総合考察
1. サポート別考察
事例をもとに適応指導教室における学生ボランティアが行うソーシャルサポートについて、4種のサポート別に考察を行う。
1-1共行動的サポート
本研究では、観察者からAへのかかわりとして共行動的サポートに重点を置いた。細田ら(2009)が指摘するように、直接的な援助に対しては抵抗感の強い思春期において、companionship(共行動的サポート)の持つ援助的機能は大きいと推測される。本研究の被観察者は中学2年生であり、仲間関係への希求が高まる時期といえる。共行動的サポートによってAと親密な2者関係を構築することができた。学生ボランティアと擬似的な友人関係を体験することは子どもの対人関係の問題状況の改善に関連していると思われる。
また中学生にとって、大学生は保護者や教師といった「縦の関係」ではなく、同学年の友人のように「横の関係」でもない、いわば「斜めの関係」を構築できる存在である。観察者は、指導員と同様に「先生」と呼ばれてはいたものの、年齢の近さを生かした、兄・姉的な存在としてのかかわり(中野ら,2009)を重視すると、共行動的サポートが多くなることは必然であると考えられる。
1-2道具・情報的サポート
本研究では共行動的サポートに比して、道具・情報的サポートの使用は少なかった。また、その中心は学習場面であった。これは、X適応指導教室では通級生が常に10人前後在室し、2〜3人の小グループに分かれて学習を進めることが多いのに対して、指導員が3人であったことが一因として考えられる。指導員側の人手が足りず、結果として筆者がA の学習をサポートすることが多くなったものと推察される。適応指導教室に通級する子どもの中には学習上の問題を抱える子どもも多く、Aについても保護者は学習の遅れに不安を感じていた。こうした学習場面において道具的・情報的サポートを行うことは、学習の遅れへのサポートとして有効であると思われる。また、学習場面において「役に立つ」ことがサポート源として子どもに認識されることにつながり、関係が深まるにつれて家庭のことや学校のことなどを話すようになったことは、「個人的な悩みごとを話し合っても良い」存在だと認識され、心理的な問題についてのサポートにもつながりやすいことが示唆された。
1-3情緒的サポート
本研究では、情緒的サポートをほとんど使用しなかった。理由として、今回分析に用いたソーシャルサポートの分類項目において、そもそも情緒的サポートが項目数として少ないこと、Aが内心をあまり表に出す性質ではないことが考えられる。本来ならば筆者がAの内心を察して励ましたり、嬉しいことがあったときに自分のことのように喜んだりするというサポートをするべきであったが、筆者は会話を続けることや、その時にしていたことを優先してAの内面にまで目の向け方が浅かった。この点においては、学生ボランティアの力量や専門性といった問題があるといえよう。学生ボランティアが研修やスーパーバイズを受けることによって、適切な情緒的サポートを行えるようになることが今後必要であろう。
1-4評価的サポート
本研究では、道具・情報的サポートと同じく共行動的サポートに比して評価的サポートの使用が少なかった。また、実際に使用した項目は、Aの「成果」を評するものよりも、「努力や心がけ」を評するものが多かった。学生ボランティアは指導員ではないため、成果を評価するということが立場的にそぐわない側面もあるのではないかと考える。
2 筆者の変化
本項では、適応指導教室で不登校生徒とかかわったことによる筆者の側の変化などを挙げる。
筆者は適応指導教室にボランティアとして入ること自体は3回目であり、また1人で入ることも2回目であった。しかし、今回のボランティア活動が前回までと違っていた点は、卒業研究のためであるということである。前回までのボランティア活動では積極的にコミュニケーションをとることができなかったが、今回は明確な目的意識とソーシャルサポートに関する先行研究の知識を持っての参加であったため、自ら積極的にコミュニケーションをとる姿勢が表れたものと考えられる。
また、コミュニケーションの回数を重ねるにつれて、Aだけでなく筆者自身にも変化がみられた。観察の初期には会話をつなげることに気を取られてAの表情に注意を払っていなかったり、Aが応答しにくいような会話をしたりといったことがたびたびあったが、第U紀、第V期と時間の経過に伴って減少していった。ただし、Aの表情などの変化に気づくようになっても、それをサポートに反映させることがわずかしかできなかった。観察期間中のソーシャルサポートの変化はAの変化に影響されたものであり、筆者が意図して変化させたものではない。指導員より専門性の低い大学生ボランティアであっても、毎回の観察終了後に自分のソーシャルサポートを振り返り反省すること、自らの行っているソーシャルサポートに自覚的になることは必要である。
3 適応指導教室における大学生ボランティアの役割
中野・高木(2009)は不登校状態にある児童生徒に関して、「人とかかわること自体がすでに大きな学びとなっている」と指摘している。大学生ボランティアの役割は、不登校児童生徒が普段接する機会の少ない「教師や保護者よりは若いが、友人というには年齢が離れている」存在として、子どものモデルケースとなることではないだろうか。不登校状態にある子どもは、年齢の近い人々とかかわる機会が、そうでない子どもよりも少ない。共行動的サポートを中心としたソーシャルサポートを行うことによって、対人関係の学びにつながり、子どもにとっての「身近な見本」となることが、適応指導教室における大学生ボランティアの役割であることが示唆された。

4 今後の課題
まず、本研究の目的は適応指導教室に通う中学生に焦点を当て、不登校児童生徒の問題状況の改善のために大学生ボランティアがどのようにサポートを行っていけばよいのかを検討することであった。しかし、事例研究の特性上、研究対象が非常に限定されている。同じ適応指導教室に通う同学年・同性の不登校生徒であっても、一方に通用したサポートがもう一方に通用しないことは当然である。そのため、今後は統計的調査等を行い、より一般的に有効なサポートを検討する必要がある。また子ども自身が学生ボランティアのサポートをどのようにとらえているかについても検討する必要があると考える。
