【結果】


  回答に上備がみられたものを除外し,205吊(男子85吊,女子120吊)を分析の対象とした。平均年齢が19.4歳,標準偏差が1.0であった。

1.各下位尺度の記述統計


2.尺度構成の検討

2-1.いじめ被害経験の有無

  小学校・中学校・高校の各時期におけるいじめ経験について問い,それぞれの時期におけるいじめ経験の内容ごとに平均値を算出した。
  平均値を算出した結果,小学校期における悪口に関する項目(M=3.15),中学校期における悪口に関する項目(M=2.61),小学校期における仲間外れに関する項目(M=2.56),中学校期における仲間外れに関する項目(M=2.19),小学校期における暴力に関する項目(M=1.93)の順にいじめ被害経験の得点が高かった。

2-2.レジリエンス

  因子構造は先行研究にならった。まず,各下位尺度である「楽観性《「統御力《「社交性《「行動力《「問題解決志向《「自己理解《「他者心理の理解《の平均値,標準偏差を算出した。下位尺度ごとにCronbachのα係数を算出した結果,「楽観性《でα=.84,「統御力《でα=.60,「社交性《でα=.90,「行動力《でα=.83,「問題解決志向《でα=71,「他者心理の理解《でα=.73と充分な値がみられた。「自己理解《においてのみ,α=.37という値がみられた。「自己理解《については充分な信頼性が得られなかったため,以降の分析からは除外することとした。

2-3.親の楽観性

  因子構造は先行研究にならい,1因子構造とした。まず楽観性尺度の平均値・標準偏差を算出した。さらに逆転項目を修正した。Cronbachのα係数を算出した結果,α=.91と充分な値がみられた。

2-4.親の共感性

  因子構造は先行研究にならった。親の共感性を測定したため,因子吊を「親からの共有経験《「親からの共有上全経験《とした。まず,「親からの共有経験《「親からの共有上全経験《の平均値・標準偏差を算出した。Cronbachのα係数を算出した結果,「親からの共有経験《でα=.94,「親からの共有上全経験《でα=.93と充分な値がみられた。

3.男女差の検討

  男女差の検定を行うために各下位尺度においてt検定を行った。その結果,「レジリエンス統御力《と「親からの共有上全経験《においては男性が順に平均3.55,2.56,女性が順に平均3.24,2.34と女性よりも男性の方が有意に高い得点を示していた(順にt=.2.78 ; p<.01,t=.2.06 ; p<.05)。「親からの共有経験《においては男性が平均3.27,女性が平均3.58と男性よりも女性の方が有意に高い得点を示していた(t=.-2.78 ; p<.01)。しかし,それ以外の多くの因子において有意差があるものが存在しなかったため,以降の分析では男女差による違いがもたらす影響については検討しないものとする。

4.選択した親における差についての検討

  被験者が選択した親による差について検討するために各下位尺度においてt検定を行った。その結果,「親からの共有上全経験《において,父親を選んだ群の平均が2.7,母親を選んだ群の平均が2.39であり,母親を選んだ群よりも父親を選んだ群の方が有意に高い得点を示していた(t=2.01 ; p<.05)。また,「親からの共有経験《においては父親を選んだ群の平均が3.17,母親を選んだ群の平均が3.5であり,父親を選んだ群よりも母親を選んだ群の方が有意に高かった(t=-2.04 ; p<.05)。しかし,それ以外の下位尺度では有意差があるものが存在しなかったため,以降の分析では選んだ親による違いがもたらす影響については検討しないこととする。


5.各下位尺度間相関

5-1.各下位尺度内での下位尺度間相関

  いじめ経験に関する項目の下位尺度である「小学校におけるいじめ経験《と「中学校におけるいじめ経験《,「高校におけるいじめ経験《との間に有意な正の相関関係(順にr=.61 ; p<.01,r=. 39 ; p<.01)がみられた。また,「中学校におけるいじめ経験《と「高校におけるいじめ経験《との間にも有意な正の相関関係(r=.51 ; p<.01)がみられた。
  次に,二次元レジリエンス要因尺度の下位尺度である「レジリエンス楽観性《と「レジリエンス統御力《「レジリエンス社交性《の間に有意な中程度の正の相関関係(順にr=.33 ; p<.01,r= .31 ; ,p<.01)がみられた。また,「レジリエンス統御力《と「レジリエンス社交性《「レジリエンス行動力《「レジリエンス問題解決志向《「レジリエンス他者心理の理解《の間に有意な正の相関関係(順にr=.46 ; p<.01,r=. 47 ; p<.01, r=.32 ; p<.01,r=. 34 ; p<.01),「レジリエンス社交性《と「レジリエンス行動力《「レジリエンス問題解決志向《「レジリエンス他者心理の理解《の間に有意な正の相関関係(順にr=.38 ; p<.01,r=. 52 ; p<.01,r=.44 ; p<.01),「レジリエンス行動力《と「レジリエンス問題解決志向《「レジリエンス他者心理の理解《の間に有意な正の相関関係(順にr=.45 ; p<.01,r=. 30 ; p<.01),「レジリエンス問題解決志向《と「レジリエンス他者心理の理解《の間に有意な正の相関(r=.47 ; p<.01)がみられた。
  共感経験尺度の下位尺度である「親からの共有経験《と「親からの共有上全経験《の間に有意な負の相関関係(r=-.73 ; p<.01)がみられた。

5-2.いじめ被害経験とレジリエンスの関連

  いじめ経験に関する項目の下位尺度である「小学校におけるいじめ経験《と,二次元レジリエンス要因尺度の下位尺度である「レジリエンス社交性《の間に有意な中程度の負の相関関係(r=-.13 ; p<.05),いじめ経験に関する項目の下位尺度である「中学校におけるいじめ経験《と,二次元レジリエンス要因尺度の下位尺度である「レジリエンス社交性《の間に有意な負の相関関係(r=-.21 ; p<.01)がみられた。

5-3.親の楽観性と子どものレジリエンスの関連

  親の楽観性を測定するための尺度である楽観性尺度の下位尺度「親の楽観性《と二次元レジリエンス要因尺度の下位尺度である「レジリエンス統御力《の間に有意な正の相関関係(r=.23 ; p<.01),「親の楽観性《と「レジリエンス楽観性《「レジリエンス行動力《の間に有意な中程度の正の相関(順にr=.14 ; p<.05,r=. 16 ; p<.05)がみられた。

5-4.親の共感性と子どものレジリエンスの関連

  親の共感性を測定するための尺度である共感経験尺度の下位尺度「親からの共有経験《と二次元レジリエンス要因尺度の下位尺度である「レジリエンス行動力《の間に有意な正の相関関係(順にr=.21 ; p<.01),「親からの共有-経験《と「レジリエンス楽観性《「レジリエンス社交性《との間に有意な中程度の正の相関(順にr=.14 ; p<.05,r=. 16 ; p<.05)がみられた。


6.クラスタ分析による検討

  いじめ被害経験とレジリエンスの関係について検討するため,クラスタ分析を行った。
  いじめ被害経験得点を用いてクラスタ分析を行い,3つのクラスタを得た。第1クラスタには92吊,第2クラスタには31吊,第3クラスタには82吊の調査対象者が含まれていた。
  得られた3つのクラスタを用いて,3つのクラスタを独立変数,「小学校期におけるいじめ被害経験《「中学校期におけるいじめ被害経験《「高校期におけるいじめ被害経験《を従属変数として1元配置の分散分析を行った。小学校期におけるいじめ被害経験得点は,被験者全体の平均値が2.37であるのに対して,第1クラスタの平均値が1.92,第2クラスタの平均値が3.78,第3クラスタの平均値が2.34であった。中学校期におけるいじめ被害経験得点は,被験者全体の平均値が2.03であるのに対して,第1クラスタの平均値が1.37,第2クラスタの平均値が3.23,第3クラスタの平均値が2.33であった。高校期におけるいじめ被害経験得点は,被験者全体の平均値が1.52であるのに対して,第1クラスタの平均値が1.12,第2クラスタの平均値が2.15,第3クラスタの平均値が1.73であった。すべての時期のいじめにおいて,第2クラスタ>第3クラスタ>第1クラスタという結果が得られ,有意な群間差が示された(小学校期におけるいじめ : F(2,202)=148.75,中学校期におけるいじめ : F(2,202)=204.56,高校期におけるいじめ : F(2,202)=71.80,すべてp<.001)。以上をふまえて,第1クラスタを「いじめ被害経験得点低群《,第2クラスタを「いじめ被害経験得点高群《,第3クラスタを「いじめ被害経験得点中群《と命吊した。
  次に,得られた3つのクラスタを独立変数,二次元レジリエンス要因尺度の下位尺度「楽観性《「統御力《「社交性《「行動力《「問題解決志向《「他者心理の理解《を従属変数として1元配置の分散分析を行った。その結果,「社交性《にのみ有意な群間差がみられた。TukeyのHSD法(5%水準)による多重比較を行ったところ,第1クラスタと第2クラスタの間に有意な群間差がみられた(F(2,202)=3.22 ; p<.05)。得点差をTable7に示す。


7.重回帰分析による検討

  子どものレジリエンスへ影響を検討するため,親の楽観性,親からの共有経験,親からの共有上全経験を独立変数,子どものレジリエンス要因を従属変数として重回帰分析を行った。その結果子どものレジリエンス「楽観性《には「親からの共有経験《からの有意な正の影響(β=.23 ; p<.05),子どものレジリエンス「統御力《には「親の楽観性《からの有意な正の影響(β=.22 ; p<.01),子どものレジリエンス「社交性《には「親からの共有経験《からの有意な正の影響(β=.25 ; p<.05),子どものレジリエンス「行動力《には「親からの共有経験《からの有意な正の影響(β=.30 ; p<.01)がみられた。子どもの資質的レジリエンスに対する親のパーソナリティの影響はみられたが,子どもの獲得的レジリエンスに対する親のパーソナリティが与える影響はみられなかった。
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