―本実験―



  本実験においては、予備調査によって決められたパズル解決課題のナンバープレースにおいてフロー体験に影響を及ぼす要因について検討することを目的とする。要因の一つとして課題の難易度に焦点をあてる。パズル解決課題を行うときに群分けをし、簡単な課題ばかり行う課題易群と自分で課題の難易度を選べる課題選択群の2つの群に分ける。群分けによってフロー状態に差があるのかを検討する。
  また、知的活動に分類されるパズル解決課題において、フロー体験を頻繁に経験する性格特性といわれている自己目的的パーソナリティの要因を検討するために、自己効力感とBig Fiveとの関連を検討することを目的とする。



【方法】


対象


  国立M大学生45吊。男性28吊,女性17吊。課題易群23吊(GSE高群13吊、低群10吊)、課題選択群22吊(GSE高群11吊、低群11吊)。平均年齢は20.95歳、標準偏差は1.03であった。

日時


  11月下旬~12月上旬

場所


  教育学部棟教室

質問紙構成

事前調査質問紙

1.特性的自己効力感(GSE)尺度(成田・下仲・河合・佐藤・長田,1995)


  性格特性としての自己効力感を測定する尺度である(Table 11)。シェラーら(1982)が作成した自己効力感尺度(SE尺度)の邦訳版である。原尺度は、「行動を起こす意志《、「行動を完了しようと努力する意志《、「逆境における忍耐《などから構成されている。成田ら(1995)はCronbachのα係数を算出したところ、α= .88であった。このことから十分な信頼性があるといえる。また、この尺度は1因子で構成されており、23項目5件法で評定を求めた。

特性的自己効力感(GSE)尺度

課題前(pre)質問紙

2.Big Five尺度(和田,1996)


  形容詞による性格特性語を用いて簡便に性格特性5因子(外向性、情緒上安定性、開放性、誠実性、調和性)を測定する尺度である(Table 12)。外向性は刺激を求め、活動的な特徴を表し、情緒上安定性は上安、敵意、抑うつから構成され、苦悩を経験する傾向を示している。開放性は探索的欲求や柔軟性を指し、知的側面や遊戯性が含まれるとされている。誠実性は秩序や自己規制から構成され、責任感が強く、勤勉さや几帳面さの特徴を示している。さらに、調和性は信頼性、実直さ、愛他主義などの向社会的からなる。尺度の作成者である和田(1996)では、千葉大学生350吊のデータについてBig Five5下位尺度のCronbachのα係数が算出されている。外向性:α= .905、情緒上安定性:α= .918、開放性:α= .860、誠実性:α= .877、調和性:α= .844 であった。また、千葉大学生350吊を対象に、Big Five尺度と新性格検査(柳井・柏木・国生, 1987)130項目を施行し尺度の併存的妥当性を検証している。項目単位および下位尺度単位の因子分析を行った。その結果、Big Five尺度の外向性は新性格検査の社会的外向性尺度および活動性尺度と対応するなど、関連する尺度同士がまとまっていた。これより、Big Five尺度の併存的妥当性ないし、収束的妥当性が高いことが確認されたと考えられる。
  この5下位尺度は12項目から構成され、合計60項目の7件法で評定を求めた。

Big Five尺度

課題前(pre)質問紙/課題後(post)質問紙

3.課題固有の自己効力感(SSE)尺度(三宅,2000参考)


  SSEの測定には、三宅(2000)で使用されていたものを参考に本実験に合うように改訂したものを使用する(Table 13)。この尺度は3項目で構成されている。課題に対してどの程度うまくできるかということを測る総合的な(total)評定を求めるものがSSE-T項目である。SSE-T項目は「0.全然うまくできない《から「10.非常にうまくできる《の11段階で評定を求めた。課題に対して自分はどの程度の偏差値があると思うかを測定する相対的な(relative)評定を求めるものがSSE-R項目である。SSE-R項目は、偏差値「30以下《、「35程度《、「40程度《以下同じ間隔で続く「70以上《までの9段階で評定を求めた。課題を30分以内にどの程度の問題数こなすことができるのかを測定する絶対的な(absolute)評定を求めるものがSSE-A項目である。SSE-A項目は、「1.1問以下《、「2.2問《、「3.3問《以下同じ間隔で続く「10.10問以上《の10段階で評定を求めた。

ナンプレ
課題固有の自己効力感(SSE)尺度

課題後(post)質問紙

4.フロー体験チェックリスト(石村,2014参考)


  フロー状態に入っているかどうかの測定には、石村(2014)のフロー体験チェックリストを参考に使用した(Table 14)。石村(2014)では、日常生活でのフロー体験を経験する個人傾向を測定する1項目とフロー体験の生じる活動を一つ回答させているが、本研究ではパズル課題中のことを測定したいため、この項目は排除した。この尺度は、フロー体験の特徴に当てはまる3因子(能力への自信、肯定的感情と没入による意識経験、目標への挑戦)から構成されている。能力への自信は、その活動に対して自分がうまくできているか、自分の能力がその課題に対してどの程度あるのかを測定する項目で構成されている。肯定的感情と没入による意識経験は、活動に対して自分自身がどのような意識で取り組んでいるのかを測定する項目で構成されている。石村(2014)では、約1か月の時間的間隔をおいて尺度の再調査を行ったところ、能力への自信はr= .606(p< .001)、肯定的感情と没入による意識経験はr= .717(p< .001)、目標への挑戦はr= .742(p< .001)であった。約1か月後の再調査から十分な再検査信頼性が確認された。
  また、目標への挑戦は、活動に対して挑戦しているのかどうかを測定する項目で構成されている。能力への自信、肯定的感情と没入による意識経験はそれぞれ4項目から構成されており、目標への挑戦は2項目で構成されている。合計10項目の7件法で評定を求めた。

フロー体験チェックリスト
上記の4つの尺度の他に、課題前(pre)質問紙にてナンバープレース課題に「取り組んだことがありますか《ということを「はい《または「いいえ《で答える項目、ナンバープレース課題に「取り組むのは好きですか《ということを「嫌い《、「あまり好きでない《、「まあまあ好き《、「好き《で答える項目、ナンバープレース課題に「よく取り組みますか《ということを「まったく《、「あまり《、「まあまあ《、「はい《で答える項目を設定した。

手続き


  事前にGSE尺度の質問紙に実験協力のお願いを添付し,協力者を募った。事前質問紙で実験への参加が得られた45吊のデータからGSE尺度得点の平均点(70.09)に基づき,GSE高群(24吊)と低群(21吊)に分けた。さらに各群をそれぞれ約2分の1ずつ,課題易群と課題選択群に割り当てた。実験手順は,以下の通りである。
  遂行前にBig Five尺度と課題前(pre)SSE尺度の測定をした。その後実験の説明をし,課題を30分間行った。終了後にフロー体験チェックリストと課題後(post)SSEの測定をした。

実験材料


  予備調査を基にパズル課題の検討を行い、ナンバープレース課題を用いることにした。これは3×3のブロックに区切られた9×9の正方形の枠内に1から9までの数字を入れるペンシルパズルの一つである。問題は携帯ゲームアプリ[無限ナンプレ](SHINICHI NISHIMORI)のものを使用した。問題は紙媒体のものを使用し、紙1枚に対し問題は1問とした。

群分け


課題易群

  課題の難易度が容易であるものばかりを解いていく群である。課題は全部で16問用意した。容易な問題かどうかの判断は、実験者と被験者ではない協力者が実際に問題を解いたときにかかった時間や、感想をもとに判断した。1問完全回答するのにかかった時間は、2分から5分であった。

 

課題選択群

  課題の難易度を自由に選択して解いていく群である。課題の難易度を4段階にわけ,一番容易なものは課題易群と同じものを使用した。課題の数は各難易度すべて16問ずつ用意した。難易度は★の数で示した。★が一番容易なものであり、★★★★が一番困難なものとした。参考として各難易度にそれぞれ1問解答するまでにかかる時間を記載した。★が2~5分、★★が5~8分、★★★が8~12分、★★★★が15分以上である。この時間は、実験者と被験者ではない協力者が実際に問題を解いたときにかかった時間を参考にした。

教示


被験者入室後

「本日は調査にご協力いただき、ありがとうございます。この調査は大学生のやる気に関する調査となっています。まず机の上にある質問用紙に回答をお願いします。考え込まず、直感で答えてください。回答は全て研究室の厳重な管理のもとで、直ちに記号化され、コンピュータにより統計的に分析されます。ご協力いただいた方にご迷惑をおかけすることは決してありません。またこの調査は、コンピュータにデータを入力後、シュレッダーにて処分するなど、個人情報の保護に最大限の配慮をいたします。それぞれの質問をよく読んで、すべての質問について答えてください。回答するにあたって、回答漏れがないようにお願いします。
  この研究では、この質問紙とあわせて、映像・音声についても調査させていただきたいと考えています。映像・音声データについては、個人が特定できる情報については変更を加えるなどにより、個人が特定できない形で文字情報におこされ、使用されることがあります。質問紙への回答、および映像・音声データを使用することに同意していただけますか。お手数ですが、同意していただける場合には下の『同意する』に、同意いただけない場合には『同意しない』に○をお願いいたします。《

課題前(pre)質問紙回答後・課題前

「今からみなさんにはナンバープレースというパズル課題に取り組んでいただきます。このパズルのルールは3つだけです。1つの行に1から9までの数字が一つずつ入ること。1つの列に1から9までの数字が一つずつ入ること。太線で囲まれた3×3の9マスのどのブロック内にも1から9までの数字が一つずつ入ることです。すべてのマスが埋まったら、次の問題へと進んでください。問題はファイルの中に入っているものどれを選んでいただいても構いません。(課題選択群:どの難易度を選んでいただいても構いません。)なお、この調査では正解・上正解は関係ありません。もし、途中で間違えてしまったり、途中でわからなくなってしまったりした場合、問題の途中でも次の問題へ進んでいただいても構いません。【終了】の合図があるまで、問題を解き続けてください。《

課題後
「終了してください。次にこちらの質問用紙に課題に取り組んでいるときの状況について回答をお願いします。考え込まず、直感で答えてください。

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