方法】

1.研究の概要

本研究では大学生の実験協力者を21組とし、競争群・協同群に分けた。そして、群ごとにトランプを用いた課題を行わせた。課題には競技性の高いものと低いもの2種類あり、それらを1回ずつ使用し、計2回課題を行わせた。質問紙は、それぞれ事前,実験1後,実験2後の計3回の時点で回答を求めた。競争群と協同群の違いは、競争群はトランプをどちらか片方しか取れず、課題終了時に相手より多くの枚数を集めた人を勝者とし、協同群は2人で協力して1つを取り、課題終了時に決められた基準に到達したかどうかで成功・失敗とすることとした。

2.実験協力者

地方国立大学学生18才〜21才の6030(男性25名,女性45)を対象に実験を行った。実験の協力者は競争群,協同群ともに参加者が同数になるようランダムに振り分けられた。その結果、競争群3015(男性10名,女性20)、協同群3015(男性15名,女性15)となった。

3.実験時期

2015年の11月下旬から12月上旬

4.実験課題

課題には、株式会社ビバリーより販売されている熟語トランプの上級編と初級編を用いた。これは、トランプのカード11枚に漢字が書かれているトランプである。まず、実験協力者を机を挟んで向かい合うように座らせた。机の上にはあらかじめ課題に使用するトランプが上級編では42枚、初級編では44枚並べられていた。その中から実験協力者は、実験者が机の上のトランプではなく手元から出した2枚のトランプの色と同じ色のトランプを1文字ずつ組み合わせて2文字の熟語を作る。その後、見つけた熟語を手で押さえそれを取ることとした。また、本研究では競争を同一の目標に向かって努力する人々の中で目標を達成するのがただ1人であることとし、協同を協力して、学び合うことや高め合うことを通じて目的を達成することと考えるため、競争ではどちらか片方でしかカードを取れないとし、協同では2人で協力して取るカードを考え、より高い目標を達成する事とした。そして、競争の場合は同時に取った場合は手が下にある人がそのカードを取れることとした。さらに、各条件の成功・失敗を競争ならば課題終了時に相手より多くの枚数を集めた人を勝者とし勝利することを成功、相手に敗北することを失敗とし、協同では課題終了時に上級編なら32枚、初級編なら36枚と決められた基準に到達したかどうかで成功・失敗を判断した。カードを取れた場合、その2枚を横に置き、実験者が出した別のカードの種類に合わせて熟語を作るということを繰り返し、これを実験協力者の2名ともが熟語が作れないと判断するまで繰り返すという課題を行った。また、本研究では上級編は1年生から4年生までの漢字がトランプに書かれており、使用されるカードに難しいものが多く、組み合わせて熟語を作ることが難しく結果が安定しないため競技性の低い課題(競技性低)、初級編は1年生から3年生までの漢字がトランプに書かれており、使用されるカードに易しいものが多く、組み合わせて熟語を作ることが簡単で結果が安定しやすいため競技性の高い課題(競技性高)とした。それに加え、競技性の高い課題では実力で結果が決まる、競技性の低い課題では運で結果が決まるという内容の教示を行った。

5.手続き

5-1.@実験・課題の説明

  実験協力者を机を挟んで向かい合うように座らせた。その後、実験協力者を実験協力者に対し、研究の本当の意図を伝えずに実験課題に2度取り組んでもらい、事前,実験1後,実験2後でそれぞれ質問紙に回答してもらうという説明を行った。そして、得られたデータについては統計的に処理され、個人が特定されるような公表は行われず、迷惑をかけることはないと説明を行った上で、実験のデータを研究に使用するための同意書に記入してもらった。また、実験の様子を映像として記録し、それを研究に使用することについても同意書に記入してもらった。

5-2.A,B教示による各条件への導入

  はじめに、課題のルールについてと課題の終了条件を告げた。次に競技性の違いについて、上級編のトランプを見せながら、「こちらのトランプは上級編といわれているもので、熟語が作りにくいため結果がなかなか安定せず、運で結果が決まるトランプとなっています。」と言い、次に初級編のトランプを見せながら、「こちらのトランプは初級編といわれているもので、こちらは熟語が作りやすく、実力で結果が決まるトランプとなっています。」というように対比させて教示を行った。最後に競争・協同条件ごとの教示を行った。

・競争条件 「では、先ほど説明した課題をお二人で競いながら行っていただきます。カードを取れるのは先に熟語を見つけた方のみとなります。そして、ゲームの勝敗についてなのですが、ゲーム終了時に相手よりも多くカードを見つけた方が勝者となります。」

・協同条件 「では、先ほど説明した課題をお二人で協力しながら行っていただきます。カードを取れるのはお二人で一組のみとなります。そして、ゲームの成功・失敗についてなのですが、ゲーム終了時に、決められた枚数よりも多くカードを見つけた場合成功となります。」

その後、質問紙に回答してもらい、回答後に質問紙を回収した。

5-3.C実験1回目

  競技性の高い課題と低い課題を実験協力者全体でほぼ同数になるように実験を行う順序を実験1で競技性が高い課題を行った場合は、実験2で競技性が低い課題、実験1で競技性の低い課題を行った場合は実験2で競技性の高い課題を行うようにした。そして、ここでは決められた順序に従い実験を行った。実験を行う前に再度今回の課題の結果が運で決まるものか実力で決まるものかの教示を行い、実験を行った。また、実験を行う時間については特に時間制限は設けなかった。実験終了後に実験協力者の取れた枚数を数え、勝敗もしくは成功・失敗を伝えた上で再度今回の結果が運で決まったものか実力で決まったものかの教示を競技性の高い場合は「この結果は実力が出た結果ですね。」と言い、競技性が低い場合は「この結果は運で決まりましたね。」というように行った。

5-4.D実験1後の質問紙

課題終了後に向かい合った状態のまま、質問紙を配付した。配付後に「今回の課題を行ってどう感じたかについて回答してください」という教示を行い、質問紙への回答を求めた。また、質問紙への回答について特に時間制限は設けなかった。そして、質問紙に回答が終了した時点で質問紙を回収した。

5-5.E実験2回目

  実験1回目で競技性の高い課題を行った場合は競技性の低い課題、実験1回目で競技性の低い課題を行った場合は競技性の高い課題を行った。実験を行う前に再度今回の課題の結果が運で決まるものか実力で決まるものかの教示を行い、ビデオカメラを用いて録画を始めた状態で実験を行った。また、実験を行う時間については特に時間制限は設けなかった。実験終了後に実験協力者の取れた枚数を数え、勝敗もしくは成功・失敗を伝えた上で再度今回の結果が運で決まったものか実力で決まったものかの教示を競技性の高い場合は「この結果は実力が出た結果ですね。」と言い、競技性が低い場合は「この結果は運で決まりましたね。」というように行った。また、実験終了後にビデオカメラによる録画を停止した。

5-6.F実験2後の質問紙

課題終了後に向かい合った状態のまま、質問紙を配付した。配付後に「今回の課題を行ってどう感じたかについて回答してください」という教示を行い、質問紙への回答を求めた。また、質問紙への回答について特に時間制限は設けなかった。そして、質問紙に回答が終了した時点で質問紙を回収した。

5-7.G実験目的の説明

 実験終了を告げ、調査の目的が協同と競争、課題の競技性の違い、課題に成功したか失敗したかによるやる気の生起の違いについて検討するために行ったものであることを説明し、再度実験のデータや映像データを研究に使用するための同意書に記入してもらった。また、質問紙は動機づけの強さと課題の成功確率の予測についてと課題終了後に課題をどの程度好んでいたかと自己効力感と原因帰属先とチャレンジ志向と充実感を測るための物であったことを説明した。

6.質問紙の構成

質問紙は、事前,実験1後,実験2後の計3回行われた。

質問紙は、事前のもののみ自己効力感、成功の期待確率の測定、興味の強さ、課題選好の測定、外発・内発的動機づけの測定により構成されており、実験12後のものは自己効力感、成功の期待確率の測定、興味の強さ、課題選好の測定、外発・内発的動機づけの測定、充実感、チャレンジ志向により構成された。なお、本研究での検討には用いられなかったいくつかの質問も質問紙には含まれていた。

6-1.自己効力感 

自己効力感を測るため、自己効力感(伊藤,1996)の尺度を参考に作成した。項目は、「将来にわたってこのゲームが得意であると思う」「このゲームで良い成績を取ることが出来ると思う」「他の人と比べて、私はこのゲームが得意であると思うか?」の3項目で、「はい」から「いいえ」までの6件法で尋ねた。

6-2.成功の期待確率の測定

成功の期待確率を測るため、成功の期待確率の測定(伊藤,1985)の尺度を参考に作成した。項目は「あなたは次行うときにどの程度ゲームをうまく行えると思う」の1項目で、「はい」から「いいえ」までの6件法で尋ねた。

6-3.興味の強さ 

興味の強さを測るため、「あなたはゲームを面白いと思う」の1項目で、「はい」から「いいえ」までの6件法で尋ねた。

6-4.課題選好の測定

課題をどの程度好んでいたかを測るため、課題選好の測定(伊藤,1985) の尺度を参考に作成した。項目は「あなたはゲームをもう一度行いたいと思いますか。」の1項目で、「はい」から「いいえ」までの6件法で尋ねた。

6-5.外発・内発的動機づけの測定

 外発・内発的動機づけを測るため、生用習動機づけ尺度(岡田,中谷,2006の尺度を参考に作成した。項目は内発因子として「ゲームが面白いから」「自分の能力を高めることになるから」「好奇心が満たされるから」「おもしろいから」の4項目からなり、取り入れ因子は「他人に能力を示したいから」「それを通して自分の価値が感じられるから」「相手に負けるのが嫌だから」「よい結果や評価を得たいから」の4項目からなる計8項目で、「はい」から「いいえ」までの6件法で尋ねた。

6-6.チャレンジ志向

 チャレンジ志向を測るため、課題の結果に対するチャレンジ志向を検討するために「仮に失敗した場合、そのゲームをもう1度しようとは思わない」「もっと難易度が高いゲームにも挑戦していきたい」「もっと上手な人と競ったり、高い基準を満たしたりすることを目標にゲームを行いたい」という項目について満足から不満足の3項目で、「はい」から「いいえ」までの6件法で尋ねた。

また、この項目については実験前に回答することは難しいと考えられるため、実験の事後のみの計2回の回答を求めた。

6-7.充実感

充実感を測るため、「今回のゲームの結果について」という項目について満足から不満足の6件法で尋ねた。また、この項目については実験前に回答することは難しいと考えられるため、実験の事後のみの計2回の回答を求めた。

7.映像データの収集

 競争・協同や競技性の違いによって個人の遂行にどのような影響があるのかということを測るため、実験の説明を行う際に実験協力者に許可を取り、実験1から実験2までの実験の様子を実験者の前方から手元と表情が映るようにビデオカメラで撮影した。この映像データを使用し、質的な分析により検討することとした。