【結果】
1.各下位尺度の記述統計
多面的感情状態尺度16項目をそれぞれの場面ごと,被援助志向性尺度13項目の平均値と標準偏差を算出し,天井効果およびフロア効果を確かめた。多面的感情状態尺度において,天井効果およびフロア効果がみられる項目があったが,場面条件による感情の違いをみるために重要な項目であると判断し,削除せずに使用した。
2.尺度構成の検討
2-1.多面的感情状態尺度の信頼性の検討
他者から同情をされたときにどのような感情が生起されるかを検討するために,寺崎・岸本・古賀(1992)の多面的感情状態尺度のうち「抑鬱・不安」,「敵意」,「活動的快」,「非活動的快」の4つの下位尺度 16項目を使用した。この多面的感情状態尺度の内的整合性を検討するために,場面ごとにCronbachのα係数を算出したところ,すべての場面においてα=.92-.95の範囲内であったため,十分に信頼性があると判断した。
2-2.特性被援助志向性尺度の信頼性の検討
自分で解決することが困難な状況に直面したとき,「他者に援助を求める態度」を測定するために,田村・石隈(2006)の特性被援助志向性尺度を使用した。13項目を用い,その一部に若干の修正を加えた尺度を用いた。この特性被援助志向性尺度の内的整合性を検討するために,Cronbachのα係数を算出したところ,「被援助に対する懸念や抵抗感の低さ」でα=.75,「被援助に対する肯定的態度」でα=.84であったため,十分に信頼性があると判断した。
3.場面ごとにおける各下位尺度間の相関関係
「抑鬱・不安」と「敵意」との間に,親密かつ経験の共有有りの場面,親密かつ経験の共有無しの場面,顔見知りかつ経験の共有有りの場面,顔見知りかつ経験の共有無しの場面では正の相関関係(r=.45, 34, 52, 42 ; p<.01)がみられた。「活動的快」と「非活動的快」の間に,親密かつ経験の共有有りの場面,親密かつ経験の共有無しの場面,顔見知りかつ経験の共有有りの場面,顔見知りかつ経験の共有無しの場面では正の相関関係(r=.57, 64, 65, 80 ; p<.01)がみられた。「敵意」と「非活動的快」の間に,親密かつ経験の共有有りの場面,親密かつ経験の共有無しの場面,顔見知りかつ経験の共有有りの場面,顔見知りかつ経験の共有無しの場面では負の弱い相関関係(r=-.16 ; p<.05,r=-.23, -19, -19 ; p<.01)がみられた。
また,顔見知りかつ経験の共有無しの場面では,「非活動的快」と「被援助に対する肯定的態度」の間に,弱い負の相関関係(r=-.19,p<.01)がみられ,「活動的快」と「被援助に対する懸念や抵抗感の低さ」の間に,弱い正の相関関係(r=.14,p<.05)がみられた。親密かつ経験の共有有りの場面では,「非活動的快」かつ「被援助に対する懸念や抵抗感の低さ」の間に,弱い負の相関関係(r=-.17,p<.05)がみられた。
4.男女差の検討
男女差の検定を行うために,各下位尺度についてt検定を行った。その結果,「抑鬱・不安(親密・経験の共有無し)」が有意であり,女性のほうが高かった(t=-2.37)。「被援助に対する懸念や抵抗感の低さ」が有意であり,男性のほうが高かった(t=2.173)。
5.親密さ,経験の共有,被援助志向性(被援助に対する懸念や抵抗感の低さ)の違いによる感情尺度下位4尺度の得点の検討
それぞれの4つの尺度得点について2(親密さ:親密・顔見知り(被験者内))×2(経験の共有:経験の共有有り・経験の共有無し(被験者内))×2(被援助に対する懸念や抵抗感の低さ:高群・低群(被験者間))の三要因分散分析を行った。その結果,敵意,活動的快,非活動的快において親密さの有意な主効果が示された。経験の共有については,すべての感情で有意な主効果がみられた。被援助に対する懸念や抵抗感の低さについては,抑鬱・不安のみに有意な主効果がみられた。親密さにおいては,敵意のみ顔見知りの相手のほうが得点が高く,活動的快,非活動的快は親密な相手のほうが得点が高かった。経験の共有においては,抑鬱・不安,敵意は経験の共有無しのほうが得点が高く,活動的快,非活動的快は経験の共有有りの得点が高かった。被援助に対する懸念や抵抗感の低さにおいては,抑鬱・不安について高群のほうが得点が高かった。
また,非活動的快において,親密さ×経験の共有×被援助に対する懸念や抵抗感の低さの交互作用が示され,単純交互作用の検定の結果,経験の共有有りにおける被援助に対する懸念や抵抗感の低さ×親密さの単純交互作用が有意であった[F (1,216) =4.92,p<.05]。被援助に対する懸念や抵抗感の低さ高群における親密さ×経験の共有の単純交互作用が有意であった[F (1,216) =7.03,p<.01]。次に単純・単純主効果の検定を行った結果,親密×経験の共有有りにおける被援助に対する懸念や抵抗感の低さの単純・単純主効果に有意差はみられなかった。顔見知り×経験の共有有りにおける被援助に対する懸念や抵抗感の低さの単純・単純主効果に有意差はみられなかった。被援助に対する懸念や抵抗感の低さ低群×経験の共有有りにおける親密さの単純・単純主効果が有意であった[F (1,216) =7.69,p<.01]。被援助に対する懸念や抵抗感の低さ高群×経験の共有有りにおける親密さの単純・単純主効果が有意であった[F (1,216) =33.09,p<.01]。被援助に対する懸念や抵抗感の低さ高群×経験の共有無しにおける親密さの単純・単純主効果が有意であった[F (1,216) =12.15,p<.01]。被援助に対する懸念や抵抗感の低さ高群×親密における経験の共有の単純・単純主効果が有意であった[F (1,216) =41.12,p<.01]。被援助に対する懸念や抵抗感の低さ高群×顔見知りにおける経験の共有の単純・単純主効果が有意であった[F (1,216) =21.19,p<.01]。
6.親密さ,経験の共有,被援助志向性(被援助に対する肯定的態度)の違いによる感情尺度下位4尺度の得点の検討
それぞれの4つの尺度得点について2(親密さ:親密・顔見知り(被験者内))×2(経験の共有:経験の共有有り・経験の共有無し(被験者内))×2(被援助に対する肯定的態度:高群・低群(被験者間))の三要因分散分析を行った。その結果,敵意,活動的快,非活動的快において親密さの有意な主効果が示された。経験の共有については,すべての感情で有意な主効果がみられた。経験の共有については,すべての感情で有意な主効果がみられた。被援助に対する懸念や抵抗感の低さについては,抑鬱・不安のみに有意な主効果がみられた。親密さにおいては,敵意のみ顔見知りの相手のほうが得点が高く,活動的快,非活動的快は親密な相手のほうが得点が高かった。経験の共有においては,抑鬱・不安,敵意は経験の共有無しのほうが得点が高く,活動的快,非活動的快は経験の共有有りの得点が高かった。
また,非活動的快において,親密さ×被援助に対する肯定的態度の交互作用が示され,単純主効果の検定の結果,親密における被援助に対する肯定的態度の単純主効果に有意な差はみられなかった。顔見知りにおける被援助に対する肯定的態度の単純主効果に有意な差はみられなかった。また,被援助に対する肯定的態度低群における親密さの単純主効果が有意であった[F (1,215) =9.34,p<.01]。被援助に対する肯定的態度高群における親密さの単純主効果が有意であった[F (1,215) =56.17,p<.01]。
さらに,経験の共有×被援助に対する肯定的態度の交互作用が示され,単純主効果の検定の結果,経験の共有有りにおける被援助に対する肯定的態度の単純主効果に有意な差はみられなかった。経験の共有無しにおける被援助に対する肯定的態度の単純主効果に有意な差はみられなかった。被援助に対する肯定的態度低群における経験の共有の単純主効果が有意であった[F (1,215) =20.49,p<.01]。被援助に対する肯定的態度高群における経験の共有の単純主効果が有意であった[F (1,215) =67.51,p<.01]。