結果】

1.有効データの選択

勝敗,競技性の違いによる影響の検討をする場合において、競争群で勝敗がつかず引き分けとなった2名分については勝敗による変化を見ることが出来ないと考えられたため分析には用いなかった。また、勝敗,競技性の違いによる影響の検討以外の全ての分析についてはこの2名分のデータも含めて分析を行った。


2.尺度構成

各尺度の信頼性を検討するため事前の得点を用いCronbachのα係数を算出した結果、自己効力感はα=.89,外発的動機づけはα=.88,内発的動機づけはα=.87,チャレンジ志向はα=.82であり、十分信頼性はあると判断した。ここに挙げた尺度以外は項目ごとに検討した。


3.競争・協同、競技性の違いによる影響の検討

競争・協同条件,順序,時期を独立変数、各尺度の得点を従属変数とする2×2×3の被験者間内混合計画の3要因分散分析を行った。その結果、興味の強さ(F(3,60) =7.41p<.01),内発的動機づけ(F(3,60) =12.05p<.01)において時期の主効果がみられた。また、興味の強さ(F(3,60) =3.60p<.05)において2次の交互作用が有意であった。興味の強さの項目において下位検定を行ったところ、競争群で時期×課題を行った順序の単純交互作用が有意であった(F(3,60) =4.60p<.05)。単純単純主効果を検討したところ、競争群で課題を行った順序が競技性の高いものを先に行った群において、時期について有意な差が見られ(F(3,60) =6.52p<.01)、課題を行った順序が競技性の低いものを先に行った群においては有意な差が見られなかった。Bonferroniの検定による多重比較の結果、競争場面の競技性の高い課題を先に行った群において実験1後と実験2後の間の差が実験2後の方が有意に高い傾向であった。また、競争場面の競技性の高い課題を先に行った場合において、事前と実験2後の間の差が実験2の方が有意に高い値を示した(F(1,60) =10.45p<.05)

さらに、内発的動機づけ(F(3,60) =4.45p<.05)において2次の交互作用が有意であった。内発的動機づけの項目において下位検定を行ったところ、順序が競技性高―低において競争・協同×時期(F(3,60) =3.11p<.05)と競争群において順序×時期(F(3,60)= 5.79p<.05)の単純交互作用が有意であった。単純単純主効果を検討したところ、課題を行った順序が競技性の高いものを先に行った時期が事前群において、競争・協同との間で有意な差が見られ(F(3,60) =4.11p<.05)、競争で課題を行った順序が競技性の高いものを先に行った群において、時期の間で有意な差が見られた(F(3,60) =11.60p<.01)Bonferroniの検定による多重比較の結果、競争場面の競技性の高い課題を先に行った群において事前時よりも実験1後の方が有意に高い値を示した(F(1,60) =14.50p<.05)。また、競争場面の順序が競技性の高い課題を先に行った群において事前時よりも実験2後の方が有意に高い値を示した(F(1,60) =14.85p<.05)


4.勝敗,競技性の違いによる影響の検討

勝敗,競技性,時期(実験の事前・事後)を独立変数、各尺度の得点を従属変数とする被験者間内混合計画の3要因分散分析を競争群,協同群それぞれで行った。その結果、協同群の期待(F(3,30)=12.17p<.01),課題選好(F(3,30)=8.51p<.01)において時期の主効果が見られ、競争群の内発的動機づけ(F(3,30)=20.89p<.01)で時期の主効果がみられた。また、競争群においてのみ自己効力感項目で勝敗×時期(F(3,30)=24.00p<.05)において1次の交互作用が有意であった。単純主効果を検討したところ、自己効力感については競争に勝利した群は自己効力感が有意に上昇し(F(3,30)=22.63p<.01)、競争に敗北した群は有意に自己効力感が有意に下降していた(F(3,30)=6.73p<.05)。さらに、競争群においてのみ内発的動機づけで勝敗×時期(F(3,30)=7.32p<.05)において1次の交互作用が有意であった。単純主効果を検討したところ、内発的動機づけについては競争に敗北した群は内発的動機づけが有意に上昇していた。(F(3,30)=25.27p<.01) 。

5.映像データの質的検討

実験の様子を記録した映像データを使用し、課題遂行の様子を検討することとした。課題遂行の様子に競争・協同それぞれに特徴が見られた。それらの特徴の動機づけへの影響を見るため実験者1人が実験協力者を競争群において課題遂行中に楽しいなどの「おもしろい」や「楽しい」などの課題に対する好意的な発言が実験中1度でも見られた群を競争愛好群、見られなかった群を競争無関心群に群分けした。協同群において課題遂行中に取るカードの半分以上を2人で協力し、取るカードを相談しながら決めていたかどうかで協調性高群と協調性低群に群分けした。また、群でのやりとりは競争・協同ともに相互作用によって起きていると考えられるため、2人一組の内どちらか片方でも競争愛好群、もしくは協調性高群の様子が見られた場合は2人とも競争愛好群、もしくは協調性高群とすることとした。その結果、競争群において競争愛好群は12名みられ、競争無関心群は18名みられた。また、協同群において協調性高群は14名みられ、協調性低群は16名みられた。


5-1.群ごとの特徴

  競争群の映像から見られた2つの群を比較してみると、競争愛好群では相手に取りやすいよう相手側にカードを寄せて課題を行うということやカードを相手の方へ向けて漢字が相手に読みやすいよう配置したというように勝つという事のみを意識せず、相手と競うことを通じて能力を高めようとする行動が多く見られた。他にも相手が先に取った場合において「すごい」や「よく知っているね」などの相手を称賛する発言も見られた。一方、競争無感情群では相手に配慮したカードの配置は行わず、相手を称賛する発言も競争愛好群に比べ少なかった。

協同群の映像から見られた2つの群を比較してみると、協調性高群ではどのような順序で取ればより多くのカードが取れるかという事を相談するとともに協力しやすいようにカードの配置を並び替える、お互いに褒め合うという行動が多く見られるなど高い目標を設定し、協力しやすい環境・雰囲気を整えながら課題を遂行していた。一方、協調性低群では多少はお互いに褒め合うという行動は見られたものの協調性高群と比べると少なく、2人の間で相談や会話などもほとんど見られなかった。

5-2.群ごとの分析

競争愛好・無関心を独立変数、各尺度の得点を従属変数とする被験者間内混合計画の2要因分散分析を競争群で行い、協調性高・低を独立変数、各尺度の得点を従属変数とする被験者間内混合計画の2要因分散分析を協同群で行った。その結果、協同群において期待(F(2,30)=18.27p<.01),興味(F(2,30)=4.86p<.05),課題選好(F(2,30)=14.94p<.01),において時期の主効果がみられ、競争群において期待(F(2,30)=4.98p<.05),課題選好(F(2,30)=6.84p<.05),内発的動機づけ(F(2,30)=20.87p<.01)において時期の主効果がみられた。また、協同群においてのみ課題選好 (F(2,30)=4.49p<.05)において1次の交互作用が有意であった。単純主効果を検討したところ、課題選考については、協調性高群は課題選考が有意に上昇していた。(F(2,30)=15.70p<.01) 。さらに、協同群においてのみ内発的動機づけ(F(2,30)=7.59p<.05)において1次の交互作用が有意であった。内発的動機づけについては、協調性高群は課題選考が有意に上昇しており (F(2,30)=8.15p<.01) (Figure11)、実験1後の協調性高群と協調性低群の間で有意に協調性高群の方が得点が高かった(F(2,30)=12.33p<.01)