【考察】
本研究では、悪意的妬みと憧憬的妬みに関して、3つの条件を組み合わせた仮想場面を作成し、それぞれの場面で評価を受けている他者に対し、どの程度妬みが生じるのかを検討した。また、劣等感や注目・賞賛欲求が妬みにどのような影響を及ぼしているのか検討した。
1.妬み感情の構造についての検討
1-1.妬み感情尺度の因子分析
澤田(2001)の妬み感情語リストに加え、妬み感情に関する項目を作成した妬み感情尺度の因子分析を行った結果、3つの因子が抽出され、第T因子は、「悪意的妬み」、第U因子は「憧憬的妬み」、第V因子は「悲観的妬み」と命名した。この3つの因子で下位尺度を構成し、各下位尺度の名称は各因子の命名を用い、「悪意的妬み」尺度、「憧憬的妬み」尺度、「悲観的妬み」尺度とした。
悪意的妬みと憧憬的妬みに関しては、従来の研究より妬みの種類として明らかにされていたため、今回の因子分析の結果において抽出されたのは妥当であると考えられる。しかし、本研究の因子分析によってさらに「悲観的妬み」という妬みが新たに抽出された。悲観とは、「物事が思うようにならないため失望すること」、また、「失望」「絶望」「ネガティブ」などの意味があり、本研究で命名した悲観的妬み尺度には、相手と比較した際に生じる「悲しい」「落ち込む」「苦しい」などの項目が含まれていた。そのため、悲観的妬みとはこれらのような「悲しい」「落ち込む」などの感情であるのではないかと考えられる。先行研究では、楽観主義者と悲観主義者では同じストレス状況においても楽観主義者の方がストレスを感じる程度が低いといわれている。また、藤原(2006)は、試験を受けた場面での成功体験時と失敗体験時における楽観主義、悲観主義、防衛的悲観主義の精神的健康(ストレス反応・自己効力感・抑うつ)について検討した。なお、防衛的悲観主義とは、「悲観主義者の中の失敗や最悪の状況を想像し、起こり得る可能性をすべて熟考することによって将来の出来事に対する努力や準備が動機づけられる認知的方略を有すること」である(Norem, 2001)。これらの研究の結果、成功体験時も失敗体験時も、楽観主義よりも悲観主義または防衛的悲観主義の方が、精神的健康が低いことが示された。悲観的妬みをもつと、ストレスを感じやすくなったり、抑うつ状態になりやすくなることが考えられる。つまり、妬みには自分が良い結果を得られなかったときに落ち込んだり悲しんだりする側面もあることが考えられる。
そこで本研究では、「悪意的妬み」および「憧憬的妬み」と、抑うつ傾向のある項目で構成された「悲観的妬み」の3つを妬みの種類として研究を進めていくこととした。
1-2.妬み感情尺度の下位尺度間の相関
妬み感情尺度の下位尺度間の相関関係を検討した結果、悪意的妬みと悲観的妬みとの間に強い正の相関関係がみられたが、悪意的妬みと憧憬的妬みとの間には相関関係がほとんどみられなかったことから、怒りや不満のような悪意的な妬みを感じやすい人は、悲しみや苦しみなどの悲観的な妬みも感じやすい傾向があるが、憧れや理想といった憧憬的な妬みは感じにくいことがいえる。また、憧憬的妬みと悲観的妬みの間に弱い正の相関関係がみられたことから悲観的な妬みを感じやすい人は、相手に憧れを抱くようなポジティブな妬みも感じやすい傾向にあるといえる。しかし、悲観的な妬みを感じやすい人は、憧憬的な妬みよりも悪意的な妬みの方が感じやすいことが考えられる。このことから憧憬的妬みに比べて、悪意的妬みと悲観的妬みは類似した妬みの種類である可能性が考えられる。
2.各場面における5つの尺度間の相関と、劣等感および注目・賞賛欲求と親密性・公正性・評価との相関
2-1.場面ごとの各尺度間の相関関係
被験者間要因で検討した評価場面の違いは除いて、場面ごとにおける各尺度との相関関係を検討した。
劣等感と注目・賞賛欲求との間に、公正かつ親密な場面と公正かつ顔見知りの場面では中程度の正の相関関係がみられたことから、公正な場面では、相手との関係性によらず、劣等感を感じやすい人ほど注目・賞賛欲求も感じやすいことがいえる。このため、評価自体が公正であると、その評価に仕方がないと思うと同時に悔しいなどの気持ちが生じること、その公正な評価を自分も受けたいという気持ちがより強く生じたことが考えられる。
劣等感と憧憬的妬みとの間には、すべての場面でやや強い正の相関関係がみられたことから、場面にかかわらず劣等感を感じやすい人は、相手に対し、憧れや理想といった憧憬的な妬みを抱きやすいことがいえる。このことは、友尻(2011)の研究において、劣等感を強く感じる人は他者とよりも自分自身との関係に悩んで葛藤を生みやすい傾向があると示されていることから、そもそも相手を自分の比較対象としておらず、自分を相手には敵わない存在として位置づけているのではないか。そうなると、それは相手に対し、悔しさや怒りといった妬みではなく、相手には敵わない、相手のようになりたいという憧れの対象として認識するようになったため憧憬的な妬みが生じやすくなったのではないかと考えられる。
劣等感と悲観的妬みとの間には公正かつ顔見知りの場面ではやや強い正の相関関係がみられた。この結果は、友尻(2011)の研究において、劣等感を強く感じる人は、防衛的な態度(悔しさを感じたときにその状況を回避する態度)をとりやすいと示されていることから公正な場面であるとその評価を認めざるを得ないためより悔しさのような悲観的妬みを感じやすくなったことが考えられる。また、友尻(2011)の研究において、劣等感を強く感じる人は、他者とよりも自分との関係に葛藤しやすいとも示されていることから、自分と少しでも距離のある顔見知りの相手の方に悲観的な妬みを感じやすかったのではないかと考えられる。
注目・賞賛欲求については、悪意的妬みと悲観的妬みの両方に、すべての場面でやや強い正の相関関係がみられた。この結果から、注目されたい、褒められたいと感じやすい人は、相手に対し、不満を感じたり、怒りを感じるといった悪意的な妬みや落ち込みや悲しいといった悲観的な妬みを抱きやすいといえる。このことは、上野(2007)の研究において、注目・賞賛欲求傾向の高い人は、個人特性としての妬みやすさが強く、妬み感情が喚起されやすいという結果を支持している。それに加え、本研究では、そのような「妬み感情」の中でも特に、注目・賞賛欲求傾向の高い人は悪意的な妬みや悲観的な妬みを感じやすいということが示された。この結果は、Table 4で示したように、悪意的妬みと悲観的妬みとの関連が強く、類似している感情であることが考えられるため、悪意的妬みが生じたと同時に悲観的妬みも生じたと考えられる。
注目・賞賛欲求と憧憬的妬みとの間には、公正かつ親密な場面と公正かつ顔見知りの場面で中程度の正の相関関係がみられた。この結果から公正だと感じる場面では、相手が自分と親密か顔見知りかにかかわらず、注目されたい、褒められたいと感じている人ほど、相手に憧れや理想といった憧憬的な妬みを抱きやすいといえる。これは、場面における評価自体が公正であるため、その評価を受けている相手を憧れや理想の相手として認識はしているが、それと同時に、上野(2007)の研究において注目・賞賛欲求の高い人は周りからの評価を気にする傾向があると示されているように、自分も評価されたいという欲求が生じたと考えられる。
憧憬的妬みと悲観的妬みとの間には、すべての場面でそれほど強い相関関係がみられなかった。これは、Table 4において、憧憬的妬みと悲観的妬みとの間にそれほど関連が強くなかったことからこれらの結果も同様であると考えられる。
2-2.劣等感および注目・賞賛欲求と、親密性・公正性・評価との相関
劣等感尺度、注目・賞賛欲求尺度と、親密性および公正性と評価との相関関係を検討した結果、劣等感と公正性との間に中程度の正の相関関係がみられたことから、評価自体が公正であると感じる場面では劣等感を感じやすいことがいえる。この結果は、評価自体が公正であると、その評価を認めざるを得ないため、相手よりも自分は劣っているということをより感じやすくなったためではないかと考えられる。
3.それぞれの妬みに、親密性および公正性と評価とそれぞれの組み合わせがどのような影響を与えているか
3-1.悪意的妬みについて
各場面における悪意的妬み尺度得点の平均値を比較するために分散分析を行った。
悪意的妬みにおいては、親密性の有意な主効果がみられ、親密な相手よりも顔見知りの相手に悪意的な妬みを感じやすかった。この結果は、Table 8の重回帰分析の結果でも同様の結果が示された。これは、先行研究で述べられている親密な相手ほど妬みを抱きやすいという結果とほとんど一致している。しかし、本研究では、「妬み」を大きく捉えるものではなく、相手との関係性によって感じやすい妬みの種類が異なることを明らかにした。顔見知りの相手の方に怒りや不満などの悪意的な妬みを感じやすかったのは、相手との関係が親密であると、将来的な付き合いや関係のことを考えて親密であるがゆえに遠慮が生じてしまったためではないかと考えられる。これらのことから親密な相手と顔見知りの相手では顔見知りの相手に対しての方が悪意的な妬みを感じやすいことが示された。
また、公正性の有意な主効果がみられ、公正のときよりも不公正のときの方が悪意的な妬みを感じやすかった。なお、Table 8の重回帰分析の結果でも同様の結果が得られた。これらの結果は、評価が公正だとその評価を認めざるを得ないが、評価が不公正だと納得できない評価として受け止められるため、それが怒りや不満といった悪意的な妬みにつながった可能性が考えられる。これらのことから、公正なときと不公正なときでは、不公正だと感じるときの方が悪意的な妬みが生じやすいことが示された。
さらに、親密性×公正性の交互作用が有意であったため、単純主効果の検定を行った結果、不公正における親密性の単純主効果が有意であった。公正だと感じる場面では、親密な相手と顔見知りの相手で悪意的妬みの感じやすさにほとんど差はみられなかったが、不公正だと感じる場面では、親密な相手より顔見知りの相手の方が悪意的な妬みを感じやすいことが明らかとなった。これらは上述した親密性と公正性の主効果がみられたことから説明できる。これは、親密な相手は昔からその人のことをよく知っているので、不公正な状況であってもその人が以前よりも良い方向に変化してくれてよかったという思いが生じた可能性があるからではないかと考えられる。あるいは、親密であるためこれからの相手との関係のことも考え、怒りや不満を抱くようなことに対する遠慮が生じたからではないかと考えられる。よって、納得のいかない不公正な評価を見た場合だと、親密な相手よりは、そこまで相手のことを知らない相手の方に悪意のある妬みを抱きやすかったのではないかと考えられる。これらのことから、親密性と公正性を組み合わせることで、不公正な場面のときには親密な相手よりも顔見知りの相手の方により悪意的な妬みが強く生起されることが明らかとなった。
また、評価における主効果はみられなかったことから、相手が肯定的評価を受ける状況でも相手だけが否定的評価を受けない状況でも、その違いが悪意的妬みの感じやすさにそれほど影響しなかったと考えられる。
しかし、公正性×評価の交互作用は有意であったため、単純主効果の検定を行った結果、不公正における評価の単純主効果が有意であった。公正だと感じる場面では、肯定評価・否定評価で悪意的妬みの感じやすさにほとんど差はみられなかったが、不公正だと感じる場面では、肯定評価のときより否定評価のときの方が怒りや不満といった悪意的な妬みを感じやすかった。小島ら(2003)の研究において、肯定的フィードバックを受けたときよりも否定的フィードバックを受けたときのほうが怒りや恥を感じていると示されている。この研究では公正・不公正という場面設定は行われていないが、本研究ではこのように場面設定することで公正な場面と不公正な場面では、悪意的妬みの強さに違いが生じることを明らかとなった。また、肯定評価の、自分は褒められないという状況では、その褒められた相手に対してではなく、評価をした人に対してネガティブな妬みを抱く可能性が考えられるため、褒められた相手に対してはそれほど悪意的な妬みを感じなかったのではないかと考えられる。それに比べ、否定評価の場合はそもそも評価自体が不公正であるのに、その上自分だけが叱られるという状況によってより怒りや不満などの悪意的な妬みを生起しやすかったのではないかと考えられる。これらのことから、肯定評価・否定評価という評価の違いだけでは悪意的妬みの生起に影響しなかったが、公正性と組み合わせることで、不公正な場面では、肯定評価よりも否定評価のときの方が悪意的妬みを生起しやすいことが明らかとなった。
また、評価の有意な主効果がみられていないが、Table 8の重回帰分析の結果においては、劣等感×評価の交互作用項が有意な負の関連を示した。このことから、劣等感が悪意的妬みの生起に何らかの影響を及ぼしていることが予想される。このことについては後ほど述べることとする。
3-2.憧憬的妬みについて
各場面における憧憬的妬み尺度得点の平均値を比較するために分散分析を行った。
憧憬的妬みにおいては親密性の主効果がみられ、顔見知りの相手よりも親密な相手の方に憧憬的な妬みを感じやすかった。なお、Table 8の重回帰分析の結果からも同様の結果が得られた。これらの結果は、親密な相手であれば、その人がどのような人なのかということをよく知っていて、自分はその人には敵わないということを十分にわかっているため、その人を自分には敵わない憧れの対象として認識している可能性が考えられる。このことから、親密な相手と顔見知りの相手では、親密な相手の方に憧憬的な妬みが生起されやすいことが明らかとなった。
また、公正性の主効果がみられ、不公正だと感じる場面よりも公正だと感じる場面の方が憧憬的な妬みを感じやすかった。これは、場面自体が公正であると、その評価に納得せざるを得ないため、相手に対し、不満や悲しみといった妬みではなく、相手に対する憧れや相手のようになりたいという自己向上に繋がる妬みを抱きやすくなったためはないかと考えられる。これらのことから、公正だと感じる場面と不公正だと感じる場面では、公正だと感じるときの方が憧憬的な妬みは生起されやすいことが明らかとなった。
3-3.悲観的妬みについて
各場面における悲観的妬み尺度得点の平均値を比較するために分散分析を行った。
悲観的妬みにおいては、親密性の有意な主効果がみられ、顔見知りの相手よりも親密な相手の方に悲観的な妬みを感じやすかった。この結果は、Tesser(1988)の自己評価維持モデルより、自分に関与度の高い場面では心理的に近い相手が自分よりも高い評価を受けているときに妬みは生起されやすいということからこのような結果が得られたと考えられる。よって、親密な相手と顔見知りの相手では、親密な相手の方に悲観的な妬みを感じやすいことが明らかにされた。
また、公正性の有意な主効果がみられ、公正だと感じる場面より不公正だと感じる場面の方が悲観的な妬みを感じやすかった。なお、重回帰分析の結果でも同様の結果が得られた。これらの結果は、評価が公正だとその評価を認めざるを得ないが、評価が不公正だと納得できない評価として受け止められるため、不公正であるのに評価された他者に対して悔しさや落ち込みといった悲観的な妬みが生じたのではないかと考えられる。このことから、公正だと感じる場面と不公正だと感じる場面では、悲観的妬みという本研究で新たに見出された妬みの種類において、不公正なときの方が悲観的な妬みをより強く感じることが明らかとなった。
4.劣等感と注目・賞賛欲求が親密性・公正性・評価との組み合わせにおいて妬みに及ぼす影響
4-1.劣等感および注目・賞賛欲求に親密性・公正性に・評価がどう関連しているか
劣等感を感じやすい人は、親密な相手と比較しやすいことや他者からの評価については肯定評価・否定評価で違いがあるのかということから、親密性・公正性・評価が劣等感にどう影響しているかを場面における劣等感尺度の得点の平均値を比較することで検討した。
劣等感においては、親密性および公正性の有意な主効果がみられ、顔見知りの相手の場面における尺度得点の平均値よりも親密な相手の場面における平均値の方が高く、親密な相手の方が劣等感を感じやすいことが明らかになった。また不公正な場面における尺度得点の平均値よりも公正な場面の平均値の方が高く、公正な場面の方が劣等感を感じやすかった。
そして、親密性×公正性の交互作用が有意であったため、単純主効果の検討を行った結果、公正における親密性の単純主効果が有意であった。不公正だと感じる場面では、親密な相手と顔見知りの相手で劣等感の感じやすさにほとんど差はみられなかったが、公正だと感じる場面では、顔見知りの相手よりも親密な相手の方が劣等感を感じやすかった。この結果から、不公正だと感じる場面では、評価自体が不公正であるためそのような状況においては相手に対して劣等感を感じるまでもないといった気持ちになることが考えられる。一方で公正だと感じる場面では、評価が公正であるので、その評価に対し納得せざるを得ない状況であり、かつ先ほど述べた比較対象としやすい親密な相手であるため、より自分が劣っていると感じやすかったのではないかと考えられる。これらのことから、劣等感の親密性および公正性への影響については、公正な場面では、顔見知りの相手よりも親密な相手の方に劣等感を感じやすいことが明らかとなった。
また、親密性×評価の交互作用が有意だったため、単純主効果の検定を行った結果、肯定評価における親密性の単純主効果が有意であった。否定評価では、親密な相手と顔見知りの相手で劣等感の感じやすさにほとんど差はみられなかったが、肯定評価では、顔見知りの相手よりも親密な相手の方が劣等感を感じやすかった。もともと劣等感の強い人が否定評価のような場面に出くわしても、妥当の結果であると相手がだれであろうと自分の中で落ち込んでしまうことが考えられる。しかし、相手だけが褒められる状況では、劣等感を持ちながらも、もしかしたら自分も褒められる対象であったのではないかと希望を持ち、そのときにTesser(1988)の自己評価維持モデルにおいて示されているように、自分と心理的に近い相手、すなわち親密な相手と比較しやすく、より劣等感を感じやすくなったのではないかと考えられる。これらのことから、評価の肯定性および親密性と、劣等感との関わりについては、評価の主効果はみられなかったが、親密性と評価を組み合わせることで、肯定評価のときにおいては、顔見知りの相手よりも親密な相手の方に劣等感を感じやすいということが明らかとなった。
続いて、注目・賞賛欲求の感じやすい人は、他者からの評価に敏感であることから公正な評価かどうかなどにも敏感なのではないかと考えられることから、親密性・公正性・評価が注目・賞賛欲求にどう影響しているかを場面における注目・賞賛欲求尺度の得点の平均値を比較することで検討した。
注目・賞賛欲求尺度においては、親密性および公正性の有意な主効果がみられ、顔見知りの相手の場面における尺度得点の平均値よりも親密な相手の場面における平均値の方が高く、親密な相手の方が注目・賞賛欲求を感じやすいことが明らかになった。また公正な場面における尺度得点の平均値よりも不公正な場面の平均値の方が高く、不公正な場面の方が注目・賞賛欲求を感じやすかった。
また、親密性×評価の交互作用が有意であったため、単純主効果の検討を行った結果、肯定評価における親密性および顔見知りにおける評価の単純主効果が有意であった。否定評価のときは、親密な相手と顔見知りの相手で注目・賞賛欲求の感じやすさにほとんど差はみられなかったが、肯定評価のときは、顔見知りの相手よりも親密な相手の方に注目・賞賛欲求を感じやすいことが示された。この結果について、肯定評価では相手が褒められている場面であるため、自分も相手と同じように褒められたいという欲求が強まったことに加え、上野(2007)の研究において、仲の良い相手の方に注目・賞賛欲求を感じやすいと示されていることから、その評価されている相手が自分と親密な相手であったため、肯定評価では、親密な相手の方に注目・賞賛欲求をより感じやすくなったと考えられる。
また、公正性×評価の交互作用が有意であったため、単純主効果の検定を行った結果、否定評価における公正性の単純主効果が有意であった。肯定評価のときには、公正・不公正で注目・賞賛欲求の感じやすさにほとんど差がみられなかったが、否定評価のときは、公正だと感じる場面より不公正だと感じる場面の方が注目・賞賛欲求を感じやすいことが明らかとなった。これは、先行研究より注目・賞賛欲求とは積極的に自己を肯定するとあることから、これは、評価自体が不公正であるのに、さらに自分だけが叱られるということで納得のできない状況である。そのため、自分を肯定する気持ちをより強く持ったのではないかと考えられる。
これらのことから親密性と公正性および評価の肯定性と、注目・賞賛欲求との関わりについては、評価の主効果はみられなかったが、親密性と評価を組み合わせた際に、肯定評価のときは親密な相手の方に注目・賞賛欲求をより感じやすいことが示され、また、公正性と評価を組み合わせた際に否定評価のときは不公正な場面の方が注目・賞賛欲求を感じやすいことが明らかとなった。
4-2.劣等感および注目・賞賛欲求が妬みの生起に及ぼす影響
劣等感や注目・賞賛欲求が妬みの生起にどのような影響を及ぼしているかを検討した。
劣等感においては、悪意的妬みと有意な正の関連を示したことから、劣等感を感じやすい人ほど悪意的妬みを抱きやすいことが示された。また、劣等感×評価の交互作用項が有意な負の関連を示したことから、肯定評価では、劣等感が高くなるほど悪意的妬みも高くなるが、否定評価では、劣等感が高くなると、わずかながらではあるが悪意的妬みが下がる様子がみられた(Figure 8 参照)。これに関して、肯定評価では、もともと自分は相手よりも劣っていると認識していても、いざ相手だけが褒められている状況をみたり、その相手がわざと褒められにいこうとする様子をみることによって、いらだちを覚えたり腹が立だしいという気持ちが生じやすくなったのではないかと考えられる。一方で、否定評価では、もともと自分は相手よりは劣っていると思っている上で自分だけが叱られることで、落ち込むようなことはあるが、叱られなかった相手に対し妬むような気持ちはそれほど生じやすくはなかったのではないかと考えられる。
これらと、上述した悪意的妬みにおいて評価の主効果がみられなかった結果から、評価の肯定性によって生じる妬みの程度と劣等感が妬み生起にどう影響するかについて、肯定評価・否定評価という評価の違いだけでは悪意的妬みの生起に影響しなかったが、劣等感と組み合わせることで、肯定評価では劣等感を感じやすい人ほど悪意的妬みも感じやすいことが明らかとなった。
注目・賞賛欲求においては、悪意的妬みおよび悲観的妬みに有意な正の関連がみられたことから、注目・賞賛欲求を感じやすい人ほどそれぞれの妬みを抱きやすいことが示唆された。これは、Table 4の悪意的妬みと悲観的妬みとの間に強い相関がみられたことと、Table 5の注目・賞賛欲求とそれぞれの妬みとの間に強い正の相関関係があることから、注目・賞賛欲求傾向の高い人は悪意的な妬みや悲観的な妬みを感じやすいということが示されているため、悪意的妬みと悲観的妬みは、類似している感情であることが考えられ、悪意的妬みが生じたと同時に悲観的妬みも生じたと考えられる。