2.自己志向的完全主義と空想の多面的特徴、精神的健康の関連


「全体的幸福感」は「異相空間的空想」「未来対処」「ポジティブ影響」「快状況時空想」と正の相関を示し、「失敗過敏」「行動疑念」と負の相関を示した。

また、空想内容の「願望充足的空想」から「全体的幸福感」に負の影響、「不幸・不運遭遇的空想」から「全体的幸福感」に負の影響、空想の役割・影響の「未来対処」から「全体的幸福感」に正の影響、空想する状況の「快状況時空想」から「全体的幸福感」に正の影響を及ぼしていることが分かった。 松井・小玉(2004)によれば、精神的健康が高い人は空想内容における「願望充足的空想」を多く用いていることがわかっているが、本研究の結果では「願望充足的空想」は「全体的幸福感」と負の傾向を示しており、また、負の影響を及ぼしていることから、先行研究とは異なる結果が示されたと言える。

「願望充足的空想」は賞賛されたりすごい能力を発揮したりする内容である。高い目標や願望に関する空想は、適応的な面にも不適応的な面にもつながることがあるということが推測される。例えば、願望が叶わないことに注意が向き、満たされないと感じる場合は不適応的な面につながり、願望に向けて努力をしたり、単に願望が満たされた様を思い描いて良い気分になる場合は適応的な面につながるといったことが考えられる。

また、大谷・桜井(1997)によれば、「高目標設定」と抑うつ傾向・絶望感とは負の傾向あるいは負の有意な相関、「失敗過敏」「行動疑念」と抑うつ傾向・絶望感とは有意な正の相関が認められた。「失敗過敏」「行動疑念」に関しては「全体的幸福感」と負の相関がみられ、「高目標設定」は正の相関傾向が見られたため、先行研究の結果と一致した。

仮説5を検討するために、空想内容、空想の役割・影響、空想する状況を独立変数、全体的幸福感を従属変数として重回帰分析を行った。

また、重回帰分析の結果を参考に共分散構造分析を行った。修正モデル1と重回帰分析の結果より、「不幸・不運遭遇的空想」は、「失敗過敏」「行動疑念」から正の影響を受け、「全体的幸福感」へ負の影響を与えていることがわかった。 つまり、「失敗過敏」や「行動疑念」は、失敗したり、不幸な目に遭う空想である「不幸・不運遭遇的空想」を行うことで、精神的健康に悪影響を及ぼしていることが考えられる。

伊藤(2004)も述べているように、完全主義だけでは抑うつの持続、重症化は起こらず、抑うつの持続・重症化が引き起こされるにはネガティブな反すうが介在すると考えられ、「失敗過敏」「行動疑念」が高い人は、「不幸・不運遭遇的空想」のようなネガティブな空想を反すうをすることで精神的健康を悪化させているのではないかと考えられる。

修正モデル2と重回帰分析の結果より、「未来対処」は、「高目標設定」から正の影響、「失敗過敏」から負の影響を受け、「全体的幸福感」に正の影響を与えていることがわかった。

つまり、「高目標設定」は、空想をシミュレーションやイメージトレーニングに使う「未来対処」を行うことで精神的健康に良い影響を与えていることが考えられる。 「高目標設定」が高い人が精神的健康を高めるためには、現実世界と向き合い、空想をいかしていこうとする姿勢を持つことが重要であることを示唆する結果であると言える。

修正モデル3と重回帰分析の結果より、「快状況時空想」は、「高目標設定」から正の影響を受け、「全体的幸福感」に正の影響を与えていることがわかった。 つまり、良いことがあったときや楽しい気分のときに空想することで、精神的健康に良い影響を与えていることが考えられる。

「高目標設定」が高い人は、過度に高い目標を持っていたとしても、良いことがあったときや楽しい気分のときに空想することが多いため、精神的健康に良い影響を与えることが示された。

以上により、仮説5は一部の下位尺度に関して支持されたと言える。