方法
1. 観察方法
1-1. 参与観察
中澤・大野木・南(1997)は観察法について、「人間や動物の行動を自然な状況や実験的な状況のもとで観察、記録、分析し、行動の質的・量的特徴や行動の法則性を解明する方法をいう」と述べている。本研究では、被観察者に対し観察者がその存在を明示し、関与しながら直接観察する参与観察(参加観察)の手法を選択し、1事例をとりあげた事例研究を行う。
1-2.分析データ
県内の適応指導教室で週1〜2日程度、参与観察を行い、毎回の内容を可能な限り詳細に言語化して記録した。また、教師、保護者、指導員に対して質問紙調査を行い、アセスメントの資料とした。
2.観察対象者
援助対象事例(観察対象)として、県内のX適応指導教室に通う中学生の生徒(A)を選定した。対象事例を決めるにあたっては指導員と話し合いを行い、指導員の援助方針や子ども本人の課題を考慮して選定した。Aは不登校になる前、学校で友人との間にトラブルを抱えていた。また、担任教師の報告などからAは誰かに常に傍でかかわってほしいタイプの生徒であると推測されたが、指導員は他の通級生ともかかわる必要があるため、観察者がAと関わる機会が多く、傍でソーシャルサポートを行うことが比較的容易であることから、本研究の対象とした。
2-1. 担任教師の見立て
飯田・石隈(2002)が作成した学校生活スキル尺度を元に、Aが不登校になる前のソーシャルスキルの様子を尋ねる質問紙を作成し、アセスメントの参考とした。「自己学習スキル」11項目、「進路決定スキル」8項目、「集団活動スキル」11項目、「健康維持スキル」5項目、「同輩とのコミュニケーションスキル」7項目からなり、それぞれ「まったくあてはまらない」〜「とてもよくあてはまる」の4件法での回答を求めた。その結果、各スキルの平均点が「自己学習スキル」2.45、「進路決定スキル」2、「集団行動スキル」2.54、「健康維持スキル」2.4、「同輩とのコミュニケーションスキル」1.43となり、同輩とのコミュニケーションに関する評価が顕著に低いことが明らかとなった。具体的には、「苦手なクラスメートと付き合うこと」「友人に自分の考えを表現する方法」「人に話しかける、会話を始める方法」「友人同士が喧嘩しているときのふるまい方」「自分の感情を自然に表現すること」「異性と自然に話すこと」が苦手であると担任教師は回答している。また、「勉強でつまずいた時に自分のわからないところを探す方法を持つこと」「ノートを自分なりにきちんととること」「授業中の疑問点を授業中、または授業後に教師に聞くこと」「問題を解決するときに選択肢を考えること」が苦手であるとも回答している。
2-2. 適応指導教室指導員の見立て
担任教師への質問紙と同様、飯田・石隈(2002)をもとにAの10月中旬頃のソーシャルスキルの様子を尋ねる質問紙を作成し、アセスメントの参考とした。「まったくあてはまらない」〜「とてもよくあてはまる」の4件法で回答を求めた。その結果、「自己学習スキル」は回答に空欄が多かったため不使用とし、各スキルの平均点は「進路決定スキル」8項目が3.25、「集団活動スキル」4項目が3.25、「健康維持スキル」2項目が3、「同輩とのコミュニケーションスキル」4項目が2.67となった。全体として担任教師よりも高い評価となっているが、担任教師と指導員双方が共通して「弱い」と回答している項目は、自己学習スキルの「自分に合っていると思える勉強法がある」、進路決定スキルの「問題を解決するとき、すぐ答えを一つに決めないで選択肢を考えることができる」集団活動スキルの「友達と分らないところを助け合い、一緒に勉強できる」である。
また、指導員が担任教師と保護者から聞いた話では、Aはもともと言葉のきつい子どもであるという。まだ通学していた頃、同級生との間にトラブルがあった。

2-3.保護者の見立て
飯田・石隈(2002)をもとに適応指導教室の指導員に「Can-Do-List」を作成してもらい、保護者に記入を依頼した。「コミュニケーション能力」11項目、「協調性」7項目、「自立心・意欲性」12項目の3つの観点からなり、「できない」〜「いつもできる」の4件法で回答を求めた。これをもとに、保護者から見た11月初旬頃のAに関してアセスメントを行った。その結果、各観点の平均点は「コミュニケーション能力」1.45、「協調性」2.57、「自立心・意欲性」2.17となった。このことから、保護者はAに関してコミュニケーション能力が低いと考えていると思われる。また「自立心・意欲性」には学習に関する質問も含まれる。その中でも特に「学習のために家で机に向かうこと」「課題などを、自分で調べたり考えたりすること」「授業の後片付け、プリントの管理など」「テストなどに関して、実行できそうな目標や計画を立てること」を「できない」と回答していることから、学習面でも不安を感じているものと考えられる。
2-4.総合的なアセスメント
担任教師、保護者、指導員の見立てからAは次のような課題を抱えていることが推察された。@友人関係を築き、継続することが苦手で、自分から会話を始めたり、友人に自己の気持ちを表現したりすることに課題を抱えている、A学習面において理解できないことを他者に聞いて援助を求めることが苦手で、理解できないまま放置してしまっている、B友人と協力しながら何かに取り組むことが苦手である。また対人関係だけでなく、学習面や進路面の課題も抱えていることも明らかになった。
観察者が9月末〜10月初めにかけてAに関わった場面では、Aは人と親しくなる前後で、相手に対する態度の変化が大きい子どもであるように感じられた。教室に来た初回はおとなしく、観察者や指導員の声かけに対してあまり反応もなく、一刻も早く帰りたいような様子であった。このことからAは親しくなる前の段階の不安や防衛が大きく、新しい人間関係を構築するのに時間がかかり、困難さを伴うと推察された。
3. 援助目標および援助方針
飯田・石隈(2002)が作成した学校生活スキル尺度を元に、Aが不登校になる前のソーシャルスキルの様子を尋ねる質問紙を作成し、アセスメントの参考とした。「自己学習スキル」11項目、「進路決定スキル」8項目、「集団活動スキル」11項目、「健康維持スキル」5項目、「同輩とのコミュニケーションスキル」7項目からなり、それぞれ「まったくあてはまらない」〜「とてもよくあてはまる」の4件法での回答を求めた。その結果、各スキルの平均点が「自己学習スキル」2.45、「進路決定スキル」2、「集団行動スキル」2.54、「健康維持スキル」2.4、「同輩とのコミュニケーションスキル」1.43となり、同輩とのコミュニケーションに関する評価が顕著に低いことが明らかとなった。具体的には、「苦手なクラスメートと付き合うこと」「友人に自分の考えを表現する方法」「人に話しかける、会話を始める方法」「友人同士が喧嘩しているときのふるまい方」「自分の感情を自然に表現すること」「異性と自然に話すこと」が苦手であると担任教師は回答している。また、「勉強でつまずいた時に自分のわからないところを探す方法を持つこと」「ノートを自分なりにきちんととること」「授業中の疑問点を授業中、または授業後に教師に聞くこと」「問題を解決するときに選択肢を考えること」が苦手であるとも回答している。
4. 観察時期2014年10月〜12月
週に1回〜2回程度、毎回10時〜12時、または10時〜14時に参与観察を行った。午前中は遊びや運動の時間、午後は学習時間であった。

5.分析観点
細田・田嶌(2009);片受・大貫(2014)のソーシャルサポートの分類を参考に観察者の言動を共行動的サポート、道具・情報的サポート、情緒的サポート、評価的サポートの4つの観点(Table3)から分類し、@観察者が行ったサポート、A観察者とのやりとりにおけるAの変化を合わせて考察する。