要旨
本研究の目的は、適応指導教室に通う中学生に焦点を当て、不登校生徒の問題状況の改善のために大学生ボランティアがどのようなサポートを行っていけばよいかを検討することであった。先行研究から、適応指導教室の指導員は質・量の両面で不足していること、スタッフの多くを学生ボランティアが占めているが、その役割が明確になっていないことが指摘されていた。そのため、本研究では学生ボランティアの役割の明確化を目指した。方法は参与観察法を用い、中学2年生の生徒Aを対象としてソーシャルサポートの観点から筆者の言動を共行動的サポート、道具・情報的サポート、情緒的サポート、評価的サポートの4種類のサポートに分類し、分析した。
援助過程において筆者は共行動的サポートを主に行った。仲間関係への希求が高まる不登校の中学生に対して、共行動的サポートを行うことが親密な2者関係の構築につながり、子どもの対人関係の問題状況の改善に関連していることが示唆された。また中学生にとって、大学生はいわば「斜めの関係」を構築できる存在であり、年齢の近さを生かしたかかわり(中野ら,2009)を重視すると、共行動的サポートが多くなることは必然と考えられた。
道具・情報的サポートは学習場面を中心に行った。学習場面において道具的・情報的サポートを行うことは、学習の遅れへの支援として有効であると同時に、学生ボランティアがサポート源として子どもに認識されることにつながり、心理的な問題についてのサポートにもつながりやすいことが示唆された。
本事例では、情緒的サポートをほとんど使用しなかった。この点においては、学生ボランティアの力量や専門性といった問題があることが推察された。また、評価的サポートの使用も少なかった。学生ボランティアは指導員ではないため、成果を評価するということが立場的にそぐわない側面があったことが推察された。
不登校状態にある子どもは、年齢の近い人々とかかわる機会が、そうでない子どもよりも少ない。そのような子どもにとってのソーシャルサポートを行いながら「身近な見本」となることが、適応指導教室における大学生ボランティアの役割であると示唆された。
今後の課題として数量的調査を行い、不登校に対する有効なサポートの検討、学生ボランティアに対する子ども自身のサポート認知について検討する必要性があげられた。