【仮説】
杉山・長谷川(2013)で見られるように、両親ともにPBI尺度のCare得点は第二反抗期を抑制し、Over-protection得点は第二反抗期を促進することが明らかになっている。よって、親の養育態度のOver-protection得点低群とCare得点高群の組み合わせである、「自律承認・情愛」群は第二反抗期を経験した者が少ないだろうと考えられる。また、Over-protection得点高群とCare得点低群の組み合わせである、「干渉・冷淡」群は第二反抗期を経験した者が多いだろうと考えられる。
また、心理学者サイモンズによって考案された「サイモンズ式分類」によると、親の養育態度の「過保護」型は、親が子どもの世話を焼きすぎてしまい、子どもに自発的な行動をさせにくくすることで、子どもの依存心が強くなるということが分かっている。また、井上(1995)によると、依存をしている児童期の子どもは、青年期前期に至ると急激な身体的成長と第二次性徴と同時に異性への性衝動が高まり、それまでの親への依存が困難になるという。その過程の中で、親とは違う別の存在としての自分を意識するようになり、自我同一性の探究が始まるという。また、このような中でも親が青年を子どもとして管理をしようとすると、子どもの独立欲求がさらに高まるといわれる。また一方で、情緒的にも行動的にもまだ親から完全に分離して生きていけるほどの能力が備わっていないために、児童期の安定した依存状態に戻ろうとする心の動きである「依存欲求」が生じ、「独立欲求」との葛藤が生じるといわれる。つまり、親の過保護傾向が強いほど、青年期前期に入った子供への管理傾向が強くなると考えられるため、このような親との依存と独立の強い葛藤が子どもに生まれやすくなるということが考えられることから、それが第二反抗期となって現れる可能性が考えられる。よって、「過保護・情愛」群は、第二反抗期を経験した者が多いだろうということが予想できる。
また、石川(2013)の調査で、反抗期が無かったことが今の自分にとってプラスになったと考えている群が中高生の親との関わりの選択肢の中で有意に選んでいた項目として、「親とは、友達のような対等な関係でいることは多かった。」、「親は、自分を拘束したり干渉したりせず、自分の自由にさせてくれることが多かった」といった項目がある。また「友達のような関係」とは、「従来の第二反抗期が減少している」と指摘する上で近代注目されている親子関係の1つである。「友達のような対等な関係」とは、野田・葛西(2009)によると、「子どもの自立を尊重する友達のような親」といった記載があり、また白井(1997)によると、「ある女子は、母からいつも女友達として扱われ、自分の事は自分に全面的にまかされていた」といった記載がある。また、内田(2006)は、「友達親子」は、親が子どもの人格を認め、対等な大人として扱っている関係であると言う。つまり、「友達のような対等な関係」とは、大人が子どもの自律を承認している関係であると言える。以上の事から、親の養育態度が「自律承認・情愛」であると、子どもの自我同一性が高くなると予想できる。
親の養育態度が「過保護・情愛」であった場合、前述したように、親への依存と独立欲求との葛藤を体験する。その葛藤を解決することにより、親に頼らず、自分の行動や感情を自分でコントロールするといった、自律性が発達すると井上(1995)は説明している。自律性が発達することで、程よい距離感の対人関係を形成することができると言われ、そのような関係の中で、社会で認められる役割を遂行する主体として、自己を再構築していくことができるといわれる。つまり、自我同一性が確立されるということである。よって、親の養育態度が「過保護・情愛」である場合、第二反抗期を経験した青年は自我同一性が確立されやすいということが予想できる。
また、人格形成の過程において大人との関わりが重要な岐路にある児童期において、親の養育態度が「干渉・冷淡」である場合、親の冷たい態度が子どもの自我形成にとってマイナスに働くことが想像できるだろう。また、独立・自立への希求が表れ始める青年期に差しあたるころに大人の干渉が入るということは、子どもの自我形成を阻害すると考えられる。よって、親の養育態度が「干渉・冷淡」である場合、反抗期が有るものも無い者も自我同一性を確立しにくいと予想ができるだろう。
本研究の目的を踏まえ、本研究で立てられた仮説は以下の7つである。
仮説1.親の養育態度が「自律承認・情愛」な場合、反抗期が無い者が多いだろう。
仮説2.親の養育態度が「過保護・情愛」な場合、反抗期が有る者が多いだろう。
仮説3.親の養育態度が「干渉・冷淡」な場合、反抗期が有る者が多いだろう。
仮説4.親の養育態度が「自律承認・情愛」な場合、反抗期が無い者は現在の多次元自我同一性得点が高いだろう。
仮説5.親の養育態度が「過保護・情愛」な場合、反抗期が有る者は現在の多次元自我同一性得点が高いだろう。
仮説6.親の養育態度が「干渉・冷淡」な場合、反抗期が有る者も無い者も現在の多次元自我同一性得点が低いだろう。
仮説7.反抗対象の違いによって、現在の多次元自我同一性得点に違いが見られるだろう。