総合考察
1.本研究で明らかになったこと
本研究では青年期の恋人関係において葛藤時の対処方略選択に影響を与えるものと葛藤後に関係にポジティブな変化をもたらすための対処方略が明らかとなった。青年期の失恋に終わりやすい恋愛関係において、関係崩壊の一端ともなりうる恋人との葛藤の際には「対話」方略を用いて葛藤解決を図ることが、葛藤を上手く乗り越え関係を維持することに繋がることが、本研究では明らかとなったといえるだろう。そして葛藤時には、葛藤の原因が自分や相手にとって重大であったかではなく、相手との関係を大切だ、必要だと認知していることが葛藤の際に「対話」という、葛藤解決に対して積極的な対処方略を導くことが明らかとなった。関係性認知という観点から対処方略選択について検討できたことは新たな発見となり対人葛藤研究に貢献したといえるだろう。
加えて本研究では異性友人間の葛藤についても検討したことに関して、これまでに異性友人間での対人葛藤研究がなされていなかったことを踏まえると、対人葛藤研究に貢献したといえる。異性友人間においても葛藤時の対処方略選択には関係性認知の「重要性」が葛藤後にポジティブな変化をもたらすことが明らかとなった。この結果は相手が恋人であっても異性の友人であっても、相手との関係を大切だと認知しているならば葛藤が起きた際は相手と積極的に対話をして葛藤解決を図ることが関係維持に繋がるといえるだろう。
重要な他者と良好な関係を維持しながらも自己の意見や要求を主張、実現していくことがテーマの青年期の対人関係発達において、恋人や異性の友人という重要な他者との関係における知見が、本研究では明らかになったといえるのではないか。
2.本研究の限界と今後の課題
本研究では質問紙法を用いて一番印象に残っている葛藤を想起させるという方法で研究を行ったため、過去の恋人との関係について回答した者に関しては認知が歪んでいた可能性がある。また葛藤時についても想起させて回答させたため、どの被験者も葛藤が起きたその当時の状況とは異なった回答をしていた可能性もある。ただこれは葛藤が起きている最中の被験者を対象とするのは非常に難しく、本研究の限界であった。
質問紙作成の際に著者の誤りによって用いなかった項目があったことに関して、その項目の研究はできなかったことは今後の課題となるだろう。また本研究では、葛藤重大度よりも関係性認知の方が対処方略選択に影響を与えているということが明らかとなった。今後は葛藤の原因が自分や相手にとってどれだけ重大であったかという要因ではなく、葛藤の原因によって自分がどれだけ苛立ちを覚えたかという観点や葛藤の原因によって相手への感情がどのように変化したかという観点などから検討してみる必要があると考えられる。
譲歩方略については古村・戸田(2008)が指摘していたように、意味づけ過程に着目する必要があるだろう。本研究ではコミットメントに関しては検討しなかった。譲歩方略がネガティブ変化をもたらすがコミットメントは高めるという古村・戸田(2008)の結果を踏まえるならば、縦断的研究が必要である。葛藤直後と葛藤からしばらく経った後ではコミットメントに変化があることが考えられるためである。また関係性認知に関しても葛藤前、葛藤後で比較する必要性は無視できない。一度葛藤が起きた後で関係性認知がどのように変化し、その変化がさらに次の葛藤で対処方略選択にどのような影響を与えるのかを、縦断的研究で検討する必要があるだろう。
そして異性友人関係では葛藤時のその時々において対処方略を変えている可能性が明らかとなったことや「回避」において男女差がみられたことに関して、今後は葛藤の原因も検討する必要もあるだろう。葛藤の原因をカテゴリーに分類してそれが対処方略選択にどのように影響を与えているのかを検討する必要があると考える。
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