考察

 本研究の目的は、本研究の目的は恋人との対人葛藤場面において、その後の関係にポジティブな変化をもたらす対処方略を、関係性認知と葛藤重大度の観点から検討することとであった。また恋人関係との葛藤の比較を測るものとして、異性友人関係との葛藤も同様に検討することであった。

1.関係性認知と葛藤重大度が葛藤対処方略選択に与える影響

 重回帰分析の結果、恋人群、異性友人群ともに葛藤重大度が対処方略に与える影響は、「葛藤重大度自分」が「対話」に弱い正の影響を与えていた。よって仮説2は一部支持されたといえるだろう。また恋人群においては「葛藤重大度自分」が「譲歩」に弱い負の影響を与えていることも明らかとなった。異性友人群においては「葛藤重大度自分」が「回避」に正の影響を、「葛藤重大度相手」が「回避」に弱い負の影響を与えていることもわかった。
 両群ともに葛藤の原因が自分にとってどれだけ重大であったかが「対話」を促進することが明らかとなった。これは自分にとって重大な事柄で葛藤が起きると「対話」を用いて積極的に葛藤解決を図ろうとすることの表れであると考える。恋人群では「葛藤重大度自分」が「譲歩」に弱い負の影響を与えていたことから、その傾向がより顕著に表れていると示唆できる。一方異性友人群では、「回避」が「葛藤重大度自分」によって促進され、「葛藤重大度相手」によって抑制されることがわかった。異性友人関係では自分にとって重大な事柄での葛藤が起きた際には、その状況に合わせて「対話」をとるか「回避」をとるかを判断している可能性があるといえよう。
 葛藤重大度による対処方略への影響は「葛藤重大度自分」によるものばかりであった。このことから葛藤重大度が対処方略に影響を与えていると十分にはいえないだろう。葛藤対処方略には他の要因が影響を与えている可能性がある。その一要因として関係性認知という点が本研究では示された。この点については群ごとに述べていく。

1‐1.恋人群における関係性認知が葛藤対処方略選択に与える影響

 相関分析の結果から、恋人群における関係性認知の尺度の「重要性」が対人葛藤対処方略の「対話」と正の相関を示した。この結果は仮説1を一部支持したといえるだろう。重回帰分析の結果、恋人群では「重要性」が「譲歩」と「対話」に正の影響を与え、「回避」に負の影響を与えていることがわかった。
 恋人群においては相手との関係を大切であるとか親しい関係であると認知していることが葛藤時の対処方略選択に影響を与えていることが明らかとなった。相手との関係を「大切である」や「必要なもの」と捉えている者は、葛藤から目をそらして相手を拒絶するのではなく、相手との対話という対処を用いて解決を図ろうとすることが推測できるだろう。また清水・大坊は、関係性認知の「重要性」を恋愛関係研究で盛んにとりあげられてきた関係への依存性により近いものとしている。このことを踏まえると、恋人関係においては相手への依存性が高いと葛藤時に関係を壊したくないがために、譲歩方略をとりやすいとも考えられる。このことは仮説4が関係性認知の「重要性」を介した上で支持されたといえる。その「重要性」が「回避」に負の影響を与えていることも「重要性」が関係への依存性により近いものということから説明できるだろう。つまり関係への依存性が高ければ、葛藤時に相手を拒絶したり別れ話をしたりなどして相手との関係を終結に向かわせることは少ないと考えられるということである。

1‐2.異性友人群における関係性認知が葛藤対処方略選択に与える影響

 重回帰分析の結果、「重要性」が「対話」に弱い正の影響を、「不確実性」が「回避」に弱い正の影響をおよぼしていることがわかった。
 異性友人群は恋人群ほど関係性認知が葛藤時の対処方略選択に影響はあたえていないことが明らかとなった。これは関係性認知が恋人関係におけるものを扱ったことが一因だと考えられる。しかしその中でも「重要性」が「対話」に正の影響を与えていることが明らかとなったことに関しては、恋人関係においても異性友人関係においても相手との関係を大切だとか必要なものと認知していることが葛藤時に対話方略をとりやすいということが判明したといえるだろう。そして異性友人群においては「不確実性」が「回避」に弱くはあるが正の影響をおよぼしていたことは「不確実性」という関係性認知が関わっているであろう。というのも清水・大坊(2005)は「不確実性」が精神的健康に負の影響を示していることを示し、それは自分にとって重要な関係の状態が予測不可能な場合、個人にとって危機的な状況であるためそのような結果になったと示唆している。「不確実性」が精神的健康に悪影響をおよぼすのであれば、葛藤時に「回避」を用いて関係解消へと導く方が個人の適応にふさわしいのであろう。

2.葛藤後に関係にポジティブな変化をもたらすための対処方略

 重回帰分析の結果、恋人群、異性友人群ともに「回避」が「ネガティブ変化」に正の影響を与えていることがわかった。また異性友人群においては「譲歩」も「ネガティブ変化」に弱い正の影響を与えていることがわかった。そして「対話」が「ポジティブ変化」に正の影響を与えていることがわかった。これは仮説3が支持され、古村・戸田(2008)の結果とも一致した。
 葛藤の際に「回避」が相手との関係にネガティブな変化をもたらすことが示されたのは、「回避」という対処方略が関係終結の方向へ向かう内容であることからも当然の結果だと言えるだろう。異性友人関係において「譲歩」もネガティブな変化をもたらすと示されたのは、「譲歩」が、自分が納得しないままに相手の意見に合わせるという側面を持っていることが一要因として挙げられる。自分の持っている意見を主張できないまま相手に合わせて葛藤を対処すれば、相手のことがあまり好きではなくなったり共に過ごすことがストレスとなったりするのであろう。
 葛藤後に相手との関係にポジティブな変化をもたらすためには解決を積極的に図ろうとする対話方略が有効であることが本研究でも改めて示された。古村・戸田(2008)では親友という枠組みだけで相手が異性か同性かは不明であったが、親しい異性友人間においても対話方略が有効だと示されたことには対人葛藤研究に貢献したといえるだろう。

3.男女差について

 男女差に関しては恋人群では関係性認知、葛藤重大度、葛藤対処方略、葛藤結果どれにおいてもみられなかった。一方異性友人群では対処方略の「回避」においてのみ、女性の方が有意に高いことがわかった。これらの結果は古村・戸田(2008)の葛藤対処方略の男女差の結果とは一致しなかった。
 古村・戸田(2008)では恋人関係において女性の方が男性よりも「回避」や「攻撃」を用いていることを明らかにし、それは女性が別れの主導権を握っていることの表れなのかもしれないと指摘していた。しかし本研究においてはそれがみられなかったことに関して、関係性認知という要因を加えたことが挙げられるのではないか。関係性認知では男女差なく、「重要性」や「活発性」といったポジティブな認知が「緊張感」や「不確実性」というネガティブな認知よりも高かった。この関係性認知が対処方略選択に影響をおよぼしていると明らかになった本研究では、対処方略や葛藤結果にも男女差がみられなかったという結果になったのだろう。
 また古村・戸田(2008)では親友関係において対処方略選択に男女差はなかったとしている。しかし本研究では異性友人関係間では「回避」において男女差がみられた。この結果は葛藤の原因に起因すると考えられる。質問紙の構成の中で葛藤の原因を自由記述させる項目を設けたがその中で、「相手が自分に好意を持っていると知った」という女性被験者の内容や「結婚後の男女役割について」という内容がみられた。女性は友人の相手が異性の場合、異性を意識せざるを得ない葛藤が起きた際に、自分の思っていた相手の考えと相手が思っていた考えに差があったとわかると「回避」という対処方略を用いて相手との関係を終結に向かわせるという可能性があると示唆できよう。

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