるということである。つまり、自己受容および他者受容の高さは 自らと他者の考えや期待、感情を認めて受け入れることであり、その結果、 自己呈示変容能力の向上につながるのだと考えられる。そして、他者受容の高さは 他者に意識を向け、他者の性格や人間性、思考を受容することであり、その結果、 SM能力の向上につながるのである。

 次に2つ目は、自己受容および他者受容のバランスと対人ストレスとの間に関連が みられたことである。自己受容および他者受容がともに高い者よりも自己受容および 他者受容がともに低い者の方が、感じるストレスが大きくなることが示されたので ある。つまり、自分も他者も受け入れられる程に、ストレスは少なくなるということ だ。

 そして3つ目は、自己受容および他者受容のバランス群のSMの程度において、 自己受容および他者受容がともに高い者はSM能力も高い傾向があり、自己受容および 他者受容がともに低い者はSM能力も低い傾向があるということである。つまり、 もっともストレスを溜めていない者は高モニターに存在していることが多く、 もっともストレスを溜める者は低モニターに存在していることが多いということで ある。このことから、低モニターよりも高モニターの方がストレスを溜めやすい のではないかと推測できるが、一方で、自己受容および他者受容のバランス群が 基本的には皆まばらに分布していることから、Snyder(1974)が述べたとおり、 高モニター低モニターのどちらかがストレスを溜めやすいとはやはり一概には 言えない。しかしそれは、裏を返せば「高モニター低モニターどちらに存在して いようとも、ストレスを溜めない方法がある」ということである。高モニターで あろうが低モニターであろうが、ストレスを抱えて悩んでいる者は、最終的に 自らと他者とを受け入れることができたならば、その悩みは減少するだろう。

 今後の課題としては、自己受容と他者受容の程度を測る際に、自我同一性が 確立しているかどうかも尋ねることが挙げられる。今回、自己受容および 他者受容のみを測り、SMや対人ストレスとの関わりを見出した。しかし、 自己受容および他者受容とは、自我同一性形成の過程とともに発達していくもので ある。つまり、本当の意味で自己受容および他者受容ができるようになるのは、 自我同一性が確立した後、ということになる。従って、自我同一性の確立が できているかどうかを尋ねていれば、より深い考察ができたのではないかと考える。 また、大学生と高校生との差をみるという点でも同様の問題がみられた。 年代同士の差を測ることを目的とするのであれば、自我同一性が確立されているで あろう成人期や中年期等に対象者を変えることが、対象間の差をはっきりと 示すための方法であると推測する。