問題と目的




1.問題

1-1 青年期の「恋愛」と「異性関係」
 青年期において、“好き”といった感情は多くの男女が抱く感情である。
“好き”といった感情は、家族・友人など様々な対象に向けられる感情であるが、青年期において抱く“好き” という感情は、とくに異性に向けられることが多くなってくる。
思春期にあたる中学生時代の青年期前期、高校時代の青年期中期、そして、青年期後期にあたる大学生時代においても恋愛関係は関心の中心である(豊田,2005)。
このことに伴い、大井・宮本(2009)でも言われているように、青年期においては中心的な自己開示の相手が両親から次第に同性の友人となり、青年期の終わり頃からは、異性の友人や恋人へとなっていく。
このことから、異性の友人や恋人が重要な存在になってくると考えられる。
また、「恋愛が人を成長させる」(天谷,2007)といったことが言われている。
例えば、安達(1994)の研究では、青年にとっての恋人や異性友人との関係は、態度・価値の形成、信念・理想の形成、葛藤の解決・自己の安定、親密さを形成していくことに影響しているということが明らかになっている。
また、堀毛(1994)の研究では、恋人の有無によって、男子学生では「リラックス・挑発」といったスキル、女子学生では「積極性」というスキルが熟達しているということが明らかになっているため、恋人の有無が青年のスキル成長に影響していることがわかる。
以上のことから、恋人や異性友人との異性関係は、青年期後期にあたる大学生時代において、今の自分自身を見つめ、自己認識するためにも、また成長していく過程においても重要なものであると考えられる。

1-2 恋愛経験が及ぼす影響
 恋愛経験とは、人生において重要な影響を及ぼすであろう。
これまでの研究では、恋愛経験が、異性関係スキルの向上(堀毛,1994)や異性を見る目が養われる(詫摩,1973)ことに影響していると言われている。
これまで、社会心理学における対人コミュニケーションの分野での恋愛研究において、青年の生涯発達という観点から、一つ一つの恋愛経験がどのような影響を与えるのか、という視点はあまり問題にされてこなかった。
この問題に天谷(2007)は着目し、「青年自身の価値観に関わる側面の変化やそれに与える影響はあるはずである」と述べ、Leeの恋愛類型理論に基づいて作成された松井・木賊・立澤・大久保・大前・岡村・米田(1990)の尺度を使用し、研究を行っている。
この研究結果は、後の「恋愛類型理論」の部分で詳しく触れていく。
Erikson(1950)の述べる、発達課題の「親密性」の獲得においても、恋愛経験は、重要な影響を及ぼすのではないかと考えられる。
親密になった異性とは、「恋人関係」に発展する場合もあれば、発展しない場合もあるだろう。
なぜ、「恋人関係」に発展するのか、そうした「異性友人」と「恋愛相手」の区別をするにあたって、少なからず自身の「恋愛に対する価値観」というものが影響するであろう。
そうした「恋愛に対する価値観」を育んでいくにあたっても、恋愛経験は重要であるとともに、影響を及ぼすと考えられる。
しかし、これまでの研究では、特定の異性を想定して「恋愛観」を測定する尺度が多く用いられてきた。
これでは、親密な異性がいない者の「恋愛に対する価値観」や、その人の抱く「恋愛全般における価値観」は考慮することができないのではないかと考える。
そこで、特定の人を想定した「恋愛観」ではなく、「恋愛全般に対する価値観」に恋愛経験がどのように影響を及ぼすのかを検討することが、その人の人生、および恋愛経験で獲得してきた、より正確な「恋愛に対する価値観」を測ることができるのではないだろうか。
しかしながら、「恋愛に対する価値観」に恋愛経験が影響を及ぼすかどうかについては、あまり研究がされていない。
したがって、恋愛経験が「恋愛に対する価値観」に及ぼす影響についても検討していく必要があると考えられる。

1-3 「恋愛離れ」と「ソフレ」の出現
 近年では南(2014)でも言われているように、若者の「恋愛離れ」が指摘されている。
オーネットによる「第21回 新成人意識調査 2016年新成人(全国600人)の恋愛・結婚意識」では、「恋人がいる」と回答した者は4人に約1人という結果が出ている(Figure 1)。
2011年を底に微増傾向を示してはいることがわかるが、1996年の結果を見ると、2016年の結果は約半数であることがわかる。
また、同調査によると「恋人がいない」と回答した新成人のうち3人に2人が「交際相手がほしい」と回答していることが明らかになっている(Figure 2)。
しかし、2000年には90.0%が「交際相手がほしい」と答えていたが、次第にその割合は減少していることが現状である。
今後、この割合が増減していくかは、少子化問題などの社会問題にも大きく影響してくると考えることができる。
同時に、この割合の増減には、社会全体の様子も重要であり、前述にもあるように「恋愛全体に対する価値観」も大きく影響しているのではないかと考えられる。
また、「交際相手がほしくない」と回答した者の理由が選択方式の回答方法によって、明らかにされている(Table 1)。
この結果より、男女ともに「面倒くさい」といった理由が1位となっていることがわかる。
また、特に女性で強く見られる「自分の自由がなくなる」といった理由からは、交際相手からの束縛を嫌い、気楽に人付き合いをしたいといった考えが、若者の中にあるのではないかといったことが推測される。
リクルートマーケティングパートナーズによる「恋愛・婚活・結婚調査2015」では、20代独身男女の恋人の有無を調査している(Figure 4)。
この結果より、男性の約4割が交際経験もなく、恋人がいないと回答していることがわかる。よって、男性の「恋愛離れ」が示唆されると同時に、男性の恋愛への積極性がなくなってきていることも推測できるであろう。
近年では、原田(2014)も述べているように、一部の若者の間で「添い寝フレンド」(以下、「ソフレ」とする)という関係が流行している。
「ソフレ」とは、肉体関係は持たず、添い寝だけをする異性の友人のことを指す。
リクルートマーケティングパートナーズによる、恋愛・婚活コラム「ホンネストpowered byゼクシィ縁結び」では、添い寝フレンド「ソフレ」をテーマにした意識調査を2015年に独身男女2000人に対して実施している。
「ソフレ」の存在はまだまだ希少ではあるが、確実に新しい「異性関係」が生まれてきていることがわかる(Figure 5)。
また、恋愛・婚活コラム「ホンネストpowered byゼクシィ縁結び」の意識調査では、「ソフレ」をもつ理由についても調査している。
男性の回答結果では、「流れで」「仲が良くてよく遊ぶ相手だから」「家で一緒に遊んでいたから」といった理由がみられた。
また、女性の回答結果では、「彼氏と別れた時に寂しかったから」「失恋した時」「待っていたけど相手が迫ってこなかった」「手を出してこなかった」といった理由がみられた。
女性の回答結果は、前述にもあるような、男性が恋愛に対して積極的でなくなってきているということを支持する結果であるとも考えられる。
以上より、近年の若者の「恋愛」「異性関係」に対する考えはどのようなものであるのか、近年の若者の「恋愛相手」と「異性友人」の違いがどこにあるのか、疑問を抱いた。
そこで、筆者は、まず「恋愛に対する価値観」に影響すると考えられる「恋愛経験」から、その実態に迫っていくことが必要であると考える。

1-4  Rubinの研究と近年青年の心理
 恋愛関係は青年期において大切かつ、関心の中心であるがゆえに恋愛関係によって精神的に不安定になる可能性が高いとも言われている(豊田,2005)。
前述にもある、近年の若者の間でみられる「ソフレ」といった新しい「異性関係」の出現も、恋愛関係によって精神的に不安定になった結果でもあるのではないかと筆者は考える。
松井(1993)も言っているように、恋愛と友情の区別は、いつの時代においても青年の議論において重要なテーマとして取り扱われてきたといっても過言ではない。
実際に、Rubin(1970)は、この感情を区別する尺度(Love尺度、Liking尺度)を開発している。
この研究において、「Love」とは「熱中・独占欲」に値する感情、「Liking」は「尊敬」に値する感情なのではないかと言われている。
そこで、筆者は、近年の若者の「異性関係」では、恋愛関係によって精神的に不安定になることによって、「Love」といった感情を「異性友人」に対しても強く抱き始めているのではないか、と考える。
よって、このRubinが開発した「Love尺度」を基に、「恋愛相手」と「異性友人」に抱く感情の違いを見ていくことにする。

1-5 恋愛類型理論と恋愛経験
 天谷(2007)によると、過去・現在の異性関係・恋愛経験の有無は現在の恋愛観の変動に寄与していると考えられる。
Lee(1977)は恋愛に関する文献の分析やカナダ・イギリスの青年を対象にした面接調査の結果に立脚して、恋愛関係をAgape、Ludus、Mania、Pragma、Eros、Storgeの6類型とこれらの混合型に分類している(松井,1993a)。
この理論を用いて天谷(2007)が研究を行っている。
この研究では、恋愛経験・恋人の有無によって「恋人あり群」「恋人なし・恋愛経験あり群」「恋愛経験なし群」の3群に分けて検討している。
3群における交際相手との一体感と恋愛観得点の関連を検討するために、相関を求めた結果、「恋人あり群」では、Erosと正の相関、Ludusと負の相関がみられた。
「恋人なし・恋愛経験あり群」ではLudusと負の相関がみられた。
また、「恋愛経験なし群」ではEros、Agape、Mania、Storgeと正の相関がみられた。
以上の結果より、恋愛観は現在の恋人の有無や交際経験によって異なるということが明らかとなった。
この研究で用いられた恋愛観尺度は、松井ら(1990)が作成した尺度であり、この尺度は特定の異性を想起させ回答させる形式のものである。
 また、松井(1993b)では、恋愛行動の段階との関連についても検討されている。
ここでは、松井(1993b)も述べているように、恋愛をゲームと考え、楽しもうという意識、つまり、Ludusは、キスや、ボーイフレンドやガールフレンドとして友人に紹介する行動段階までは強まることが明らかにされており、恋人以上の関係になると弱まる傾向があることが明らかにされている。
また、穏やかな友情のような意識、つまり、Storgeは、恋愛初期行動段階で高まるが、婚約の行動段階に達すると弱まる傾向があることが明らかにされている。
一定の基準を作って相手を選ぼうとする意識、つまり、Pragmaは、恋愛行動の進展によって変動しないことも明らかにされている。
したがって、最も親しい異性との行動段階によっても、「恋愛観」は異なるということがわかる。
つまり、この研究結果からも、これまでの恋愛でどのような経験をしてきたかということ(恋愛経験)が、「恋愛観」に大きく影響を及ぼしていることがわかる。
以上より、特定の異性を想起させる「恋愛観」と恋愛経験との関係性と同様に、「恋愛に対する価値観」でも同じように恋愛経験によって異なるのかどうか検討する必要があるのではないかと考える。

1-6 恋愛イメージ
 前述にもあるが、ある特定の異性に対する「恋愛観」ではなく、「恋愛に対する価値観」を測る尺度が必要であると考える。
そこで、金政(2002)の研究に着目したいと考える。
この研究では「恋愛イメージ尺度」の作成と検証が行われている。
「恋愛イメージ尺度」では、特定の異性を想起させず、あくまでも「恋愛」に対するイメージを問う項目のみで構成されているため、「恋愛に対する価値観」を測ることができるのではないかと考えられる。
恋愛イメージは、現在最も親しい異性との関係性によって異なることが示されている。
そのため、恋愛経験によって変容する可能性が多分にあることは示唆されているものの、明確にはされていない。
また、実際の親密な異性関係における感情的側面にどのような影響を与えるのか、既存の尺度との関連性を検討する必要があるとしている。
したがって、恋愛イメージも恋愛観と同様に恋愛経験と関連しているのか、既存の尺度を用いて、親密な異性への感情にどのように影響を及ぼすのかを検討していく必要があると考える。

2.本研究の目的
 恋愛イメージ尺度と恋愛経験の関係、恋愛経験とLove尺度との関係、恋愛イメージ尺度とLove尺度との関係を明らかにすることにより、恋愛経験が、青年期後期にあたる若者が抱く「恋愛イメージ」に及ぼす影響を検討する。
また、「恋愛相手」への感情と「異性友人」への感情の違いも検討する。




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