結果
1.尺度の検討
元の論文の因子構造をそのまま使用したが、依存欲求尺度に関しては、加筆・修正したため因子分析を行った。その結果、2項目が削除され、12項目2因子が抽出された。
第1因子は、「何かやろうとする時には、いつも友人のはげましや気づかいがほしい」「いつも友人に見守っていてほしい」、第2因子は「体調が悪くなった時には、必ず友人に仕事を代わってほしい」「面倒な仕事をする時は、必ず友人の手伝いがほしい」などが含まれた。これらは、元の論文から引用し、それぞれ「情緒的依存欲求」「道具的依存欲求」と命名した。
各下位尺度の信頼性を検討するため、クロンバックのα係数を算出したところ、「積極的行動」はα=.77、「対象攻撃行動」はα=.73、「自己破壊行動」はα=.74、「猜疑心」はα=.72、「自責感」はα=.73、「仮想的有能感」はα=.85、「自尊感情」はα=.84、「情緒的依存欲求」はα=.92、「道具的依存欲求」はα=.83、「本来感」はα=.88、「役割感」はα=.87、「被受容感」はα=.89、「安心感」はα=.93となり、十分な値が得られた。
2.相関
各下位尺度の相関を算出した。「対象攻撃行動」は、「仮想的有能感」との間に正の相関(r=.442,p<.01)、「自尊感情」「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」との間に負の相関(r=-.226,p<.01,r=-.202,p<.01,r=-.189,p<.01 ,r=-.245,p<.01,r=-.261,p<.01)を示した。「積極的行動」は、「自尊感情」「情緒的依存欲求」「本来感」「役割感」「被受容感」との間に正の相関(r=.431,p<.01,r=.153,p<.05, r=.200,p<.01, r=.336,p<.01, r=.194,p<.01)を示した。「自責感」は、「自尊感情」「本来感」「役割感」との間に負の相関(r=-.618,p<.01,r=-.172,p<.05,r=-.360,p<.01)を示した。「自己破壊行動」は、「仮想的有能感」との間に正の相関(r=.355,p<.01)、「自尊感情」「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」の間に負の相関(r=-.298,p<.01,r=-.349,p<.01,r=-.256,p<.01,r=-.324,p<.01,r=-.329,p<.01)を示した。「猜疑心」は、「仮想的有能感」との間に正の相関(r=.438,p<.01)、「自尊感情」「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」との間に負の相関(r=-.310,p<.01,r=-.359,p<.01,r=-.346,p<.01,r=-.355,p<.01,r=-.338,p<.01)を示した。
「仮想的有能感」は、「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」との間に負の相関(r=-.318,p<.01,r=-.180,p<.01,r=-.270,p<.01,r=-.345,p<.01)を示した。「自尊感情」は、「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」との間に正の相関(r=.228,p<.01,r=.455,p<.01,r=.228,p<.01,r=.187,p<.01)を示した。「情緒的依存欲求」は、「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」との間に正の相関 (r=.163,p<.05,r=.270,p<.01,r=.218,p<.01,r=.196,p<.01)を示した。「道具的依存欲求」は、「役割感」「被受容感」との間に正の相関(r=.214,p<.01,r=.166,p<.05)を示した。
次に、各下位尺度の男女別の相関を算出した。。男子においてのみ見られた結果として、「積極的行動」と「情緒的依存欲求」「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」との間に正の相関(r=.264,p<.01,r=.289,p<.01,r=.450,p<.01,r=.349,p<.01,r=.226,p<.05)、「自責感」と「役割感」との間に負の相関(r=-.278,p<.01)、「自尊感情」と「本来感」「被受容感」「安心感」との間に正の相関(r=.290,p<.01,r=.354,p<.01,r=.245,p<.01)、「情緒的依存欲求」と「安心感」との間に正の相関(r=.257,p<.01)、「道具的依存欲求」と「役割感」「被受容感」「安心感」との間に正の相関(r=.260,p<.01,r=.224,p<.05,r=.233,p<.01)が見られた。
女子においてのみ見られた結果として、「対象攻撃行動」と「道具的依存欲求」との間に正の相関(r=.212,p<.05)、「自尊感情」「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」との間に負の相関(r=-.286,p<.01,r=-.384,p<.01,r=-.260,p<.05,r=-.397,p<.01,r=-.441,p<.01)、「積極的行動」と「仮想的有能感」との間に正の相関(r=.236,p<.05)、「自己破壊行動」と「役割感」「安心感」との間に負の相関(r=-.320,p<.01,r=-.426,p<.01)、「仮想的有能感」と「本来感」「被受容感」「役割感」との間に負の相関(r=-.523,p<.01,r=.-.325,p<.01, r=-.410,p<.01)が見られた。
3.男女差の検討
各下位尺度の男女差を検討するために、t検定を行った。その結果、自責感(t=4.55,df=222,p<.01)、自己破壊行動(t= 2.88,df=161,p<.01)において男性よりも女性が、自尊感情(t=3.90,df=222,p<.01)において女性よりも男性が有意に高い得点を示した。
4.依存欲求・心理的居場所感と攻撃性の分散分析
まず、依存欲求と心理的居場所感を、平均値を基準に高群・低群に分類した。そして、依存欲求と心理的居場所感を独立変数、攻撃性の下位尺度である「積極的行動」「対象攻撃行動」「自責感」「自己破壊行動」「猜疑心」を従属変数とした2要因分散分析を行った。結果、男性では「積極的行動」(F(1,117)=8.69,p<.01)「自己破壊行動」(F(1,117)=10,22,p<.01)「猜疑心」(F(1,117)=7,52,p<.01)に心理的居場所感の主効果が、女性では「対象攻撃行動」(F(1,85)=22.38,p<.001)「自責感」(F(1,85)=4.34,p<.01)「猜疑心」(F(1,85)=24.25,p<.001)で心理的居場所感の主効果が、「自己破壊行動」(F(1,85)=26.59,p<.001, F(1,85)=4.82,p<.05)で心理的居場所感と依存欲求の主効果が有意であった。全てにおいて交互作用は見られなかった。
5.依存欲求と心理的居場所感・攻撃性の重回帰分析
「情緒的依存欲求」「道具的依存欲求」を独立変数、心理的居場所感、攻撃性の下位尺度である「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」「対象攻撃行動」「積極的行動」「自責感」「自己破壊行動」「猜疑心」を従属変数とした男女別の重回帰分析を行った。結果、男性では「情緒的依存欲求」から「積極的行動」(β=.255,p<.05)、「道具的依存欲求」から「本来感」(β=.105,p<.01)に有意な正の影響がみられた。女性では、「情緒的依存欲求」から「被受容感」(β=.334,p<.05)「安心感」(β=.341,p<.05)に有意な正の影響、「道具的依存欲求」から「対象攻撃行動」(β=.364,p<.05)「猜疑心」(β=.301,p<.05)に有意な正の影響がみられた。
6.心理的居場所感と攻撃性の重回帰分析
心理的居場所感の下位尺度である「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」を独立変数、攻撃性の下位尺度である「積極的行動」「対象攻撃行動」「自責感」「自己破壊行動」「猜疑心」を従属変数とした男女別の重回帰分析を行った。その結果、男性では「役割感」から「積極的行動」(β=.407,p<.01)に有意な正の影響、「自責感」(β=-.415,p<.01)「猜疑心」(β=-.236,p<.05)に有意な負の影響、「被受容感」から「自己破壊行動」(β=-.344,p<.05)に有意な負の影響が見られた。女性では「役割感」から「自責感」(β=-.675,p<.001)に有意な負の影響、「安心感」から「積極的行動」(β=-.663,p<.05)に有意な負の影響がみられた。
7.仮想的有能感と自尊感情による4類型
仮想的有能感と自尊感情の平均値を基準に、4群に分類する。「仮想的有能感」「自尊感情」がともに高いHH群(以下全能型とする)、「仮想的有能感」が高く「自尊感情」が低いHL群(以下仮想型とする)、「仮想的有能感」が低く「自尊感情」が高いLH群(以下自尊型とする)「仮想的有能感」「自尊感情」ともに低いLL群(以下萎縮型とする)の4群である。
8.仮想的有能感4類型と心理的居場所感・攻撃性の分散分析
「全能型」「仮想型」「自尊型」「萎縮型」の4つの群を独立変数、心理的居場所感の下位尺度である「本来感」「役割感」「被受容感」「安心感」を従属変数とした1要因分散分析を行った。その結果、すべての従属変数で有意な群間差がみられた。多重比較の結果、「本来感」では「自尊型」「萎縮型」>「仮想型」、「役割感」では「全能型」「自尊型」>「仮想型」「萎縮型」、「被受容感」では「自尊型」>「仮想型」、「安心感」では「自尊型」>「仮想型」という結果が得られた。
心理的居場所感の平均値を基準に高群・低群に群分けし、それらと仮想的有能感4類型を独立変数、攻撃性の下位尺度である「対象攻撃行動」「積極的行動」「自責感」「自己破壊行動」「猜疑心」を従属変数とした2要因分散分析を行った。その結果、「対象攻撃行動」(F(3,203)=9.17,p<.01)「積極的行動」(F(3,203=8.47,p<.01)「自責感」(F(3,203)=24.02,p<.01)「自己破壊行動」(F(3,203)=8.83,p<.01)「猜疑心」(F(3,203)=11.34,p<.01)全てで仮想的有能感4類型の主効果が有意であり、「対象攻撃行動」(F(1,203)=6.81,p<.05)「積極的行動」(F(1,203)=4.62,p<.05)「自己破壊行動」(F(1,203)=18.20,p<.01)「猜疑心」(F(1,203)=16.61,p<.01)で心理的居場所感の主効果が有意であった。多重比較の結果、「対象攻撃行動」では「仮想型」>「萎縮型」>「自尊型」及び「全能型」>「自尊型」、「積極的行動」では「全能型」「自尊型」>「萎縮型」及び「全能型」>「仮想型」、「自責感」では「仮想型」「萎縮型」>「全能型」「自尊型」、「自己破壊行動」では「仮想型」>「全能型」「萎縮型」>「自尊型」、「猜疑心」では「仮想型」>「全能型」「萎縮型」>「自尊型」という結果が得られた。
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