総合考察
1 対人依存欲求は友人関係の起因となる
対人依存欲求の下位尺度である情緒的依存欲求(他者との情緒的で親密な関係を通して自らの安定を得ようとする欲求)は、友人関係尺度の「内面的関係」、「表面的関係」に対しての正の影響が見られた。この結果から、石川・山口・澤・高田・大久保(2014)などで言われていたように、依存的な人は自信がなく、自己決定ができない、不安障害や抑うつ傾向が高い、などの対人依存の不適応な面に注目したものが数多く見られ、不適応的、あるいは病的な依存は、自分自身に対して自信がなく、物事の決定までも他者に依存してしまう為、自分自身で決定できないといったような特徴があるという指摘もあるものの、適度な依存欲求は、友人関係といったさまざまな人間関係を構築していく上で、必要不可欠な欲求であり、誰しもが持つ欲求である、と言えるだろう。人は、生きていく上で、ひとりで生きていくことは不可能であり、多かれ少なかれ、必ず他者と関わって生きていく。その他者と関わっていく上での、起因となる一つの要因が、この対人依存欲求であり、人としての基本的な欲求である、と言えるだろう。現代社会において、TwitterやFacebook、LineなどのSNSが普及し、ネットを通して人の悪口を書いたり、誹謗中傷が増えている傾向がある。このような傾向は、SNSの中だけでなく、実際の人対人の関わりの中でも見られるように思う。このような傾向は、現在だけの話ではなく、今後ますますみられるだろう。このように、人間関係が今以上に表面的で、希薄なものになっていくことが予想される。そのような状況を打破するためには、人間関係を築く上で必要となり、誰しもが持つ、他者に依存したいという欲求をお互いに恥ずかしがらず、求め合うことができる社会にしていかなければいけないのではないか。そのような社会に変化して初めて、現在のような関係性の表面化や希薄化が抑えられ、皆が良好な人間関係を構築することができ、真の平和が訪れるのではないだろうか。
2 対人依存欲求はひとりの時間に対して孤独・不安感を生む
対人依存欲求尺度の「情緒的依存」から、ひとりで過ごすことに関する感情・評価尺度の「孤独・不安」に対して、正の影響が見られ、「充実・満足」に対して、負の影響が見られた。海野(2007)において、ひとりの時間は「一人でいる場所で、単独の行為を行う、時間」で、「心理的に『一人でいる』『単独である』と感じられる時間」と定義されている。この定義からもわかるように、ひとりの時間というのは、他者とのかかわりを持たない時間のことであり、そのような状況においては、関係を通して安定を得たいという情緒的依存欲求は、他者と関わることのできないひとりの時間に対して、孤独感や不安感に影響を与え、孤独・不安感と真逆の感情である充実・満足感には負の影響を与えている、と考察する。青年期の重要な発達課題として自我同一性の獲得がある。自我同一性とは、「自己の単一性、連続性、不変性、独自性の感覚を意味する」 (小此木, 2002)。そして山田・岡本(2008)によると、この自我同一性には、自分が思う自分(「個」としてのアイデンティティ)と、他人が思う自分(「関係性」のアイデンティティ)があり、ひとりの時間は「個」としてのアイデンティティを形成する上で重要な役割を担っていると考えられる。実際に海野・三浦(2011)では、ひとりの時間に充実感や満足感を抱いている者は、そうでない者に比べ、自我同一性が高いことが示されている。また、問題と目的で述べたように、ひとりの時間を充実させることは、精神的成長に関わっており、充実させることは重要である。しかし、本研究では、充実させる要因として、友人関係を挙げたが、要因とならないことが明らかになった。ひとりの時間を充実させる具体的な要因を検討していくことは、今後の課題となる部分である。