考察





 本研究の目的は獲得可能性と原因帰属が妬み感情に与える影響について検討すること、また、妬み感情を感じた際の対処方略との関連も検討することであった。この目的をふまえ、本研究では以下の仮説を検討した。

仮説1.獲得可能性低・外的帰属群は獲得可能性高・内的帰属群と比べて妬みが生じるだろう。
仮説2.原因を外的に帰属した場合、内的に帰属した場合と比べて、「破壊的関与」行動をとる傾向が高くなるだろう。
仮説3.妬み感情を感じた際、女性と男性では女性の方が「他者介入型解決」行動をとるだろう。
仮説4.妬み感情を感じた際、「破壊的関与」行動をとる傾向がある人は、妬み感情が強いだろう。

1.獲得可能性と原因帰属が妬み感情に及ぼす影響
 仮説1を検証するために、獲得可能性と原因帰属が妬み感情に影響を及ぼすのかを検討した。獲得可能性(高・低)と原因帰属(内的・外的)を独立変数、「妬み感情」を従属変数とした二要因分散分析を行った。分散分析の結果、原因帰属の主効果のみ認められた。 これより、妬み感情の生起には原因帰属のみが影響していることが示唆された。井上・村田(2014)の研究では、獲得可能性が高いときと比べて、低いときの方が妬み感情を感じるという結果を示している。しかし、本研究では、異なった結果が得られた。この理由として、井上・村田(2014)の研究では、個人にとっての領域の重大度を統制するために、実験参加者募集の際に就職として進路を希望している学生のみを対象に行っている。しかし、本研究では、そのような統制を行っていないことからこのような結果が得られたと考えられる。
 本研究では、獲得可能性の操作を、架空の能力を数値化したものとされるER指数が、「大学生の段階でも高まることが研究から明らかになっており、ER指数を高めるためのトレーニングを数か月にわたり行った大学生の88%以上でER指数の高まりが見られた。」とすることで獲得可能性を高と操作し、「大学生の段階では今後ほぼ変化しないことが研究から明らかになっており、ER指数を高めるためのトレーニングを数か月にわたり行った大学生の0.2%しかER指数の高まりが見られなかった。」とすることで獲得可能性を低と操作した。獲得可能性の操作チェックでは、条件操作が成功したと考えられたが、妬みの生起要因の1つと考えられている領域の重大度に焦点を当てると、このER指数において、イメージしづらかった、もしくは回答者の関心が低かったために妬み感情が生起されにくかったのではないかと考えられる。

2.獲得可能性と原因帰属が妬みの対処方略に及ぼす影響
 仮説2を検証することを目的に、獲得可能性と原因帰属が妬み感情に影響を及ぼすのかを検討するため、獲得可能性(高・低)と原因帰属(内的・外的)を独立変数、妬みの対処方略尺度の下位尺度を従属変数とした二要因分散分析を行った。分散分析の結果、「破壊的関与」行動、「意図的回避」行動、「感情抑圧」行動は原因帰属の主効果が認められ、そして原因を外的に帰属した方が「破壊的関与」行動をとる傾向が高くなることが示唆された。これは仮説2を支持する結果である。
 まず、「破壊的関与」行動に関して、ネガティブな感情を感じたとき、人はストレスを感じる。それが、蓄積されると外に発散したいと思うだろう。しかし、失敗した原因を内的に帰属した場合、自尊心が傷つき、落胆や恥などの感情が生起する。このような感情は自分が相手よりも劣っているという点に注目されるため、悪意のない妬み(澤田, 2005)と言えるだろう。そのため、外に発散した場合、さらに自分が劣っていることが再認識され、また、自分の劣っている部分を公表することになるので、外に発散するような「破壊的関与」行動はあまりとらないことが考えられる。しかし、失敗した原因を外的に帰属した場合、失敗を受け入れられず、ネガティブ感情が発散できるような「破壊的関与」行動をとることが推測できる。
 「意図的回避」行動に関して、自分が他者よりも劣ったと感じたとき、その原因を自分以外のせいだと考える、つまり原因を外的に帰属した場合、自分ではどうすることもできないために、気を紛らわせるなど問題から目をそらし解決を考えないような「意図的回避」行動をとることが推測できる。
 「感情抑圧」行動に関して、他者よりも劣った原因を外的に帰属した場合、内的に帰属した場合よりも妬み感情は高まる傾向にある。妬み感情を感じたとき、最も外に出にくく、一人で行うことのできる「感情抑圧」行動は、大学生にとって行いやすい対処方略であったと推測できる。
 また、分散分析の結果、「自己補強」において、獲得可能性と原因帰属の交互作用が認め原因を外的に帰属したときに「自己補強」行動をとる傾向が高くなるとこが示唆された。
 手に入れられそうだと感じていたにも関わらず、自分の努力不足により他者より劣ったとき自尊心が傷つき、落胆すると考えられる。また、自分も他者も手に入れられないだろうと感じていたが、自分の努力不足など内的な要因ではなく、外的な要因によって他者よりも劣ったとき、努力では補えないような差を目の当たりにすることになり、落ち込む気持ちが大きくなると考えられる。これより、自分のポジティブな面に目を向けるといった「自己補強」行動は、自分に対する自信が低下したときに行われると推測できる。

3.性差の及ぼす影響
 仮説3を検証することを目的に、妬みの対処方略と性差の関連を検討するため、原因帰属、獲得可能性についてt検定を行った。t検定の結果、「他者介入型解決」行動について、男性よりも女性のほうが有意に高い得点を示していた。これは仮説3を支持する結果であった。
 丸山・今川(2001)は、人は他者に自分の気持ちが受容され、感情を十分に表出できたとき、ストレスを低減させることができると述べている。また、関山(2009)は女性のほうが誰かに話を聞いてもらったり愚痴を言ったりという対処方略を多く用いやすく、周囲の人々と関わることを通じて情緒的に支えてもらうコーピングをとりやすいと考えられると述べている。このため、女性のほうが「友人や家族に自分の気分転換に付き合ってもらう」や「どうすればよいかを、誰かに相談する」といった項目から成り立つ「他者介入型解決」行動をとる傾向にあるのだと考えられる。
 また、妬み感情の男女差を検討するため、原因帰属、獲得可能性についてt検定を行った。t検定の結果、妬み感情の男女差はみられなかった。先行研究では、男性よりも女性の方が妬み感情が強いということが指摘されていたが、本研究とは一致しない結果であった。これは、加藤(1999)が、性別と性役割タイプの不一致である男性の女性型、女性の男性型 (異性型 ) が増加していると述べていることからも、性役割が変化してきていることが原因であることが推測できる。

4.対処方略と妬み感情の関連
 質問紙調査を行った結果、「破壊的関与」行動をとる人があまりいないことが分かった。そこで、「破壊的関与」行動だけでなく、他の対処方略と妬み感情との関連も検討するために、妬みの対処方略尺度を用いて、クラスタ分析を行った結果、5つのクラスタを得た。そして、得られた5つのクラスタを独立変数、妬み感情を従属変数とした一要因分散分析を行った。分散分析の結果、「感情非表出」群が、最も妬み感情が強いという結果であった。
 妬みを感じた際、外に発散することでネガティブな感情を出し切り、自分を立てなおすことができれば、妬み感情が増幅しないと考えられる。しかし、「感情非表出」群は妬みを感じた際であっても、感情を人から隠そうとするために、ネガティブ感情が発散されず、妬み感情が増幅すると考えられる。
 また、次に「自己高揚行動」群が妬み感情が強いという結果であった。自分のポジティブな面に目を向け、気持ちを高めようとするという行動は良い行動であるように考えられそうである。しかし、自分を高めようとするあまり失敗の原因を他者に押し付けることになり、妬み感情の増加につながったと考えられる。

5.総合考察
 本研究は、妬み感情の生起要因について、獲得可能性と原因帰属が妬み感情に及ぼす影響、そして妬みの対処方略も含めて検討することが目的であった。
 現代社会は国際化が進んでいることもあり、今後競争社会はさらに進んでいくことが考えられる。これまでも他者との比較なしに生きていくことは難しいものであったが、今後は今まで以上に難しくなっていくのではないだろうか。他者との比較から生まれる感情の中でもいじめ問題などに関わりのある妬み感情に焦点を当て、ネガティブな感情とうまく付き合っていく方法を明らかにしたいと考え、本研究にいたった。
 他者と自分を比較したときに生起するとされる妬み感情であるが、他者より劣ったときにいつでも生起するわけではない。これまでの妬みの生起要因についての研究では、妬み感情を抱く他者との関係や領域の重大度との関連をみたものが多く、原因帰属について考慮しながらの獲得可能性について検討している研究は数少なかった。
 本研究では獲得可能性と原因帰属をシナリオによって操作することで、状況ごとの妬み感情を測定したが、獲得可能性はあまり関連がなく、原因帰属のみ関連があることが分かった。より詳細に検討するため、原因帰属に焦点を当てたところ、原因を外的に帰属した場合のみ妬みの生起に関連があることが示された。妬み感情がどのような状況場面で生起するのかさらに明確にし、理解することによって、客観的に妬み感情に向き合うことができるだろう。その結果、仮に妬み感情が生起されたときにも、冷静に対処し、妬みによるネガティブ感情を低減できる可能性がある。
 また、対処方略に関しては男女差がみられた。妬みの対処方略に男女差があるという結果を妬み研究に取り入れ、今後研究していくことで、妬み感情の軽減を促すためのより効果的な対処方略をとることができるのではないかと推測する。
 以上より、競争社会と言われる現代で、今後ますます生起されるであろう妬み感情について知り、向き合って対処していくことは重要であると考えられ、今後研究していく価値があることを示すことができたと考える。
 今後の課題として、本研究では、獲得可能性と原因帰属が妬み感情に及ぼす影響をシナリオの操作によって検討を行ったが、シナリオの操作チェック項目により正しく4つの場面を設定し、検討できたと考える。しかし、シナリオによって妬み感情の強さにあまり差がみられなかった。これは、シナリオ文が長くなることを防ぐために妬み感情の生起に関連するとされる「領域の重大度」、「自己関与の有無」や「類似性」についてあまりふれることができなかったことが理由であると考えられる。これらの要因だけで妬み感情が生起するわけではないが、妬み感情が生起する場面を考える際に前提としてふれなければならないものであった。
 また、妬み感情はネガティブな感情であると考えられている感情であるため、表出しにくい感情であると考えられる。そのため、質問紙調査では測定しにくい感情であったと考えられる。しかし、感情を表出しないことで妬み感情が増幅する可能性が今回の研究により示唆されたことからも、匿名性に気を付けるなど、もう少し配慮をすることで、感情の制御に焦点を当て研究を行う必要があるだろう。
 最後に、本研究では妬みの対処方略として代表的な「破壊的関与」行動があまりとられないことがわかった。これは、「破壊的関与」行動を行うことによって周りからの評価が下がることを恐れるためではないかと考えられる。また、実際に妬み感情が生じるような場面に遭遇した際、「破壊的関与」行動をとることがあるかもしれないが、ネガティブな情動は表出に抵抗があるため、質問紙調査では回答しにくかったためであるとも考えられる。より正確に妬みの生起要因、そして対処方略について検討するためには、さまざまな生起要因を考慮しながら、回答しやすい環境を考える必要があると考える。