4.自己志向的完全主義と精神的健康

桜井・大谷(1997)によって作成された自己志向的完全主義尺度は4つの下位尺度によって構成されている。

4つの下位尺度とは、 自分に高い目標を課する傾向(高目標設定:PS)、 ミス(失敗)を過度に気にする傾向(失敗過敏:CM)、 自分の行動に漠然とした疑いを持つ傾向(行動疑念:D)、 完全でありたいという欲求(完全欲求:DP)である。

自己志向的完全主義には心身の健康と関連する側面と、不健康と関連する側面という2面性が混在している。

「失敗過敏」や「行動疑念」が高い人は失敗を過度に気にしたり、自分の行動に漠然とした疑いを持つ傾向があるため、 松井・小玉(2004) による多面的空想特徴質問紙「空想内容」における、失敗したり、不幸な目に遭う内容である「不幸・不運遭遇的空想」を多く用いているのではないかと考えられる。 また、不安になることが多くなり、「空想する状況」における不安な時や辛いことがあった時に空想する「不快状況時空想」も高くなるのではないかと考えられる。 そして、「不幸・不運遭遇的空想」をすることが多いために、「空想の役割・影響」の空想が嫌な気分や悪い考えをもたらすと考えており「ネガティブ影響」が高くなるのではないかと考えられる。

また、大谷(2004)は、自己志向的完全主義の2側面と統制不可能事態への対処について検討している。

統制不可能事態とは、自分では統制不可能と感じられ、かつそれがストレスを引き起こす状況のことである。

自己志向的完全主義者が、統制不可能事態に直面した場合について、 大谷(2004)は「高目標設定」と直面化、ポジティブ予期、考え込みに正の相関、「失敗過敏」と直面化、ポジティブ予期、自己擁護に負の相関を見出した。 「高目標設定」が高い人は松井・小玉(2004) による多面的空想特徴質問紙「空想の役割・影響」の「未来対処」が高く、 空想をシミュレーションやイメージとレーニングに使用することで、統制不可能事態への対処に生かそうとする姿勢がみられるのではないかと考えられる。