1.自己志向的完全主義が空想の多面的特徴に与える影響


仮説1を検討するために、自己志向的完全主義を独立変数、空想内容を従属変数として重回帰分析を行った。

その結果「失敗過敏」から「不幸・不運遭遇的空想」に正の影響を及ぼしていることがわかった。

また、「行動疑念」から「不幸・不運遭遇的空想」「人生俯瞰的空想」に正の影響を及ぼしていることがわかった。 つまり、「失敗過敏」が高い人、「行動疑念」が高い人は不幸・不運遭遇的空想を行うことが多いことが示された。 よって、仮説1は支持されたと言える。

また、「行動疑念」が高い人は「人生俯瞰的空想」を行うことが多いことが示された。 「行動疑念」が高い人は自分の今までの行動に対する空想や、現実世界に関連した空想をすることが多いためではないかと考えられる。

仮説2を検討するために、自己志向的完全主義を独立変数、空想する状況を従属変数として重回帰分析を行った。

その結果「高目標設定」から「快状況時空想」に正の影響を及ぼしていることが分かった。

また、「行動疑念」から「不快状況時空想」に正の影響を及ぼしていることが分かった。 つまり、「高目標設定」が高い人は快状況時に空想を行うことが多いことが示された。 「高目標設定」が高い人は、たとえ統制不可能事態に直面しても、直面化、ポジティブ予期、考え込みなどを行う(大谷,2004)ことで乗り越えることができるため、落ち込むことが少なく、快状況時に空想することが多いのではないかと考えられる。

また、「行動疑念」が高い人は不快状況時に空想を行うことが多いことが示された。 よって、仮説2は「失敗過敏」については支持されず、「行動疑念」についてのみ支持されたと言える。

「行動疑念」が高い人は自分の行動に漠然とした疑いを持つ傾向があるため、常に漠然とした不安を感じながら現在の自分の行動や状況について考えることが多くなり、「不快状況時空想」が高くなったと考えられるが、 「失敗過敏」が高い人は必ずしも不快状況時に空想をすることが多いわけではないことが示された。

大谷(2004)によれば、「失敗過敏」が高い人は統制不可能事態に直面した場合、回避的な行動をとり、ネガティブな予期(あきらめ)をし、事態に直面した不完全な自分を非難するような対処をとる傾向があることが分かっている。 「失敗過敏」が高い人は、統制不可能な事態(不快状況)から回避し、何も考えないように意識し、もしくは思考停止状態に陥り、考えを巡らせたり空想したりすることからも逃避する場合があるのではないかと考えられる。

仮説3と仮説4を検討するために、自己志向的完全主義を独立変数、空想の役割・影響を従属変数として重回帰分析を行った。

その結果「高目標設定」から「未来対処」「ポジティブ影響」に正の影響を及ぼしていることがわかった。

また、「失敗過敏」から「未来対処」に負の影響、「ネガティブ影響」に正の影響を及ぼしていることが分かった。 つまり「高目標設定」が高い人は空想の役割・影響について「未来対処」のために空想を行う人が多く、「ポジティブ影響」が高いと考えていることが示された。 よって、仮説3は支持されたと言える。

また、「失敗過敏」が高い人は「ネガティブ影響」が高いと考えていることが示唆された。 よって、仮説4は「行動疑念」については支持されず、「失敗過敏」についてのみ支持されたと言える。

「失敗過敏」が高い人はミス(失敗)を過度に気にする傾向であり、失敗したり、不幸な目に遭う空想である「不幸不運遭遇的空想」との関連が認められ、空想が嫌な気分や悪い考えをもたらすと考える「ネガティブ影響」が高くなることが考えられる。

しかし、自分の行動に漠然とした疑いを持つ傾向である「行動疑念」は、「失敗過敏」と同じく「不幸・不運遭遇的空想」との関連が認められるものの、精神的健康に悪影響を及ぼさない「人生俯瞰的空想」との関連も認められ、 空想の影響を必ずしもネガティブなものととらえているとは言えないと考えられる。

また、「失敗過敏」が高い人は「未来対処」のために空想を行うことが少ないことが示唆された。 大谷(2004)も述べているように、「失敗過敏」が高い人は統制不可能事態から回避的な行動をとるために、空想をシミュレーションやイメージトレーニングに使う「未来対処」が低くなるということが考えられる。